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ニッセイ基礎研究所
No.14-213
18 Mar. 2015
貿易統計 15 年 2 月~輸出の回復基
調、貿易赤字の縮小傾向は継続
経済研究部
斎藤 太郎
E-mail: [email protected]
経済調査室長
TEL:03-3512-1836
1. 貿易赤字の縮小傾向が続く
財務省が 3 月 18 日に公表した貿易統計によると、15 年 2 月の貿易収支は▲4,246 億円の赤字と
なったが、赤字幅は市場予想(QUICK 集計:▲10,150 億円、当社予想は▲5,973 億円)を大きく下
回った。輸出は前年比 2.4%(1 月:同 17.0%)と前月から伸びが大きく鈍化したが、原油価格の
下落を主因として輸入が前年比▲3.6%(1 月:同▲9.0%)と 2 ヵ月連続で減少したため、貿易収
支は前年に比べ 3,815 億円の改善となった。輸出の内訳を数量、価格に分けてみると、輸出数量が
前年比▲2.1%(1 月:同 11.1%)
、輸出価格が前年比 4.7%(1 月:同 5.3%)、輸入の内訳は、輸
入数量が前年比 4.5%(1 月:同▲6.3%)、輸入価格が前年比▲7.8%(1 月:同▲2.9%)であった。
貿易収支の推移
(前年比)
30%
(前年差、10億円)
2,000
貿易収支・前年差(右目盛)
輸出金額
輸入金額
20%
1,500
1,000
10%
500
0%
0
▲500
▲10%
▲1,000
▲20%
▲1,500
▲30%
▲2,000
1201 1204 1207 1210 1301 1304 1307 1310 1401 1404 1407 1410 1501
(資料)財務省「貿易統計」
(年・月)
輸出金額の要因分解
(前年比)
20%
(10億円)
貿易収支(季節調整値)の推移
(10億円)
1,600
8,000
1,400
7,000
1,200
6,000
1,000
5,000
800
輸入(右目盛)
4,000
600
3,000
輸出(右目盛)
400
2,000
200
1,000
0
0
▲200
-1,000
▲400
-2,000
▲600
-3,000
▲800
-4,000
▲1,000
-5,000
▲1,200
-6,000
▲1,400
-7,000
▲1,600
-8,000
貿易収支(季節調整値,左目盛)
▲1,800
-9,000
▲2,000
-10,000
1101 1104 1107 1110 1201 1204 1207 1210 1301 1304 1307 1310 1401 1404 1407 1410 1501
(年・月)
(資料)財務省「貿易統計」
輸入金額の要因分解
(前年比)
30%
輸出金額
輸入金額
数量要因
価格要因
25%
15%
20%
10%
15%
5%
10%
0%
5%
▲5%
0%
数量要因
価格要因
▲10%
▲5%
▲10%
▲15%
1201
1204
1207
(資料)財務省「貿易統計」
1210
1301
1304
1307
1310
1401
1404
1407
1410
1501
(年・月)
1201
1204
1207
1210
1301
1304
1307
(資料)財務省「貿易統計」
1310
1401
1404
1407
1410
1501
(年・月)
季節調整済の貿易収支は▲6,388 億円の赤字となり、1 月の▲4,123 億円から赤字幅が拡大した。
輸出入ともに前月比で減少したが、輸出の減少幅(前月比▲7.0%)が輸入の減少幅(前月比▲3.4%)
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|経済・金融フラッシュ No.14-213 copyright ©2015 NLI Research Institute
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を上回った。季節調整済の貿易赤字は 3 ヵ月ぶりに拡大したが、後述するように春節の時期のズレ
の影響で、輸出が 1 月に上振れ、2 月に下振れしたことが大きい。15 年 1、2 月の貿易赤字の平均(▲
5,256 億円)は 14 年 12 月(▲6,552 億円)よりも小さく、基調としては貿易収支の改善傾向が続い
ている。
2. 輸出は回復基調を維持
2 月の輸出数量指数を地域別に見ると、米国向けが前年比 1.9%(1 月:同 2.9%)、EU 向けが前
年比 3.3%(1 月:同 6.4%)
、アジア向けが前年比▲3.4%(1 月:同 15.4%)となった。
季節調整値(当研究所による試算値)では、米国向けが前月比▲5.0%(1 月:同 4.7%)
、EU 向
けが前月比▲3.9%(1 月:同 3.5%)
、アジア向けが前月比▲18.3%(1 月:同 12.7%)
、全体では
前月比▲6.1%(1 月:同 4.3%)となった。
2 月はいずれの地域向けも減少したが、1 月に高い伸びとなった反動による部分も大きい。特にア
ジア向けについては、昨年は 1 月末に始
まった春節が今年は 2 月下旬だったため、
1 月の輸出が大きく押し上げられる一方、
(2010年=100)
地域別輸出数量指数(季節調整値)の推移
120
米国向け
110
2 月はその反動で大きく落ち込んだ。中国
向けの輸出数量は 1 月の前年比 12.3%か
ら 2 月に同▲22.7%と急速に落ち込んだ。
1、2 月の輸出数量指数(季節調整値)
100
90
80
の平均を 10-12 月期と比べると米国向け
が 2.2%、EU 向けが 4.4%、アジア向けが
0.8%、全体では 0.6%高くなっている。
全体
アジア向け
EU向け
70
1101 1104 1107 1110 1201 1204 1207 1210 1301 1304 1307 1310 1401 1404 1407 1410 1501
(年・月)
(資料)財務省「貿易統計」
均してみれば輸出は回復基調を維持していると判断される。
一方、2 月の輸入数量指数(当研究所による季節調整値)は前月比 6.0%(1 月:同 1.9%)と 2
ヵ月連続で上昇した。輸入は消費税率引き上げ後の国内景気の悪化から弱めの動きが続いてきたが、
国内需要の持ち直しを反映し、ここにきて持ち直しの動きが明確となりつつある。
3. 貿易赤字はいったん解消へ
2 月の通関(入着)ベースの原油価格は 1 バレル=49.5 ドル(当研究所による試算値)となった。
2 月のドバイ原油は 50 ドル台半ばまで持ち直したため、運賃、保険料が含まれる通関ベースの原油
価格は 3 月には 50 ドル台後半まで上昇することが見込まれる。原油価格(ドバイ)は 50 ドル台で
一進一退の動きとなっており、原油の輸入価格は当面横這い圏で推移する可能性が高い。一方、調
達価格が原油価格連動型の長期契約となっている液化天然ガス(LNG)の輸入価格は、既往の原
油価格下落の影響が反映されることにより先行きも低下が見込まれる。輸入価格は全体としては弱
含みの動きが続くだろう。
輸入価格の低下に加え、ここにきて輸出の回復基調が明確となっていることから、東日本大震災
以降 4 年にわたって赤字を続けてきた貿易収支はいったん黒字に転換する可能性が高い。ただし、
原油価格(ドバイ)は世界経済の回復に伴う需要の持ち直しや採算悪化を受けた生産量の抑制を背
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景に先行きは上昇基調となる可能性が高い。また、輸入数量も国内需要の回復を受けて増加ペース
が高まることが見込まれる。このため、貿易赤字はいったん解消するものの、そのまま貿易黒字が
定着する可能性は低いだろう。
(ドル/バレル)
原油価格(ドバイと入着ベース)の推移
130
(ドル/バレル)
140
120
130
110
120
100
110
90
100
80
90
70
80
60
50
(ドル/100万Btu)
20
液化天然ガス価格(右目盛)
18
16
14
原油価格
12
70
ドバイ原油
10
60
入着ベース
8
50
40
1104 1107 1110 1201 1204 1207 1210 1301 1304 1307 1310 1401 1404 1407 1410 1501
40
0804 0810 0904 0910 1004 1010 1104 1110 1204 1210 1304 1310 1404 1410
(注)入着ベースは円/キロリットルをドル/バレルに換算したもの。ドバイ原油の3月は3/1~3/17の平均
(資料)財務省「貿易統計」
通関ベースの原油価格と液化天然ガス価格(LNG)
(年・月)
(注)通関ベースの円/キロリットル、円/トンをドル/バレル、ドル/100万Btuに換算
(年・月)
6
(資料)財務省「貿易統計」
なお、「国際収支統計」の貿易収支(季節
調整値)は、15 年 1 月に 317 億円と小幅な
がらも 11 年 9 月以来 3 年 4 ヵ月ぶりの黒字
2,000
0
▲2,000
▲4,000
価建値、計上範囲、計上時期などの違いから
▲8,000
国際収支統計
▲6,000
▲10,000
▲12,000
くなっている(15 年 1 月の両者の乖離幅は
▲14,000
4,440 億円)。貿易統計ベースの貿易収支(季
▲18,000
節調整値)が黒字に転換するのは 15 年度入
差(国際収支統計-貿易統計)
4,000
となったが、「貿易統計」の貿易収支は、評
「国際収支統計」の貿易収支よりも水準が低
貿易統計と国際収支統計の貿易収支(季節調整値)
(億円)
6,000
貿易統計
▲16,000
▲20,000
1301
1304
1307
1310
1401
(資料)財務省、日本銀行「国際収支統計」、財務省「貿易統計」
1404
1407
1410
1501
(年・月)
り後となるだろう。
(お願い)本誌記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本誌は情報
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提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
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