レスピーギ/交響詩「ローマの噴水」 ボローニャまれのレスピーギは、若い

レスピーギ/交響詩「ローマの噴水」
ボローニャ⽣まれのレスピーギは、若いころ、ロシア帝国劇場管弦楽団の首席ヴィオラ奏者として、2 シー
ズンにわたってサンクトペテルブルクに滞在した。この間、管弦楽法の著作もあるリムスキー・コルサコフから
5か月におよぶ指導を受けたという。帰国後、34 歳から憧れのローマのサンタ・チェチーリア音楽院で作曲
科の教授をつとめることになって、瞬く間に自然、街、歴史のすべてが彼の心を捉えた。「ローマ三部作」は
いわばローマへの想いに溢れたレスピーギの心情告白の音楽である。
三部作のなかで最初に初演されたのが 1916 年の「ローマの噴水」である。ローマでは街角や広場で、
数々の噴水と出会う。この作品はレスピーギが⽣きていた、まさにその街のシンボルを音化しようと試みたも
のだろう。
「ローマの噴水」はロマン主義的印象派とも呼ばれるレスピーギの作風を端的に示している。4つの噴水
をめぐりながら夜明けから⼣暮れまでの時間の推移を描いていく⼿法はドビュッシーの発想に近く、華麗な
楽器法は師のリムスキー・コルサコフゆずりの⼿腕を感じさせ、全体のドラマティックなうねりにはR・シュトラ
ウスの影響がみられる。
第1部「夜明けのジュリアの谷の噴水」は、たちこめる霧のなか、羊の群れが通り過ぎる牧歌的な情景。
朝の気分や小鳥にさえずりを木管楽器が表現している。ボルゲーゼ荘のある丘と、パリオリの丘の間に位
置する谷で、その谷のフィルドゥージ広場には上が広がっている噴水が 2 対ある。突然、全合奏によるトリ
ルの上でホルンが響き渡るところからが第2部「朝のトリトンの噴水」。これは数多くの噴水を作ったジョバン
イニ・ロレンツォ・ベルニーニの作品で、バルベリーニ広場にある噴水で、ギリシャ神話のトリトンという海の神
がほら貝を吹く姿を象っている。ハープ、ピアノ、鐘を加えた明るい響きで、朝の光に照らされて水音をたて
る噴水が眼に浮かぶ。「一群の水の精とトリトンを招く喜びにあふれた呼び声のよう」(レスピーギ)。第3
部「昼のトレヴィの噴水」は、勝利の性格をおびた⾦管の輝かしい楽想とオルガンが加わった壮麗な音楽。
『ローマの休日』にも出てくる観光名所として有名なバロック時代の噴水で、ポーリ宮殿の壁と一体になっ
たデザインである。「海神の⾺⾞が海⾺にひかれて、⼈⿂とトリトンの⾏列を従えて通り過ぎる」(レスピー
ギ)。第4部「⻩昏のメディチ荘の噴水」は円形に広がった形をしている。陽が落ちる時間帯を描いてい
るからか、もの悲しい雰囲気ではじまり、やがてハープやチェレスタの描く水音も静まり、郷愁を誘うメロディ
が流れて、夜の静けさへと溶けていく。
解説 音楽学者 白石美雪
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