社会学を用いたバッグのデザインプロセスの可能性 加藤晃生 博士(比較文明学) TRICKS Chief Everything Officer 1:発表者略歴 立教大学文学部史学科でイギリス近代史を学ぶ。金沢大学大学院教育学研究科で音楽学を学ぶ。立教大学大学院 文学研究科で社会学を学ぶ。博士号を取った後は翻訳家をしたり、大学で非常勤で教えたりした後、2013 年に 起業。研究者としての専門は音楽社会学、芸術社会学、障害社会学、地域社会学。 2:社会学って何? ① 極めておおざっぱに言えば、ホモ・サピエンス1の個体が 2 以上存在して相互に関わりあいになった時に、 何が起こるのか、何が生まれるのかを考える学問です。 ② 社会科学の中で結構広い領域を占めています。お金の話も扱いますが経済学や経営学ほどではありませ ん。ルールについても扱いますが法学ほどではありません。 ③ 人と人が関わっているところならば全てが研究対象になるので、領域としては極めて広大です。 「生物学」 や「物理学」と同じ規模感だと思って下さい。 ④ 研究手法としては統計、面接、参与観察、資料分析を用います。 3:デザインの歴史 ① デザインという概念が成立したのは 19 世紀半ばのヨーロッパです。 ② 単に使えれば良いモノを沢山作るという産業革命初期の風潮に反発したブルジョワ階級の中から、 「見 た目も美しくなければダメだろ」 「空間全体のコーディネイトが大事だろ」という発想が生まれました (アーツ&クラフツ運動) 。この時、デザイナーという職能が生まれました。 ③ 20 世紀に入ると、機能を洗練させれば形も美しくなるんじゃないかという発想が生まれました(バウ ハウス) 。 ④ 大不況が始まると、中身は変えずに見た目だけ差し替えて目新しさで売るという手口が発見されました (工業デザイン) 。 ⑤ 1970 年代から、デザインと社会との関わりに目が向けられるようになりました。典型的には、生産さ れるモノの社会的責任について考える立場です(Victor Papanek, Design For the Real World: Human Ecology and Social Change, New York, 1971) 。 ⑥ 1990 年代に入ると、組織のマネジメントにデザインの概念が転用されるようになりました。その典型 例はデザイン会社の IDEO による「デザイン思考」の提唱です。 1 ホモ・ハビリスとかホモ・ネアンデルターレンシスが絶滅してから生まれた学問なのです。 4:社会学がデザインに寄与する可能性 4-1:社会のありように関する理論(社会理論)を生かすことが出来る。 個々のデザイナーやデザインファームによる我流の社会理論ではなく、アカデミックなシステムによって精緻 化された社会理論が数多く存在しています。 4-2:社会のありように対して、プロダクトやサービスを通した効果的な問題提起をすることが出来る。 「デザインによる問題解決」と「デザインによる問題提起」は、前者がデザインによって困り事を不可視化す るのに対して、後者は「何故、わたしたちの社会はこのような困り事を(やれば出来るにも関わらず)これま で放置していたのか?」という意識を呼び起こします。いわば「問題が生み出される構造の可視化」です。 4-3:デザインのプロセスにおける精密なデータ収集と分析のツールとなります きちんと社会調査法を学んでいれば、デタラメなアンケートや恣意的な質問によるクズデータを排除出来ま す。きちんと社会学の理論を学んでいれば、データから社会理論を引き出し、社会理論から問題解決法の仮 説を構築し、デザインとして成立させられる可能性があります。 5:今後の課題 5-1:社会学を教える人のビジネス嫌いを何とかしないと。 少なくない割合の社会学者が働いたら負けかなと思っている。気がします(営利セクター で)。これでは社会学部の学生は誇りを持って社会学を学べません。 5-2:社会学がバカにされている状況を何とかしないと。 社会学を教える側がビジネス嫌いなのに、ビジネスパーソンから社会学が尊重されるわけがないです。悪循 環です。 弊社ファザーズバッグ「agnate 2014」のデザインプロセスの詳細はこちらの QR コードよりご覧下さい。
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