[デジタルメディア教室 Vol.150] 「Not Release The Smartphone」

D MediaRoom
Writer
ソリューション推進局
インタラクティブ事業戦略室
150
Vol.
デ ジ タ ル メ デ ィ ア 教 室
松本 圭一
Thema
「Not Release The Smartphone」
~スマホとのメリハリのあるつきあい~
スマホに触れず歴史的名著を
ルールにより自分の中では期待通りの効果を得る事
筆者は自らにルールを課すのが好きです。その
ができました。
ルールは何かを達成しようと言う前向きな気持ちの
しかし、筆者がこれでスマホ離れができたのかと
発露ではなく、自分で弊習を断ち切りたいといった事
いうと、少し違うところがあります。
が前提になります。気がつくとスマホを触っていると
いうメリハリの無い日常から脱却するべく、一昨年末
スマホを活用しラグビー力 UP
自らに三つのルールを課しました。
去年の 4 月から 8 年ぶりに趣味であるラグビー
ひとつ目は、大好きな本を読む時間を確保するた
を再開しました。それまでの 8 年間ほとんど運動を
めに、通勤途中はスマホに触らず読書しようという
していません。イメージ通りに身体が動く訳が有りま
ルールです。通勤で電車に乗っている時間は片道
せん。
よって選択するプレイが 50-50、
つまりラグビー
15 分くらいですが、それでも月に一冊は純文学を読
では最もやってはいけない「上手くいくかどうか分か
む事が可能です。車中スマホに触らないおかげで、
らないプレイ」になってしまいます。そのイメージと
ある月はトーマス・マンの『魔の山』を再読すること
実際のプレイとの間にある差を埋めるべく試行錯誤
が出来、それだけで何か大きな事を成し遂げた様
の上いくつかの行動を実践しました。
な錯覚に陥ります。
ふたつ目は、歩きスマホは止めるというルールで
スマホアプリにより持久力アップ~朝のランニング
す。その危険性は喧伝されているところですが、止
は、以前より子供達と行っていたもののなかなか自
めると路傍の青草の変化を感じる事が出来るように
分のタイムが上がりません。たどり着いたのがランニ
なります。九段界隈では桜にばかり耳目が集まりが
ング用のスマホケースを装着しランニングアプリを
ちですが、良く見ると桜が咲き誇る少し前にミモザ
活用する事でした。有償のアプリとなりますが、加
が、桜が散った後にはアレチアザミが綺麗に咲く事
速度センサーも機能し、目標タイムをいれる事により
が分かります。
音声でスピードの指示もあります。コース途中に傾
最後は家族との食事や団欒ではスマホを側に置
斜のきつい上り坂があるのですが、そこで期待値よ
かないというルールです。家族とのコミュニケーショ
りも時間がかかると『前傾姿勢をとって歩幅を狭くし
ンを大事にしようという思いから始めましたが、実践
て走りましょう』とアプリから的確なアドバイスがあり
すると不思議とテレビドラマの梗概を漏れなく把握
ます。コースの起伏を配慮して目標タイムを実現す
する事が可能になりました。子供の日々の気持ちの
るために現時点でどのようなスピードで走れば良い
変化がそれまでよりもほんの少し理解することが出
のかが分かるようになりました。
来るようになったかもしれません。
このスマホアプリを活用する事により、着実にタイ
スマホを悪者にするつもりはありませんが、この
ムを縮める事ができ、少なくともラグビーにおいては
こう がい
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2時間の練習で音を上げる事は無くなりました。
分が行った判断を覚えているうちにそのプレイの評
価をし、結果的にプレイの幅を拡げる事ができるよ
スマホアプリにより体重維持~余計なウェイトは落
うになりました。
とさなければなりません。筆者は幸運にも別な理由
によって3カ月で7キロのウェイトを落とすことに成功
ライフログデバイスとしてのスマホ
しました。ところが、栄養に配慮しない食事をすると
実は老眼に優しいスマホ~このように体力向上にお
すぐに増えていきます。これを回避するためにとった
いて、スマホが筆者にとって既に切り離せないデバ
手段もスマホアプリでした。
イスとなっています。しかしこれはラグビーに関した
飲食レコーディングアプリに食事の時間と量、メ
ことだけではありません。通勤電車で本を読むにあ
ニューなどを記録する事によりカロリー摂取など細
たり老眼が原因でとても面倒を感じていましたが、ス
かく把握することができます。しかも、このアプリの
マホには老眼用のアプリも用意されており、文庫本
優れているところは、
「今日のお昼は何を食べよう
にスマホをかざすだけでその内容が拡大されとても
か?」と迷った時にレコメンドを求めると、過去 2 週
読みやすく表示されます。文字を自分の老眼状態と
間程の飲食から「足りない栄養素」と「適切な調
距離から的確な文字の大きさに変換する老眼ブラ
理方法」を考慮した上で自分の好き嫌いも加味した
ウザも用意されており、通常のサイト閲覧もストレス
中でのメニュー候補を挙げてくれるところです。そ
を感じる事が無くなりました。
のおかげで、去年の体重はほぼ±2キロの中で推移
する事ができました。身体が必要以上に重くならな
結果的にスマホとの接触時間は減ったのか、増え
かった結果、ラグビーにおいてもルーズボールへの
たのかは分かりませんが、自分の中ではかなり納得
反応を向上させる事ができました。
感を持った“メリハリのある”形での付き合いとなり
ました。この状態はむしろ「スマホに管理されている」
スマホアプリによりラグビー脳活性化~イメージと
と批判されても仕方ないことなのかもしれません。し
の実プレイとの乖離はどのように埋めたのでしょう
かしアドレス帳だけでなく、視力、体力、体重、動画、
か。それもスマホアプリに頼りました。有償アプリで
様々なライフログを預ける事により、確実により利便
すが、あるスマホアプリでは撮影した動画の一部に
性を“体感”する事ができます。スマホは「生活
焦点を当ててそこを拡大し、ディフェンスの形状を
必需品」なのです。よって、筆者は堂々と「スマホ
入力する必要はありますが、自分の判断とイメージ
にライフログを預けて怖くない?」という外野の声を
との差をプロットさせることにより簡単に「どう動くべ
黙殺します。
きだったか」を提示できる機能があります。
「ここは
相手を引き付けるためにインに移動するべきだった」
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囂しいプライバシ問題の中で
「ここでの選択肢はループパスだった」など瞬時に
スマホに搭載される情報はより多くなり、仕事に
分かります。その為に、練習時に子供にプレイを動
プライベートに今後も利用の可能性は拡がっていく
画撮影させて、それをすぐにアプリで確認する習慣
ことでしょう。筆者は別途、業界団体の中におきま
がつきました。
して、
「スマホをはじめとするデジタルデバイスのビ
このスマホアプリを活用する事により、実際に自
ジネス上での利用方法を考える」活動に参加させ
Video Research Digest 2015. 2
ていただいております。その渦中で必ず議論の焦点
ラグビーは、コンタクトがあるぶん怪我をするリス
となるものに「プライバシ問題と情報漏えい」があ
クが他のスポーツより高いかもしれません。しかしそ
ります。具体的には、
れは敵味方がルールを理解し実践する為の体幹を
1:スマホが他者に渡った時にプライバシの漏えい
鍛えておけば可能な限り回避はできますが、もちろ
にどの程度影響するか
2:スマホのログが他者に渡った時に個人の特定は
可能か
3:利用者に期待するリテラシと、実際のリテラシの
乖離は埋められるのか
ん0にはなりません。よってラグビーでさえルールに
は日々検討がなされています。
スマホを含むデジタルデバイスの利用も同じで、
どこまでがルールで、どこからが自己責任で、リスク
を回避する為の「デジタルリテラシ」を習熟する事
です。もちろん、最大限リスクを払拭する努力や施
が習慣付けば、利用価値は様々な領域で拡大する
策は必要だと思います。しかし「問題となりかねな
と思います。もちろん「デジタルリテラシ」をどう醸
いリスクを 0 にするまでは前に進んではいけない」と
成していくのかは簡単ではありません。
いう考えがもしあるのであれば、そこには首肯しかね
そして、その場合にスマホの持つプライバシ的リ
る部分もあります。大仰な比喩になりますが、リスク
スクは結果的には増大するでしょう。しかし、
「何も
を 0 にするのが絶対是であれば全ての施策に対し
しないでリスクを回避する」事よりは「あるリスクを
て反対しなければなりません。社会生活に置き換え
享受して発展を選択する」ことに人間の英知の根
ると、やや暴論ですが車を運転することも回避し、
本的な機微があるのではないかと筆者は感じるので
外出さえも避けなければならないじゃないかと、筆者
す。
は感じるのです。このリスク享受とリスク回避のバラ
ンス感覚が今、日本では上手く動いていないと感じ
ところで、どなたか根本的にラグビーが上手くな
ます。
るスマホアプリはご存じないでしょうか?
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