「おしりから出血したら」~切っても小さい内視鏡手術~ 大阪市立総合医療センター 消化器外科 井上 透 がんにもいろいろな種類がありますが、大腸がんってどんながんなのか、どういう治療が あるのか、どのくらい治る確率があるのか、そんなことについて説明させていただきます。 大腸がんは現代の日本人の間で急速に増加しているがんの一つです。 それは食事の欧米化 (動物性脂肪やたんぱく質の過剰摂取を指します)との関連が原因と考えられています。罹患 率は男性ではがんの第 4 位、女性では第 2 位、死亡率にいたっては男性では第 3 位、女性 では第1位となっています。では、大腸がんになった人は治る人の割合が少ないのかと言う と、決してそうではありません。近年における大腸がんに対する手術療法や抗がん剤治療の 進歩は目覚ましいものがあり、 進行がんであっても治癒する人の割合が比較的高いがんの一 つであると言えます。手術後 5 年間再発がなければ治癒したと診断されますが、大腸癌研 究会の報告では、大腸がん全体の 5 年生存率は 72.1%であり、大腸がんと診断されても 7 割以上の患者が治癒するという結果が得られています。 では、大腸がんの治療の専門病院ではどのような治療がおこなわれているのかというと、 治療の中心をなすのは手術によるがん病巣の切除で、これは昔から変わりません。ただ、手 術の方法が大きく変わってきています。 それはお腹に小さな穴をあけて腹腔鏡という細長い カメラをその穴から挿入し、 お腹の中を観察しながら手術をするという方法が開発され進歩 してきたことによります。傷が小さい手術は患者さんにとって痛みが少なく、術後早期の合 併症も少ないことが報告されており、手術後の回復が早い手術と言えます。昨年の日本内視 鏡外科学会の調査では、全国で大腸がん手術の 50%以上が、腹腔鏡でおこなわれています。 当院では早くから腹腔鏡手術に取り組んでおり、昨年は 8 割以上の大腸がん手術を腹腔鏡 でおこないました。痛みも少なく、術後の傷も目立たないことから、たくさんの患者さんか ら良い評価をいただいております。こうした手術が普及していますが、大腸がんの標準手術 は開腹手術であり、 腹腔鏡手術では充分な安全性とがんの完全な切除ができないと診断した 場合には開腹しての手術を選択します。患者さんの病状に応じた治療法を選択することが 我々の最も大事にしている治療原則です。 大きな腫瘍の場合には抗がん剤治療や放射線治療 を先におこなって腫瘍を小さくして手術することもありますし、 肛門に近い直腸のがんであ ってもできる限り肛門を残す手術ができるようにしています。ただ、人工肛門にならざるを 得ない患者さまもおられます。 当院ではそのような患者さまの術後のケアにもしっかりと取 り組んでおります。 たとえ大腸がんになっても、治療を受けることを恐れず、私たち専門医にまかせてくださ い。
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