シンガポール出張メモ:日本への関心高まり、訪日客

リサーチ TODAY
2015 年 3 月 12 日
シンガポール出張メモ:日本への関心高まり、訪日客増・投資増
常務執行役員 チーフエコノミスト 高田 創
筆者は3月の第1週にシンガポールを中心としたアジア出張を行い、海外市場参加者向けのセミナーや
現地でのヒアリングを行った。現地はまだ旧正月の気分が街中に残る状況にあったが、日本に対する関心
が予想以上に高いのが印象的だった。今回のシンガポール出張は2年振りであるが、アベノミクスが始まる
2年前まで、日本への関心はほんのわずかな日本経済の専門家にしかなかった。一方、過去2年間に日本
の株式市場が2倍以上に上昇し、不動産価格も大幅に上昇するなか、日本への関心が2年余りの間に大き
く変わったように思った。シンガポールの投資家は実際によく日本を訪問しており、日本への習熟度が高い
ことに加え、日本株や日本の不動産に投資しており、日本の具体的な変化に関心が高かった。
下記の図表は日本株の投資主体別の売買動向推移である。2013年に15兆円と大幅に買い越したあと、
2014年に海外投資家は一旦手仕舞いの売りに回ったが、2014年10月の日銀の追加緩和以降、再び買い
越しに転じた。特に今年2月以降は、シンガポールに在住する日本人の目から見ても、ここ数年にない程
の日本への関心の高さが感じられ、日本への見方がシンガポールでポジティブになっているとのコメントも
あった。
■図表:日本株の投資主体別売買動向推移
(千億円)
買
い
越
し
国内金融機関(信託+銀行+生損保)
事業法人
投資信託
個人
外国人
30
20
10
0
売 ▲10
り
越 ▲20
し
▲30
▲40
13/1
13/4
13/7
13/10
14/1
14/4
14/7
14/10
15/1
(年/月)
(注)二市場一・二部等。
(資料)東京証券取引所
シンガポールを中心とした投資家との意見交換のなかから感じられたのは、日本全体の環境に対し急に
楽観的な見方になった訳ではないということである。実際、日本へ投資を行う観点から日本政府が海外投
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2015 年 3 月 12 日
資家を受け入れる規制改革等に本気で取り組んでいるかには、疑問を呈するコメントが多かった。また、日
本人のマインドがそう簡単に転換するのかとの疑問も示され、日銀の金融緩和だけでは改善しにくいとの
見方も根強かった。シンガポールでカジノが大きく成功したこととの対比から日本もカジノ等を利用した開
発に取り組むのかについては高い関心が示されていた。
ただし、世界的な金融緩和において資金の余裕が生じるなか、米国の株価はすでに史上最高値にある
こと、欧州においては実体経済への不安が残存すること、中国を中心に新興国経済への根強い不安が生
じるなか、日本が割安に放置されているとの認識は強い。なかでも不動産に関しては、ホテルの宿泊料金
をとって、アジアのシンガポール、香港、また、ロンドンやニューヨーク等の欧米主要都市に比べて東京の
割安さを指摘する向きも多く、不動産の上昇余地が意識されやすいようだ。実際に、東京の個別の地名を
出して関心を示す動きも多かった。また、日本の企業業績が改善することに加え、コーポレートガバナンス
への意識が強まることも日本株へのサポート要因として意識されていた。いずれにしても日本の企業や不
動産を中心に、ミクロ環境には見直しが生じていると感じられた。この認識は、日本を訪問する訪日外客が
急増している点からも確認出来るだろう。
下記の図表は訪日外国人の推移を示す。2013年に初めて訪日外国人の数が1,000万人の大台を超え、
2014年は1,341万人にまで上昇した。今年2月の春節は過去にない水準の訪日外客があった。なかでも中
国を中心としたアジアの拡大が大きく注目された。日本では近代化・西欧化する過程で今日の欧米流のカ
レンダーが日常化され、旧正月は旧習として意識の対象外となった。しかし、今日、世界のなかでのアジア
のウェイトが増し、春節に日本への訪日客がこれだけ拡大しているのを目の当たりにすると、旧カレンダー
の見直しも必要だ。アジアの消費行動が日本の小売や観光業に大きな影響を与えることから、日本も再び
こうした旧正月の概念をビジネスモデルに組み込む必要もあるだろう。アジアの他の地域では、例えばタイ
の旧正月は4月半ばであり(ソンクラン)、このタイミングでも訪日客が見込める。同様に、ミャンマーやラオス
でも同時期はお祭りになっている。今後を展望すれば、下記の図表にもあるように、2020年の訪日外客
2,000万人も具体的な視野に入りつつある。また、そのなかで日本のビジネスにアジアの視点を取り込むこ
とが不可欠になっている。
■図表:訪日外国人数の見通し
3,000
(万人)
2015年以降、2013~2014年並みの増加
テンポが続いた場合
2,841
2,500
2,082
2,000
1,341
1,500
1,000
500
(年)
0
03
04
05
06
07
08
09
10
11
12
13
14
15
16
17
18
19
20
(注)2010 年以降はみずほ総合研究所試算値。
(資料)日本政府観光局(JNTO)よりみずほ総合研究所作成
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