序論 民法の全体構造 序論 1 民法の目的・特徴 私法の一般法 ア 私法:私的生活を規律→「私人間における利益の調整」を目的と する法 イ 一般法:一般的な関係を規律する法(地域・人・物・事項に限定 されない) 「一番基本的な」法 cf.特別法 特殊な事項ないし特殊な人について規定する法 Example: 商法,会社法 →特別法は一般法に優先して適用される 2 民法の内容 ⑴ 民法総則(財産法の総則としての色彩が濃い) ⑵ 財産法 ア 物権:物に対する支配権 総則,各則〔所有権・占有権・用益物権・担保物権〕 イ 債権:特定人に一定の行為を要求することを内容とする権利 債権総則 各則(債権の発生原因ごとに定め) 〔契約(総則と典型契約)・事務管理・不法行為・不当利得〕 ⑶ 家族法 ア 親族法 夫婦・親子関係を中心とした規律が定められている イ 相続法 人の死亡を原因とする財産関係の承継→財産法の側面がある Check:典型 民法上明文で定められ ていること cf.非典型(無名) 民法上の規定がない こと 3 民法の指導原理 ⑴ 私的自治 憲法の個人主義・自由権に対応 Example: 所有権絶対の原則→財産権(憲法 29 条)の保障 ア 契約自由,所有権絶対 イ 過失責任→不利益を被るには,必ず本人に原因がなければならな い,他人に影響されない ウ 自分の欲することについて,権利・義務を負う→法律行為制度 Check:法律行為 意思表示が(例 契約) あるとき,意思内容を裁 判所が実現する制度 3 ⑵ 原則の修正~私的自治制約の場面 第1条(基本原則) 1 私権は,公共の福祉に適合しなければならない。 ア 公序を維持するための制限 ア 公序良俗に反する法律行為→無効となる(民法 90 条) イ 所有権に対する法律による制限 所有権の絶対不可侵→他人への損害が発生する可能性 Example: 建築基準法 イ 弱者保護のための修正 契約自由の原則への積極的な干渉 Example: 借地借家法,労働基準法など 4 第 1部 民法総則 第1編 民法総則 第1章 民法の全体構造 第1章 民法の全体構造 1 信義誠実の原則・・・・・・・・・・・・・・・・・ 7 2 権利の濫用・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 7 3 自力救済の禁止・・・・・・・・・・・・・・・・・ 7 4 総則の概要・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 8 第1 信義誠実の原則 第1条(基本原則) 2 権利の行使及び義務の履行は,信義に従い誠実に行わなけれ ばならない。 契約などにより特定の法律関係に入る →信義則の支配する緊密な関係が成り立つ →相手方の信頼を裏切らない義務を負う ∵ 民法上の個人間の取引→相互に相手方を信頼して初めて成り立つ Example: デパートに家具を注文→届けに来た職員が,家具を壁にぶ つけて壊してしまった 契約の内容は家具を届けることだけか? ラーメンを食べに店に入る→油がとんできてやけどをして しまった。 契約の内容はラーメンを提供することだけか? ↓ 個々の条文や法律がないが 信義則を根拠→期待を裏切った者に責任を追及する手段 第2 権利の濫用 第1条(基本原則) 3 権利の濫用は,これを許さない。 Example: 電車の会社に嫌がらせ→路線の開通予定地の土地を先回り して買う 隣人の家に日光が入らないように高い塀をたてる 権利の濫用の効果 →権利行使が認められない。場合によっては損害賠償責任が発生 第3 自力救済の禁止 私人による権利実現の禁止→権利の実現は裁判所が行う ∵ やり過ぎ・間違いを防止→社会の秩序維持 第1 信義誠実の原則 7 第4 総則の概要 1 権利の主体について→第 2 章 人,第 3 章 法人 2 権利の客体について→第 4 章 物 3 権利変動の原因について→第 5 章 法律行為,第 7 章 時効 (第 6 章 時の計算方法) 8 第1編 民法総則 第2章 人 第2章 人 1 人の意義・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 9 2 権利能力・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 9 3 意思能力と行為能力・・・・・・・・・・・・・ 9 第1 人の意義 権利義務の主体,自然人と法人がある 第2 権利能力 権利義務の主体たる能力→自然人なら皆等しく有する 胎児・死者に権利能力はない→権利変動との関係で,出生と死亡が重要 第3 意思能力と行為能力 1 意思能力 自分がした行為の結果の意味を理解する能力 ⑴ 有効な意思を持つためのもの→意思無能力者のした法律行為は無効 ∵ 有効な意思がない=要件が欠ける,意思無能力者の保護になる ⑵ 意思能力の存否 個々の行為ごとに判断 ⑶ 無効主張 意思無能力者からに限る,立証責任は無能力者による 2 行為能力 財産の管理・運用能力 ⑴ 制限行為能力者 一般的・恒常的に能力不十分と見られる者として定型化したもの →保護者を付ける,制限行為能力者の行為は取り消しうるものとし て保護 ∵ 意思無能力の証明が困難→能力が十分でない者を保護ができな い ⑵ 制限能力者の種類 ア 未成年者:満 20 歳に達しない者全て(既婚者を除く,753 条) ア 保護者 親権者・未成年後見人 イ 権限 同意権(5 条本文),取消・追認権(120 条 1 項,122 条), 代理権(824 条,859 条) 第1 人の意義 9 ウ 能力が制限されない例外 ⅰ 単に権利を得,又は義務を免れる行為(5 条 1 項但書) ⅱ 法定代理人が処分を許した財産の処分(5 条 3 項) ⅲ 営業を許された未成年者が営業に関してした法律行為(6 条 1 項) イ 成年被後見人:恒常的に意思能力を欠く状態(事理弁識能力を欠 く常況)にある者 ア 保護者 成年後見人 イ 権限 代理権(859 条),取消・追認権(120 条 1 項,122 条) cf.同意権なし ウ 能力が制限されない例外 日常生活に関する行為(9 条但書) ウ 被保佐人:判断能力(事理弁識能力)が著しく不十分な者 ア 保護者 保佐人 イ 権限 同 意 権(13 条 1 項 2 項 ), 取 消・ 追 認 権(120 条 1 項,122 条) → 13 条 1 項各号所定の事項+家裁の審判あった事項のみ(13 条2項) 家裁の審判あった事項のみ代理権(876 条の 4) 第 13 条(保佐人の同意を要する行為等) 1 被保佐人が次に掲げる行為をするには,その保佐人の同意を 得なければならない(本文)。 三 不動産その他重要な財産に関する権利の得喪を目的とする 行為をすること。 Point: 制限行為能力制度のまとめ a 被保佐人・被補助人は法律行為ができるのが原則 b 意思無能力の可能性が高いほど,行為を取り消せる範囲が広く なる エ 被補助人:事理弁識能力が不十分な者 ア 保護者 補助人 イ 権限 同意権(17 条 1 項)取消・追認権(120 条 1 項,122 条) → 13 条 1 項各号所定の事項のうちで家裁の審判あった事項の み(17 条 1 項) 家裁の審判あった事項のみ代理権(876 条の 9) ⑶ 制限能力者の相手方保護 Check:みなす 覆すことができない, 裁判での違った認定があ りえないこと 10 ア 催告権(20 条) 催告をして返事が発されないとき ア 相手が能力者・法定代理人の場合=追認されたものとみなされ る イ 相手が被保佐人・被補助人の場合=取り消されたものとみなさ れる 第1編 民法総則 第2章 人 イ 追認(法定追認)(122 条,125 条),取消しの期間制限(126 条) ウ 制限行為能力者の詐術(21 条)→制限行為能力者が取消権を失 う Question:「詐術」の意味 問題の所在▶制限行為能力者であることの黙秘→「詐術」にあた るか? 判例 =黙秘だけでは詐術にはならない +制限行為能力者保護の必要がないといえる事情→詐術にあた る Example: 他の言動と相まって,相手が能力者であると信ずるに至ると いう事情,能力者であるとの信頼を強めるという事情 (理由)自己の能力→黙秘するのが通常 第3 意思能力と行為能力 11 第3章 法人 1 法人の意義・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 12 2 法人の種類・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 12 3 法人の能力・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 12 4 権利能力なき社団・・・・・・・・・・・・・・ 14 第1 法人の意義 1 意義 自然人以外で,法律上,権利・義務の主体たりうるもの →一定の組織を有する人の集団・財産に法が権利能力を付与 2 趣旨 ⑴ 目的達成のための便宜 ⑵ 団体的結合→団体そのものに帰属する利益がある 第2 法人の種類 1 社団法人と財団法人 実体が人の集まり(社団)にあるか財産にあるか 2 営利法人と非営利法人 Check: 営利財団法人は存在し ない 会社かそれ以外の法人か 一般法人,中間法人,公益法人 Example: 慈善団体,育英団体など→特別の法の定めによるもの 第3 法人の能力 権利能力の享有→財産権・人格的諸権利を享有 1 性質による制限 性別,年齢,親族関係に関する権利義務はない(慰謝料請求もできな い) 2 目的による制限 第 34 条(法人の能力) 法人は,定められた目的の範囲内において,権利を有し,義務 を負う。 12 第1編 民法総則 第3章 法人 ⑴ 目的の範囲 法人の権利能力を制限したもの( 判 例 ) →法人は目的の範囲内にない行為を行うことはできない ∵ 出資者保護 ∵ 法人は目的達成のために特に法が人格を与えたものであるから ⑵ 目的の範囲外の行為→絶対無効となり,追認はできない ⑶ 目的の範囲の判断方法 ア 目的達成のために間接的に必要な行為も含まれる イ 行為の性質を考慮して,客観的に判断される 3 法人の不法行為能力 一般法人法第 78 条(代表者の行為についての損害賠償責任) 一般社団法人は,①代表理事その他の代表者が②その職務を行 うについて第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。 要件 ①法人の代表機関の行為であること Example: 代表理事 ②職務を行うにつき他人に損害を加えたこと ③理事の行為が一般不法行為の要件を満たすこと→責任発生の基礎 Question:「職務を行うについて」の意義 Check: 理事は個人責任も負う 問題の所在▶「職務」の判断方法→「職務」とは,内実が職務に 当たる行為に限るのか? 外形標準説( 判例 ) ①外形上職務に属する行為 ②外形上職務行為と適当な牽連関係に立つと見られる行為 ③内実が職務行為に属さない場合でも,相手方が善意・無重過 失ならば保護される (理由)相手方の信頼を保護するため→拡大解釈 Advance:外形標準説の射程距離 元々は取引的不法行為について用いた説だが,判例は事実 的不法行為についても外形標準説を適用している 例 詐欺によって価値のない土地を高額で売りつける 4 代表権の不可制限性 代表権に加えた内部的制約→善意の第三者に対抗できない(一般法人 法 77 条 5 項) ∵ 取引の安全 cf.法定の制限→本条の適用はない Example: 理事が議決書を偽造,金融機関に多額の金銭の借入を申入れ →金融機関から受け取った金銭を理事が着服した場合 第3 法人の能力 13 Advance:内部的制限の存在に悪意だが,決議が存在すると思っ た相手の保護 110 条による契約責任の追及,法 78 条による損害賠償責 任の追及がありえる → 110 条優先適用説が判例 ∵ まずは取引関係を優先すべきである 第4 権利能力なき社団 1 社団としての実体はあるが,法律上,権利・義務の帰属主体た りえないもの 2 社団としての実体の有無→諸要素から判断 (組織,代表の方法,総会の運営,財産管理方法など) Question:権利能力なき社団の取扱い Ⅰ 社団と組合の区別 問題の所在▶社団と組合→いずれも団体であり,現象的に類似 権利能力なき社団の扱い:組合と区別すべきか すべきであるとされる (理由) ①組合は個人目的のために一時的に結びついた集団,契約で成 立 ②団体には個人の意思を超越した目的がある→団体として実体 を認める必要性 Ⅱ 権利能力なき社団の取扱い ⅰ 原則 法人に準じたものにすべき ∵ 実体の重視 ↓ ただし 権利能力なき社団と法人を全く同じには扱えない (理由) 法の裁可・登記を受けていない点は無視できない ⅱ 財産の取扱い ⅰ 財産の帰属形態:総有→団体財産と個人の財産を区別 構成員は団体財産を処分できない,団体員は団体の債務につ いて責任を負わない Example: 構成員の債権者が社団の財産を差押できるか→不可能 Check: 代表者個人名義の登記 を信用して取引をした者 → 94 条 2 項の援用不可 14 社団の債権者が構成員の財産を差押できるか→不可能 ⅱ 社団名義の対抗要件の具備→不可能 (理由) ①登記法に規定がない ②代表権公証の方法がない,登記官に実質関係の審査権限が ない →虚無人名義発生のおそれ 第1編 民法総則 4 物 4 物 第1 物権の客体=物の意義と分類 1 意義 物:有体物(85 条)→固体・液体・気体 2 種類 ⑴ 不動産 土地及び定着物(86 条 1 項) ア 土地 権利は上下に及ぶ,地中の物は土地の構成部分,数え方は一筆二 筆 イ 定着物 建物・立木など,原則として定着物は土地の構成部分となる ※建物は土地と独立した不動産になる ⑵ 動産 不動産以外の全ての物(86 条 2 項) ⑶ 金銭 動産だが特別の扱い 価値そのもので個性がない→完全な代替性がある 占有即所有→物権的な返還請求の対象にならない ⑷ 無記名債権:債権者が指定されていない債権 債権でも動産と扱われる(86 条 3 項) Example: 商品券 第2 主物・従物 2個の独立の物で,互いに経済的効用を補っている場合(87 条 1 項) Example: 母屋と物置,刀と鞘 1 従物の取扱い 主物と法律的運命をともにする(87 条 2 項) Check: 原則→独立の物は独立 に処分できる 第1 物権の客体=物の意義と分類 15 2 87 条 2 項の趣旨 当事者の合理的意思に合致,社会経済上利益になる Advance:従たる権利 87 条 2 項が類推される→主物の取得者は従たる権利も取得 Example: 建物に対する土地賃借権 第3 元物と果実 1 元物(げんぶつ) 果実を生ずる物 2 果実 物から生ずる経済的収益 ⑴ 天然果実 経済的用途に従って有機的あるいは無機的に産出される もの(88 条 1 項) Example: 牛乳,くだもの ⑵ 法定果実 物の使用の対価として受ける金銭その他の物(88 条 2 項) Example: 賃料,利息 16 第1編 民法総則 5 法律行為 5 法律行為 第1 法律行為の意義 1 法律行為 人が法律効果を発生させようとする意思に基づく行為 法律要件の一つ,権利変動原因→意思どおりの効果が発生 2 趣旨 Check: 意思どおりの効果発生を認める→私的自治の保護・支援になる Example: 売買契約 売買について意思の合致による契約の成立=要件の充足 →物の引渡請求権・代金請求権が発生 3 法律行為の種類 意思に対応する表示 が要求される ∵ 意思が外形に表 れない→意思の存 否の判断が難しい ⑴ 単独行為 単一の意思表示により構成されるもの ⑵ 契約 2つ以上の相対立する意思表示の合致により成立するもの ⑶ 合同行為 意思表示が同一目的に向けられているもの,法律行為の一種 cf.準法律行為 人の行為→法定の法律効果が発生し,意思表示を要素としない Example: 債権譲渡の通知,催告など 第2 法律行為と強行規定及び公序良俗 1 原則 法律行為→当事者の意図した通りの効力が認められる ∴ 原則として民法の規定は任意規定(91 条)→民法の規定に反す る意思表示も有効 民法の定め:当事者の意思が不明確な場合に紛争解決の拠り所になる 第1 法律行為の意義 17 2 強行規定 ⑴ 意思表示に優先する規定→当事者の意思に左右されずに適用される ⑵ 趣旨:公益の確保,弱者保護など 3 慣習 当事者の意思内容が明確でない場合→任意規定よりも慣習が優先され る(92 条) ∵ 現実には暗黙の了解として「慣習」が拠り所になることが多い 4 効力の優先順位 強行規定>意思表示>慣習>任意規定 公序良俗違反 第 90 条(公序良俗) ①公の秩序又は善良の風俗に反する事項を目的とする法律行為 は,②無効とする。 ①公序良俗に反する例 暴利行為,麻薬・拳銃の密売など犯罪に関する行為 人身売買など倫理秩序に反する行為 ②「無効」:絶対無効,誰から誰にでも主張できる,追認もできない cf.90 条に反する契約に基づく義務が履行されたとき→原状回復は許 されない(708 条) 18
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