技術情報コーナー 新技術開発探訪 新技術活用促進のための 新しい取り組みについて ―九州のフィールド適応した新技術の活用促進に 関する研究プロジェクトチームの発足について― か い つよし 国土交通省 九州地方整備局 企画部 施工企画課 施工係長 甲斐 剛 また,NETISの事後評価情報は,六つの調査 1. はじめに 項目(経済性,工程,品質・出来形,安全性,施 工性,周辺環境への影響)や所見,留意事項等の 九州地方整備局では新技術の活用推進のため 情報があるものの,発注事務所で「発注者指定型」 「新技術活用評価会議」「技術活用促進会議」にて の技術選定をする上で,情報量が少なく,技術の 新技術の活用効果評価,活用促進等に取り組んで 特徴および他技術との比較が分かりにくい状況で いる。 ある。 この新技術とは,ご存知のとおり「技術の成立 本誌の2013年12月号にて「活用促進型」を紹介 性が技術開発した民間事業者等(以下「開発者」 したが,今回は上記の課題より,九州において開 という)により実験等の方法で確認されており, 発された新技術「九州発新技術」(以下「九州の 実用化している技術であって,当該技術の適用範 技術」という)と全国の技術で事後評価済技術の 囲において従来技術に比べ,活用の効果が同程度 うち九州地方に適応可能な技術を積極的に活用・ 以上の技術または同程度以上と見込まれる技術」 促進するために,産学官において情報分析等を行 をいう。 い,その結果を広く情報発信し,また,発注事務 また九州地方は,梅雨期に集中豪雨が多発する 所に対しては,「発注者指定型」で容易に活用が とともに,わが国でも有数の台風常襲地帯であ 行えるよう情報を提供する取り組みについて紹介 り,洪水,高潮,土砂災害等が多発する地域であ する。 る。また,地形・地質的には,有明海沿岸地域に 広がる軟弱地盤地帯や南九州一帯に分布している シラス地盤等により,従来から社会資本の整備と 2. 新技術活用システムの 活用状況について 維持管理を行うに当たって,コスト縮減等に苦慮 してきたところである。その成果として,平成25 ⑴ 新技術の活用率について 年度は新技術の活用により約59億円のコスト縮減 九州地方整備局における新技術活用率の推移 を果たすことができたが,しかし,九州の風土を は,平成17年度から平成25年度までは,年々増加 背景に独自に開発された新技術の活用は,現在, 傾向で推移し,平成25年度には46.5%の活用率を 十分に活用されているとはいえない状況である。 達成している(図― 1 )。 76 建設マネジメント技術 2015 年 1 月号 技術情報コーナー 新技術活用工事件数(件) 活用技術件数(件) 新技術活用率(%) 46.5 2,792 3,000 42.1 2,500 33.7 45 40.3 2,433 40 2,240 36.1 35 31.4 新 2,000 技 設定目標活用率 30% 29.6 術 活 1,500 20.5 19.7 用 件 数 1,000 861 件 622 608 609 440 408 500 1,593 1,677 1,098 972 764 661 50 690 764 790 新 30 技 術 25 活 用 20 率 15 % 10 5 0 0 H17 九 州 H18 H19 H20 H21 H22 新技術活用状況(年度別) H23 H24 H25 H17 H18 H19 H20 H21 H22 H23 H24 H25 2,074 2,147 2,054 2,107 2,264 1,913 1,816 1,961 2,092 新技術活用工事件数(件) 408 440 609 661 764 690 764 790 972 活用技術件数(件) 608 622 861 1,098 1,593 1,677 2,240 2,433 2,792 総工事件数(件) 新技術活用率(%) 19.7 20.5 29.6 31.4 33.7 36.1 42.1 40.3 46.5 1工事当たりの活用新技術数 0.29 0.29 0.42 0.52 0.70 0.88 1.23 1.24 1.33 図― 1 コンクリート工 共通工 橋梁上部工 3% 付属施設 5% 河川海岸・河川維 持・港湾関係 5% 調査試験 5% 舗装工 5% 道路維持修繕工 その他 11% 仮設工 コンクリート工 23% 土工・基礎工 舗装工 活用延べ新技術数 2,792技術 土工・基礎工 10% 調査試験 共通工 11% 河川海岸・河川維持・港湾関係 付属施設 仮設工 11% 道路維持修繕工 11% 橋梁上部工 その他 図― 2 ⑵ 新技術の活用工種について 新技術活用件数の工種別内訳は,平成25年度は ほぼ同率の11%で,過去 3 年間でもほぼ同様の傾 向にある(図― 2 , 3 )。 活用延べ新技術数2,792件で,そのうち最も多く の新技術が使われた工種は「コンクリート工」で ⑶ 新技術の活用状況および事後評価の状況 ある。平成23年度から平成25年度までの工種別の 九州地方整備局における新技術の活用状況のう 新技術活用の推移は,平成25年度で「コンクリー ちどの地方の技術かを検証すると,「九州の技術」 ト工」が全体活用件数の23%を占めている。次に の活用が少ない(図― 4 )。 「共通工」と「仮設工」と「道路維持修繕工」が また,全国の技術および九州の技術の事後評価 建設マネジメント技術 2015 年 1 月号 77 技術情報コーナー 土工 法面工 擁壁工 連続地中壁工 排水構造物工 軟弱地盤処理工 深層混合処理工 薬液注入工 アンカー工 構造物取壊し工 ボックスカルバート工 かご工 情報化施工 共通工・その他 基礎工 コンクリート工 仮設工 河川海岸 河川維持 砂防工 舗装工 付属施設 道路維持修繕工 道路除雪工 共同溝工 トンネル工 橋梁上部工 公園 ダム シールド 推進工 上下水道工 機械設備 建築 建築設備(電気) 環境対策工 調査試験 ITS関連技術 CALS関連技術 電気通信設置 港湾・港湾海岸・空港 その他 計 H23 H24 H25 134 135 60 0 32 22 16 1 11 13 7 1 6 11 25 542 195 66 4 3 89 193 311 0 16 17 48 1 1 0 0 2 11 28 0 25 109 0 11 19 22 53 2240 143 80 49 0 28 37 28 1 14 18 9 1 11 11 19 650 286 61 4 6 133 177 238 0 17 17 56 5 0 0 0 0 14 13 2 39 112 1 26 25 38 64 2433 229 73 57 0 31 34 29 0 15 18 15 5 19 18 39 641 303 102 9 3 150 142 307 1 20 37 74 4 3 1 0 0 14 29 1 39 149 3 29 40 34 75 2792 0 活 用 件 数 ( 件 ) 40 80 120 160 200 240 280 320 360 400 440 480 520 560 600 640 680 720 H23 H24 H25 ※営繕・港湾空港工事を含む 図― 3 九州の技術 173技術 6% 活用件数 2,792技術 九州の技術以外の全国の技術 2,619技術 94% 図― 4 平成25年度九州地方整備局管内の活用状況 事後評価 済 51技術 27% 活用なし NETIS 89技術 登録技術数 46% 192技術 図― 5 九州の技術 建設マネジメント技術 2015 年 NETIS 登録技術数 3,242技術 事後評価未実施 2,206技術 68% 事後評価未実施 141技術 73% 78 活用なし 1,257技術 39% 事後評価 済 1,036技術 32% 1 月号 図― 6 全国の技術 技術情報コーナー 済技術は全体の 3 割前後であり,活用されていな 注者指定型の活用件数が少ないにもかかわらず, い技術は未評価技術のうちの 4 割前後である(図 コスト縮減効果が高い結果となっている。九州地 ―5,6) 。 方整備局では発注者指定型による新技術の活用効 果は多大なものと考える(図― 8 )。 ⑷ 新技術の活用タイプ別活用状況 新技術の活用型別の活用状況の平成19年度〜平 成25年度までの推移は,発注者指定型と施工者希 環境 45% 望型の割合が逆転し,施工者希望型は増加傾向で あり,施工者の新技術活用に対する意識が高くな 2,659技術 (年度末集計値) 施工性 57% ったことを示している(図― 7 ) 。 当て検証した結果,平成25年度のコスト縮減額は は,発注者指定型が41.4億円で約70%を占め,施 図― 9 新技術の活用効果目的 工者希望型は17.3億円と約30%となっている。発 76.2% 23.8% 発注者指定型 施工者希望型 67.9% H21 32.1% 56.4% 43.6% 26.4% H22 73.3% 22.1% H23 77.9% H24 18.6% 81.4% H25 19.4% 80.6% 0% 10% 品質・ 出来高 53% 安全性 45% 九州全体で約59億円を超えている。内訳として H20 工程 47% 平成25年度 また,新技術の活用目的のうち経済性に焦点を H19 経済性 50% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100% 図― 7 新技術活用型別活用状況(九州地方整備局) 70 3000 コスト縮減効果有りの技術数 59 60 コ ス ト 縮 減 額 億 円 47 50 40 33 31 30 22 25 34 35 2500 2000 36 1500 25 20 20 件 数 1000 500 10 0 0 H15年度 H16年度 H17年度 H18年度 H19年度 H20年度 H21年度 H22年度 H23年度 H24年度 H25年度 コスト縮減額(億円) 22 25 31 20 25 33 34 35 36 47 59 コスト縮減効果有りの 技術数 152 190 204 244 294 467 644 871 1,184 1,368 1,706 ※上表の数値は,新技術活用等計画書を受付年度で整理した値 (※営繕・港湾空港工事を含まない。) 平成25年度コスト縮減額の内訳 発注者指定型:41.4億円(約70%) 58.7≒59億円 施工者希望型:17.3億円(約30%) 図― 8 新技術活用におけるコスト縮減額の推移(九州地方整備局) 建設マネジメント技術 2015 年 1 月号 79 技術情報コーナー ⑸ 活用の効果・目的 4. 九州のフィールドに適応した 新技術を活用・促進するため の対応案 前項でコスト縮減額について述べたが,新技術 活用における効果・目的は「経済性」のほかに, 「工程」 「品質・出来形」「安全性」「施工性」「環 境」がある。平成25年度の「新技術活用等計画書」 の「活用理由」としては,経済性のみならず, 「施 活用状況および提言により抽出された課題に対 工性」 「品質・出来形」等の効果を期待して活用 応するため「九州のフィールドに適応した新技術 され,また一つの技術で複数の効果を期待して活 の活用促進に関する研究」産学官からなる研究・ 用されるケースが多く見られる(図― 9) 。 3. 九州地方整備局におけ る新技術活用の課題 活用状況より 構造物調査試験 その他 CALS その他 155技術 関連技術 8技術 道路系 構造物関係 部門 73技術 環境対策工 5技術 20技術 調査試験 電気通信 土工 34技術 設備 40技術 機械設備 35技術 仮設工 16技術 地盤系 277技術 土工 1技術 30技術 共通工 公園 橋梁上部工 2技術 4技術 46技術 共通工 175技術 トンネル工 15技術 共同溝工 12技術 ・ 「九州の技術」の活用が少ない。 ・ 「九州の技術」「全国の技術」とも 「事後評価未実施技術」「活用なし」 道路系 道路維持 関係部門 102技術 道路維持修繕工 102技術 ①事後評価済技術 NETIS登録技術 1,011技術 基礎工 22技術 仮設工 28技術 上下水道工 6技術 推進工 2技術 調査試験 4技術 コンクリート工 112技術 付属施設 85技術 の技術が多い。 舗装工 68技術 ・コスト縮減等の効果が期待される 「発注者指定型」の占める割合が少 共通工 砂防工 33技術 14技術 河川維持 8技術 環境対策工 6技術 道路系 道路改良及び 舗装関係部門 186技術 ない。 コンクリート系 112技術 河川海岸 78技術 河川系 106技術 ・ 「発注者指定型」の技術選定をする 図―10 上で,情報量が少なく,技術の特 徴,他技術との比較が分かりにく い。 また,産学官からの問題提起とし 構造物調査試験 その他 25技術 て, 「産学官建設技術交流会」と「九 環境対策工 1技術 州建設技術フォーラム」にて, 「有望 な地場新技術等の評価を早めるための 試行機会の支援」や「九州のフィール ドに適応した新技術について,現場で の活用見込みの高い技術(有望な技 術)を産学官で検討し,それらを紹介 できるように取り組む。また,改善点 電気通信 設備 4技術 共通工 16技術 機械設備 3技術 調査試験 6技術 仮設工 10技術 道路系 構造物 関係部門 6技術 道路系 道路維持 関係部門 10技術 橋梁上部工 2技術 トンネル工 3技術 共同溝工 1技術 道路維持修繕工 10技術 基礎工 5技術 ②九州の技術の 中で試行を推奨 したい技術[仮称] の対象技術 122技術 河川海岸 提言をいただいているところである。 建設マネジメント技術 2015 年 1 月号 推進工 2技術 上下水道工 2技術 調査試験 1技術 コンクリート工 9技術 コンクリート系 9技術 4技術 舗装工 8技術 共通工 12技術 環境対策工 2技術 砂防工 1技術 道路系 道路改良及び舗装関係部門 29技術 図―11 80 仮設工 2技術 河川維持 4技術 付属施設 9技術 等が必要な技術は,申請者にアドバイ スできるシステムを検討する」とする 地盤系 32技術 土工 4技術 ITS関連技術 1技術 河川系 11技術 技術情報コーナー 土工 軟弱地盤対策 その他 施工管理(ICT含む) 8% 5% 点検 1% 機械設備 5% 道路維持修繕工 9% 土工 6% 法面芝付工 軟弱地盤対策 8% コンクリート二次製品 法面芝付工 8% 新技術 活用ニーズ 工種アンケート 調査結果 橋梁補修補強工 15% 擁壁工 仮設工 コンクリート工 擁壁工 8% 河川維持 道路付属物 コンクリート二次製品 4% 仮設工 8% 橋梁補修補強工 道路維持修繕工 機械設備 道路付属物 河川維持コンクリート工 6% 8% 1% 点検 施工管理(ICT含む) その他 図―12 開発プロジェクトチーム(以下「PT」という) を発足させることとした。 122技術)」「事務所へ推奨する技術の対象技術 (事後評価済技術1,011技術)」を対象とするが, 工種については,九州地方整備局管内各事務所か ⑴ 実施内容 実施内容としては, らのアンケート調査結果により選定することとし た。 ① 事後評価未実施技術の「九州の技術」のう ち,現場で活用見込みの高い技術を「最新の技 術基準,示方書,指針等の適合性の確認結果」 ⑶ 活用ニーズ工種アンケート結果 新技術活用ニーズ工種アンケート調査を各事務 「事後評価の手法に基づいた総合平均点」およ 所に行った結果,「橋梁補修補強工」「道路維持修 び「従来技術または,全国の汎用技術との比較 繕工」「軟弱地盤処理工」の活用ニーズ,評価適 結果」等をもとに,産学官で検討しそれをホー 用性の要望が多い結果となっている(図―12)。 ムページ等で紹介する(図―10) 。 ② 「全国の事後評価済技術」のうち,発注者指 この結果より,「軟弱地盤処理工」と「コンク リート構造物の補修工法(当面は表面含侵工法)」 定型で活用できる技術を抽出し,九州地方に適 について対象とすることとした。なお,完了次 応可能か判断するために比較表等を作成し,発 第,次の対象工種の研究に移行する予定である。 注事務所において,技術選定が容易に行えるよ うな情報を提供する(図―11) 。 5. おわりに ③ 改善点等が必要な技術の開発者へ技術的アド バイスを実施する(ヒアリング等で伝える)。 PTの 発 足 に よ り, 産 学 官 の 連 携 が 厚 み を 増 し,また本研究報告によるさらなる新技術の活用 ⑵ 対象技術・工種 NETIS登録新技術約3,200技術のうち,「試行を により,社会資本の整備・維持管理,防災等に寄 与するものと期待している。 推奨したい技術[仮称]の対象技術(九州の技術 建設マネジメント技術 2015 年 1 月号 81
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