0703 柔軟壁に挟まれた粘性流体の自由表面のメニスカス不安定性

日本機械学会[No.157-1]北陸信越支部 第52期総会・講演会 講演論文集 [2015.3.7 新潟県柏崎市] 0703
柔軟壁に挟まれた粘性流体の自由表面のメニスカス不安定性
The meniscus instability of a free surface of a viscous fluid confined between compliant walls
○正 宗高 大和(長岡技大院) 正 古口 日出男(長岡技大)
Yamato MUNETAKA, Graduate School of Nagaoka University of Technology,1603-1 Kamitomioka, Nagaoka, Niigata
Hideo KOGUCHI, Nagaoka University of Technology,1603-1 Kamitomioka, Nagaoka, Niigata
Key Words: Meniscus Instability, Elastic Sheet, Viscous Fluid, Hele-Shaw Flow 1. 緒言 2 枚の平行な板の狭いすき間に粘性流体を満たし,上側の
板を一定速度で引き離すと,負圧によって流体のメニスカス
の先端が移動し,分離した流体の残留液膜が板面上に複雑な
樹枝状パターンを形成する.これはメニスカス不安定現象(1)
と呼ばれ,接着テープの剥離面やすべり軸受内の破断油膜,
非晶質材料の引張破断面などにおいても観察される.
近年,自由表面の不安定性や乱れのパターンの制御などを
目的として,流体を挟む板を柔軟な弾性膜に変えた場合に関
する研究(2)が行われている.このような系では,弾性体の変
形が自由表面の運動に与える影響を考慮する必要がある.そ
こで,本研究では,片側を基板に接着された薄い弾性シート
と平板の間に粘性流体が挟まれている系を考え,弾性体の変
形が自由表面の運動に及ぼす影響について調べる.特に,本
報告では薄い弾性シート表面の変形を表す微分方程式を導
出し,液膜を引き離すことによって生じる流体圧力とシート
表面における厚さ方向の変位を数値計算によって求めた.
2. 基礎式の導出 (3)
ここで,p は流体の圧力である.液膜厚さ h は次式で表され
る.
(4)
ここで,h0 は初期液膜厚さ,Vs は上側の基板の引き離し速度,
ζは弾性シート表面における厚さ方向の変位である.また,
自由表面の半径は式(2)より,次式で表される.
(5)
ここで,𝑅は自由表面の位置における液膜半径である. ζを求めるため,弾性シート表面の変位に関する基礎式を
導く. (3,4)軸対称系における非圧縮性の線形弾性体の平衡方
程式は次式で表される. (6)
(7)
ここで,φは弾性体内部の圧力であり,G は剛性率,ur,uz
はそれぞれ r および z 方向の変位である.また,非圧縮性の
条件は次式で表される. (8)
いま,弾性シートの厚さがシートの半径に対して十分薄く,
hs≪R であるとすると,式(6)と式(7)は次のように近似できる. (9)
Fig.1 Schematic diagram of the analysis model
図 1 に解析モデルを示す.粘度 µ の粘性流体が円形の薄い
弾性シートと下側の基板との間に挟まれている.流体の液膜
厚さを h とする.上側の弾性シートは非圧縮性の線形弾性体
であるとし,弾性率を E,厚さを hs とする.シートの中心か
つ下側の基板上に座標原点を持つ円柱座標系を導入し,半径
方向を r,厚さ方向を z とする.現象は軸対称であるとし,
角度方向の変化は考えない.また,慣性力と重力を無視する.
軸対称系における連続の式は次式で表される.
(1)
ここで,vr は厚さ方向に平均化した r 方向の流速であり,本
研究のような狭いすき間内の遅い流れにおいては,次式の
Darcy 則で与えられる. (2)
式(2)を式(1)に代入すると,圧力に関する Reynolds 方程式を
得る.
(10)
式(9)を z について積分し,基板の接着部分における変位の
固定条件と,弾性シート表面に働く法線方向の表面力を考慮
すると,ur は次式で表される. (11)
ここで,ζ= uz(r,hs)である.式(11)を式(8)に代入し,z につ
いて積分すると, uz は次式で表される. (12)
上式において z = hs とおけば,ζに関する微分方程式を得る.
また,φに関する微分方程式は次式で表される. (13)
(14)
式(3),(5),(13),(14)を連立させて解くことで,流体圧力
と液膜厚さを求めることができる. ここで,次元のある量を改めて r*などとおき,得られた基
礎式を次のように無次元化する. (15)
その結果,無次元化された基礎式は次式のようになる. (16)
(17)
(18)
(19)
(20)
解析を行う必要があると思われる. 4. 結言 薄い弾性シートと基板の間に挟まれた粘性流体を一定速
度で引き離したときの流体圧力と弾性シート表面の厚さ方
向の変位を差分法によって求めた.シートの剛性率が小さな
場合でも生じる変位の大きさは非常に小さかった.また,弾
性シートの非圧縮性によって,流体側では半径方向にほぼ一
様に変形し,自由表面近傍ではピーク状の変位が生じた. 参考文献 (1)古口他,機論(B 編),54-505 (1988), 2446.
(2)Pihler-Puzovic ́, D. et. al., J. Fluid Mech., 731(2013), 162.
(3)Ghatak, A. et. al., Langmuir, 21(2005), 1277.
(4)Bandyopadhyay, D. et. al., J. Chem. Phys., 128(2008), 154909.
ここで, (21)
であり,γは流体の表面張力である.また,境界条件は次式
で表される.
(22)
(23)
基礎式と境界条件を差分法によって離散化し,数値解を求め
る.ここで,次のような座標変換(2)を行い,移動境界問題を
固定座標における問題に変換する. (24)
基礎式を x1,x2 に関する式に書き直し,時間について一次の
後退差分,空間について二次の中心差分で差分近似し,得ら
れた非線形連立方程式をニュートン法によって解く.このと
き,x1,x2 の境界でζとφの値と勾配が連続になるように境
界条件を設定した.
3. 解析結果 解析例として,𝑅! =50 mm,𝑅=75 mm,𝐺=0.1 MPa,hs=3 mm,
𝜇=10 Pa s,h0=0.5 mm,Vs=5 mm/min,𝛾=20 mN/m としてパ
ラメータを入力した.また,x1 方向の分割数を 100,x2 方向
の分割数を 50,時間方向の分割数を 50 として計算を行った. 図 2 に得られた無次元圧力 p の分布を示す.図 2 より,圧
力分布は半径方向に対して放物線形になり,引き離し直後に
最大値を取り,その後時間経過とともに小さくなる.これは
弾性変形がない平行平板間における圧力分布の場合と同様
である.圧力値は平行平板間の場合に比べて最大 2 倍程度大
きくなっている. 図 3 に弾性シート表面における無次元変位ζの分布を示す.
設定した剛性率は小さいが,変位の最大値は非常に小さくな
った.また,流体が存在する領域における変位量はほぼ一定
であり,自由表面近傍で符号が反転した後,外部境界で 0 に
なっている.これは弾性体を非圧縮性としたため,分布力が
作用する中央付近では一様な変形が生じ,圧力の下がる自由
表面付近で急激に変形が小さくなったためであると思われ
る.自由表面の外側のピーク状の変位も体積を一定に保つた
めに生じたと考えられる. 今回の解析では簡単のため,弾性シート表面の厚さ方向の
変位のみを考え,表面力としても表面の法線方向の流体圧力
のみを考慮した.実際には,半径方向の流速によって弾性シ
ート表面には壁面せん断応力が作用し,面内変形が生じる.
そのため,表面形状はもう少し異なったものになると思われ
る.また,この面内変形が自由表面の運動に影響を及ぼすと
考えられる.したがって,今後は半径方向の変形も考慮した
Fig.2 Nondimensional pressure distribution in radial direction
Fig.3 Nondimensional displacement at surface of the elastic sheet
in thickness direction