事業の成長ドライバーを目指す 三越伊勢丹HDの人事改革

Vol.16 No. 1
2015
Contents
p.2
シリーズ/経営イノベーション対談 12
事業の成長ドライバーを目指す
三越伊勢丹HDの人事改革、
人材育成の新たな方向性とは
中村氏
「従業員と向き合い、対話し、助
言できる人事部を目指します」
現場から遠い人事部ではなく
“個”
と向き合い、
“個”
の成長を支援する人事部へ 全員が最大限に力を発揮できる人事制度・職場環境づくりが着々と進む。
中村 守孝
p.8
株式会社 三越伊勢丹ホールディングス
執行役員 経営戦略本部 人事部長
高野 研一
(株)ヘイ コンサルティング グループ
代表取締役社長
先端企業ケーススタディ34
10倍速くやり、5倍多く失敗し、2倍成功する
ヤフーの「爆速経営」を支える人材育成
すさまじいスピードで変化するI T業界で、競争力をいっそう高めるためのヤフーの人事改革。
改革推進のキーワードは「課題解決」、
「爆速」、
「フォーカス」、
「ワイルド」
。
ヤフー株式会社
本間 浩輔 執行役員 ピープル・デベロップメント統括本部長
本間氏
「経営とともに、人事も進化し
なければならないと考えてい
ます」
p.12
HAYマネジメントセミナー
リーダーシップ開発のベンチマーキング調査
ベストリーダーシップ企業調査 2014
−世界のベストカンパニーの実践から日本企業の課題を探る−
ヘイグループのニュースレターは、そのとき
どきに求められる変化や進 歩について、さま
ざまな企業とご一緒に学び、
分析し、提案し
てまいります。
小さい媒体ですが、多くの企業の皆様とと
もに、
ビジネスの革新を通じて社会に貢献す
る一 助でありたいと考えております。
リーダーシップ開発は日本企業にとっていまや不可避のテーマです。最新の調査結果をもとに、
現在の日本企業におけるリーダーシップ開発の状況および課題について考察します。
柏倉 大泰 シニアコンサルタント
ヘイグループ p.16
ヘイグループからのお知らせ
2015
12
1
事業の成長ドライバーを目指す
三越伊勢丹HDの人事改革、
人材育成の新たな方向性とは
株式会社 三越伊勢丹ホールディングス
執行役員 経営戦略本部 人事部長
(株)ヘイ コンサルティング グループ
代表取締役社長
中村 守孝 高野 研一
中村 守孝氏(なかむら もりたか)
1984年慶應義塾大学法学部卒業、
株式会社伊勢丹入社。1992年慶應
義塾大学大学院経営管理研究科修
士課程修了。
その後、同社経営企画部、
IT系グループ会社出向、営業政策部等
を経て、2010年経営企画部長として
三越、伊勢丹の事業会社統合を推進。
統合後の組織、経営システムの構築等
に従事。2011年株式会社三越伊勢
丹 取 締 役 執 行役員経 営 企 画 部 長 。
2012年より株式会社三越伊勢丹ホー
ルディングス執行役員経営戦略本部
人事部長
(現職)
として、人事制度改革、
人材育成プログラムの構築等に取り組
んでいる。
さらなる事業成長のために、
「高い魅力のコンテンツ創出」、
「顧客接点の拡大と充実」、
「生産性
向上」などを基幹戦略とし、高レベルの価値提供を目指す百貨店最大手の三越伊勢丹ホール
ディングス。同社は人材の質の向上を重要テーマと位置づけ、人事制度の改革も推進している。
人事部長に就任して3 年、経営トップ(大西 洋社長)のビジョンを受け、改革の指揮をとる執行
役員の中村守孝氏に、新たな人事の方向性や人材育成への思いをうかがった。
“人事”の役割を根本から見直し
価値観を再構築するための改革
連関の中で存在するのですが、業務そのものが分
断されてしまっているため、ケアレスミスが多いのは
当然として、シナジーの中から出てくる新しい発想
高野 経営企画から人事の担当役員に変わられ
がなく、単に従来のやり方を継続している場面が垣
て、最初にどのような課題をお感じになったのか。ま
間見えました。
ずは、そのあたりからお話しいただけますか。
また、ビジョンが存在しないために、自分たちの仕
中村 「人事部」
という組織自体に多少課題がある
事のよりどころ、価値判断をどこに置くのかのミッショ
と感じました。人事部および三越伊勢丹ヒューマン・
ンや、行動規範もなかったのです。
ソリューションズ(IMH)
という分社化された子会社、
そのため組織全体としての活力や、新しいことに
この両方に課題があると感じましたね。機能や職制
チャレンジしようという成長意欲も弱かったですし、
で縦横のつながりが切れてしまっていて、組織内の
結果として、現場や従業員へのサービスを提供す
シナジーが働いていないことが最大の課題でした。
るという本来の役目を遂行できていない。これを一
本来、1 つひとつの人事の機能は、それだけで
番に感じましたね。
完結するものではありません。非常に多岐にわたる
同時に、人事部以外の社内の部長階層以上に
も課題がありました。人事への関心事が人によって
人の従業員が働いていますから、本当に色々な思
偏っていて、
「採用」のことを言う人もいれば、
「評
いの人がいます。それを人事部はどの程度わかっ
価」のことを言う人もいる。「昇格試験」のことを言う
ているのか? 部門長からヒアリングした情報、もし
人もいるし、
「考え方」や「仕組み」のことを言う人も
くは年に1 回、従業員に出してもらう自己申告は本
いるわけです。
当に生の声なのか。もっと人事部門から個人にアプ
すなわち、人事に対する会社としてのとらえ方と、
ローチしていかなければ、
「人事部が現場から遠
それを実行していく人事部、さらに子会社の IMH
い」
という声を払拭できないのではないか。仕掛け
を含め、経営と人事部の両方に課題がありました。
ていく制度をよりよくするには、
「自分たちのことを考
高野 ビジョンや価値観の欠如に対して、問題意
えてくれている人事部」
として、従業員から頼られな
識をお持ちになったわけですね。
ければいけませんから、個の世界に入っていくこと
中村 はい。そこでまず、原点に立ち戻って考える
を強く意識しました。
ことを徹底するようにしました。何かちょっとしたミス
でも、対症療法で終わらせてしまっては、本質的な
改善がなされません。部門間の連携という観点から
も、
「ほかの人が見ているはずだから間違いないだ
ろう」
といった、他者依存的な立ち位置を見直しま
高野 研一
大切なのは、
1人ひとりが考え
協働によりシナジーを生み出すこと
しょうと。そこで「人事のミッションとは何だ?」
というこ
高野 これまでのやり方を変えていくためには、か
とを再定義することを目的に、部長に集まってもらい、
なり大胆な手を打たなければならないと思いますが、
合宿するところから始めました。
具体的にはどのようにされたのですか?
人事部、あるいは子会社のIMHといった枠組み
中村 大卒定期採用応募者の面接がその一例で
から離れて、
「もっと本質的な人事の課題とは何
す。私が人事部長になる前年の採用では、6 割の
か?」、そして「我々はどうすべきか」を考えようじゃな
学生が内定を辞退しました。震災の影響もありまし
いかと。そういう中で、人事のビジョンやミッションを
たが、内定者 50 人のうち、20 人しか入社してくれ
導き出し、会社が負う責任と従業員が目指すべき姿
なかったのです。原因はまさしく個に向き合っていな
の両方をつくっていきました。そこから、施策や具体
いことだと感じましたので、最終面接の責任者として、
的なアイデアにつなげていくことを、人事部とIMH
従来のやり方を大きく変えました。
で共有化するところから始めたわけです。
例えば、学生たちの表面的ではない本質的なも
同時にそれを経営に対しても発信し、オーソライ
のの考え方、人格や精神的なタフさなどを見たいと
ズを取りながら、1 年目はこれ、2 年目はこれというよ
思ったので、ややタブーと思われるような、
“ 強い ”
うに、ロードマップをつくって進めました。
面接をしたわけです。もちろん人格否定などとは別
高野 人事としての目指すべきゴール、課題につい
です。しかし、
「もっとあなたという人間を知りたい」
と
高野 研一
てもお話しいただけますか?
いうことですから、相手がつらい思いをしたとしても、
中村 ゴールはビジョンで掲げ
きちんと向き合って本当に掘り下げることによって、
た状態を実現することですが、
どういう人材かがわかり、かつ、入社をしてくれる可
そのために「できる限り
“ 個 ”で
能性も高くなるだろうと思い、面接のやり方を大きく
向き合う」ことをテーマに掲げま
変えました。当然、採用チームにも意識改革を求め
した。多少情緒的になりますが、
ました。
1 人ひとり、性格や価値観、人
結果、辞退者は14%まで下がりました。大半の学
格があり、それぞれが違う存在
生は、
「こんな面接は受けたことがない」
ということで
であるということ。これを、きち
した。SNS の時代ですから、あとで何かあるんじゃ
んと認識しなければいけないと
ないかという心配もありましたが、3 年間で600人の
いうことです。「人数分のダイ
面接をして、危惧したような反応はゼロでした。
バーシティ」などという言い方も
逆に、
「ここまで自分に向き合ってくれるのであれ
しています。
ば、他社の内定を辞退して三越伊勢丹に来たい」
三 越 伊 勢 丹だけで 12,000
という学生もいましたし、残念ながら採用には至らな
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かったけれど、
「自分を見つめ直す機会ができて、
します。
その後、別の会社に内定が決まった」
とわざわざ報
中村 「それぞれにいいもの、人にない得意技を
告に来てくれた学生もいました。
持っているだろう」
という前提から入っていく。何か
つまり、できる限り個と向き合いながら、心の内を
いい素養や、表出していない能力があるだろうとい
さらけ出してもらう。そして聴くだけではなく、それ
うポジティブな前提に立つ。しかし、1人では表出し
に対してアドバイスをできる人事部にしたいのです。
にくい。かといって、私が全部 1 対 1でやると言った
これが、掲げたビジョンに対する「行動の変革」の
ら時間は足りず、下も息苦しい。
一例です。
となれば、横や斜めの連携の中で、そういったも
高野 インパクトのあるやり方ですね。
のを引き出し合う。いまは、徐々に1 対 1のものが、1
中村 もう1 つ、部下に対して強く求めたのは、
「考
対 2、2 対 2に広がってきたような感覚です。私は実
える」
ということです。
「何のために、この仕事をやっ
務には口を出しませんが、単純に「ラインが言ってい
ているのか」、
「なぜ自分の部下がその仕事をやっ
るからやる」
というような理由は認めない。「今すぐ
ているのか」、
「仮にこれを変えたら、何がいけない
にこれはできないけれど、次にはこうする。もっとこう
のか」
といったことを、とにかく徹底して考えてもらう。
した方がよい」
とか、ラインに対しても、こちらの考え
私自身も部下に「これを変えたいけれど、どう?」
を論理的に示さなくてはいけないと言いました。
と聞いて、変えてはいけない明確な理由が出てこな
言ったことを果たせない場合もまれにはあります
ければ「じゃあ、変えてみようよ」
と言ってどんどん変
が、やりとりをしている中で、できること、できないこと、
えました。その結果、
「それまでの人事のやり方」
と
「いまやるべきことは、こうじゃないか」
と議論して、
いう画一的な考え方を、メンバーが自発的に変えて
コミットしたからには最大限、対グループ会社も含め
いくようになっていきました。部門長としては非常に
て努力する。そういう姿勢が見えれば、現場からも
うれしいことですよね。1人ひとりの生産性が上がる
そんなに批判は出ません。
わけですから。
「人 事 部と他 部 門」、
「人 事 部 内 部」、
「IMH 内
1人ひとりと向き合い、対話をして、アドバイスを
部」、
「人事部とIMH」、とにかく部門や人間の距離
する。人事部の独りよがりではない、一定の妥当性
感やものの考え方、アクションを、できるだけ近づけ
を持った人事制度を構築できるようになる。そのた
ることに注力しました。
めには、
「考え抜く」ことが不可欠です。それと
「協
働」ですね。
高 野 冒頭でおっしゃった組 織 内のシナジーを、
「協働」によって促そうと。
中村 困っていたら助けなさい、助けられたら助け
“個”を重視すれば
人の評価軸も大きく変わる
返しなさい、よい知恵がなければ、2 人で集まって
高野 お互いのやりとりの中で、ときにプレッシャー
解決策を出しなさいと言いました。部長同士はもち
をかけ合ったりしながら、個人の素質、能力を引き
ろん、縦横斜めにこれをやる。すると、私が来た当
出していくことが「個を重視する人事」のビジョン、
初、縦割りであまり会話もなかった状態だったのが、
価値観ということでしょうね。
いつも何か議論、相談している雰囲気が出てくるよ
中村 そうですね、それと
「評価」です。例えば育
うになりました。
児勤務の人は、短時間勤務ゆえに、良い評価が付
また、担当間の競争意識も生まれました。目立つ
かないというのはナンセンスです。育児勤務の人で
のは、どうしても人事企画担当などになるわけです。
も生産性が高ければ“A 評価 ”であって、逆にフル
しかし、縁の下の力持ちである労務担当からも
「ぜ
タイム勤務者でも生産性が低ければ評価は下がる。
ひ自分たちの提案を経営戦略会議に上程させてほ
むしろ、少子高齢化の中で子どもを育てながら働い
しい」
といったウィルが出てくるようになり、改革に取
ているわけですから、会社にも社会にも貢献してい
り組む意識が部内に満ちていくのを感じましたね。
る。ここにも人事制度改革のヒントがありました。
高野 お互いに切磋琢磨して知恵を出したり、技
私の部下のある女性は、育児勤務で時間が足り
を磨いたりするような印象ですね。個と個のぶつかり
ず、任されている仕事が残ってしまう。そして、後ろ
合い、対峙というのは、武道にも通じるような感じが
髪を引かれながら子どもを迎えに行くことが辛いとい
ピーディに進められるのは、経営トップの理解があっ
てこそだと心から感謝しています。
その中で、
トップが従来から課題感を抱いていた
「選抜的な制度の不在」
というところにもつながって
いくわけです。「個を見る」
ということは、平等に提
供することではなくて、潜在能力や将来性を感じた
ら、当然、別立てのメニューを与えて、将来のエグ
ゼクティブに育て上げていくということをしなければ
いけません。
そのため、ヘイさんと組ませていただき
「ビジネス
リーダープログラム」を立ち上げることになりました。
執行役員たる力をつけさせる訓練と、執行役員た
る力があるのかというアセスメントの2 軸でやる。上
司によって評価は変わるため、社内だけでやってい
ても不十分だと考えました。
「リーダーの育成については、上
司によって部下の評価が変わ
るため、社内だけでやっていても
限界があると思いますね」
うわけです。真面目なんですよ。
短時間勤務ゆえのこうした問題が少なくないこと
が判って、何をしたかというと、例えば、月に最大 10
個々をきちんと評価しつつ
モチベーションを引き出す
日間、誰か子どもの面倒を見てくれる人がいる日は
高野 そういった思いが、弊社のプログラムを採用
フルタイムで働ける仕組みを設け、制度化しました。
していただいた理由だったわけですね。
これも1 人ひとりと向き合い、
「何を悩んでいるのか」
中村 高野社長のお話に感銘を受けたということも
を知ることが出発点だったわけです。
大きな理由です。そこからすぐに役員が輩出される
ただ、従来のやり方を根本的に見直すことに対し
かどうかは別としても、何かをつかんで、気づいて、
て、部内には私に対する反発もあったと思います。
よりよいリーダーになってくれれば、非常にいい投資
何せ忙しいですし、しかも考えろと言われる。しかし
だと思います。無形の本人資産として残りますし、こ
あえて部長職には非常に厳しく指導しました。リー
れが広がって、経営に対するリテラシーの底上げが
ダーシップスタイルでいけば、
“ 強いリーダー ”になっ
できればいいと思いますね。
てしまったかもしれません。強引にでも引っ張らなけ
その人たちがいろいろな部署に配置されている
ればいけないと思いましたから。もちろん率先型で、
ほど、面が広がります。そのとき、自分たちがやった
何でもやってしまったわけではありませんが。
ことをベースに議論ができて、
「この事業の成長ドラ
高野 従来のやり方を大きく変えるとなれば、当然、
イバーは何か?」、
「市場のスイートスポットを探し出そ
経営陣との間でコンセンサスを得る必要もあります。
う」
というような会話が広がっていくと信じています。
中村 人事部長の立場として、体を張ってやってい
高野 選抜者以外では、どのような施策を打ち出
かなければいけない場面はありますね。1 人対上席
していらっしゃるのですか?
役員全員のような構図を経験することにもなります。
中村 基本的な問題として、すでにある仕組みを、
ただ、一番の課題は、人事部をよくすること以上
従業員に周知できていないということもありました。
に、会社全体をよくすることです。
マネジャー職への登用試験においても、
「私がマネ
経営トップは「人材はコストではなく、最大かつ唯
ジャー試験に挑戦していいんですか?」、
「あれは大
一の資産だ」
と言っており、そのトップの思いと現場
卒の人が受ける試験だと聞いています」
と言うわけ
のやる気をつなぐことが、人事部の役割ととらえ、契
です。そうじゃないでしょと。そこで個別面接の際に
約社員に対する対応、販売に特化した能力の高い
試験を受けるように促していくようにしたところ、短
人たちへの対応など、様々な改革を進めています。
大・高校卒の社員も多く手を挙げるようになり、当
まだまだ課題は山積みですが、これらの改革がス
初 2、3 人だったものが、いまは平均して毎年 10 人
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1
受かるようになりました。
ですから個にフォーカスして、適性がある人を適所
「自分がマネジャーになってチームを率いてみよ
に配置して、縁の下の力持ちもきちんと評価すると
う」
と目覚めて、チャレンジして、受かる人がたくさん
いうことが大切なのです。将来のリーダー候補にプ
出てきました。これが私の仕掛けたことの中では、
レッシャーをかけるのも、経営陣の一員になるという
一番うれしいことかもしれません。
ことを仮想的にでも感じ、とことんその立場になりきっ
受かればさらによい仕事をしてくれるんですよ。
て考えてもらいたいからです。
「大変ですけど、やりがいがあります」
と。20年くら
い就業しているんですから、仕事はできますし、お
客さまも持っている。そこで、
「入口は違えど、ゴー
ルは公平」
という標語をつくったわけです。頑張る
気のある人はチャレンジしてください。力があるのに
経営戦略のコアとしての機能を
伴わない人事では意味がない
手を挙げる勇気が持てない人は、所属や人事で背
高野 個に光を当てて個人の力を引き出すという
中を押してくださいと。多くの人がエントリーすれば、
のは、非常にシンプルなやり方ですが、一方で、各
それだけいい人材が上がっていきますから。
人にプレッシャーをかけながらやろうとすると、こちら
また、女性の管理職比率は現状約 20%ですが、
の人間性も試されます。そうした状況に自身を追い
これまでの延長では2020年の 30%という目標に届
込んでいる面もあると思いますが、その結果、多彩
かないと思います。大卒で言うと、これまで男性を
な打ち手につながり、人事部の風土も大きく改善さ
女性より若干多く採用してきましたが、将来のことを
れたと考えられますね。
考えると逆でもよいと思っています。優秀な女性が
中村 風土に関して言えば、先般、義務化に先
ポストに就いたときに、それを認める風土はあるので、
立って『ストレスチェック』を実施しました。人事部と
あとは実力がある人材をきちんと登用していけば、
してはうれしい結果が数字として表れたのですが、
目標に近づくと考えています。
会社全体としては全国平均に比べて突出してよい
これは理想ですが、最終的に人事部が目指すべ
わけではないので、これも人事部の責任と見れば、
きは、キャリアのアドバイザーやカウンセラーでしょう
決して満足できるものではありません。
ね。もちろん資格的な意味だけではなく、従業員の
結論から言えば、部門の風土は、リーダーによっ
会社人生が少しでもよくなるように、人事部としてど
て、よくもなれば悪くもなります。ただ、私が優れてい
のようにアプローチしたり、キャリアアドバイスができ
るというようなことではなく、よくみんなが頑張ってくれ
るか。悩みだけ聴いていればよいという時代は終
ていると思っています。人事部のメンバーが「人や
わったと思います。
という気持ちがあったところを、
会社に貢献したい」
そういう形の中で、年間 1,000人以上、各階層の
ちょっと刺激して引き出し、軌道に乗せて、あとは勝
社員や月給制契約社員を対象に面接をしています。
手に自走してくれたらいいわけです。
私自身も国内外の部長職 420人と全員面接し、でき
私自身、欠点も数多くありますし、偏っているとこ
るだけ相手を知るように努めています。人事をやる
ろもあるわけで、人事をやる中で、自分自身が痛み
以上これは不可欠だと考えています。一見大変で
を伴って認識させられた部分もあります。自分自身
すが、実はのちに大きな財産となって返ってきます。
の修養という意味において、経営企画などでは得ら
高野 「ビジネスリーダープログラム」の選抜者の
れなかったものがあると思いますね。
方々に対しては、中村部長自ら強烈なプレッシャー
また、人事というのは、経営の中枢機能だと考え
をかけていますけれど、リーダーが先頭に立って、
ていますから、いくら美しく人事ビジョンを描いても、
個人同士が切磋琢磨するような状況をつくっていく
経営戦略部門としての実体的な機能を伴わなけれ
ような感じですね。
ばだめだと思っているんです。この面白さを、人事
中村 人というのは、昇給とか昇格も大事ですが、
部長になってより実感させていただいています。
その前に、組織における自分の存在感を、自分で
高野 私たちヘイグループには、
「パワー動機」
とい
明確に意識できる、あるいは何かの仕事において
う言葉がありますけれど、中村部長の「パワー動機」
人の役に立った、それに対して感謝されたというこ
が、相手のパワーを引き出すことにつながっている
とが、モチベーションの根幹ではないかと思います。
んでしょうね。
中村 単純な話をすれば、10の力をできるだけ10
任があって、その中で「リーダーって何だ?」
という
に近く出しきってほしいわけです。10あるのに6しか
学びですね。結局、会社というのはプロジェクトの集
出していない状態はもったいない。だったら6のうち
まりですから。
5.5 出している人のほうが、私は尊いと思うんですね。
だから、
「やっぱり、10ある力は7 や 8は出そうよ、3
しか出してないよ、もったいないね」
と、こういう言い
方はしましたね。
高野 人の力を引き出すために、自分が積極的に
伝統に裏打ちされたよき風土を
さらに磨いていくのが人事の役割
影響力を発揮するというリーダーシップのスタイルは、
高野 そういった人を育てる風土、あるいは伝統の
いつごろ、どんなふうに獲得されたのでしょうか?
ようなものがもともとあったのですか?
中村 経営企画や営業本部の企画スタッフ、出向
中村 三 越も伊 勢 丹ももともと呉 服 商ですから、
先の改革スタッフなどを合計20年経験しましたが、
先輩が後輩に対して手とり足とり教えていくという風
その中で、非常に難しいテーマを、孤独な環境の
土は、ものすごくありました。ただ、昨今は人対人の
中で考えさせられ、実現まで持っていく訓練を数多
伝承、心のつながりが保ちにくい環境になってきて
くさせられたということですね。単にプランを策定す
いますので、人事部門が入り込んでいくことが必要
るだけでなく、実行する上で何がボトルネックかを考
になります。面接だけではなく、どのようにそれを具
え、それをクリアして着地させる。
体的な制度面、プログラム的な面で補っていくのか。
そこから、考えることの苦しさや、プランが通った
例えば「ビジネスリーダープログラム」のメンバー
あとの苦しさを学んできました。一歩間違うと、プラ
に対しても、5年、10年先に、彼らが経営を支え、さ
ンが通ったところで自分の仕事は終わりと勘違いす
らによい風土の会社にしていってもらうことを強く望
るスタッフが多いのですが、そうではありません。提
みますね。
案した自らが案件の事務局のリーダーとして全社を
長い歴史を持った会社ですから、新興企業のよ
横串で束ねてプロジェクト化し、関係者の協力体制
うな風土をいきなりつくるといっても、そうそう簡単に
「人事に求められるのは、美しく
を築くことから始めていくことになります。
描かれたビジョンだけではなく、
「自分で考えて、課題を見つけて、やってみて、
経営戦略部門としての実体的
失敗して、ほめられて」
ということを若いうちに繰り
な機能だと考えています」
はできないと思います。三越伊勢丹のよさを生かし
つつ、新しいものの見方、スピーディな意思決定と
アクション、さらには「いままでにない異質な見方」を
返していないと、評 論 家
吸い上げる仕組みをつくっていくことができるとよい
で 終 わってしまう。また、
と思います。そのためにも、人事は本当に重要だと
若いうちからプロジェクト
つくづく感じています。
の中でもまれて組織の動
当社は、経営トップ自身が誰よりも従業員と向き
かし方の勘所を身につけ
合っています。人事における様々な改革をスピー
ないと、スペシャリストを束
ディに進めるためには、
「百貨店は人こそすべて」
と
ねるジェネラルなリーダー
いうトップの強い志と、任せてくれる関係性があって
にはなれない、というのが
こそ実現するものと思っています。
私の持論です。
自分自身もやりがいと良い意味でのプレッシャーを
そういった機会をどんど
感じながら、従業員1人ひとりの力を引き出せるよう
ん増やすためには、プロ
な人事制度・働く環境をこれからもつくっていきた
ジェクトを多く組 成して、
いと思います。
若い人を早いうちから投
高野 徹底して個に向き合い、声を聴き、違いを把
入し、そこで苦労させて
握した上で、全員が最大限に力を発揮できるような
みるというのが、実は一番
人事制度・職場環境をつくり上げることが、中村
いい育成方法じゃないか
部長の推進する人事改革の本質ということですね。
なとも思います。そこには
今日は、そのための具体的施策も含めてお話しい
人 間 関 係、戦 略、施 策、
ただき、ありがとうございました。
進捗管理、結果、説明責
H
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先端企業ケーススタディ○
10倍速くやり、5倍多く失敗し、2倍成功する
ヤフーの「爆速経営」を支える人材育成
2012 年 4 月、経営陣を刷新したヤフー。同社は、再び攻めの姿勢を取り戻
すため、
「高速」を超える「爆速経営」へと舵を切り、大胆な改革を推進すると
ともに、人事面においても新たな施策を打ち出してきた。その試みは広く注目
を集めている。
「社員個々の才能と情熱を解き放ち、1人ひとりのパフォーマンスを最大化す
ることが人事制度の根幹」と語る同社執行役員の本間浩輔氏に、新たな人
事施策の狙いや人材育成の考え方などについて、お話しいただいた。 (聞き手:水上みさ=ヘイグループ・PR&マーケティングマネジャー)
本間 浩輔
課題解決のための
課題解決のため
課題解決
のための
のため
の
キーワー
キ
ーワード
爆速、
爆
速、フォーカ
ーカス
ーカス、
ス、ワイル
ワイルド
ー
ー
ヤフー株式会社
執行役員 ピープル・デベロップメント統括本部長
方法論が
方法
方
論が、
論が
論
論が「爆
、
「爆
爆速
速」
「フォー
「フォ
「フ
ォーカス
ォー
ォ カス
カス」
カス」
」、 早 い IT
IT の 業 界において
界におい
界に
界 にお
界にお
おいて
おい て「まず
「まず
方法論が、
「爆速」
、
「フォーカス」
「ワイル
「
イルド」である
であると言っています。
と
と言っ
と言
言ってい
言っ
言 ています
てい
て ます
ます。
。 やってみて、
やってみて
やっ
や
てみて、
てみて
、もしもだめだったら即
もだめだ
もだめ
だめだっ
だめだ
だったら
だったら即
た
たら
ら即
即
「ワイル
以上のこ
以上
のことから、
とか
とから
ら、
ら 社員と
社員
社 員と
として働
して働
以上のこ
座に次にいく」
というスタ
スタンスが重
ンスが
ンスが
スが重
重
座に次にい
という
際に念頭に
際に念
際
頭に置く
頭に
頭 置く
置くべき行動の原則
べき行動の原
べき行
き行動
き行
行動の原
行動
動の原則
動 原則
原則
く際に念頭に置く
要である
要
あると考えています。
と考え
と考
と考えて
考え
えていま
えています
います。
いま
ます
ます
す。
要である
̶̶
̶
̶ 現在
現在、
、御社は
御社 「
「課題解決エ
課題解決
課題解決エ
エ
は 最 上 位に
位 に「課
「課 題 解 決」
は、
(
「課
ンジン
ンジ
ン」という
というミッショ
ミッション
ミッショ
ミ
シ ンのもと
ンジン」
というミッションのもと
題解決をしたか」
した
したか
たか」
たか
か」
」
あり、
り それを
それ
そ
れを
を
題解決を
)があ
に、
に
、情報技術
情報技術で
で人々や社会の課
や社会 課
情報技術で人々や社会の課
実現する
実現
するため
する
ために
ため
に「爆速」
「爆 速」
「何より
実現するために
(
「何よ
ばどのような行動ですか?
題を解決する未来志向の企業
題を解決する未来志向の企
業
も爆速で
も爆速で動
も爆
爆速
速で動
速で動いてい
動いているか
いてい
て るか」
るか」
「 ォー
ォ
も爆速で動いているか」
)
、
「フ
「道があったら険しいほう
「道があ
「道
があった
があ
ったら険
った
たら険し
たら
ら険しい
ら険
ら険し
険
険しいほ
しいほう
しい
しいほう
ほう
ほうを選
を選
であり続けることを目指して
であり続けることを目指し
てお
であり続けることを目指してお
カス」
「やるべ
「や
るべき業
るべき業務に
き業務に
務にフ
フォーカス
ォ カス
ォー
カス
カス」
(
「やるべき業務にフ
べ」
と
と言
言い換える
言い換
換えるこ
換え
えること
える
ることが
ことがで
こと
とができ
ができ
がで
でき
きます
ます。
ま
す。
す
と言い換えることができ
られますが、
られますが
、まずは
まずは、
、そのために
している
して
いるか」
いる
るか」
るか
か」
」
「ワイルド」
「既 存
しているか」
)
、
「ワイル
(
「既存
例えば、
例え
例えば
ば、22013
ば
0133 年 10月
01
110月にシ
0月にショッピン
0月にシ
ン
必要となる人材についてお聞き
必要となる人材についてお
聞き
の枠組み
の枠
枠組みに
枠組みに
枠組
組み
みに
にとらわれない、
らわれな
らわ
れな
れない、
れない
い、ワイルド
い
の枠組みに
グ事業の
グ事
グ事業
事業
業の出店手数料無料化
業の出
業
出店手数料無料化を断
店手数料無料化を断
断
グ事業の出店手数料無料化を断
した と思 ます
したいと思います
したいと思います。
す
な判断をしているか」
している
して
いるか」
いる
か」
ます。 行し
行しま
ました
した。
。当然
当然、
、
「それでビジ
「それで
ビジネ
ビジ
ネ
「それでビジネ
な判断を
)があります。
も
もともと
と、ヤフ
ヤフー
ヤ
ヤフーの
フーのビジネ
フ
ーのビジ
ーの
のビジネ
のビジネスは
の
のビジ
ビジネス
ビジネスはイ
ネス
スはイ
はイ
イ
ヤフーのビジネスはイ
これ
れら
ら つがヤフーバリ
ら4
つがヤフ
つが
がヤフーバ
ヤフーバリ
ーバ
バリ
リューであ
ュ であ
ュー
であり、
り、 スになるのか
スになる
スに
なるのか
なる
な のか
か?」
という声
とい
と
う声が噴出す
う声
う声が噴出す
う声が噴出
が噴出す
噴出す
噴出
す
という声が噴出す
これら4
ンターネ
ンタ
ーネ
ネットの
トのサー
トのサ
ト
サーチ
サー
サ チ(検
(検索)
索)エン
トのサーチ
求める
求め
る人材像
人材像と
とも一致し
も一致し
も
致します。
ます
ます
す。
。
求める人材像と
ジンです
ジン
ですから
ですから
から、
、例えば場所と料理
例えば場所
例えば
例えば場
例え
えば
ば場所と
場所と料
場所
所と料理
と料理
と料
料理
理
ジンですから、
すなわ
す
すなわち
すな
す
なわち
なわ
わち
ち「課題の発見、
「課
「課題
「課題の
題
題の発見
題の 発見
発 見、
発見、
、解決、
解決
解 決、
、 ると
るという
という
いうのは
うのは
のは、
は、出店
は、
出店者
者(ス
( トア)
ア)に
るというのは、
すなわち
名を入力す
名を入
名
力すれば
力す れば
力
れば、
、一番おいしい
一番おい
一番
番おいし
番お
番
おいしい
おい
いしい
しい
しい
名を入力すれば、
反省」
反省
」
という学
とい
と う学
う学習の
う学習のサ
う学習
習のサイ
習の
のサイク
サイクル
サイ
イクルを
クルをス
クル
ルをス
をス
ス
という学習のサイクルをス
とって
とっ
と
て 1 つの
つの障壁
の 障壁
の障壁
障壁です
です。
です
。ストア
トアに
に
つの障壁です。
店がすぐ
店が
すぐに見
すぐ
に見つか
に見
つかるべ
つか
かるべき
かる
るべき
るべ
べき
きだし、
し
し「バ
「バ
店がすぐに見つかるべき
「
バ
ピーディ
ピ
ディに回すこ
に回すことで、
とで、競争優位
競争優
争 位
ピーディ
って望ま
って望
て望
て
望ま
ましいのは
しい
し のは
のは「出店コス
「出店コ
「出
「出店
店コス
店コ
店 ストが
とって望ま
レンタイン」
と入力す
と入
力すれば
力す
れば、
れば
、ビッグ
レンタイ
と入力すれば、
性を保とうとしているのがヤフーで、
している
して
いるのが
いる
るのがヤフ
のが
がヤ
がヤ
ヤフーで
ヤフーで
ーで、
で
で、
、 かからないこと」
かからな
かか
らないこ
らな
いこと」
いこ
こと」
こと
と」
」である以上、
である以
であ
る以上、
る以
る以上
上、
上 そ
性を保と
データを
デー
デ
タを
タを介し
タ
タを介
を介して
を介し
介
介して、
介し
介して
して、
し
て、
て
、その人にとって
その人に
その
そ
その人
の人にと
人にとっ
人にと
人に
にとって
とって
と
とっ
って
て
データを介して、
個人の行
人の行動に落
動に落と
動に落
とし込むなら
し込むな
し込
むなら
むな
ら「人
個人の行動に落と
り1
り 0 倍速くやって、
倍 速く
倍速く
速くやっ
速くや
やって、
やっ
や て、
て 5 倍多く失
倍多
倍 多く
倍多く
多く失
く失
失
一番いい
一番
番いい
番いいバ
番い
いいバレ
いい
い バレ
いバレン
バレンタ
レンタ
レンタ
レンタイ
ンタイン
タインの
インの
イン
ンの結
の 結果が
果が、
、 より10
一番いいバレンタインの結果が、
一番短い時
一番短
番短い時
番短
い時間で届
い時
時間
間で届く
間で届
届く
くようにするこ
にす
にする
するこ
するこ
一番短い時間で届く
敗して
敗し
て、
て 2 倍成功すればいい」
倍成功すれ
倍成功
すればい
すれ
ばいい」
ばい
い」
敗して、
と
いう価値観
いう
う価値観
価値観にな
になります。
ます。
とが仕事
とが
仕事で
仕事です。少し大き
少し大きく言えば、
く言えば
く言
えば、
えば
、 いう価値観にな
とが仕事です。
「ワイルド
ワイ
ワイルド」
イ ド」
ド」というのは、例え
というのは
と
う
、例え
、例
例え
え
̶̶「ワイルド」
るわ
るわけで
けですが
けですが
すが、
、出店
出店費用
費用がかか
費用がかか
るわけですが、
出店費用がかか
れはワイ
れは
ワイル
ワイルドだけれど、
ドだけれ
ドだ
けれど、
けれど
けれど
ど、無料化
無料化し
し
れはワイル
ましょうという判断になるわけです。
という判
とい
と
う判断
う判
う判断に
う判断
断
断になる
断にな
なるわけ
なるわけ
わ
わけです
けです
です。
す。
す。
破天荒
破
破天荒な
破天
天荒なや
天荒
荒なやり
なやり方
なや
やり方で
り方であ
り方
方であっ
方であ
であって
であ
あっても
あ
っても、
って
ても、
ても
ても
も、
、そ
破天荒なやり方であっても、
れがストアにと
れがス
ア
アに
にと
にとって
っての課
ての課
ての
ての課
の課題を解
課
課題を解
題を解決
題を解
決
っての課題を解決
自分の課
自分
分の課題で
課題では
課題
課
題ではな
題で
ではなく
はなく、
はなく
はな
なく、誰
く
く、誰か
く、
、誰か
誰
誰かの課
誰かの
誰か
か
かの課
の課
課
自分の課題ではなく、誰かの課
で
です
す から、
か
から「石
から
ら、
、
橋を叩いて
橋を叩
いて渡
いて
て渡
渡
です
「石 橋を叩いて渡
するソリュー
ュ ションで
ューシ
ンであ
あり
り、
、ヤフ
ヤフー
ーと
題を解決す
題を解
決するこ
決す
ることが
るこ
とが
とがヤフ
ヤフーの
ヤフ
ヤ
ーの使
ーの
の使
の使
題を解決することがヤフーの使
「間違
「間
「間違い
違
違いは許
違い
は
は許さ
は許され
は許
許されな
されない
され
れな
ない」
ない
」
と
る」、
「間違いは許されない」
とい
いう企
いう企業の
う企業の
う企
う
業の価値
業の価値観
価値観の具
価値 観の具現化
観の具 現化とい
現化と
現化とい
と
いう企業の価値観の具現化とい
命であり、
命
り、これを実現するための
これを
これ
を実現
実現す
するた
るための
めの
命であ
う発想は求
う発想は求
う発
想は求めてい
想は求めて
めていませ
めてい
めて ませ
ません。
ません
ん。
ん 変化の
変化
変化
化の
の
う発想は求めていません。
うことにな
になります
ます。
。
変化が激しい中で 10 年 20 年
人材育成においてもスピード
る仕事があるはずだから、その可
先を見据え、多少のリスクを取っ
感が必要になりますね。
能性を引き出すのが上長の仕事
てでもワイルドにやっていくという
フェイスブックの創業者である
である」
という考え方ですね。
のが今後のヤフーの方向性であ
ザッカーバーグ氏にしても、日本の
具体的に言えば、独りでやって
り、これを実践できる人が望まし
IT 業界の起業家にしても、若い
いける人は独りでやり、組織を見
い人材像と言えます。
人は20 代で社長ですよね。これ
ることができる人には組織を見て
が当たり前という中で、ヤフーだっ
もらう。さらに、組織を見るならプ
̶̶リーダー人材に求める資質、 て、その人たちと伍していかなけ
レイングマネジャーではなく、個と
能力についてはいかがですか?
ればならないわけです。そうする
向き合ってしっかり話をして、部下
「人を束ねる能力がある人」
と
とトップをつくるのにも、とんでもな
の才能と情熱に気づいて、その
「プロフェッショナルな能力がある
いスピード感が必 要になります。 人がやりたい仕 事をでき、かつ、
人」、その両者に経営トップのチー
ほかの業界では50 歳社長でも若
ムに入ってもらっています。人を育
いと言われるかもしれませんが、 につながるベクトルを一致させる
てるより自分で専門性を活かして
ITはそうはいきません。
ように導いてもらう。社員 5,000 人
やったほうが良いという人も、経営
ヤフーは、様々な事業ドメイン
のパワーを発揮するには、そうい
チームに参画してもらうし、人望も
があるので、経営トップも異なる
う管理職が不可欠です。そのた
スキルも有している人には、より大
経験が必要となりますし、一般の
めに上長と部下の間では『1 on 1
きな統括本部を束ねてもらうという
企業で3 年ごとに異動するところ
(ワン・オン・ワン)
ミーティング』を
考え方です。個々の強みを活かす
を、1、2 年で異動して適性を見る
原則、週 1 回 30 分行う仕組みを
ことが重要で、はっきり
「これを求
必要が出てきます。経営幹部を
つくっています。
個の成長のベクトルと会社の利益
めている」
というものはありません。
決めていくには、そういうサイクル
ただ、これまでのヤフーはそこ
でなければ間に合いません。
が曖昧でした。例えば、組織を束
一般の管理職については、先
ねる力がなくても、
「業務遂行能
ほどお話ししたことと重なりますが、 トレーニング自体は、他社と比
力が高いからたくさんの部下をつ
人を束ねてパフォーマンスを引き
べて多いわけではないのですが、
けてしまう」
といったことがありまし
出すことに向いている人は、そこ
僕自身は“ 渇いている人 ”をつく
た。それをもっと適材適所でやっ
に特化してもらい、それが得意で
ること、
“ 渇いた状態 ”にすること
ていくように修正しています。
ない人には自分の専門性を磨くこ
が重要だと思っています。
とに注力してもらうという組織づく
リーダーシップに困っていないの
りをやっています。
に「リーダーシップ開発の研修を
前提としてあるのは「才能と情
受けてください」
と言われたところ
熱を解き放つ」
というスローガンで
で、どれほど役に立つのか疑問
経営人材の育成も
異次元のスピード感で
̶̶トレーニングに関して、何か
注力されているものはありますか?
す。
「人にはそれぞれ個性があり、 ですよね。研修というのは、必要
̶̶「爆速」のビジネスと同様に、 やりたい仕事があって、注力でき
性を痛 感したときに受けるから
こそ、効果が上がる
社員の行動指針となる
「ヤフーバリュー」
課題解決
のだと思います。で
●課題発見・提示力
●徹底的にユーザーファースト
誰もが気づいていない課題を発見し、言語化して提示する
こと。自分ではなく誰かのための課題を解決すること。人の
ために何かをして「ありがとう」を言われるのは楽しい。
爆 速
フォーカス
成果を出すためにフォーカスは必須。集中しないといけな
い。シンプルということにつながる。何かを捨てるという選
択をすること。
Yahoo!
Value
●爆速は巧遅に勝る
●爆速発見・爆速決定・爆速実行
爆速とはメールの返信を早くすればいい、ということでは
ない。課題を発見し、まわりに伝え、意思決定をして、実行
していくというプロセスを爆速にするということ。
●2 番目を捨てるくらいフォーカス
●結果にこだわりまくる
ワイルド
●ならず者の DNA
●必要な失敗、失敗を恥じない
「ユーザーのためにワイルドなことをやる」こと。単に暴れ
ん坊になれということではない。起点は課題の発見である
こと。迷ったらワイルドなほうを選べ。
すから、基本的には
“ 渇かす仕組み”をつ
くった上で、必要なト
レーニングを提供す
るのが効果的だとい
う考え方でやってい
ます。
例えば、僕が人事
部長になって最初に
2015
行ったのが全社員に向けたアン
ケートで、
「あなたは、あなたの
リーダーについていきたいです
実社会の課題解決で
リーダーを育てる
か?」
とシンプルに問いかけました。
メンバーは悩みに悩むんです。
そしてプロジェクトリーダーの僕に
言いに来ます。
「事前に町長と
̶̶メディアでも多く取り上げ
面談していいですか?」
と。僕は
切ってリーダーのポジションを外
られていますが、他社との合同
「全てのチームと町長が面談する
れてもらいました。
研修など、先駆的な取り組みも
時間はありません。だから、自分
これをやると、残ったリーダー
行っていらっしゃいますね。
たちで考えてください」
と返します。
の人たちは「どうしたら、部下に
研 修 の 効 果を考えたときに、
この研修にはいろいろな要素
ついていきたいと思われるだろう
僕は「50 対 30 対 20」
という話を
がからんできます。課題を解決
か?」、
「普段やっている『1 on 1
よくします。50は仲間、30 がプロ
するために地道な努力をどう続
ミーティング』の質は、どうしたら
グラム、20は講師です。一般的
けるのか。それぞれ自分の会社
上がるのか?」と考え始める。
に20の講師に関心が向く傾向に
の業務もこなさなければいけない
ありますが、むしろもっとも大事な
中で、どうやってプロジェクトと仕
のは「誰と学ぶか」で、そうすると
事を両立させるのか。また、この
はなく、
それによってどれほどの
社内の研修では限界があります。
グループワークをどううまく回すの
成果が得られているかを
“見える
そこで、異 業 種の企 業が集
か。いろいろな業種、いろいろな
化”することに意味があると。
まって行う研 修を提 唱しました。
立場、いろいろな価値観の人た
大事なのは、1つの制度を入
複数の企業が集まって混成チー
ちを巻き込んで、自分の給料が
れたら終わりではなくて、その制
ムをつくり、北海道上川郡の美
上がるわけでもないけど、美瑛
度を補完する仕組みをいかにビ
瑛町が抱える課題の発見から、
のためにいい提案をしなければ
ルドインするかです。たとえば、
実施可能な解決策の提案までを
ならない。
行う
「地域課題解決プロジェク
通常業務であれば、それぞれ
行ってください」
と言って終わりに
ト」です。
の会社のやり方があって、前例も
するのではなく、うまくいっている
このプロジェクトは異業種 4 社
あって、組織に特有の「成功事
かどうかをアンケートで把 握し、
の賛同を得てスタートしました。ま
例」の蓄積がある。また、チーム
評価には使わないけれども、数
た、研修のゴールは、研修の最
の中での「決め事」
も、経験年齢
値にして返す。努力せざるを得
終日に、町 長にプレゼンをして、
とか年次とか上長など見えない規
ないような仕組みとセットで考える
と
町長が「それ、採用しましょう」
律があって、なんとなくことは決
必要があると思います。そのた
いうような課題解決の提案にしま
まっていきます。しかし、このプロ
めの人間理解は不可欠です。
した。テーマはそれだけ。ゴール
ジェクトではそのすべてがありませ
がシンプルで自由度が高いので、
ん。リーダーは役職ではなく、自然
「『1 on 1ミーティング』を週に1 回
発生的に生まれ、それが固定し
ヤフーの人を育てる枠組み
ない。イノベーションを起こす組織
スローガン:「個々の才能と情熱を解き放つ」
とはそういうものなのだと思います。
・上長と部下がフォーカス目標の進捗を確認
1 on 1ミーティング
・強みを活かした適材適所
・3 年任期制
・ポテンシャルの高い社員にはさらに早い
サイクルでアサイメントを与える
・上長のコーチング力を強化
・週に1 回、30 分
・個々の社員の中期的な育成方針
や後継者プランを議論
・年 2 回
マトリックス評価
さらに、最終プレゼンで評価さ
れたところで、昇格するわけでも
昇給するわけでもない。
課題解決型
トレーニング
・“ 寄ってたかって人を育てる”仕組み
人材開発会議
ハードルは高いと思います。
そして点数が悪い人には、思い
̶̶単にミーティングを行うので
戦略的な
ジョブローテーション
1
・“ 渇かす ”仕組みをつくっ
た上での研修の提供
・異業種との研修で「人を
束ねる」リーダーを育成
・「バリュー(360 度評価)」と
「プロフィット(実 績)」の 2
軸で評価
・半期に1 度
企業で評価される人の中には、
昇格など自分の評価を上げるこ
とはうまいけど、そうでないときに
うまくさぼる人もいる。実際に今
回の研修でも、社内で評価され、
高いポジションについている人が
案外活躍していないケースもあり
ました。そういう人は経営トップに
成について直属の上司とその関
た。目標設定と評価のサイクルは
は向きません。外的報酬だけで
係者が議論する会議があります。
4 半期ごとでしたが、実質的には
組織はリードできませんから。でも、
一昨年に、初めて「全社人材開
形骸化していたところもあったと
経験によってそのことに気づくこ
発会議」を1 泊 2日で開催し、将
思います。
とは可能だと思います。この研修
来の経営幹部候補についての
そこで、半期に1 度のサイクル
の意義はここにもあると思います。
議論を行いました。「全社人材
に変えて、しかもフォーカス目標を
開発会議」では、執行役員と人
目の前の1つか 2 つに絞って、そ
事のメンバーが加わり、有望な
れを上長と部下で確認して、週 1
あぶり出されるわけですね。
人材に対して、個別にどこをどう
回の『1 on 1ミーティング』で話し合
人を束ねるような人は、そうい
伸ばしていくか、今後どのような
うというやり方に変更しました。
う経験を若いうちから数多く積む
経験をしてもらうかといった話をし
評価はプロフィットとバリューの
必要があると思いますね。難し
ます。あるいは、
「このポジション
2軸で行っています。比重は50%
いプロジェクトで「これどうしよ
は次、誰にしようか」
というときに、
-50%ですが、昇給昇格における
う?」といったときに、
「それなら、
皆で意見を交わすこともあります。
優先順位はバリューに置いてい
あいつだろう」
という人材を育て
なぜなら1 人の上長だけが見
ます。バリューとプロフィットのマト
なければいけないわけです。
ていると、どうしてもうまくいかな
リックスに落とし込みますが、最
若手の人たちが喧々諤々やり
い場合が出てくるからです。上長
終的には評価会議を開いて、こ
ながら、僕らも影 響されたいし、
は、部下が「自分にとってどれだ
の人を昇格すべきか否かというこ
異業種の方々の考え方も聞きな
け快適か」で評価をしがちです
とは常にチェックします。
がら、将来的にはこのプロジェク
し、好き嫌いもありますから。さら
トをヤフーの中だけ、あるいはヤ
に弊害という側面でいうと、例え
フーとその他 1 社といった多様な
ば将来の経営者候補であれば、
̶̶ビジネスに必要な人材像が
̶̶常に先を見据えて、新しいこ
とを試みていらっしゃいますが、
「1、2 年ごとに異動させるべき」
ほかにも、これから仕掛けてい
であっても、上司は「自分の下に
くものがあれば教えていただけ
置いておきたい、さてどうしよう
ますか?
か」と悩みます。そういうときに、
新しいことをやっているというよ
皆から結論を迫られて「あと半
り、その場で、スピード感をもって、
年待ってくれれば出します」
とい
いいものをやり続けるということで
うように宣言せざるを得ないわけ
しょうね。人事の分野では過去や
です。
他社の事例を見がちですが、経
の経験を区別せずに、シームレ
僕らは「オールアイズ」
という言
営者は常に先を見ています。こ
スに捉えていらっしゃる印象です
葉を使っていますが、
「部下は上
れでは話しがかみ合いません。
ね。そういったプロジェクト型の
長だけが育てるのではなくて、皆
僕ら人事部門も、経営戦略や
研修、先ほどの『1on 1ミーティン
で育てていくもの」、
「寄ってた
経営者の考えを理解しつつ、基
グ』のほかに、経営層や管理職
かって人を育てる」ということを、
本的なMBAくらいのスキルをもっ
が人材育成にコミットしていくた
ヤフーの文化にしたいと思ってい
て読み解きながら、いまの人事の
めの仕 組みはありますか?
るんです。
ベクトルが合っているか間違って
形態で実施することがあるかもし
れません。
経営戦略と
ベクトルを合わせて
人事部門も進化していく
̶̶ 職務の経験とトレーニング
教科書的にはトップのコミットメ
いるか、違いがあるなら「じゃあ、
ントが重要と言いますが、トップ
̶̶ 今のお話は、評価とも連動
次の手を打とう」
と、試行錯誤を
が命令だけでやろうと思っても動
してくると思いますが、特に変
繰り返して進化していくことが重
きません。人事が、皆に「いいな」
化の速いI T業界では1年ごとの
要だと思います。そうであるなら、
と感じてもらえる仕掛けをつくらな
業績評価では追いつかないと
新しい考えが出てくるのは当然で、
いといけないと思います。
思いますが、具体的にどんな形
人事の責任者にはそういうことが
「人材開発会議」
と呼んでいま
で行われるのですか?
求められる時代になってきたので
すが、個々の社員の中期的な育
過去にはMBOをやっていまし
はないでしょうか。
H
2015
1
HAYマネジメントセミナー
リーダーシップ開発のベンチマーキング調査
ベストリーダーシップ企業調査2014
−世界のベストカンパニーの実践から日本企業の課題を探る−
日本企業にとってリーダーシップ開発は、
グローバル事業展開、
国内構造改革、
イノベーショ
ン力の強化など、極めて難易度の高い経営課題の解決において不可避のテーマとなって
います。
ヘイグループでは、
リーダーシップ開発に優れた企業における取り組みの動向を把握する
ために、
「ベストリーダーシップ企業調査」
を毎年実施しています。2014年の「ベストリーダー
シップ企業調査」で、
ベストリーダーシップ企業として選ばれたのが図表1のトップ20社です。
今回はこの最新の調査結果をもとに、
現在の日本企業におけるリーダーシップ開発の状況
および課題について考察したいと思います。
ヘイグループ
シニアコンサルタント
柏倉 大泰
日本企業ではリーダーが育っていない?
ています(図表 2)
。一方で、経営幹部自らによる人
材育成への積極的な時間投資や、社員のキャリア
に対する理解についてはトップ20と大きな差があ
る状態となっています
(図表3)。
リーダーシップ開発における現状を把握するため
しかしトップ20の一社としてトヨタ自動車が選ばれ
に、まず、本調査の中の「すべての階層のリーダー
ているように、日本企業においてもリーダーシップ開
シップのポジションに空きがあれば、そのポジションに
発に秀でた企業は存在しています。日本平均を「す
つく用意のある優秀な候補者が社内に十分いる」
と
べての階層における優秀人材の確保」の設問に対
いう設問に注目したいと思います。この設問におい
する肯定的回答率が 50% 以上と50% 未満の企業
て日本の回答 56 社(日本で活動する外資系企業も
で分けて集計した場合、肯定的回答率が 50% 以
含む)の平均(以下、
「日本平均」)
と、
トップ20 社を
上の企業では、経営幹部自らによる人材育成の積
比べると、肯定的回答がトップ企業では70%なのに
極的な時間投資や社員のキャリアに対する理解は
対して、日本平均では24%という結果になっていま
トップ20に近い水準となっています(図表 4)。
す。では、なぜ日本企業では社内でリーダーが育っ
これらのことから、個社別で見るとトップ 20に近
ていないのでしょうか?
い水準で実質的な取り組みが行われている日本企
業もありますが、全体的には「外形的」な取り組み
「想い」や「形」はあるが
結果につながっていない
グローバル競争や経営者育成のための投資へ
「実質的」な取り
にはすでに着手しているものの、
組みが不十分な状況と言えます。
ベスト企業との違いを探る
の関心の高さを見ると、日本平均と、
トップ 20は近
い水準にあります。また人材登用の評価や計画の
プロセス、ハイポテンシャル人材の特定などいわゆ
それではベストリーダーシップ企業とそれ以外の企
る「外形的」な取り組みについてもトップ 20 以外の
業、特に日本企業のリーダーシップ開発において実
企業のグローバル平均と比較しても高い水準となっ
質的な取り組みに違いをもたらしている要因はどこに
13
あるのでしょうか。今回の調査結果を分析すると、ベ
みを各事業や各地域の多様性を反映する形で分
ストリーダーシップ企業が注力しているリーダーシップ
散化する傾向が近年見られます。さらには「経営
開発のポイントは次の 5 つと言えます。
という集団レベルに留まらず個人レベル
幹部候補」
●「計画」が存在し、実行される
●リーダーの多様性は、MUSTであると考える
●グローバル競争を前提としたリーダーシップ開発
を行う
●戦略上重要な役割を定義し、それを目指して人
材を育成する
●タレントパイプラインを積極的にマネージする
以下、1 つひとつのポイントについて見ていきたい
と思います。
<ベストリーダーシップ企業調査の概要>
●ヘイグ ループがグローバ ルで 2005 年 から実 施。
2014 年で9 回目。
●2014 年は、115カ国 2,100 社 18,000 人、内日本で
は56 社 559人が参加。
●オンライン方式で、質問に対し経営者を含む各階層
の社員が自社について回答。またベストリーダーシッ
プ企業にふさわしい会社への投票を依頼し、トップ
20 のランキングを作成。
[図表1] 2014年ベストリーダーシップ企業トップ20
「計画」が存在し、実行される
まずトップ 20では、リーダーシップの発揮を全社
員に対して求めている点が大きな特徴と言えます。
その上で重要な役割と求められるリーダー像を特定
し、戦略上重要となる役割の後任候補の確保に留
まらず、すべての階層のリーダーシップポジションに
おいて優秀な候補人材を育成しています( P.15
図表 5 )。経営リーダーに求められる要件は、同一
業界においても各社各様です。しかし従来の経営
スキルに加えて、誠実性、学習力、社会貢献など、
これまでよりもさらに多くの要件が求められる傾向に
あります。そのため、リーダーシップ開発に優れた企
業においては将来のリーダーに求められる要件を
新入社員の段階から計画的に身につけさせる取り
組みが実行されています。
リーダーの多様性は、
MUSTであると考える
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
Procter & Gamble
General Electric
Coca-Cola
IBM
Unilever
Intel
McDonald's
Samsung
3M
Hewlett-Packard
[図表2] 日本企業の現状1
る企業の責任を強く意識し、その責任を世界各地
で実現できる多様な人材を意識的に確保・育成
している点が挙げられます(P.15 図表 6)。ベスト
リーダーシップ企業では、事業環境の複雑性や多
様性に対応するための重要な取り組みの1 つとして、
リーダーの多様化に取り組んでいると言えます。
そうした企業では多様なリーダーの確保のため、
組織全体で集約して進めていた経営幹部の開発の
PepsiCo
Toyota
Accenture
Siemens
Telefónica
BASF
Johnson & Johnson
Citigroup
IKEA
Pfizer
<外形的な取り組み>
肯定的回答率
Top 20 Top20以外の 日本平均
世界平均
質 問
グローバルな問題への認識は、重要な職務
要件の1つになっている
80%
48%
75%
会社は、
リーダーシップポジションに人材を
登用するために、正式な人材評価や計画の
プロセスを用いている
90%
56%
62%
会社は、将来リーダーとしての役割を担える
有望なハイポテンシャル人材を特定している
93%
67%
72%
[図表3] 日本企業の現状2
<実質的な取り組み>
肯定的回答率
Top 20 Top20以外の 日本平均
世界平均
質 問
経営幹部は、積極的に自分の時間を費やし、
74%
人材育成に努めている
51%
40%
社員が昇格や異動をするときには、それが
どのように自分のキャリアに関係するのか
理解している
89%
67%
44%
すべての階層のリーダーシップのポジショ
ンに空きがあれば、そのポジションにつく用 70%
意のある優秀な候補者が社内に十分いる
44%
24%
[図表4] 日本企業の現状3
2 つ目のポイントとして、トップ 20 では社会におけ
11
12
13
14
15
16
17
18
19
20
<日本企業内での差>
肯定的回答率
質 問
経営幹部は、積極的に自分の時間
を費やし、人材育成に努めている
Top 20 Top20以外の
世界平均
日本平均
A/B
74%
51%
65%/33%
社員が昇格や異動をするときには、
それがどのように自分のキャリアに 89%
関係するのか理解している
67%
82%/35%
社員は、自分たちに提供される可能
性のあるキャリアパスについて理解
している
48%
69%/27%
80%
日本平均:「すべての階層で優秀な候補者が十分にいる」に対して
A = 肯定的回答率50%以上の日本企業平均(11社)
B = 肯定的回答率50%未満の日本企業平均(45社)
2015
1
での開発も進展しています。上級経営幹部による
ての力量のさらなる成長と見極めが進められてい
メンタリングや外 部 専 門 家によるエグゼクティブ
※2
ます。
コーチングに加えて、優秀と思われる人材をこれま
※2 出典:チャールズ・ナイト著「エマソン 妥協なき経営」
(ダイヤモンド社)
での経歴や持ち味に合わせて個人単位で育成す
る動きが急激に加速しています。一方で、従来の
集合研修も確実に進化を遂げており、社内に留ま
らず社外も広く巻き込んだ育成機会の提供の場と
戦略上重要な役割を定義し、
それを目指して人材を育成する
なりつつあります。例えば初回の調査からランキン
グに入り続けているGE では、リーダー育成機関と
ベストリーダーシップ企業が注力している4 つ目の
して有名な「クロトンビル研修所」
と同様のプログラ
ポイントは、タレントマネジメントにおいて、従来のキャ
ムが現在世界 6 拠点で受けられるように分散化さ
リアパスという考え方ではなく、戦略上、中長期的
れています。また業界を越えた競争が激化する中
に重要となる役割(英語ではmission critical role
で、世の中の変化に柔軟に対応できる発想力を重
と呼ばれることが多い)を重視している点が挙げら
視し「Playfulness(遊び 心を持つ)」をテーマに
れます(図表 8)。組織の形がますます流動的かつ
社内外を巻き込んだリーダーシップ開発の取り組
多頭分散型になっている中で、従来の安定的かつ
みを進めています。
中央集権型の組織を前提としているキャリアパス
※1 出典 : 2014ベストリーダーシップ企業フォーラム 日本 GE 人事部長木下達夫様講演
という考え方が実態にそぐわなくなっているのが背
※1
景と言えます。戦略上、中長期的に重要な役割を
グローバル競争を前提とした
リーダーシップ開発を行う
特定した上で、その役割を果たすために必要な経
験を候補者と思われるタレント群に積ませることで、
リーダーシップ開発をより効果的かつ大規模に進め
ています。こうした動きがタレントマネジメントと事
多様化を進めるだけではなく、そうした多様なリー
業戦略の連携の必要性を益々高めています。あ
ダー群がグローバルで一体となり協働できるように
たかも車の両輪のように事業計画に合わせてタレン
注力している点がベストリーダーシップ企業のもう1
トマネジメントプロセスを運用することがベストリー
つの特徴と言えます。各地域・各事業が単独で動
ダーシップ企業の関心事となっているようです。 くのではなく、国境・文化・組織などあらゆる境界
結果として、ベストリーダーシップ企業では事業や
を乗り越えてグローバルで 1 つの会社として組織
機能責任者などの経営責任者が自ら積極的に人
や人の力を動員できるリーダーを育成するという困
材育成に関与しています。例えば GE 同様に9 年
難を極める課題に真剣に取り組んでいます
(図表
間連続でランキングに入り続けているP&Gでは、若
7)。そうした企業では人材の見極めにおいて、経
手のハイポテンシャル人材に対しては将来的に目指
営スキルは当然として、価値観や性格特性に留まら
す戦略上重要な役割を「Destination Role」
として
ず、心の奥底にある無意識下に近い動機の源泉に
個別に定め、各事業または機能の責任者が中心と
まで遡りアセスメントを実施するなど、様々な観点か
なり、そうした役割を担う上で必要となる経験を積ま
ら時間をかけてリーダーシップ開発を行っています。
※3
せるための働きかけを進めています。
例えば、長期間にわたり高収益を継続しているエマ
※3 出典 : Hay Group 2010 BCL company interview
ソンの現 CEO のデーヴィド・ファー氏は、前 CEO
であるチャールズ・ナイト氏在任時の 1990 年から
CEO 後継者候補として様々な観点からのアセスメ
ントや開発の取り組みを通過し、CEOに着任したの
タレントパイプラインを
積極的にマネージする
が 10年後の2000 年です。その過程では IBM の
ガースナー改革にも活用された、心の奥底にある
経営幹部の候補となりえる人材をキャリアの早い
動機の源泉を見極めるヘイグループのアセスメント
段階からタレントプールに選抜し、常にチャレンジン
手法をはじめ、多くの外部専門家のアセスメントや
グな環境に置くことでリーダーとしてのポテンシャル
チャレンジングなアサイメントを通じて、リーダーとし
を長期間にわたり試すことが、ベストリーダーシップ
企業が注力している5 つ目のポイントです(図表 9)。
タレントプールに選抜される人材は、学歴や入社方
法により守られている存在ではなく、新たな環境に
おいて成果を出すことが求められます。期待水準に
[図表5] ベストリーダーシップ企業の注力ポイント1
<「計画」が存在し、実行される>
肯定的回答率
質 問
Top 20 Top20以外の 日本平均
世界平均
リーダーたちは、社員のモチベーションをあげ、全
力を尽くすことができる仕事環境を創造している
88%
67%
59%
思われる人材と入れ替わる可能性があるという修
すべての階層の社員に、リーダーシップを発揮する
ために必要な能力を身につけ実践する機会がある
83%
57%
43%
羅場に常に立たされている存在と言えます。
会社は戦略を遂行する上で重要となる役
割の後任候補者を積極的に管理している
84%
50%
43%
すべての階層のリーダーシップのポジショ
ンに空きがあれば、そのポジションにつく用
意のある優秀な候補者が社内に十分いる
70%
44%
24%
満たない人材についてはよりポテンシャルが高いと
ベストリーダーシップ企業では、そうしたタレント
プールに含まれる優秀人材に対しては、長期インセ
ンティブや追加のベネフィットを提供するだけでなく、
トップマネジメントが常にそうした人材に対して関心
を向けていることを示すことでリテンションを確実にし
ています。先ほども例として挙げた経営人材の輩出
で有名なGEでは、前 CEOのジャック・ウェルチ氏
在任時にGE 出身者が CEOについた会社が、ホー
ムデポ、3M、アライド・シグナルはじめ 20 社近くに
上っています。CEOの役割を担える人材を大量に
育てた上で、事業環境や将来戦略に最適な人材
をベストオブベストとして選べるようになるまでタレ
ントプールを拡充する取り組みが、ベストリーダー
シップ企業の目指している水準と言えます。
日本企業における今後のチャレンジ
ベストリーダーシップ企業が注力しているこうした
ポイントは、現在リーダーシップの発揮が求められて
いる日本企業のリーダー自身もおそらく経験したこと
がない取り組みでしょう。そのため、ベストリーダー
シップ企業と同様の取り組みを行う必要はないにし
[図表6] ベストリーダーシップ企業の注力ポイント2
<リーダーの多様性は、MUSTであると考える>
肯定的回答率
質 問
Top 20 Top20以外の 日本平均
世界平均
会社は社会的責任をもって、社員を採用している
82%
53%
70%
ダイバーシティ人材を対象とした、特別のリー
ダーシップ開発プログラムが提供されている
40%
11%
8%
経営幹部のダイバーシティは、社員のダイ
バーシティを反映している
68%
53%
33%
女性社員を対象とした、特別のリーダー
シップ開発プログラムが提供されている
50%
13%
20%
[図表7] ベストリーダーシップ企業の注力ポイント3
<グローバル競争を前提としたリーダーシップ開発を行う>
肯定的回答率
質 問
Top 20 Top20以外の 日本平均
世界平均
グローバルな問題への認識は、重要な職務
要件の1つになっている
80%
48%
75%
会社は、社員が地域の境界を越えてコラボ
レーションしながら仕事ができるように、サ
ポートやトレーニングを提供している
83%
55%
43%
会社は、組織の壁を越えてコラボレーショ
ンする方法について、
トレーニングやサ
ポートを提供している
84%
63%
55%
リーダーたちは、文化的な背景の違いにつ
いて知識があり、多様化されたチームと効
率的に業務を遂行する能力がある
83%
61%
46%
[図表8] ベストリーダーシップ企業の注力ポイント4
<戦略上重要な役割を定義し、それを目指して人材を育成する>
肯定的回答率
質 問
Top 20 Top20以外の 日本平均
世界平均
会社は、社員が最も重要な役割につけるよう
な体系的なキャリアパスや職務を備えている
80%
47%
25%
社員を育成する目的で昇進や異動を行っている
88%
68%
72%
去に同様の育成をされてきた経験がない中で、自
社員は、自分たちに提供される可能性のある
キャリアパスについて理解している
80%
48%
35%
らが中心となり取り組むことが求められるという難
社員が昇格や異動をするときには、それがどのよ
うに自分のキャリアに関係するのか理解している
89%
67%
44%
ても、それに伍するリーダーシップ開発を日本企業
において進める上では、現在のリーダー自身が過
しい状況にあります。
そうしたチャレンジに真剣に取り組む上では、リー
ダーは結果的に生まれてくるものという姿勢ではなく、
グローバル競争に打ち勝つための必須の取り組み
として強い決意をもって意図的に進めることが必要
[図表9] ベストリーダーシップ企業の注力ポイント5
<タレントパイプラインを積極的にマネージする>
肯定的回答率
質 問
会社は、
リーダーシップポジションに人材を
登用するために、正式な人材評価や計画の
プロセスを用いている
Top 20 Top20以外の 日本平均
世界平均
90%
56%
62%
責任が大きい、または重要な役職は、通常、
85%
社内の人材の昇格によって埋められる
63%
63%
い決意が組織の中に定着するかどうか、日本企業、
会社は、将来リーダーとしての役割を担える
有望なハイポテンシャル人材を特定している
93%
67%
72%
日本社会にとって、ここ数年が重要な分岐点に立
経営幹部は、積極的に自分の時間を費やし、
74%
人材育成に努めている
51%
40%
となるでしょう。多くの日本企業において次世代リー
ダーの必要性が声高に叫ばれる現在、そうした強
たされている時期と言えるのではないでしょうか。H
ヘイグループからのお知らせ
ヘイグループの本ご紹介
グローバルでの優れた人材確保、
イノベーションの創造は、企業が成長するための重要テーマになっています。ヘイグ
ループの出版物の中から、多くの企業が抱える海外現地法人における役員報酬の問題解決、
イノベーションを生み出す
組織づくりのためにご参考にしていただける2冊をご紹介します。
中央経済社 刊 3,200円(税別)
『世界の優れた人材を獲得する
役員報酬制度 設計・運用の実務』
光文社 刊 840円(税別)
『世界で最もイノベーティブな
組織の作り方』
アーヴィング・S・ベッカー、ウィリアム・M・ゲレック 編著
ヘイ コンサルティング グループ 訳
ヘイグループ 山口 周 著
本書は、現在の役員報酬のベストプ
近年、イノベーティブな商品・
ラクティス、設計方法、最近の動向
サービスを次々と世に送り出
をまとめながら、さまざまな課題に
すことによって躍進する海外
ついての情報を提供しています。原
企 業が注目を浴びる一 方で、
書は、ヘイグループが米国で出版し
日 本 企 業におけるイノベ ー
た
“Understanding Executive
ションは停滞していると言わ
Compensation, 2nd Edition”
れています。著者は、
この原因
で、米国の実務を中心に説明してい
は、個人の創造性の問題では
ますが、世界で主流になっている役
なく、個人の持つ創造性を生
員報酬の考え方やノウハウが整理
かせない組織のあり方にある
されています。グローバルスタンダードと大きく異なる日本の
と指摘します。そしてイノベーションを生み出すために
役員報酬慣行に起因する問題に直面している経営者や人事担
どんな組織を作り、
どんなリーダーシップを育てるべ
当の方々に、客観的なデータに基づき正しい意思決定を行うた
きかを、豊富な事例やデータを交えながら、
わかりやす
めの方法をご理解いただける内容です。
い言葉で考察しています。
セミナー、出版物などの情報はウェブサイトでご覧ください。
http://www.haygroup.com/jp/
ヘイグループは1943年に米国フィラデルフィアで創設され、過去70年以上にわたり人事・組織に関わるコンサルティングを展開し
てまいりました。ヘイシステムはフォーチュン1000社の過半数以上でも採用され、報酬制度の世界標準となっております。現在
は、世界約50ヵ国に90近くのオフィスを構え、 4000人以上のスタッフを抱える人事経営コンサルティング会社として広く認知
されております。
日本支社は1979年に東京に開設され、各産業界を代表する数多くの日本企業や在日外資系企業に対して、人事制度の改革、人材能
力の開発、報酬制度の設計のみならず、企業変革のアーキテクトとして各種コンサルティング・サービスを提供してまいりました。
グローバル化やIT技術の進展で、ますます複雑化する人事・組織の課題解決に真正面から取り組んでおられるマネジメントの
皆様の、最も頼れるビジネスパートナーとして、今後とも満足度の高いサービスを提供していきたいと考えております。
〒100-0013 東京都千代田区霞が関3-8-1 虎の門三井ビルディング10階
TEL 03-5157-7878 FAX 03-5157-7879
● Hay Group Newsletter Vol.16 No.1 2015 ● 2015年 2月発行 ●編集協力(有)MGI ●撮影 中川 学 ●印刷(株)ティー・プラス
Hay Group 2015( 本誌記事・写真の無断複写・転載はご遠慮ください)