特 集 中国・アジアから広がるグローバルIT の潮流 地域 IT ガバナンス実現のための体制整備 ─事業推進と本社ガバナンスを両立させるために ─ 急速にアジア進出を拡大してきた企業では、国や拠点ごとに整備されてきた IT 基盤の共通化が課題となっているところが少なくない。本稿では、各国事 業会社、地域統括拠点、日本本社のそれぞれの機能を有機的に連動させた地 域 IT ガバナンスの推進と、そのための体制整備のあり方について考察する。 NRI アジア・パシフィック 社長 お た け さとし 小竹 敏 専門は IT コンサルティング、業務システムの設計・開発、プロジェクト管理など 強まる IT 基盤共通化のニーズ も容易となる。拠点ごと、国ごとだったオペ レーションやサプライチェーンも点から面へ 近年、日系企業の東南アジア進出が勢いを と拡大するだろう。これらの理由から、企業 増している。各国へ進出する企業は事業の立 にとって域内全体の経営情報の可視化や IT ち上げを優先し、急いで IT 基盤を整備しよ 基盤の共通化を進めていく必要性は、今後ま うとするため、IT 基盤が国や拠点ごとにバ すます高まっていく。 ラバラとなり、本社からのガバナンスが難し くなるケースが少なくない。 拠点の設立時に、本社の統制の下で IT 基 06 アジア拠点の IT ガバナンス 盤を共通化することは理想ではあるが、ス NRI では、2009 年より毎年、東南アジア各 モールスタートをする拠点の実情に合わせて 国に進出している日系企業を対象に、IT 投 必要最低限の IT 投資で事業を立ち上げよう 資や IT 運営の状況に関する実態調査を実施 という判断は決して間違ってはいない。拠点 している。この調査結果から、アジアの拠点 の立ち上げ時に、その拠点に必要以上の多額 における IT 運営の状況と、それがこの数年で の IT 投資をしても、費用対効果が悪くなる どう変わってきているかを確認してみよう。 だけである。 2011 年の調査では、ASEAN 域内では IT 整 しかし、ASEAN(東南アジア諸国連合) 備の状況が国ごとに異なり、IT の標準化・集 は 2015 年 12 月に経済共同体の発効を予定 約化が大きな課題となっていた。本社はガバ するなど経済統合を進めている。輸入関税 ナンスや標準化などの IT 運営方針を出すが、 が引き下げまたは撤廃されれば、従来は分 必ずしも現地がやりたいと考えていることと 断されていた各国市場の一体化が進む。ま 一致しない。地域統括拠点が設置されていて た、一極集中によるリスクを避けるために、 も、IT 投資に関する決裁権限が委譲されてい ASEAN 域内に分散生産体制を構築すること ないため、現地には IT 運営上の課題が数多 | 2015.03 レポートに掲載されているあらゆる内容の無断転載・複製を禁じます。すべての内容は日本の著作権法及び国際条約により保護されています。 Copyright © 2015 Nomura Research Institute, Ltd. All rights reserved. No reproduction or republication without written permission. 表 1 事業の伸展に応じた業務ニーズと IT 運営 事業伸展段階 業務ニーズ 進出初期段階 国別段階 地域段階 現地事業の早期立ち上げ 現地事業の拡大 地域軸で横串に事業を拡大 IT ガバナンスの主体 本社または事業本部の国際 事業部門 各国事業会社主体だが本社 が決裁権限 地域統括会社 要求される IT レベル 事業立ち上げに必要最低限 の IT 環境 現地事業の拡大を支援する 個別最適な IT 基盤 地域レベルでの事業連携を 支援する地域共通 IT 基盤 く残されたままというのが実態だった。3 年 階に移っていくと、日本本社による統制が必 後の2014年の調査では次の特徴が見られた。 要となってくる。しかしながら、日本本社の ①回答があった全ての地域統括拠点に IT 専 感覚が現地とずれているため、現地にとって 門部署が設置されている。 本社との調整は非常に負荷が大きい。そのた ② IT ガバナンスに加え、IT 基盤の構築・管 め現地では、本社に対して「できれば放って 理・オペレーションの支援を担当する統 おいてほしい」ということになる。一方で本 括拠点が増えている。 社側からすれば、現地にどこまで「勝手」を ③本社の IT 機能を ASEAN 域内に移した企業 がある。 ④新規 IT 投資の主な目的を業務標準化とす る企業が多い。 許せるかが問題である。そのため、現地事情 に通じている地域統括拠点が本社と連携しな がらアジア各国横断で IT ガバナンスを効か せていくことの重要性が高まっている。 業務標準化は変わらずの課題ではあるが、 これを地域統括機能の強化によって改善しよ うという様子がうかがえる。 目指すべき地域 IT ガバナンスの姿 企業が求められる IT 運営のレベルは事業 地域統括拠点の役割の重要性 の伸展につれて変化していく。重要なのは、 海外事業がどの伸展段階にあるのかを十分に 海外進出の初期段階では、一般に「国際事 把握し、各国の事業会社、地域統括拠点、日 業部」のような海外事業推進を担当する縦割 本本社という全体の中で適切にリソースを配 りの部署が本社に設置される。海外事業が軌 置し、必要な地域 IT ガバナンスの体制を整 道に乗ると、地域軸で横串に事業を拡大して 備することである。(表 1 参照) いく体制が必要になり、事業軸と地域軸を掛 この数年で、地域統括機能の強化は急速に け合わせたマトリックス組織として地域統括 進んだ。地域統括拠点による IT ガバナンス 拠点が設置される。また、IT 運営のテーマ の推進には、現地事情に精通し、企画力・推 も、 「事業立ち上げに必要最低限の IT 基盤の 進力に優れた人材を配置することが大きな課 構築」から、 「IT 基盤の標準化」や「地域レ 題である。権限委譲もさることながら、ガバ ベルでの IT 統合」へと変化していく。 ナンスを担当する人材の育成や体制整備がポ さらに基幹業務システムの整備が必要な段 イントとなろう。 ■ 2015.03 | レポートに掲載されているあらゆる内容の無断転載・複製を禁じます。すべての内容は日本の著作権法及び国際条約により保護されています。 Copyright © 2015 Nomura Research Institute, Ltd. All rights reserved. No reproduction or republication without written permission. 07
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