平成28年6月号 《今月号のメニュー》 ◆ 今月のシンガポールトピックス 「地域統括会社」 ◆ 今月のバンコクトピックス 「タイの国営企業」 千葉銀行 シンガポール駐在員事務所 バンコク駐在員事務所 今月のシンガポールトピックス 「地域統括会社」 シンガポールはアセアンのほぼ中心に位置しており、アセアン地域を含むアジアの 「地域統括会社」をシンガポールに設置する企業が増加しています。また、シンガポ ール政府も「地域統括会社」に対する様々な優遇税制を整備しており、企業の誘致に 積極的に取り組んでいます。 今回は、今後さらなる活用が期待される「地域統括会社」について、レポートいた します。 1. 地域統括会社とは 「地域統括会社」とは法律で定義された固有の言葉ではありません。一般的に、 「一定の地域内に存在する同一グループに属する会社(子会社、関連会社)に対して、 統括業務を提供する会社」と言われています。 地域における意思決定の迅速化、物流管理や間接業務の効率化などを目的に「地域 統括会社」が設置されることが多く、次のような機能を有しています。 地域における情報収集の集約、意思決定への迅速な反映(業務提携・M&A) シェアドサービスと呼ばれる、人事、労務、総務を中心とした間接業務の共通化 税務上の優遇制度の活用 キャッシュマネジメントシステム等、金融統括会社としての財務の集中管理 資材調達、物流機能の集約 知的財産管理の集約 税務上、優遇税制適用の対象となる狭義の「地域統括会社」を指す場合もあります が、本レポートでは広義にとらえ、上に挙げた統括機能を有する会社を「地域統括会 社」と呼びます。 1 2. 地域統括会社の形態・分類 「地域統括会社」はその目的に沿って様々な形態が存在しますが、その形態を大別 すると次のようになります。 【組織形態】 中間持株会社型 兄弟会社型 中間持株会社型では、「地域統括会社」が B 国法人・C 国法人に対してガバナンス機 能を有効に発揮でき、かつ、幅広い業務、機能を有することが可能です。また、税務 上の優遇措置の対象にもなります。ただし、「地域統括会社」を新設する場合には、 株式移転に伴うキャピタルゲイン課税についての検討が必要になります。 兄弟会社型では、「地域統括会社」を新設する場合においても B 国法人・C 国法人の 株式移転を伴わないことから、キャピタルゲイン課税の問題は生じません。一方で、 「地域統括会社」は他国法人と同列であり、B 国法人や C 国法人に対するガバナンスの 牽制機能はありません。また、集約できる業務が限られることもあります。 【機能分類】 地域経営統括型 地域事業統括型 地域経営支援型 地域経営統括型は、域内における意思決定権限や企画機能、財務戦略機能等が付与 される類型です。 地域事業統括型は、製造業などで多く見られ、事業部門や製品を限定して、域内の 企画、製造、販売、顧客対応までを行う類型です。 地域経営支援型は、人事・労務・総務・経理など間接業務の共通化、すなわちシェ アドサービスを行う類型です。 2 3.地域統括会社をどこの国に設置するか 「地域統括会社」はその目的に沿って各国の優位性や利便性を比較検討し、どこの 国に、さらにはどのような形態で設置すべきかを検討しなければなりません。 また、各国の優位性や利便性を検討するうえでは、地理的利便性、税務上の利便性、 インフラ整備状況に加え、政治・経済システムの安定性、法整備、生活環境などを 考慮する必要があります。 アセアン地域では、シンガポールのみならず、マレーシア、タイに「地域統括会社」 を設置するケースも多く見られます。 簡単に 3 国を比較してみましょう。 シンガポール 地理 税務 インフラ 政治 法整備 マレーシア タイ ■ 東南アジアの中心 ■ 東南アジアの中心 ■ ミャンマー、カンボジア、ラオ ス等のメコン諸国に近い。 ■ 法人税率:17% ■ 法人税率:24% ■ 法人税率:20% ■ キャピタルゲイン:非課税 ■ キャピタルゲイン:非課税 ■ キャピタルゲイン:課税 ■ 租税条約充実(76 ヶ国) ■ 租税条約充実(75 ヶ国) ■ 地域統括会社への優遇 税制あり。 ■ 地域統括会社への優遇 税制あり。 ■ 地域統括会社への優遇 税制あり。 ■ 社会インフラは充実 ■ 社会インフラは概ね充実 ■ 社会インフラは充実しつつ ある。 ■ 国際的・優秀な人材の確 保が可能 ■ 国際的・優秀な人材の確 保が可能 ■ 国際的な人材の確保は 十分とは言えない。 ■ 安定 ■ 不安定 ■ 不安定 ■ 充分な整備 ■ 概ね充分な整備 ■ 整備されているが、十分と は言えない。 ■ 国際的な法律事務所も 数多く存在する。 ■ 国際的な法律事務所の 進出は制限されている。 ■ 仲裁機関 SIAC は東南ア ジア・南アジア関連の紛争 仲裁機関として最も定評 がある。 ■ 1978 年 よ り 仲 裁 機 関 KLRCA が 設立さ れ て い る。 ■ 利便性の高い港湾・空港 3 ■ 2007 年 に 仲 裁 機 関 THAC が設立されている が、実績が十分とは言え ない。 また、優遇税制の概要は以下の通りです。 シンガポール マレーシア タイ ■ 地域統括本部 RHQ として認定 された場合、税率 15%の軽減 税率が 3 年間適用される。 ■ プリンシパル・ハブ・インセンテ ィブとして認定された場合、 業種により、税率 0・5・10% の軽減税率が 5~10 年間 適用される。 ■ 国際地域統括本部 IHQ として 認定された場合、研究開発用 機械や輸出製品の原材料等の 輸入関税が免除される。 ■ 国際地域統括本部 IHQ として 認定された場合、税率 5~ 10%程度の軽減税率が適用さ れる。 ■ 金融統括センターFTC として認 定された場合、税率 10%の軽 減税率が 5~10 年間適用され る。また、オフショア調達にかかる 利息等の源泉税が免除される。 ■ タイ国外の関連会社へのサービ ス等による収入、配当金、キャピ タルゲインの法人税が免除され る。 ■ タイ国内の関連会社関連収入 には、税率 10%の軽減税率が 適用される。 加えて、以下の点にも留意する必要があります。 ローンや外国為替管理に関する規制(グループ会社間の資金運用調達の観点) 個人情報保護に関する法律(顧客情報の共有・移転の観点) 就労、解雇等の労働法関連の整備(設立後の事業展開の観点) 4.おわりに シンガポールには、その地理的な優位性、充実した社会インフラ、優秀な人材確保、 さらには豊富な情報と金融ハブとしての機能から、多くの企業が「地域統括会社」を 設置しています。また、政治的に安定しており、各種手続が明確化されていることも メリットとして挙げられます。 一方で、相対的に高い物価水準や人件費等がデメリットとして挙げられます。間接 業務の集約のみを目的とする場合には、コストを低く抑えることが可能なマレーシア に「地域統括会社」を設置した方がよいかもしれません。また、生産管理や販売管理 の効率化を目的とする場合には、サプライチェーンが充実しているタイに「地域統括 会社」を設置することも検討できるでしょう。 千葉銀行シンガポール駐在員事務所は、今後も、シンガポールを初めとした ASEAN 地域の様々な情報を提供してまいります。お気軽にご相談ください 4 今月のバンコクトピックス 「タイの国営企業」 タイの国営企業は、これまで産業や公共サービスの拡充等を通じて、経済の発展に 貢献してきました。しかし、民間企業の発展や外資企業の進出による市場競争激化に 伴い、国営企業のなかには、慢性的に赤字を計上している企業や利益水準が極めて低 い企業も出てきています。今月のバンコクトピックスでは、タイの国営企業の内容と 改革についてみてまいります。 1. 国営企業とは (1)国営企業の定義 タイにおいて国営企業とは、政府ないし政府機関の出資比率が 50%以上の会社を指 します。また、国営企業の設立根拠は以下のとおりです。 ①特別法に基づく会社(タイ国有鉄道、タイ発電公社などのインフラ関連企業が中心) ②勅令に基づく会社(国防省傘下の安全保障関連企業) ③公社法や商業銀行法による株式会社(クルンタイ銀行など) ④閣議決定に基づく会社(公営質屋など) ⑤革命評議委員会布告(1927 年)に基づく会社(住宅公団など) また、国営企業は、エネルギー、運輸・輸送、通信、資源、農業、公共サービス、 工業・商業、社会・科学技術、金融の 9 つの部門に分かれています。 (2)監督機構 国営企業の監督に関しては、内閣に最高決定権限があり、企業の設立、解散、増減 資、公債発行、資産売却等の重要事項は閣議の承認が必要となります。実際の事業活 動を所管するのは所管官庁であり、各省の大臣が責任者となります。その他、財務省 は国営企業の金融・資産管理を行います。 また、国家経済社会開発庁(NESDB)は国営企業の事業計画の審査を行い、予算局は 補助金支出を行うとともに予算執行管理を行い、会計検査局が会計検査を行っていま す。 さらに、首相を長とする国営企業政策委員会(SEPO)が政策事項を協議する等、国 営企業の政策方針立案の窓口となっています。 5 (3)歴史 ① 創成期(1930 年代~) 1930 年代に国営企業が設立され、エネルギー、運輸、通信、資源、農業等の分 野の育成や振興、公共サービスの拡充等を通じて社会開発や経済の発展に貢献し てきました。一方で、国営企業は軍人等の有力者への利益配分の場であったとの 指摘もあります。 ② 1950 年代~2000 年 1950 年代より、世界銀行の提言を受けて、政府は民間主導型の工業化の推進を 図りました。さらに、1980 年代以降、財政赤字や対外累積債務の増大の解決策の 一つとして、国営企業の民営化政策が強化されました。 1990 年代には、政府は、公共施設などの運営権を民間に付与する「コンセッシ ョン方式」を採用する等、国営企業への民間資本の参加を推進するとともに、株 式公開も実施しました。 ③ 2001 年~2006 年(タクシン政権) 2001 年 2 月に発足したタクシン政権は、経済成長と貧困解消を同時に推進する 政策を打ち出しました。その一環として、国営企業改革にも力を入れました。2003 年には、国営企業の法的位置づけを公開株式会社(Public Company Limited)とし、 株式市場への上場、株式の公開売却を進めました。これは、政府が過半数または最 大株主の地位を維持したまま、株式公開による「財政収入の増大化」や「株式市場 の活性化」、国営企業の株価上昇による「政府資産の増大化」を図ることを目的と したものです。 ④ 2007 年~2013 年 国営企業を整理する政府の方針のもと、2006 年にタイ通運公社とタイ資産管理 公社、2007 年には電池公社と製靴公団、2011 年にはタイ海運が解散しました。こ れにより、1980 年に 73 社あった国営企業数は 56 社まで減少しました。 2011 年に策定された第 11 次経済社会開発計画(2012 年~2016 年)において、 国営企業の民営化促進については明記されていません。しかし、民間部門のイン フラ等、公的事業への参入を奨励することが明記されており、国営企業が行う事 業への民間企業参入の拡大が見込まれています。 6 (4)主なタイ国営企業 現在、タイの国営企業は 56 社あります。部門別にみると、エネルギー部門 4 社、運 輸・輸送部門 10 社、通信部門 4 社、資源部門 3 社、農業部門 6 社、公共サービス部門 6 社、工業・商業部門 8 社、社会・科学技術部門 5 社、金融部門 10 社となっています。 主な国営企業は以下のとおりです。 主なタイの国営企業 企業名 タイ石油公社 (PTT) タイ国際航空 (THAI) クルンタイ銀行 (KTB) タイ空港会社 (AOT) 業 種 エネルギー 航空 金融 空港 売 上 高 最終損益 総 資 産 2兆269億バーツ 1,926億バーツ 1,166億バーツ 457億バーツ (約6兆4,861億円) (約6,163億円) (約3,731億円) (約1,462億円) ▲199億バーツ ▲130億バーツ 295億バーツ 187億バーツ (約 ▲ 637億円) (約 ▲ 416億円) (約944億円) (約598億円) 2兆1,740億バーツ 3,025億バーツ 2兆7,490億バーツ 1,596億バーツ (約6兆9,568億円) (約9,680億円) (約8兆7,968億円) (約5,107億円) 2001年 1991年 1994年 2002年 設 立 年 出所:各社のアニュアルレポートより筆者作成 注 :業績は15年度連結、総資産は15年度末時点、銀行売上高は経常収益 2. プラユット政権の国営企業改革 2014 年 5 月のクーデター後、プラユット政権は、不透明な経営体質や過剰な手当支 払い等が批判されている国営企業を管理し、経営体質の改善を図るために新たに、ス ーパーボードと呼ばれる国家企業管理委員会を設置しました。同委員会は以下の対策 を実施しています。 ①赤字国営企業 7 社に対する経営改善計画の策定命令 ②国営企業改革法案の策定(策定中) ・国営企業 12 社の持株会社の設置 ・国営企業子会社の業務の規制 ・独立監視機関(シンクタンク)の設立 ③国営企業投資予算執行の加速 この中で根幹となる政策は持株会社の設立です。政府は、国営企業改革で成功を収 めているシンガポールを参考として、政府出資の持株会社を今年 7-9 月期に発足させ、 大株主として経営を管理する計画です。 7 また、今回の計画では、国営企業に取締役の選任基準や業績評価のルールも明確に させるとしています。背景には「これまで、有力政治家等が自らに近い人物を論功行 賞人事で送り込むといった形で国営企業の人事に介入したことで、経営効率を損ねた り、経営戦略を歪ませてきた」という問題があったものとみられています。 3. さいごに 景気低迷が長引く中、経営規模が大きく、経済への影響も大きい国営企業の改革は、 今後の重要課題といえるでしょう。 バンコク駐在員事務所では、今後も、タイやミャンマーなど ASEAN 地域の政治・経 済の情報について提供してまいります。現地法人設立の手続きやオフィス・工場物件 のご紹介、税制等の情報、販路・調達先などについてお気軽にご相談ください。 8 アセアンニュース短信 マリーナ・ベイ・サンズ、モール売却へ 【シンガポール】 シンガポールの複合型観光施設「マリーナ・ベイ・サンズ」を所有するラスベガ ス・サンズ社は、マリーナ・ベイ・サンズのショッピングモール売却を検討している ことを明らかにしました。 マリーナ・ベイ・サンズは、世界最大のカジノを中心に、2,561 室のホテル、コンベ ンションセンター、ショッピングモール、美術館、シアター等を含む複合型観光施設 であり、2010 年 4 月に開業しました。3 棟のホテルを屋上でつなぐ空中庭園「サン ズ・スカイパーク」はシンガポールを一望できる展望台として、最も有名な観光名所 のひとつとなっています。 今般、ラスベガス・サンズ社のアデルソン会長が、第 1 四半期の決算発表において、 マリーナ・ベイ・サンズ内のショッピングモール買収の提案を受けていることを明ら かにしました。また、同社のゴールドスタイン社長も「アデルソン会長が投資家数社 と交渉のテーブルについており、売却の検討に入っている」と述べました。なお、専 門家によると、同ショッピングモールの資産価値は約 40 億米ドル(約 4,300 億円)と 推計されています。 教育水準の向上に向けた取組み 【タイ】 タイ教育省は、2015 年後期(11 月~3 月)より小中学校向け教育ガイドラインを変 更しています。具体的な内容としては、「小・中学校の授業の終了時間をこれまでの 午後 4 時から午後 2 時に 2 時間短縮する」、「午前中に国語や数学等の主要科目を集 中させ、午後は体育、美術、音楽などの学習に充てる」などが挙げられます。 教育省は、ガイドライン変更の目的を「生徒のストレスを軽減することにより、学 力の向上を図るため」と説明しており、1990 年代~2000 年代に実施された日本の「ゆ とり教育」と類似した方針と言えます。一方、識者からは、「授業短縮の実施により、 生徒の学力低下が一層加速するのではないか」との懸念の声が上がっています。 2012 年に世界 60 カ国行われた国際学力テストの結果によると、中国(1 位)、シン ガポール(2 位)、日本(7 位)とアジア主要国が軒並み上位に入る中で、タイの順位 は 50 位でした。ちなみに平均点数を見ると、全世界が 494 点に対してタイは 427 点と かなりの開きが出ています。また、毎年行われているタイの全国統一学力測定試験に おける国語読解力でも、同国生徒の 74%が世界的な水準よりも低いとの結果が出てい ます。 9 お知らせ 千葉銀行シンガポール駐在員事務所及びバンコク駐在員事務所では、アセアン地域 への進出等を全面的にサポートしております。 現地法人設立の手続きやオフィス・工場物件のご紹介、税制等の情報、販路・調達 先のご紹介など、幅広いサービスを提供させて頂いておりますので、弊行お取引店を 通じ、お気軽にご相談ください。 以 上 ※ここに掲載されているデータや資料は、情報提供のみを目的としたもので、投資勧誘等を 目的としたものではありません。投資等の最終決定は、ご自身の判断でなされるようお願 いいたします。 ※また、弊行は、かかる情報の正確性や妥当性については、責任を負うものではありません。 本レポートに関するお問い合わせは、千葉銀行 市場営業部 海外支店統括グループ (Tel:03-3270-8526、e-mail:[email protected])までお願いいたします。 ≪出典≫ NNA、時事通信、各種新聞報道、JETRO 10
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