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研究報告書 概要 ス ペ イ ン ・ ア ン ダ ル シ ア 天 体 物 理 学 研 究 所 の Jose Francisco Gomez 氏 を 鹿 児 島 大
学 及 び 国 立 天 文 台 に 招 聘 し 、主 に こ こ 数 年 来 共 同 で 進 め て き た 星 周 メ ー ザ ー 源 の 研 究 に
つ い て の 科 学 的 考 察 と 今 後 の 戦 略 に つ い て 議 論 を 深 め た 。詳 細 な メ ー ザ ー 源 構 造 の 把 握
と 年 周 視 差 計 測 を 可 能 に す る VLBI( 超 長 基 線 電 波 干 渉 法 ) (日 本 の VERA 等 )、 メ ー ザ
ー 源 の 全 体 像 を 詳 細 に 把 握 す る ミ リ 波・サ ブ ミ リ 波 熱 的 放 射 の 観 測( ALMA)、及 び 大 規
模 な メ ー ザ ー 源 掃 天 探 査 ( SPLASH 計 画 や GASKAP 計 画 ) と 重 要 メ ー ザ ー 源 の 単 一 鏡 継
続 的 追 跡 観 測( 豪 州 Tidbinbilla 及 び ス ペ イ ン Robledo 7 0m 電 波 望 遠 鏡 )を 今 後 実 施
し て い き 、星 形 成 や 進 化 末 期 恒 星 質 量 放 出 の 仕 組 み の 解 明 や 天 の 川 銀 河 力 学 構 造 の 把 握
に 資 す る た め の 具 体 的 な 計 画 を 練 り 上 げ る に 至 っ た 。以 下 こ の 報 告 書 の 内 容 は 、招 聘 研
究 者 及 び 受 入 研 究 者 が 直 接 や り と り を 行 っ た 鹿 児 島 大 学 で の 活 動 (11/4—11/29)に 絞 っ
て い る 。 し か し 、 招 聘 研 究 者 か ら の 報 告 内 容 と 補 完 的 な も の に な る よ う に ま と め た 。 1.経緯 招聘研究者及び受 入 研 究 者 は、宇宙メーザー、主に水酸基(OH)、水 (H2O)、一酸化珪素(SiO)
分子が放出するメーザー放射の特殊性に注目し、高い角分解能を実現する日本国内外の優れた
電波干渉計を駆使して研究を進めてきた。これらメーザー放射は、励起に必要な特殊な物理環
境、それを実現する恒星進化上のごく短い期間でしか見られない。それにも関わらず、これら
は多くの星形成領域や進化末期星に見られ、個性豊かな観測的特徴を持つ。恒星の寿命(大質量
星でも>106 年)に対して非常に短いメーザーが観測される期間(103—105 年)の間に、恒星進化が急
速に進み、その様子がコンパクトな多数のメーザースポットの集団が成す空間分布や三次元運
動によって逐一浮き彫りにされていることを意味する。招聘者と受 入 研 究 者 は当初、個別に同
様な分野の研究を進めてきた。しかし、2009 年から発足した GASKAP(Galactic ASKAP Spectral Line Survey、豪州 Australian SKA Pathfinder—ASKAP を使った天の川銀河系に対する中性水素
及び水酸基放射の広域掃天探査計画)へ共に steering committee メンバーとして合流した。こ
のことを契機にお互いの情報交換が進み、自らによる新規観測計画の立案・推進の契機が高ま
った。その範疇は、GASKAP と SPLASH(Southern Parkes Large Area Survey for Hydroxyl、GASKAP
に先駆けて行われた Parkes 64m 電波望遠鏡を用いた天の川銀河面の水酸基放射掃天探査)がカ
バーするセンチ波から ALMA(Atacama Large Millimeter-submillimeter Array)がカバーするミ
リ波・サブミリ波に及ぶ非常に広い電波波長バンド域となっている。今回の招聘事業は、これ
らを包括的に深く議論する機会をもたらすこととなった。 2.共同研究に関する議論の詳細 2.1. OH メ ー ザ ー 源 の 天 の 川 銀 河 広 域 掃 天 探 査 ま だ 試 験 観 測 段 階 に あ る ASKAP を 使 っ た GASKAP 計 画 に 先 立 っ て 、 SPLASH の 観 測 が
ひ と 通 り 完 了 し て い る 。 受 入 研 究 者 ら は 事 前 に 、 SPLASH 初 期 科 学 デ ー タ を 入 手 し OH
メ ー ザ ー 源 の 同 定 を 進 め て お き 、そ の 結 果 に つ い て 招 聘 研 究 者 と 議 論 し た 。そ の 中 で 招
聘研究者は主に、個々のメーザー源が付随する天体の中に特殊な進化段階にあるもの
( 惑 星 状 星 雲 形 成 に ま で 進 化 し た り 高 速 双 極 ジ ェ ッ ト =「 宇 宙 の 噴 水 」 を 伴 う よ う な も
の )を 探 査 す る こ と に 注 目 し て い る 。そ こ で 、SPLASH 観 測 の 角 分 解 能 (14 分 角 )が あ ま
り 高 く な い の に も 関 わ ら ず 、我 々 が 同 定 し た 殆 ど の メ ー ザ ー 源 の 位 置 が 既 知 の 赤 外 線 源
の 位 置 と 天 体 同 定 に 充 分 な 精 度 (<30 秒 角 )で 特 定 で き て い る こ と を 確 認 し た 。 こ れ は 、
電 波 干 渉 計 に よ る 位 置 計 測 の た め の 追 加 観 測 を 待 た ず に 天 体 同 定 と 特 徴( 可 視 光 線・赤
外 線 を も 含 む spectral energy distribution に 基 づ い て 特 定 ) の 把 握 を 事 前 に 進 め
ら れ る こ と に な る 。ま た 、無 バ イ ア ス の 掃 天 観 測 で あ る た め 、天 の 川 銀 河 面 と 垂 直 方 向
に お け る メ ー ザ ー 源 分 布 の 様 子 か ら 、 天 の 川 銀 河 全 体 で OH メ ー ザ ー 源 が 約 5000 個 存
在 す る こ と を 推 定 す る こ と も で き た 。 こ の よ う な 作 業 を 通 し て 、 SPLASH/GASKAP で 得
ら れ る OH 放 射 デ ー タ の う ち コ ン パ ク ト な メ ー ザ ー 放 射 を 伴 う 天 体 に 的 を 絞 っ た 時 に 追
求 す べ き 課 題 を 確 認 す る こ と が で き た 。 2.2. 「 宇 宙 の 噴 水 」 天 体 及 び 惑 星 状 星 雲 に 付 随 す る 水 メ ー ザ ー 源 の VLBI 及 び 単 一 望
遠 鏡 観 測 の 計 画 恒 星 進 化 途 上 非 常 に 興 味 深 い こ れ ら 天 体 に つ い て は 、星 本 体 が 星 周 ガ ス に 深 く 埋 も れ
て い た り 放 射 源 が 空 間 的 に 広 が っ て し ま っ て い る た め 、こ れ ら 天 体 の 物 理 量 の 推 定 に 不
可 欠 な 距 離 の 推 定 が 困 難 で あ る 。し か し こ れ ら に 付 随 す る 水( 及 び 水 酸 基 )メ ー ザ ー 源
を 使 え ば 、 VLBI に よ っ て 年 周 視 差 計 測 に 基 づ く 距 離 推 定 が 可 能 と な る 。 た だ 現 状 は 、
過 去 に 惑 星 状 星 雲 に つ い て は 1 例 、宇 宙 の 噴 水 天 体 に つ い て も 2 天 体 で し か 年 周 視 差 計
測 が 行 わ れ て い な い 。我 々 は 現 在 3 天 体 目 の 宇 宙 の 噴 水 天 体 に 対 す る 年 周 視 差 計 測 を 進
めているが、もっと組織的かつ大規模に実施できないか議論を行った。そこで我々は、
年 周 視 差 計 測 が 可 能 で 個 々 に 探 求 し て き た 研 究 か ら 計 測 対 象 を 20 天 体 程 度 選 定 し 、
VERA 年 周 視 差 計 測 プ ロ ジ ェ ト と し て 立 ち 上 げ る 方 向 で 今 後 検 討 を 進 め る こ と に し た 。
そ れ に 先 立 ち 、恒 星 の 急 速 な 進 化 や 脈 動 変 更 に 伴 っ て 強 度 変 化 す る 水 メ ー ザ ー 源 の ス ペ
ク ト ル を 単 一 電 波 望 遠 鏡 で 継 続 的 に 追 跡 す る こ と が 重 要 で あ る 。日 本 に は 、年 間 を 通 し
て 使 用 で き こ の 目 的 に 適 す る よ う な 大 口 径 電 波 望 遠 鏡 が 存 在 し な い 。し か し 、豪 州 と ス
ペ イ ン に NASA 深 宇 宙 探 査 用 の 口 径 70m 電 波 望 遠 鏡 (Tidbinbilla 及 び Robledo)が こ の
目 的 の た め に 利 用 で き る の で 、我 々 の グ ル ー プ で 観 測 を 提 案・実 施 し て 行 く こ と と な っ
た 。 こ れ ら は 後 日 適 当 な 時 期 に VLBI で も 連 続 撮 像 観 測 を 行 う こ と に な る 。 2.3. 星 周 メ ー ザ ー 源 に 対 す る ミ リ 波 ・ サ ブ ミ リ 波 観 測 惑 星 状 星 雲 や 宇 宙 の 噴 水 天 体 、及 び 長 周 期 脈 動 変 光 星 は 、漸 近 巨 星 枝 (AGB)星 及 び 後
AGB 星 段 階 の 星 で あ り 、 た だ 激 し い だ け で な く 断 続 的 /周 期 的 で 非 対 称 性 を 伴 う 質 量 放
出 を 伴 う 。 メ ー ザ ー 源 の VLBI 観 測 で は コ ン パ ク ト な ス ポ ッ ト 群 の 運 動 を 追 跡 し て 星 周
ガ ス 縁 や ジ ェ ッ ト の 三 次 元 的 運 動 を 動 画 的 に 捉 え 、こ の よ う な 複 雑 な 質 量 放 出 の 詳 細 を
把 握 す る こ と が で き る 。 今 後 KaVA(Korean V LBI N etwork a nd V ERA C ombined A rray)
を 使 っ た 組 織 的 な 観 測 を 実 施 す る に あ た っ て 、ス ペ イ ン の 研 究 グ ル ー プ と の 連 携 を 持 つ
こ と に つ い て 議 論 を 行 っ た 。 そ れ に 伴 い 、 Robledo 35m 鏡 で も SiO メ ー ザ ー 源 の 継 続
的観測を実施する方向で検討を始める事になった。しかし、このようなメーザー源の
VLBI 観 測 だ け で は 、 星 周 ガ ス 縁 や ジ ェ ッ ト の 全 体 像 や 物 理 量 の 把 握 が で き な い 。 ALMA
な ど を 使 っ た 一 酸 化 炭 素 や 塵 な ど の 熱 的 放 射 の 撮 像 も 欠 か せ な く な る 。我 々 は 今 後 、メ
ー ザ ー 源 観 測 で 蓄 積 さ れ て 行 く ユ ニ ー ク な 研 究 成 果 と ア イ デ ア を も と に 、競 争 倍 率 の 高
い ALMA 観 測 を 共 同 で 提 案 し て い く よ う に 定 期 的 に 会 合 を 持 つ こ と で 議 論 を 進 め る こ と
に し た 。 3.まとめ・今後の課題 世界における電波天文学の直近の将来は、科学運用を既に開始した ALMA(ミリ波・サブミリ
波)と建設計画中の SKA(長波長)が国際観測装置として双璧を成し、お互いが研究面で相補
的な役割を果たすはずである。現在はそのような状況に向けて、既存観測装置を使った研究を
通して大型国際チームを編成する土壌を形成し成果を積み上げて行くことが重要である。今回
の招聘事業を通して、欧州、特に電波天文学が進んでいるスペインの研究グループとの継続的
連携を進める土台が固まったものと総括できる。我々の星周メーザー源に対する共同研究の遂
行は今後、VERA/KaVA/VLBA などの VLBI 観測網、ASKAP、ALMA 等の大型電波干渉計を用いて大
規模で系統的なプログラムの企画に基づいて進められるはずである。これに加えて、日本だけ
でなくスペインや豪州の単独大型電波望遠鏡を使ったメーザー源の継続的観測も実施される
だろう。 今回の招聘事業では、スペインを代表する電波天文学である招聘研究者を日本に短期滞在す
る機会を得るところまで漕ぎ着けた。今後は、招聘研究者と受入研究者それぞれの研究チーム
ぐるみでの交流へと発展させていくことが望まれる。双方の国に優れた電波天文学観測装置を
使える機会があるため、そうなる可能性は高いと思われる。しかしそうなってくると、日本の
受入研究者のチームに加わる人材、特に日本人大学院生について、国際交流能力(つまり英語
力)の向上が急務である。招聘研究者による英語での講義「先端科学特別講義」(5回受講す
れば2単位取得できる講義のうちの1回分)を企画したのにも関わらず、海外からの留学生に
よるもの以外では、質疑があまり展開できなかった。このことから、その課題の克服が容易で
はないことが伺え、大学内、特に研究に関する議論においては、英語でのやりとりの機会を充
実させる必要があることを認識した。また、ALMA や KaVA など、国際観測提案公募への大学院
生による自主的参加を、組織化されつつあるこの共同研究の機会を契機に強く促していくこと
も必要だと思われる。