銀河団の非熱的側面の研究 - CfCA

国立天文台天文シミュレーションプロジェクト成果報告書
銀河団の非熱的側面の研究
滝沢元和 (山形大学)
利用カテゴリ
XC30-B
銀河団は様々な手段 (X線、電波、重力レンズなど) で観測可能な宇宙論的構造形成の
現場として重要な天体であり、X 線や強弱の重力レンズ効果による観測から、その動的
かつ非熱的な描像が近年急速に明らかになりつつある。ガスの密度分布や温度分布から
は、銀河団同士の衝突によってガスが激しく運動している様子が如実に見えてきている
(Markevitch et al. 2002 など)。さらに、重力レンズで求まる質量分布と X 線観測で求め
られるガス分布とはしばしば大きな食い違いをみせ、系が力学的な平衡状態から大きくず
れており、乱流や大局的なガスの運動の存在を強く示唆する (Clowe et al. 2006 など)。一
部の銀河団からはひろがった非熱的電波放射が見つかっており、銀河団全体にわたる大規
模な粒子加速や磁場増幅がおこっていることをうかがわせ大変興味深い (van Weeren et
al. 2010, など)。
このように銀河団では熱的成分のみならず、乱流、磁場、高エネルギー粒子のような非
熱的成分も重要な位置を占めている。そのいっぽうで、非熱的成分の理解は理論・観測とも
に熱的成分に比べて非常に遅れているのが現状である。銀河団の非熱的な側面は次世代の
観測装置にとっても重要なターゲットであり、さらなる理解や逆に新たな謎を我々にもたら
してくれるに違いない。具体的な例をあげるなら、日本の次期 X 線天文衛星 ASTRO-H(平
成26年度打ち上げ予定) での超高分解能 X 線分光によるガスの運動の直接検出および非
熱的硬 X 線撮像、すばる望遠鏡 HSC での広視野弱重力レンズ観測による質量分布のさら
なる解明、ASKAP や SKA などの次世代大型電波干渉計でのファラデー回転観測による
磁場構造の解明、さらにはいよいよ運用のはじまった ALMA による高空間分解能スニャ
エフ・ゼルドヴィッチ (SZ) 効果撮像である。このような状況に対応して、理論・観測手法
の垣根を越えて銀河団の非熱的な姿を解明する重要性が高まっている。
2013 年度は 2012 年度に引き続き主として、流体シミュレーションデータをもとにして
ALMA での SZ 観測のイメージングシミュレーションを行った。拡がった電波源の干渉計
での観測可能性の評価は、電波源の空間分布自体に依存するため必ずしも単純なもので
はない。そのため本研究のような流体シミュレーションデータを用いた評価が非常に有用
である。SZ 効果の入力データは、Takizawa(2005) と同様な銀河団サブストラクチャー周
囲に着目した流体シミュレーションを RXJ1347.5-1145 銀河団用に最適化した結果をもと
に構築した。また、観測は ALMA および ACA を組み合わせて 90GHz で行ったものとし
た。以上の成果を活用のうえ、ALMA の Cycle2 公募観測に応募した結果、無事に採択と
なった。