エコカーの普及は新たなライフスタイルの創造

マーケットトレンド
エコカーの普及は新たなライフスタイルの創造
企画マーケッツ本部 推進部 シニア・インダストリー・アナリスト 城 浩明
• Hiroaki Jo
証券系研究所および証券会社にて証券アナリスト、投資銀行部門での案件開発など、電機精密、機械など加工産業を中心とした25年間の
企業調査業務を経て、2014年2月より現職。企画マーケッツ本部のアナリストとしてテクノロジー、自動車等の業界を担当。日本証券ア
ナリスト協会 検定会員。
Ⅰ 燃料電池自動車の市販がスタート
Ⅱ 『新しい市場のつくりかた』
昨年の12月から、次世代のエコカーとみられている
12年に『新しい市場のつくりかた』(東洋経済新報
燃料電池自動車の販売が開始されました。今年末まで
社)を上梓した、製品開発論、中小・ベンチャー企業
の販売目標台数は400台と少なく、政府などの補助金
論の専門家である専修大学 経営学部の三宅秀道准教
などを考慮しても購入者の実質負担額が500万円前後
授によれば、新製品や新市場の企画・開発とは、文化
の高額車となれば、業績や市場への影響は当面は限定
開発であり、ある意味で価値観の押し付けであるとの
的とみられています。
ことです。企画・開発では、あらかじめ正解が決まっ
しかし、発売した大手自動車メーカーにとっては、
ているのではなく、自分が都合の良いように世の中を
2014年内発売という事前の公約を果たすと同時に、
動かし、成功したものが事後的に正解になるのだそう
ハイブリッドカー投入以来の、新しいコンセプトによ
です。
るエコカーの実用化となります。また、年内には競合
『新しい市場のつくりかた』では、それらの事例が
メーカーからも燃料電池自動車が投入される予定であ
数多くケーススタディーとして述べられています。多
ることや、欧州等での電気自動車の普及政策なども横
くのケースに共通することは、「問題」を問題として
目で見ながらの、戦略的な投入と思われます。
認識し得るかどうかということです。問題の認識はラ
販売が開始された燃料電池自動車は、従来のガソリン
イフスタイルあるいは文化に根差した主観的な判断で
車と同程度の時間(約3分)の燃料(水素)補給で、
あり、客観的な事実を集めることでは「発見」できな
走行可能距離が約700kmになるなど、電気自動車普
いとしています。新市場は、ライフスタイルや文化を
及の妨げになっていた充電時間の長さや走行距離の短
変革することで「発明」するものなのだとのことです。
さを解決しています。
そうした観点から見た場合、ハイブリッドカーに始
他方、燃料補給のための水素ステーションを、ガソ
まるエコカーの市場展開は、単なる技術開発の結果で
リンスタンドと同様に普及させる必要があるほか、車
はなく、「エコカーに乗る」というライフスタイルの
両価格を下げていくことなどが今後の課題として残っ
開発の側面を持った「新しい市場」の発明になってい
ています。販売台数が増えなければ、インフラも整備
るのかもしれません。
できず量産効果も期待できないので、普及促進と課題
解決は「鶏と卵」の関係にあるのかもしれません。
特に燃料電池自動車の場合、自動車の車両価格が高
く、インフラも未整備です。そうした高い車を販売し、
周辺産業の事業者を巻き込んでインフラを整備するた
めには、文化的な動機づけが不可欠だと思います。
28 情報センサー Vol.102 March 2015
Ⅲ CEATECは自動車業界の展示会か
報や運行情報のフィードバックシステム、事故対応、
保険サービスなども含めた双方向サービスの利用は限
昨年の10月に開催された電機業界を代表する業界
定的でした。今日、実用化しつつある車速を感知した
見本市「CEATEC JAPAN 2014」では、自動車関連
渋滞情報や、ワイパーの稼働を検知した降雨情報、事
業界の出展者の存在感が従来にも増して高まっていま
故発生の緊急通報などのデータ活用は、まさにIoTの
した。
具体例の一つだと考えられます。
従来の見本市は、液晶テレビや携帯電話の新商品発
インターネットが社会インフラとして一般化し、こ
表の場などにもなり、AV製品や情報通信機器など「家
れまでつながっていなかった自動車がネットワークの
電」分野の展示が中心でした。しかし、ここ数年は自
一部となる環境が整うことで、関連する新しい事業機
動車関連企業の出展が増えており、13年には会場に
会が生まれる可能性もあるのです。
走行コースを作って自動運転のデモンストレーション
なども行われています。
昨年は、燃料電池自動車の市場投入を発表している
Ⅴ エコカーに乗るライフスタイルを創造する
2社がコンセプト展示をしたほか、関連する部品メー
カーが各種の制御機器の提案を行うなど、燃料電池自
市販が開始された燃料電池自動車の引き合いは好調
動車技術が注目を集めました。自動車の安全性向上や
なようですが、実際にどのように普及していくかは今
IT化によるナビゲーションシステム、情報通信機能の
後の話です。メーカーによると、販売目標は20年台
進化なども目を見張るものがありました。
に年数万台と極めて控えめですが、水素ステーション
自動ブレーキなどの運転補助機能の進化も含めて、
などのインフラ整備とコストの低減を考えれば、現時
情報通信技術やコンピューター技術などと、自動車の
点ではあまり大きなことを言えないのかもしれません。
基本的な「走る」「曲がる」「止まる」といった制御技
電気自動車の普及や、欧州での小型エンジンとター
術との融合も確実に進んでいます。自動車に搭載され
ボというダウンサイジングの提案、伝統的な燃費低
ているセンサーや制御のためのコンピューターチップ
減も含めて競合する技術も想定されます。その中で、
は、膨大な数になっています。そうした電子技術の集
メーカーは関連特許を開放して、ライバル企業も巻き
大成として、複雑な制御が必要なハイブリッドカーや
込んだ普及の加速に取り組んでいます。
燃料電池自動車が登場し、電動モーターでの走行を実
現させているのです。
そして同時に、燃料電池自動車に乗ることが「幸せ
である」「環境に最も良い」「ステータスである」と
いった価値観、すなわちライフスタイル自体を創り出
すことを急がなければならないのだと思います。
Ⅳ ネットワークにつながる自動車
ハイブリッドカーが売り出された際には、米カリ
フォルニア州の環境規制を背景に、「環境に配慮して
電子技術と自動車との関係では、
「IoT(Internet of
いる」というステータスシンボルとして、ハリウッド
Things:モノのインターネット)」も、今後の中心的
のスタ―たちが購入し、普及に一役買ったといわれて
なテーマになりそうです。これは建設機械や工作機械、
います。燃料電池自動車においても、そうしたライフ
複写機などの遠隔監視などでは、すでにおなじみの技
スタイルの開発ができるかどうかが、普及を加速させ
術ではあるものの、IoTという名前が付けられたこと
るカギを握っているのではないでしょうか。
で、一つの概念として認知され、実用化・一般化が加
速していると思います。
これまでも自動車は、カーナビゲーションなどに
よって情報化され、携帯電話の普及に伴って安全対策
のためにハンズフリー装置が接続されるなど、部分的
にネットワークにも接続されてきましたし、ETCなど
お問い合わせ先
企画マーケッツ本部 推進部
E-mail:[email protected]
の料金支払いシステムは単独でも搭載されてきました。
しかし、いわゆるテレマティクスと呼ばれる渋滞情
情報センサー Vol.102 March 2015 29