最優秀賞 「好き」を 仕事にするために 江東区立東陽中学校 一年 佐藤 楓菜 いた子もいた中で私は一枚だったから、内心は少し不満だっ 出して半分に折りたたまれた紙を丁寧に開いた。二枚入って 社に勤めてパソコンに向かうより、特技を仕事で生かしたい。 た け れ ど、 読 み 進 め て い く う ち に、 驚 き や 嬉 し さ な ど の ご 自分の「好き」を仕事にしたい。それが私の夢だ。ただ会 私は今まで、さまざまな職業にあこがれてきた。ただそれ ちゃごちゃと混ざった感情が私を襲った。涙が出そうだった。 私は小さい頃から絵を描いたり物を作ったりするのが大好 は、本やドラマに影響されての、ほんの少しの期間だけだ。 良く言えば好奇心旺盛だけれど、悪く言えばただ気移りしや きで、それは小学校に入ってからも変わらなかった。図工の そこには、 「美術大学に行ってみてはどうですか」と、先生 すいだけ、になってしまうと思う。良いこととも悪いことと 授業は本当に楽しかったし、小学校最後のクラブは美術クラ 警察官の小説を読めば「警察官になりたい」と思ったし、探 も見てとれるということだ。私の中では、一向に将来の夢が ブだった。授業で作った作品は展覧会で展示されたりもして、 らしい達筆でつづられていたからだ。 決まらないでいた。周りの友達が夢に向かって努力していた 図工は、私が心の底から誇れる特技だった。だから、先生の 偵のドラマをみれば「探偵も楽しそう」と思った。これは、 こともあ り 、 焦 り も 感 じ て い た 。 最後の図工の授業で、いつも口数が少なくてちょっぴり苦手 品を見せても、 「じゃあそこに置いてきて」とほんの少しの 下校後、家に帰ってから泣いた。今まで先生に完成した作 手紙が余計に嬉しかったのだ。 だった図工の先生から、六年生全員一人一人に、手紙が渡さ 会話しかなくて不安だったけれど、手紙に書いてあったよう そんな中、卒業を間近にひかえた、小六の春のことだった。 れた。かわいらしい封筒だった。私は、恐る恐る中身を取り 1 第23回“明日のTOKYO”作文コンクール 優秀作品集 なことを思っていてくださったのかもしれないと思うと、涙 があふれて止まらなかった。この日から私は、美術系の職業 をめざす こ と に 決 め た 。 そ の 後、 母 に は「 普 通 の 安 定 し た 仕 事 に 就 い た ほ う が い い」と言われたことがあった。確かに美術の仕事だけで食べ ていける人はごく一部なので、これには本当に迷った。でも やっぱり、「好き」を仕事にしたい。どんなに難しくてもい いから、この夢だけは叶えたい。そう思ったから、こうして 今の自分がいる。母にあのように言われて真剣に悩んだおか げで、自分のやりたいことを再確認できた。絶対にやってや ると決意もできたので、逆に母に指摘してもらえてよかった と、今では思っている。あのままだったら気移りしやすい私 は、また他の職業にあこがれてしまったかもしれない。 未来の自分はどうなっているかわからないけれど、今の自 分で理想の未来に近づけようと思う。未来はこうなっていた らいいな、ではなくて、自分の望む未来を、自分で造りあげ ていこうと努力することが大切だと思うからだ。 「好き」を 仕事にするために、この決意を本物にするために、そして手 紙をくださった先生に良い報告をもってまた会えるように、 自分の手 で 未 来 を 造 っ て い き た い 。 第23回“明日のTOKYO”作文コンクール 優秀作品集 2
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