最優秀賞 坂内 絢香 世田谷区立三宿中学校 三年 けなく終了した。 「庭と私と私の祖母と」 祖母の家には森がある。祖母は今、田舎で一人暮らしをし 動き回ることで、すがすがしい気持ちになり、祖母と母が腕 しかし、日頃運動していない私にとって、草の匂いをかぎ、 に越えて大きくなっている。手入れが思うようにいかない祖 を振るった肉じゃがやサバの塩焼きがとても美味しく感じら ている。私の誕生記念に植えたコデマリの木も私の背丈を優 母の家の庭は三、四mもあるビワや椿の木々が繁茂し、朝に 祖母の家には食卓の前にテレビがない。自然と視線は祖母へ れた。テレビの話し声が大きく、会話が少ない私の家と違い、 夏休みのある日、帰省した私は、そのうっそうとした森に 向かい、会話が生まれてくる。そんな中、私は好奇心から聞 は鳥の楽しそうなさえずりで目が覚めるほどだ。 足を踏み入れた。祖母は年の割には足腰がしっかりしていて、 「最近、テレビで独居老人が一人ぼっちで亡くなる問題が きにくいことを祖母にぶつけてみた。 は手ごわく、さすがの祖母にも管理は難しい。そこで、私は 取り上げられているけれど、おばあちゃんは、いつもどんな 分ほど歩いてスーパーに買い物にも行く。しかし、この森 父と手分けして、まず、雑草を抜こうということになった。 暮らしをしているの?」と。 「朝起きても挨拶を交わす人はいない。お昼頃、隣の人が 回覧板を持って来たり、郵便局員が配達をしたりする時、二、 三言会話を交わすだけで、再び沈黙の時間になる。 『今日は 度近くあり、立っているだけで汗が噴き出る。ほん の五㎡の雑草を相手にしただけで手や腰が痛くなる始末。や 何曜日だったかな。 』と、テレビを見て、もう金曜日なのだ 気温は ぶ蚊にも襲われ、大した成果もなく初日は日没とともにあっ 30 草作業を買って出たわけである。西日和らぐ夕方とはいえ、 父と私が普段何も手伝えないせめてもの罪滅ぼしに、この除 30 1 第24回“明日のTOKYO”作文コンクール 優秀作品集 と 気 づ く こ と も 多 い。 そ ん な 時、 娘 や お 前 の 電 話 が 楽 し み でも、普段から挨拶すること、お礼の手紙を書くこと、困っ の。一人で成り立つものでは決してない。人との関わりあい ている人を助けること。行動してみることで、空気みたいに だ。」という。 人は会話の中で自分がどんなふうに思われているか感じ、 いつの間にか私も祖母のように満面の笑顔でご飯を頬ばっ 感じられ、忘れさられていたようなきずなを再確認できる。 いと感じ、一人にしてほしいと思うことが多い。 「構っても ていた。 「明日も草とりを頑張る」と声高に祖母に宣言して、 満たされるというが、祖母の場合はそもそもその会話がほと らえるうちが花だよ」と、勉強しない私に向かってつぶやく その夜はぐっすり眠りについた。また祖母のうれしい顔が見 徒労に終わったかに思えた草とりでも成果があったのだ。 母に何度ムッとしたことか。しかし、これは祖母から見たら たいとその時強く思った。 んどない。一方で、私にとって、人との関わりあいは面倒臭 うらやま し い こ と な の か も し れ な い 。 そんなことを夕食の間考えながら、今度は目の前の祖母や 母の顔をじっくり見つめてみた。しわくちゃな祖母の顔は少 し疲れたようすだったが、孫の私の顔を見て元気をもらった ようでニコニコしている。小さなことでもありがたいと言っ て嬉しそうにする祖母。いつの頃からか、与えられたことを そのまま受け入れ、無表情になっている私とは正反対だ。 けれど、この日の夕食は違っていた。祖母一人ではできな かった庭の草とりに着手したことで、狭い範囲だけれどきれ いになった。祖母も喜び、私もほんとうにうれしかった。祖 母、母、父、私と四人の笑顔が並ぶ。はっきりこれだとは言 えないけれど、「何か」が共有できた気がする。時間に追わ れながらかきこむ食事とはまるで違う。人間とは支えあうも 第24回“明日のTOKYO”作文コンクール 優秀作品集 2
© Copyright 2024 ExpyDoc