【新連載】ダイカスト工場の原価と生産技術を再考する

新連載
ダイカスト工場の
原価と生産技術を再考する
∼製造・技術・経営・コンサルの視点から∼
原価管理 経営支援・ダイカスト 技術支援
㈱ジェイライズ 代表取締役
神保 誠
現場で20年、経営者として6年、コンサルタントとして7年、
トータル33年間ダ
イカストにかかわり、製造・生産技術・経営を実践してきた。本連載では、コンサル
Makoto Jimbo
タントとして複数のダイカスト工場の現場と製造業の経営を体感した視点で、ダ
〒490-1134 愛知県海部郡大治町東條高松44 Emai:
l [email protected] URL:http://www.j-rise.net/
イカスト工場および中小製造業の原価(経営)
と生産技術について考えていく。さ
らに数々のエピソードを「こぼれ話」として交えながら進めていく。
第
1
回
う。品質と原価は密接に関係していることから、不具
合対策に対するアプローチについて考える。
ダイカスト製品の品質に与える重要な要素について、
不具合対策
設備面では工場インフラ、溶解炉・保持炉、ダイカス
方案・条件変更その前に その 1
トマシン、金型、周辺装置、監視機器。生産技術面で
は鋳造方案、鋳造条件、現場管理、データの収集・解
。
筆者は、木型製作から始まり、砂型鋳造、重力鋳造、 析などである(図 1)
低圧鋳造、ダイカストのアルミ鋳造工法を使い、鋳造
設備の選定は経営者、管理者の考え方の違いや、工
品を製造・販売している中規模な製造業で仕事をして、 場の立地条件などによる制約から選択はさまざまだ。
顧客である大企業やサプライヤーとかかわってきた。
工場インフラは、将来の取組みを限定的なものとする
さらに、コンサルタントとして自動車メーカーや、国
か、拡張、応用の利くものとするかが、操業開始時の
内外の中小製造業との協業を行ってきた。
設定で左右される。溶解については、集中溶解か溶解
本連載では、これまでに得た経験に基づいて、若手
兼保持炉による個別溶解かで、初期レイアウトが確定
のダイカスト技術者に向けては、生産技術への取り組
され、燃料の供給系統を含め容易に変更できるもので
み方や考え方、若手経営者に向けては、経営に活かせ
はない。
る原価管理について参考になることを目標にする。ま
ダイカストマシンのサイズ、メーカーおよび仕様も
た、
「型技術」の読者である金型メーカーの管理者や
同様に、更新までの期間は操業時の状態のまま使い続
経営者に対しては、金型メーカーへの経営支援経験を
ける。金型や周辺装置は自由度が高く、技術の習得や
もとに、原価管理の現場への展開と収益向上へのヒン
経験を活用し変更できるため、現場にとって柔軟に対
トの提示を目標とする。
応可能な要素である。
中小製造業の技術は収益向上のためにあるとの認識
ちなみに、筆者の出身工場では、操業時は溶解炉で
に立ち、中小企業のもつ限られた経営資源
(人・もの・
溶解し、手許保持炉へリフトで搬送配湯する集中溶解
金)の範囲で実行可能な現実的な内容を目指す。ダイ
方式を採用していた。入社当初にこの溶解作業を任さ
カスト技術の歴史や学問的な技術論、技術のための技
れ、チャージごとのフラックスによる脱滓処理を日に
術や潤沢な資金のもとでしか実現しないものについて
何回も繰り返すことによる肉体的な疲労、リフトでの
は、ほかに任せることとする。
配湯には危険が伴うこと、650℃ 程度の鋳込み溶湯温
第 1 回から第 4 回は、品質と原価に影響を与える
不具合対策への視点、取り組み方について解説する。
設備と生産技術
ダイカスト工場での大きな課題は品質と原価であろ
074
度に対して、730℃ 以上の温度で出湯することで燃費
が悪くコストアップの要因となっていた。
当時の景況感や工場スペース、設備のレイアウトに
も恵まれていたため、集中溶解方式からダイカストマ
シンごとに溶解保持炉を設置する個別溶解保持方式へ