教授からのメッセージ 2014 年 4 月 1 日付にて、東京理科大学・理工学部・応用 生物科学科・教授に着任いたしました大谷直子です。私は京都 府立医科大学・医学部医学科を卒業し、消化器内科を中心とし た臨床医としての経験を経た後、大学院博士課程に進学し、以 降、基礎医学研究に従事してきました。私が医学学生だったこ ろは、分子生物学がまさに開花しようとしていた時代であり、 様々な分子の変化が、がんという異常な細胞の増殖を引き起こ すことに大変興味を抱き、私は臨床医としてではなく基礎医学 の研究者としての道を歩み始めました。 大学院でがん抑制遺伝子の発現制御機構を学び学位を取得した後、イギリス・マンチェス ター大学の Paterson Institute for Cancer Research という、がん専門の研究所に留学 しました。その研究所で研究室を主宰していた本学・応用生物科学科卒業生である原英二博 士のもとで、約5年間博士研究員として、細胞老化と呼ばれるがん抑制機構の作用機序の解 明を目指した研究に従事しました。そして、その研究成果を Nature や J. Cell Biol.といっ た国際的に評価の高い学術誌に発表することができ(Ohtani et al. Nature 2001, Ohtani et al., J. Cell Biol. 2003)、研究者としての喜びと、自信を得ました。その後は原 英二博 士の帰国にともない、徳島大学と(公財)がん研究会がん研究所で原研究室のスタッフとし て研究に従事してきました。帰国後はそれまで行ってきた分子・細胞レベルの研究だけでな く遺伝子改変マウスを用いた個体レベルでの研究を行う必要性を感じ、マウス個体を用いた 生体内分子のイメージングに挑戦し、この生体内イメージング手法を用いて、がん微小環境 における細胞老化の新たな役割について解明し成果を発表することができました(Ohtani et al., PNAS, 2007; Yoshimoto et al. Nature 2013 等)。 このように私は本学・応用生物科学科の卒業生の研究室で、基礎医学研究に従事してきま した。この間、病気・病態という動物個体の中で起こるマクロな現象をまず捉え、その原因 については細胞レベル、そして分子レベルの微細な変化まで追求し、病態のメカニズムを解 明していく姿勢を学びました。そしてそれが現在の私の研究スタイルとなっています。 そしてこのたび、ご縁があって応用生物科学科の教員として着任しました。病態の分子メ カニズムを追究するのに、医師免許は必要ありません。生物学・分子生物学的知識があれば 十分に活躍できます。むしろ医学以外の幅広い知識が新天地の開拓につながる可能性もあり ます。平成 16 年 4 月から臨床研修制度が必須化して以来、医学科を卒業して基礎医学の 道に進む医師が激減し、基礎医学研究者の不足が危惧されています。基礎医学の成果があっ てこそ、画期的な治療法や診断方法の開発が可能になります。このような現状の中、病気・ 病態の解明に興味を持ち、研究を通して社会に貢献したいと希望される若いみなさんの基礎 医学研究への参加を心より期待し応援しています。 東京理科大学・理工学部・応用生物科学科 教授 大谷直子
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