「ストレッチしてもケガの予防にはならない」と

NHK総合テレビ 毎週水曜日・午後8時から放送中
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2015年02月18日放送
今回のテーマは、「ストレッチ」です。
ストレッチというと、体をやわらかくすることで、スポーツ時のケガ予防や、転倒事故を防
ぐといった効果をイメージしますよね。
ところが、最新の研究によると、なんと「ストレッチしてもケガの予防にはならない」と
いうことが明らかになったのです。
では、どうすればよいのか徹底調査したところ、その答えはなんと、ブラジルにありました!
じつは、ある体操をするだけで、転びにくい体になるだけでなく、思わぬ効果があることも
わかったんです!
つらい肩こりにも効果があり、世界のスポーツ界でも注目を集めているという、この体操
のやり方から、今まで常識とされてきた「ストレッチ=ケガ予防」にならない理由まで、スト
レッチの新常識をお伝えします。
すばらしきストレッチ!!
でも……ちょっと待った!
『倒れるまで腕立てだ! 天突き運動だ!』……ご年配の方の中には、スポーツの現場でそ
んな厳しい指導を受けた方もいらっしゃるのではないでしょうか? 日本ではどうもトレーニ
ングといえば長らく、とにかく厳しい筋トレでパワーをつける方法が主流だったようです。
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そんな中、スポーツ先進国のアメリカから40年前に入ってきた「ストレッチング」の考え方は
非常に革新的でした。柔軟性(関節の可動域)をアップすることで、パフォーマンスまで向上
させるというストレッチ。これ決して感覚的なものなんかではなく、初めて科学に裏打ちされ
た運動理論に基づいていました。仮に関節の可動域がわずか5度でも大きくなれば、単純
計算で1メートルある腕の先端は、従来より8.7センチも先まで動くようになります(※円運
動の場合)。これは明らかに体感できるレベルで手足の動きやスピードが違ってくるでしょ
う。しかもそれがだれでもすぐにできるのですから、大ブームになったのもうなずけます。
そう、たしかにストレッチは非常に大事。でも、従来のストレッチの効果があまりにわかりや
すすぎたために、重大な落とし穴が見逃されていたとしたら……。
今回、「ストレッチによって筋力が低下する場合がある」という研究論文を見つけたところか
ら番組が始まったのですが、正直自分自身の感覚からもこれはにわかに信じがたいものが
ありました。ただ番組をご覧いただいた方にはおわかりの通り、実験の結果は驚きの一言。
番組では従来の弱点を克服した新しいストレッチ方法をご紹介していますが、もちろん従来
のストレッチを否定するつもりは決してありません。どうぞ新旧あわせたストレッチの特徴を
よく知っていただいた上で、みなさまの健康作りに役立てていただけると幸いです。
週に3回ジャズダンスに通っているAさん。ケガ予防のためにとレッスン前には必ずストレッ
チを行っていたそうです。ところが最近は、腰を痛めたり、ねんざをしやすかったりと、体の
不調に悩むようになったそうです。
そこで、専門家にAさんのストレッチ後の体の柔らかさを調べてもらうと、たしかに体の柔軟
性はアップしていました。では、どうしてAさんはケガを繰り返すようになったのでしょう
か?
そもそも「ストレッチ=ケガの予防」という知識が広まったのは、1970年代にアメリカのス
ポーツトレーナーが書いた『ストレッチング』という本がきっかけです。その本の中で、ストレッ
チによって肉体と精神のパフォーマンスが向上すると紹介されたことで、世界中で大ブーム
が起きたのです。
ところが、1998年に「ストレッチにケガの危険性を減らす効果はない」という研究内
容が発表されたのです。その後もストレッチのケガ予防効果を否定する論文が次々と発表
され、しだいにストレッチのある弱点が明らかになってきました。
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その弱点こそが、Aさんが繰り返したケガの原因だったのです。
体を柔らかくするストレッチの弱点とは、なんと「筋力」でした。
バスケットボール選手に、入念なストレッチをしてもらったあとにジャンプ力を計測したとこ
ろ、全員が大幅にダウン。
そこで、腰痛やねんざなどに悩むAさんにもストレッチしてもらい、足首の筋肉を検査すると、
なんと筋肉がゆるむことで足首の腱(けん)が伸び、たわんでいることがわかりました。
じつは、この腱のゆるみがねんざを招く直接の原因だったのです。
ストレッチをすると、筋肉は伸びて長くなるため、いわば伸びたパンツのゴムのような状
態になります。すると、捻挫しないように足に力を入れないといけない状況でも、あまり力が
入らないため、捻挫を招いてしまうのです。
バスケットボール選手のジャンプ力がダウンしたのも、筋肉がゆるんだせいで力が入りに
くくなったためと考えられます。
ストレッチは柔軟性がアップするものの、筋力低下によってケガ予防の効果は期待で
きないのです。
そこで紹介するのが、柔軟性と筋力を同時にアップできる、ブラジル生まれの体操です。
柔軟性と筋力をアップさせる体操は、ブラジルサッカーでは以前から取り入れられていま
す。
その名も「アロンガメント・ジナミコ」と呼ばれ、試合前には必ず行う伝統的なストレッチだ
そうです。アロンガメント・ジナミコとは直訳すると「動的ストレッチ」と言う意味ですが、ガッテ
ンでは「ふりふりストレッチ」と命名しました。
従来のストレッチは、長時間筋肉を伸ばしますが、動的ストレッチは、可動範囲の8割程度
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で関節を繰り返し動かします。じつは、この動きを2分行うだけで、柔軟性だけでなく、筋力
もアップすることがわかったのです。
なぜ、伸ばしていないのに体が柔らかくなったのかというと、従来のストレッチでは体温変化
がないのに対し、動的ストレッチでは筋繊維が発熱して体温が上がることで、筋肉の
弾力がアップするためと考えられます。
ただ、従来の伸ばすストレッチが悪いわけではありません。ふりふりストレッチと同様に、冷
え解消や高血圧・動脈硬化の改善などの健康効果だけでなく、肉ばなれや筋断裂の予防効
果があります。また、副交感神経を働かせることからリラックス効果も期待できるので、運
動後の整理運動や、就寝前に行うのがおすすめです。
一方、ふりふりストレッチは、ねんざや骨折の予防や、交感神経を活性化させて体を活動
的にすることから、運動前や起床後などこれから活動を始めるときに行うのがお
すすめです。
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数年前から、つまずくことが増えたBさんに、ふりふりストレッチを実践してもらいました。
2週間後、話を伺ってみると、体がポカポカするようになって調子がよくなったとのことでし
た。柔軟性が大幅にアップしただけでなく、筋肉がついたためか、体に安定感が生まれ
て踏ん張りがきくようになったそうです。
転倒防止には、柔軟性以外にも、ふらついたときに踏ん張るための筋力も不可欠。今まで
は、ストレッチと筋トレの両方をやる必要がありましたが、ふりふりストレッチなら、それだけ
で両方の効果が期待できるため、まさに一石二鳥のストレッチといえます。
ふりふりストレッチには、まだ隠された効果がありました。
それは「肩こり」です。
10年以上もつらい肩こりに悩むCさんに、ふりふりストレッチを行ってもらいました。すると、
血流量が10倍にも増え、2週間後には筋肉のかたさが改善され、今まで肩の痛みで
倒せなかった首も倒せるようになりました。
※ふりふりストレッチのやり方は、お役立ち情報をご覧ください。
ふりふりストレッチについて
今まで、筋肉を伸ばして柔らかくするストレッチは、運動前に行うことでケガの予防効果があ
ると言われてきました。ところが、最近の研究によってストレッチにはケガ予防に効果がない
ということが明らかになったのです。じつは、従来の体を柔らかくするストレッチは、筋肉がゆ
るむことで、筋力が低下してしまうのです。また、ふんばりがきかないせいで転びやすくなっ
てしまいます。
ふりふりストレッチは、従来のストレッチとは異なり、柔軟性だけでなく筋力も同時にアップさ
せることが可能です。筋力がつくことでふんばりがきくようになり、転倒もしにくくなります。ほ
かにも、ふりふりストレッチは、肩こりの改善にも効果があります。
ただ、従来のストレッチにも肉離れなどのケガを防ぐ効果はあります。冷え解消や高血圧・
動脈硬化の改善などの健康効果があるだけでなく、副交感神経を働かせることからリラック
ス効果が期待できるため、運動後の整理運動や就寝前に行うのがおすすめです。
一方のふりふりストレッチは、交感神経を活性化させて体を活動的にするため、運動前や起
床後などこれから活動を始めるときがおすすめです。
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