長期的な視点からみた鹿児島県の雇用情勢

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2015 年 2 月 10 日
日本銀行鹿児島支店
長期的な視点からみた鹿児島県の雇用情勢
~若い世代の繋ぎ留めに向けて~
<概要>
【長期的に見た雇用情勢】

鹿児島県の有効求人倍率は昨年 11 月に 0.80 倍まで上昇し、1992 年4月以来
22 年7か月ぶりとなる高水準に達している(12 月も同水準)。こうした中、常用
労働者数は 15 か月連続で前年割れが続いており、働き手の数は伸び悩んでいる。

1980 年代後半からの有効求人倍率の推移をみると、(1)バブル期、(2)「いざ
なぎ超え」の 2000 年代半ば、(3)リーマンショックを受けた景気急落後から現在
に至るまで、3回の回復局面を経験している。

過去 30 年の間の求人と求職の変化の特徴点を整理すると、求人数が緩や
かに増加するとともに、その中心が製造業、建設業から、サービス業、医療・
福祉へと大きくシフトしてきている。また、求職者は今回の回復局面におい
ても減尐しているが、職につくことによって求職者が減っているだけでな
く、常用労働者数や労働力人口が減ってきていることから、若年層を中心に
当地の労働市場への参入者自体が減尐し始めている様子がうかがわれる。

これまで長期的課題として捉えられがちであった人口減尐・尐子高齢化という
構造問題が、人手不足という、供給力を阻害する短期的な問題として浮上してき
ている可能性が高い。
【若年層の繋ぎ留めに向けて】

労働力の減尐の背景には、人口の自然減のみならず、高校卒業者の県外就職率
が相対的に高いことなどを背景とした若年層の県外流出がある。さらに、若年層
の早期離職率も高く、就職支援における課題となっている。当地は若い世代で労
働条件の悪さや出産、介護を理由に退職する人の割合が高い。「地方創生」に絡
み、長時間労働の是正が政策課題の一つに挙げられているが、当地の労働時間は
男性を中心に全国に比して長く、休日は尐ない。人材育成や賃金改善に加えて、
魅力的な労働環境の整備に企業をはじめとする関係者が積極的に取り組んでい
くことで、鹿児島県が将来を担う世代に「選ばれる県」になることが期待される。
1
1.最近の雇用情勢
鹿児島県の有効求人倍率は、リーマンショックによって急落したが、その後緩や
かな回復を続け、直近の昨年 12 月時点で 0.80 倍と、1992 年4月以来の水準まで上
昇している(図表1)。1980 年代以降、当地の有効求人倍率は(1)バブル期、(2)2000
年代半ば、(3)リーマンショックを受けた景気急落後から現在に至るまで、大きく分
けて3回の回復局面を経験してきた。今回の局面では、求人倍率は2回目の回復局
面を上回り、約5年をかけてバブル期に近い水準まで大幅に改善した。
もっとも、労働需給はタイト化が進む一方で、雇用者数は全国的には改善傾向が
続く中で鹿児島県では減尐しており、当地の雇用情勢は、必ずしも改善一色という
訳ではない(図表2)。
(図表1)全国・鹿児島県の有効求人倍率の推移
1.6
倍
1.4
鹿児島
1.2
全国
1
0.8
0.6
0.4
0.2
バブル期
2000年代半ば
今回
0
1980
1983
1986
1989
1992
1995
(注)シャドーは景気後退期(内閣府調べ)。
1998
2001
2004
2007
2010
(出所)厚生労働省「職業安定業務統計」
(図表2)最近の常用雇用指数
105
104
2010年=100
103
102
101
100
99
98
97
鹿児島県
96
全国
13/1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
14/1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
2010
2011
2012
2013
2014
95
(年/月)
(注)2014 年の年計は、14/12 月の水準を 11 月と同水準と仮定した場合の値。
(出所)鹿児島県、厚生労働省「毎月勤労統計調査」
2
2013
(年)
2.求人・求職の動向
今回の有効求人倍率の上昇局面を過去の景気回復局面と比較すると、第一の特徴
は、増加している求人の中身の変化である。
新規求人は全体として緩やかに増加してきているが、求人の産業別の内訳をみる
と、バブル期から約 30 年の間に増加の内容は大きく変化してきている。バブル期に
は建設業や製造業の求人が大幅に増加したが、2000 年代半ばの回復局面では卸・小
売業、サービス業や医療・福祉といった第三次産業が全体をけん引した。医療・福
祉の求人は 2002-2006 年度の間に7千人増加したのに対し、2009-2013 年は 12 千人
の増と、新規求人全体の増加幅に占めるウエイトは2割強から3割強まで高まって
いる。また、今回の局面ではこれまで低迷していた建設業でも相応に求人が増加し
ている(図表3)。
(図表3)産業別新規求人の推移
16
万人
14
12
その他
10
医療・福祉
8
サービス
6
宿泊・飲食
4
卸・小売
建設業
2
製造業
2013
2012
2011
2010
2009
2008
2007
2006
2005
2004
2003
2002
2001
2000
1999
1998
1997
1996
1995
1994
1993
1992
1991
1990
1989
1988
1987
1986
1985
0
(年度)
(注)鹿児島労働局の資料を基に作成。1989 年以前は、医療・福祉はサービス、全てのパートタイム求人はその他に分類。
医療・福祉の求人は、景気の波に左右されず着実に増加傾向を辿っており、高齢
化という需要構造の変化の影響をあらわしている。こうした変化は、当地の就業構
造にも反映されている(付表1)。
次に、3回の回復局面を求人の増加と求職の減尐に要因分解してみると、今回の
局面ではバブル期と同様に求職者の減尐による求人倍率の押し上げ効果が相応にみ
られている(図表4)。バブル期は求職者の減尐とともに雇用者数が増加していたが、
今回の回復局面では雇用者数が増えずに求職者が減尐している1。無業者や離職者の
就職と工場閉鎖や倒産などの減尐による循環的な求職者の減尐に加えて、今回の回
復局面の第二の特徴として、尐子高齢化に伴う働き手の減尐が顕現化している可能
性があることが挙げられる。
1
バブル期の常用雇用の動きは付表2を参照。
3
(図表4)有効求人倍率の底からの上昇の要因分解(累積)
<バブル期>
<2000 年代半ば>
0.8
<今回>
0.8
0.8
0.7
0.7
求職減少要因
0.6
0.6
求人増加要因
0.5
0.5
0.4
0.4
0.4
0.3
0.3
0.3
0.2
0.2
0.2
0.1
0.1
0.1
0.0
0.0
0.0
▲ 0.1
▲ 0.1
0.7
0.6
0.5
上昇幅(倍)
▲ 0.1
86/10
87/10
88/10
89/10
90/10
09/7 10/7 11/7 12/7 13/7 14/7 (年/月)
02/3 03/3 04/3 05/3 06/3 07/3
(注)厚生労働省「職業安定業務統計」を基に作成。
求職者の年齢層別の内訳をみると、リーマンショック以降の回復局面では、全年
齢層で減尐している(図表5)。建設業をはじめ幅広い業種で特に若年層の人手不足
が強く意識されており、企業からも「若年層は県外へ出て行ってしまう人が多いた
め、現場の人材の採用が難しくなっている」といった声が聞かれている。年齢層別
の有効求人倍率をみると、求職者の減尐幅は全年齢層で概ね同水準であるが、絶対
数が尐ない若年層については需給のタイト化がより顕著である(図表6)。
鹿児島県は従来から高校卒業生の県外就職率が相対的に高いが、県内学校卒業者
数自体も近年着実に減尐している(図表 7-1)。求職者の減尐による求人倍率の上昇
は、尐子高齢化の影響の表面化を示唆しており、中学生以下の年齢別の人口の分布
状況から今後もこの傾向が続くことが予想される(図表 7-2)。
(図表5)年齢層別の求職者数の推移
(図表6)年齢層別の有効求人倍率の推移
1.4
20
18
万人
倍
1.2
16
1.0
14
24歳以下
35-54歳
12
0.8
25-34歳
10
25-34歳
8
6
55歳以上
4
24歳以下
0.6
0.4
0.2
2
0.0
0
1989
1993
1997
2001
2005
2009
1989
2013
(年度)
(注)鹿児島労働局「労働市場年報」を基に作成。
千人
1993
1997
2001
2005
2009
2013
(年度)
(注)鹿児島労働局「労働市場年報」を基に作成。
(図表 7-1)県内の学校卒業者数の推移
22
35-54歳
55歳以上
(図表 7-2)中学生以下の人口の状況
17
中学校
千人
高等学校
20
大学・短大
16
18
15
16
14
6
14
4
12
各年齢別( 横軸) の
人口( 縦軸)
13
2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014
(出所)鹿児島労働局「労働市場年報」
(年、3月)
4
14 13 12 11 10 9
8
7
6
5
4
3
2
1
0 (年齢)
(出所)鹿児島県「年齢別の人口推計」
(2013 年)
3.就業者数の動向
鹿児島県の人口は、1955 年をピークに、その後は減尐傾向が続いている(図表8)。
これに伴い、生産年齢人口も、この約 30 年間で約 18 万人も減尐している(図表9)。
(図表8)鹿児島県の人口の長期推移
(図表9)バブル期以降の生産年齢人口
150
220
万人
万人
210
140
200
64
62
116.8万人
120
68
66
15-64歳割合
(右目盛)
130
190
%
15-64歳
60
180
110
98.4万人
170
100
160
56
90
150
54
80
140
1950
1960
1970
1980
1990
2000
52
1985
2010
1990
1995
2000
2005
2010 (年)
(年)
(注)1950 年の点線は奄美群島を含むベース。
(出所)総務省「国勢調査」、鹿児島県「奄美群島の概況」
58
(出所)総務省「国勢調査」、
「人口推計」
労働力人口・労働力率については、2000 年代の回復局面(局面①)においては持
ち直しの動きがみられたが、今回の回復局面(局面②)においては何れも低下して
いる(図表 10)。就業者数についても、2000 年代半ばの回復局面では長期的な減尐
トレンドに下げ止まりの動きがみられたが、今回は減尐が続いている(図表 11)。
総合すると、足もとの有効求人倍率の上昇と雇用者数の伸び悩みは、尐子高齢化・
人口減尐という長期的な構造問題が影響していると考えられる。
(図表 10)労働力人口と労働力率
95
93
万人
(図表 11)就業者数の推移
%
労働力人口
62 90
労働力率(右目盛)
91
60 85
89
59
87
58 80
85
57
83
56 75
81
55
79
54 70
77
53
75
局面①
万人
61
局面②
局面①
国勢調査
局面②
就業構造基本調査
労働力調査
52 65
1997 1999 2001 2003 2005 2007 2009 2011 2013
1985
1990
1995
2000
2005
2010
(年)
(出所)総務省「国勢調査」、
「就業構造基本調査」
、「労働力調査」
(注)労働力率は、15 歳以上年齢に占める労働力人口の割合。
(出所)総務省「労働力調査」
5
(年)
4.若年層の繋ぎ留めに向けて
上述してきたように、足もとの雇用情勢は、景気回復とともに、長期的な構造問
題の表面化を映じている可能性が高い。企業の一部からも「需要はあるが人手が不
足しているため受注を抑制せざるを得ない」といった声が聞かれており、若年層の
県外流出という長期的な課題として捉えられてきた問題は、もはや供給力、ひいて
は地域経済の成長を阻害しかねない短期的な課題になりつつある。人口の都市圏へ
の流出は多くの地方が抱える共通の課題であるが、鹿児島は特に高校卒業生の県外
就職率が高く、若年層の流出が人口減尐の大きな要因の一つとなっている(図表 12、
13)。加えて、総じて全国よりも高い状況にある若年層の早期離職率も当地の抱える
課題である(図表 14)。
現在、「地方創生」が改めて日本全体の重要な政策課題となっている。昨年 12 月
に閣議決定された「まち・ひと・しごと創生総合戦略」では、人口減尐を食い止め
るため、子育て世代における男性労働者の長時間労働の是正や育児休業・有給休暇
の取得率向上が主な施策に挙げられるなど、労働環境の改善に向けた取り組みも進
められている(付表3、4)。最後に、「地方創生」という政策課題を踏まえ、若い
世代の繋ぎ留めと雇用拡大について、労働環境の観点からの考察を試みる。
(図表 12)高校卒業者の県外就職率
鹿児島
(図表 13)年齢別の人口の流出入
6
2012
2013
2014
42.8%
42.6%
42.9%
全国2位
全国1位
全国1位
18.8%
18.2%
18.2%
全国
千人
総数
4
流入
2
25歳以上
0
(出所)文部科学省 報道発表「高等学校卒業者の就職状況に関す
る調査について」
流出
14 歳以下
15-19歳
-2
-4
20-24歳
-6
2010 2011 2012 2013 2014 (年)
(出所)総務省「住民基本台帳人口移動報告」
(図表 14)学校卒業者の3年以内離職の状況
高校卒業者
短大卒業者
%
50
50
50
40
40
40
30
鹿児島
全国
2011
2010
2009
2008
(年卒)
2007
2011
2010
2009
2008
2007
2006
2005
2004
20
2003
(年卒)
2002
2011
2010
2009
2008
2007
2006
2005
2004
2003
20
2002
20
30
鹿児島
全国
2006
鹿児島
全国
2002
30
%
2005
%
大学卒業者
60
2004
60
2003
60
(注)鹿児島労働局の資料を基に作成
6
(年卒)
近年仕事を辞めた人の離職理由をみると、鹿児島県は全国に比べ高齢化が進んで
いることもあってか介護・看護、病気・高齢を理由に離職した人の割合が全国対比
やや高いが、全体としては概ね全国と同様の傾向となっている(図表 15-1)。ただ
し、若年層についてやや詳しくみると、男性では労働条件の悪さや低収入を理由に、
女性は出産・育児や介護・看護を理由に離職する人の割合が全国より高い(図表 15-2、
3)。全国・鹿児島共に、男性若年層は低収入・労働条件の悪さを理由に離職する人
の割合が他の年齢層に比べて高いが、当地はその傾向が一層強いため、こうした点
も当地の若年層の労働力不足に繋がっている可能性がある。
就職支援の現場からは、
「卒業と同時に県外就職の道がある春に加え、地元で就職
しても夏休みに就職先から帰省した友人の話を聞いて県外に転職する」といった指
摘があるなど、労働条件の良い県外企業へ労働力が流出している状況にある。こう
した中、県内企業の中には、初任給の引き上げ、IT の利用拡大による労働負担の軽
減や、柔軟な勤務体系の導入等により、人手不足の解消や若年層の雇用拡大に取り
組んでいる企業も尐なくない。今後、こうした取り組みが広がることで、当地全体
の労働環境の改善へと繋がり、若者の人材の繋ぎ留めに貢献することが期待される。
(図表 15-1)前職の離職理由
16
(%、男女・全年齢)
鹿児島
全国
12
8
4
0
低収入
労働条件の
悪さ
結婚
出産・育児 介護・看護 病気・高齢
自分に
向かない
仕事
(注)総務省「就業構造基本調査」(2012 年)を基に作成。本人都合によるもの(定年退職
や事業所の業績不振など以外)を掲載しているため各理由の合計は 100 に満たない。
(図表 15-2)男性若年層の離職理由
20
15
<労働条件の悪さ>
%
鹿児島
全国
20
15
<低収入>
%
鹿児島
全国
(図表 15-3)女性若年層の離職理由
10
10
5
5
5
15-24歳
(男性)
鹿児島
全国
男性計
10
<介護・看護>
%
鹿児島
全国
5
0
0
男性計
%
15
10
0
<出産・育児>
20
0
女性計
15-24歳
(男性)
15-24歳
(女性)
女性計
15-24歳
(女性)
(出所)総務省「就業構造基本調査」
(2012 年)
7
鹿児島の労働条件について、労働時間と週休・有給休暇制度の状況を全国と比べ
てみると、特に男性の労働時間が長く、週休二日制の導入率も低い(図表 16、17)。
また、育児休業制度の利用状況についても特に男性の利用率が低いことから全国で
も低い水準となっている(図表 18)。出産・育児や介護・看護の状況については、
例えば当地は幼稚園・保育所の数は全国に比べやや多めとなっているものの、個々
人の「意識」が上述の女性若年層の離職理由の背景となっている可能性がある(図
表 19、20)。
(図表 16)1日あたりの仕事時間
男性
女性
鹿児島
全国
7時間 25 分
6時間 56 分
4時間 50 分
(図表 17)週休二日の導入率等
(全国1位)
5時間 14 分
(全国8位)
(注)学生などを除く有業者の休日・非番等を含んだ
週全体の仕事時間の1日あたりの値。
(出所)総務省「社会生活基本調査」(2011 年)
男女計
男性
女性
全国
16.3%
(全国 42 位)
19.9%
6.5%
(全国 45 位)
28.5%
(全国 28 位)
11.2%
全国
完全週休二日
またはそれ以上
48.3%
52.8%
年次有給休暇の
取得率
41.9%
47.1%
(注)週休制度は企業数ベース、有給取得率は1人あたり。
(出所)総務省「就労条件総合調査」、鹿児島県「鹿児島県労働条
件実態調査報告書」
(2013 年)
(図表 18)育児休業関連制度の利用率
鹿児島
鹿児島
31.2%
(図表 19)幼稚園・保育所数
鹿児島
全国
幼稚園数
553.3
412.9
保育所数
488.8
342.3
(注)幼稚園は 3-5 歳児、保育所は 0-5 歳児 10 万人あたりの
施設数。幼稚園は 2012、保育所は 2011 年度。
(出所)総務省「統計でみる都道府県のすがた」
(出所)総務省「就業構造基本調査」(2012 年)
(図表 20)男女の意識に関する調査
鹿児島
全国
夫は外で働き、妻は家庭を
守るべきである
52.9%
41.3%
子供ができても、ずっと職
業を続ける方がよい
29.9%
45.9%
(注)当該内容について「賛成」
、
「どちらかといえば賛成」と回答した人
の割合。下段は女性が職業を持つことに対する意識。
(出所)鹿児島県「鹿児島の男女の意識に関する調査」(2012 年)、
内閣府「男女共同参画社会に関する世論調査」
(2009 年)
長時間労働の抑制などの労働条件の改善や、子育て等に関する男女間の役割分担
に対する意識改革が、長期的な視点で労働力を確保し続けていく上で、特に鹿児島
では重要な要素となりそうである。労働条件の改善や子育て・介護世代への配慮は、
企業経営者にとって、短期的には相応の負担が生じるものと思われるが、長期的に
は生産性の向上や多様な人材の確保・育成といった効果が期待される。もちろん、
8
こうした環境改善は企業だけでなく、行政や教育現場なども一体となって取り組ん
でいく必要のある課題である。
なお、所得分配状況をみると、鹿児島は全国に比べて雇用者報酬の割合が小さい
ため、労働分配率を引き上げる余地もある程度存在する可能性がある(図表 21)。
こうした中、最近では、これまで低下傾向にあった現金給与総額も全国を上回るペ
ースで前年を上回って推移しており、当地の雇用環境に賃金面では一定の改善の動
きがみられている(図表 22)。
(図表 21)国民・県民所得の分配状況
雇用者報酬
財産所得
8
企業所得
(図表 22)最近の名目賃金の動き
前年比、%
6
62.5
33.8
4
3.7
全国
66.5
2
27.6
0
5.9
0
50
(出所)内閣府「県民経済計算」
(2011 年度)
-2
100 (%)
-4
鹿児島県
全国
2010
2011
2012
2013
2014
-6
13/1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
14/1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
鹿児島
(年/月)
(注)2014 年の年計は、14/12 月の前年比伸び率が
11 月と同水準と仮定した場合の値。
(出所)鹿児島県、厚生労働省「毎月勤労統計調査」
企業をはじめとする関係者による労働環境の向上に向けた取り組みは、特定の企
業だけでなく、幅広い業種や地域で多様な人材を引き付け、労働力の確保に繋がる
だけでなく、そうした環境や幅広い人材が新しい着眼点や発想を生みイノベーショ
ンや生産性の向上に繋がってゆくことも期待できる。また、その結果として新しい
雇用が創出されることも、若年層の流出の食い止めに資すると考えられる(付表3
下)。「地方創生」が改めて謳われる中、賃金面のみに止まらず、人材育成や労働環
境の改善に当地の企業が行政・教育関係者と一体となって積極的に取り組んで行く
ことによって、鹿児島全体が働き手にとって魅力的な県となり、これからを担う当
地の若い世代に「選ばれる県」となることが期待される。
以
9
上
付表
(付表1)産業別の従業者数の分布
100%
その他
公務
80%
医療・福祉
サービス業
60%
宿泊業・飲食サービス業
40%
卸売業・小売業
製造業
20%
建設業
農林漁業
0%
1992 2002 2012
1992 2002 2012 (年)
鹿児島
全国
(注)2002 年以前の医療・福祉はサービス業、宿泊業・飲食は卸・小売業に分類。
(出所)総務省「就業構造基本調査」
(付表2)バブル期の常用雇用指数の動き
120
1986=100
115
110
105
100
鹿児島県
全国
95
90
1986
1988
1990
1992
1994
(注)雇用者数 30 人以上の事業所、全国は 2010 年=100、鹿児島は 1995 年=100
の指数を 1986 年=100 として指数化。
(出所)鹿児島県、厚生労働省「毎月勤労統計調査」
(付表3)まち・ひと・しごと創生「長期ビジョン」、「総合戦略」より
(今後の基本的視点:若い世代の就労・結婚・子育ての希望に応える)
○ 子育てと就労を両立させる「働き方」を実現していかなければならない。育児休業などの
取組は進展しているが、特に男性の育児休業取得率が非常に低いことが指摘されている。育
児は、女性のみならず、男性の問題でもある。日本は欧米に比べて夫の育児・家事への参加
度合が非常に低く、それが妻の2人目以降の出産意欲を削ぐ要因となっているという調査結
果もあり、育児・家事に男性も主体的に参画することが重要である。
10
(仕事と生活の調和の実現:施策の概要)
○ 子育て世代の男性に長時間労働が多く、育児休業や年次有給休暇の取得率が低い。日本に
おける子育て世代の男性が家事・育児に費やす時間は国際的に最低水準となっている。こう
した長時間労働、転勤などの働き方や育児休業等の低取得率、男女の固定的な家事・育児の
役割分担意識の存在等が、妊娠・出産・育児休業取得等を理由とする不利益な取扱いなど様々
な女性に対するハラスメントの問題や女性の育児負担をより大きくさせている。
(2020 年までに達成すべき重要業績評価指標)
■ 第1子出産前後の女性の継続就業率を 55%に向上(2010 年 38%)
■ 男性の育児休業取得率を 13%に向上(2013 年 2.03%)
■ 週労働時間 60 時間以上の雇用者の割合を5%へ低減(2013 年 8.8%)
■ 年次有給休暇取得率を 70%に向上(2013 年 48.8%)
(主な施策)
○ 育児休業の取得促進、長時間労働の抑制、年次有給休暇の取得促進に加えて、勤務地・職
務等を限定した正社員制度の普及・拡大が課題になっている。
― 中小企業事業主に対する支援の拡充、男性の育児休業取得の促進等を進める。
― 年次有給休暇の取得促進策を含めた労働時間法制の見直しに取り組む。
― 日本各地のリーディングカンパニーのトップに働きかけるとともに、先進的な取り組み
事例を幅広く普及させるための情報発信を強化、企業に対する支援を展開。
(地方に仕事をつくり、安心して働けるようにする)
○ 地方における若年世代の流出・人口減尐を食い止めるためには、地域イノベーション等を
通じた、新産業の創出や既存産業の高付加価値化を行い、働く場の創出、特に「やりがいの
ある」高付加価値産業を創出することが重要である。
(出所)首相官邸 「まち・ひと・しごと創生長期ビジョン」「まち・ひと・しごと創生総合戦略」
(付表4)子育て世代の生活時間分配の国際比較
16:00
6:00
4:00
夫
14:00
2:00
12:00
14:00
0:00
10:00
8:00
8:00
6:00
6:00
家事と家族のケア
4:00
4:00
仕事
2:00
2:00
自由時間
日本
米国
ドイツ
妻
14:00
12:00
12:00
10:00
自由時間
8:00
家事と家族のケア
6:00
10:00
4:00
仕事
2:00
0:00
0:00
16:00
16:00
夫
ドイツ
英国
フランス
自由時間
自由時間
6:00
家事と家族のケア
仕事
4:00
仕事
家事と家族のケア
8:00
2:00
0:00
0:00
日本 フランス
米国
英国
妻
日本
米国
ドイツ
日本 フランス
米国
英国
ドイツ
英国
(注)総務省「社会生活基本調査」より引用。日本、米国は6歳未満、それ以外は6歳以下の者がいる世帯の夫
婦、実施期間は日本、米国が 2011、ドイツが 2001-2002、英国が 2000-2001、フランスが 1998-1999 年。
上記以外の時間は睡眠時間や通勤時間などを含む。
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フランス