10(PDF:1544KB)

2)断面構造観察
①観察概要
鉄鋼スラグ炭酸固化体中の炭酸カルシウム層はスラグ粒子を被覆する状態で存在してい
ると考えられる。つまり、スラグ粒子の部分には、Ca, Al, Si, Mg, Fe 等及び O の元素が
存在し、その周囲の被覆層(炭酸カルシウム層=炭酸化反応層)には Ca, C 及び O が存在
すると考えられる。
そこで、内部構造の変化の有無を、走査電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscope)
により形態観察、SEM に搭載されたエネルギー分散型 X 線分光器(EDX:Energy Dispersive
X-ray Spectrometer)によるマッピング分析を用いて調査した。
観察概要を表 3.1-2 に示す。
表 3.1-2 観察概要
試料調製
使用装置
以下の手順により実施(図 3.1-2)。調整後の各試料を写真 3.1-2~写真 3.1-6 に示す。
①
供試体の粉砕
②
適度な大きさになった試料をルーターにて 10~15mm 程度にトリミング
③
断面研磨時に、試料がバラバラにならない様に樹脂にて包埋研磨、蒸着
形態観察
極低加速走査電子顕微鏡 ZEISS 社製
ULTRA55
マッピング分析
エネルギー分散型 X 線分光器 Thermo Fisher 社製 NSS312E
測定条件
加速電圧
15 kV、二次電子像(SE2)反射電子像(AsB)、倍率 15 倍
観察部位
最表面の海洋物質付着層の直下
試料(5 検体)
試料 A(未暴露)
海水未暴露の炭酸固化体
試料 B(暴露 15 ヶ月後)
海水暴露 15 ヶ月後の炭酸固化体から分取
試料 B’(暴露 15 ヶ月後)
海水暴露 15 ヶ月後の炭酸固化体から分取
試料 C(暴露 19 ヶ月後)
海水暴露 19 ヶ月後の炭酸固化体ブロックから分取
試料 C’(暴露 19 ヶ月後)
海水暴露 19 ヶ月後の炭酸固化体パネルから分取
図 3.1-2 断面観察用試料の作製工程
9
写真 3.1-2 試料 A(未暴露)の外観写真
写真 3.1-3 試料 B(海水暴露 15 ヶ月後)の外観写真
写真 3.1-4 試料 B’(海水暴露 15 ヶ月後)の外観写真
10
写真 3.1-5 試料 C(海水暴露 19 ヶ月後)の外観写真
写真 3.1-6 試料 C’(海水暴露 19 ヶ月後)の外観写真
②観察結果(形態観察)
各供試体の形態観察結果を図 3.1-3 に示す。左側に二次電子像、右側に反射電子像を示
している。なお、各画像の上側が、海水面側、下側が内部側を示している。これより、海
水未暴露供試体(試料 A)や海水暴露 15 ヶ月後の供試体(試料 B や試料 B’)
、海水暴露 19
ヶ月後の供試体(試料 C や試料 C’)を比較すると、粒子が成長し、間隙を埋めている状況
が窺えた。
11
試料
SEM 像
試料 A
(未暴露)
試料 B
表面側
(暴露 15 ヶ月
後)
内部側
試料 B’
二次電子像
反射電子像
二次電子像
反射電子像
二次電子像
反射電子像
二次電子像
反射電子像
表面側
(暴露 15 ヶ月
後)
内部側
試料 C
表面側
(暴露 19 ヶ月
後)
内部側
試料 C’
表面側
(暴露 19 ヶ月
後)
内部側
図 3.1-3 形態観察結果(SEM 像)
12
③観察結果(マッピング分析)
マッピング分析結果として、表 3.1-3 には検出された元素の結果を、図 3.1-4~図 3.1-8
には、その元素別の断面 EDX マッピング結果を示した。なお、元素別像の C に関しては、
埋込樹脂成分である C の影響を無くすため、その影響と考えられる埋込樹脂部の強度(200
カウント)以上は省いて示している。
各試料ともに、C、O、Ca、Mg、Mn、Fe、Si、Al、P、S、Ti、が検出され、その他に Cr、K、
Cl および Na などもわずかに検出された。また、各試料にも、0.5~1mm 程度の粒が見られ、
極微細な粒がその周囲に存在している。
表 3.1-3 各試料から検出された元素
検出元素
試料
C
O
Ca
Mg
Mn
Fe
Si
P
S
Al
Cr
Cl
K
Ti
試料 A
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
14
試料 B
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
14
試料 B’
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
14
試料 C
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
試料 C’
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
Na
○
検出元素数
13
13
~図 3.1-4~図 3.1-8 の画像の見方~
例えば、図 3.1-6 の試料 B'の画像の左下の長方形部分に着目すると、C と O ではいずれ
も発色していることから、これらの元素があることを示唆している。一方、同部分の Ca で
は黒色となっていることから、この元素は無いことを示唆している。他方、同部分の Si と
K ではいずれも発色が見られることから、
Si と K の酸化物が存在することを示唆している。
なお、C の同部分が周辺に比べ相対的強い発色が見られるのは、C 濃度が特に高いことを
示しているが、埋め込み樹脂が隙間に侵入した影響と考えられる。
13
データタイプ:ネットカウント,倍率 15
図 3.1-4 試料 A(未暴露)の断面 EDX マッピング結果
14
200
データタイプ:ネットカウント,倍率 15
図 3.1-5 試料 B(暴露 15 ヶ月後)の断面 EDX マッピング結果
15
200
データタイプ:ネットカウント,倍率 15
図 3.1-6 試料 B’(暴露 15 ヶ月後)の断面 EDX マッピング結果
16
200
データタイプ:ネットカウント,倍率 15
図 3.1-7 試料 C(暴露 19 ヶ月後)の断面 EDX マッピング結果
17
200
データタイプ:ネットカウント,倍率 15
図 3.1-8 試料 C’(暴露 19 ヶ月後)の断面 EDX マッピング結果
18
④観察結果(炭酸カルシウム層の変化)
当該観察で着目すべき CaCO3 の変化の有無を把握するため、図 3.1-9 には、各試料の C、
Ca、O のマッピング分析結果を先に示した SEM の反射電子像とともに、まとめて示した。
個別の元素に着目すると、C は試料 A(未暴露)では、微細な組織に強く分布しているが、
暴露後の試料(試料 B,試料 B’
,試料 C,試料 C')では濃度変化がほとんど見られなくな
っている。また、未暴露(試料 A)と暴露 19 ヶ月後(試料 C および試料 C')を比較すると、
全体に炭素の量は増えているので、炭素の固定化が進行していると考えられた。Ca は暴露
前後での変化はほとんど見られない。O は試料 B(暴露後 15 ヶ月後)
、試料 C(暴露後 19 ヶ
月)において、局所的にリッチな場所が存在しているが、それ以外はあまり相違が見られ
ず、暴露後の時間経過による変化とはいえない。
一方、未暴露の試料(試料 A)に比べ、暴露後(試料 B,試料 B’
,試料 C,試料 C')の試
料は、C、Ca 及び O の領域が拡大し、空隙を埋めている状況が窺えた。これらの元素の分
布は概ね一致しているので、CaCO3 として存在すると考えられた。
CaCO3 と考えられる領域以外の領域に着目すれば、各試料のマッピング分析結果から、Si、
K のほか、Mg、Mn、Fe 等の酸化物があると見られるが、その量は尐ないと判断された。
以上のことから、海中暴露とともに CaCO3 の析出は進行しており、時間経過後も鉄鋼スラ
グ炭酸固化体の炭素固定化機能は保持され、機械的強度も維持されていると考えられた。
200
200
200
200
200
A:未暴露
B:暴露1年後(スラグ)
B:暴露1年後(コンクリート)
C:暴露2年後(スラグ)
試料 A
試料 B
試料 B’
試料 C
C:暴露2年後(パネル)
試料 C’
(C については、前出の表示色を変えたものとして示している)
図 3.1-9 各試料の反射電子像および C、Ca、O の EDX マッピング結果
19