高性能フェライト磁石の粒界近傍の高分解能TEM 観察

CODEN : HIKGE3
ISSN 0916-0930
VOL.
31
2015
(a)
主相
粒界相
(b)
主相
La占有サイト
Fe占有サイト
1 nm
(c)
20 nm
【表紙写真】
主相/主相界面の HAADF 原子像
1 μm
【補足図 1】
高性能フェライト磁石の TEM 像
【補足図 2】
EDS による元素マッピング
(a)HAADF(b)元素配列(c)Fe(d)La
表紙写真説明
高性能フェライト磁石の粒界近傍の高分解能 TEM 観察
表紙の写真は,LaCo 置換フェライト磁石焼結体( 補足図 1)における,2 粒子粒界
近傍の高角度散乱暗視野(HAADF: High-Angle Annular Dark-Field)像である。球面収
差補正装置(Cs コレクター)を搭載した電界放射型透過電子顕微鏡(FE-TEM: Field
Emission Transmission Electron Microscope)を用いて観察した。像内の青矢印は主相
結晶子の c 軸の向きを表す。像コントラストは原子番号の 2 乗に比例し,重元素ほど
明るいコントラストとなる。2 粒子粒界には焼結助剤の CaO や SiO2 といった軽元素
を主成分とする粒界相が存在するため,暗いコントラストとなっている。また,その
相の厚みは均一ではなく,主相である M 相( マグネトプランバイト型構造)の c 面を
ファセット面*として形成していることが観察できる。 補足図 2 は,主相粒子内の HAADF 像ならびにエネルギー分散型 X 線分光(EDS:
Energy-Dispersive X-ray Spectroscopy)による Fe と La の元素マッピングである。マ
グネトプランバイト型構造中において Fe はワイコフ表記で 2a,12k,4f1,4f2,2b サ
イトを占有し,La は 2d サイトを占有すると考えられており,その微細構造に対応し
た各元素の配列( 補足図 2(b))と HAADF 像ならびに元素マッピングとがよく一致し
ていることが確認できる。
永久磁石の性能を表す指標のひとつである保磁力は,主相界面近傍の組成や組織と
密接に関係している。フェライト磁石の焼結過程における主相界面近傍の組織形成に
おいて,CaO や SiO2 などの焼結助剤が重要な役割を果たしていると考えられ,その
形成メカニズムの解明がフェライト磁石の高性能化の課題と言える。日立金属は,こ
のようなアトミックスケールでの微細構造観察技術を焼結プロセス設計に反映させる
ことでフェライト磁石をさらに高性能化し,永久磁石式モーターの高効率化に貢献し
ていく。
* ファセット(facet):多角形状に形成される平坦結晶面。この写真では c 面に平行
な鋸刃状に形成された界面
2
日立金属技報 Vol. 31(2015)
(d)