海底熱水資源開発に伴う環境擾乱のリハビリテーション

海底熱水資源開発に伴う環境擾乱のリハビリテーション
○高橋恵輔(宇部興産),山中寿朗(岡山大学),吉田安廣(九州大学)
,岡村慶(高知大学),
米津幸太郎(九州大学),NT14-14 乗船研究者一同
近年、海底熱水資源の開発に向けた様々な実証実験が進められ、環境や生態系への影響評価も検討
されている。しかしながら、海底での資源採掘に伴う環境擾乱を抑制する方法や開発後の海底環境の
リハビリテーション方法については、未だ具体的な検討がなされていない。著者らは、海洋資源開発
に伴う環境擾乱対策および採掘後のリハビリテーションを目的として、無機系シーリング材を用いて
海底面を被覆する技術を発案した。シーリング技術を用いた深海底資源の採掘及び環境修復のイメー
ジの一例を図 1 に示す。この技術の要は、深海の熱水環境において、シーリング材が我々の期待する
挙動を示すかどうかである。そこで、図 1 を想定した非硬化型および硬化型シーリング材を既存技術
で調整し、それらの性能の実地検証を行った。
実地検証は、海洋調査船「なつしま」による NT14-14 次航海にて、無人探査機「ハイパードルフィ
ン」を使用し、鹿児島湾若尊熱水系にて行った。同海域熱水系は水深は浅いものの活発な熱水および
噴気活動により底層水は還元的で弱酸性を示す。同海域の水深約 200m の海底に 50cm 四方の型枠を設
置し、その中に表 1 に示す 4 種類のシーリング材を流し込み、深海底における同材の水中不分離性や
硬化特性を評価した。水中不分離性として目視観察と併せて濁度および海水温度の経時変化を測定し、
硬化特性として水深約 200m の海底にて 1 日間養生した供試体の圧縮強度を測定した。
図 2 にシーリング材 No.1 および No.2 の流し込み状況を示す。図 3 にシーリング材 No.1 の流し込み
による濁度および海水温度の経時変化を示す。No.1 は良好な水中不分離性が得られ、海底面を均等に
被覆することができた。また、No.1 の流し込みに伴う濁度および海水温度の変化は非常に小さかった。
一方、No.2 は水中でシーリング材が拡散し、海底面を被覆することができなかった。No.3 の水中不分
離性は No.1 と同等、No.4 の水中不分離性は No.2 と同等であった。また、No.1 を一晩海底で養生した
供試体の圧縮強度は 6.2N/mm2 であり、表 1 に示すラボ評価結果とほぼ同等であった。
本検討により、熱水系の深海底におけるシーリング材の諸物性を評価することができた。また、無機系スラリーの諸
物性は物質化学的および工学的に推定できるとされてきたが、深海における高い静水圧条件では推定
通りの性能が得られない可能性が示唆された。今後は、高圧条件下での水中不分離メカニズムを考察
することにより、シーリング材の性能向上を行い、さらなる大深度における実地検証を試みたい。併
せて、熱水資源開発後のリハビリテーションを見据えた熱水生態系への影響評価を行い、シーリング
材を用いた環境低負荷型の深海底資源の採掘プロトコルの確立を目指す。
図1
シーリング材を用いた汚濁防止及びリハビリテーションのイメージ
実地検証に用いたシーリング材の配合およびその性能(ラボ評価)
No.1
No.2
No.3
Hardenable system
Non hardenable system
Binder
Ordinary cement
Viscosity modifying agents
Hydroxyethyl cellulose
Anti-washout at lab
Good (suspended substance: 5–30 mg/L)
2
1 day strength at lab (N/mm )
Special cement
8.0
図2
No.4
Blast furnace slug
18.2
0.0
0.0
シーリング材の流し込み状況(左:No.1、右:No.2)
20
100
Turbidity (NTU)
Temperature
80
16
60
12
40
8
20
4
Turbidity
0
0
0
20
40
60
80
100
120
Elapsed time (min)
図3
Fly ash
Tube-like micelle
Temperature (℃)
表1
濁度および海水温度の経時変化(シーリング材 No.1)