16 太平洋セメント研究報告(TAIHEIYO CEMENT KENKYU HOKOKU) 第168号(2015):安藝 他 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― ◇論 文◇ 省エネルギー型汎用セメントの開発 Development of an Energy-saving General-purpose Cement 安 藝 朋 子*, 新 島 瞬**, 黒 川 大 亮*, 平 尾 宙*** AKI, Tomoko*; NIIJIMA, Shun**; KUROKAWA, Daisuke*; 要 HIRAO, Hiroshi*** 旨 普通ポルトランドセメント(OPC)の製造エネルギーの削減を目的に, 省エネルギー型セメン トの開発を行った. 一般的に, セメントの製造エネルギー削減には二つの方法が有効である. 一つはクリンカー製造エネルギーの削減で, もう一つはクリンカー量の削減である. 本検討で は両者を併用し, エネルギー削減および品質維持の両立を目指した. 電気炉およびテストキル ンを用いて焼成したテストクリンカーに各種混合材(高炉水砕スラグ, フライアッシュおよび 石灰石微粉末)を添加したセメントの品質および耐久性評価を実施した. その結果,クリンカー 中のエーライト( C3A)を現行の OPC より4% 増加させ, 混合材量を10 % とすることで, セメント 製造エネルギーの削減および品質維持を両立できる可能性が示された. 混合材のうち, 石灰石 微粉末の混合量は5%以上が望ましいと考えられた. キーワード:セメント製造, 省エネルギー, 低温焼成, 鉱化剤, 種結晶, 混合材, 石灰石微粉末(LSP) ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― * 中央研究所 第1研究部 セメント技術チーム Cement Technology Team, Central Research Laboratory ** 中央研究所 第1研究部 環境技術チーム Environmental Technology Team, Central Research Laboratory *** 中央研究所 第1研究部 セメント技術チーム リーダー Manager, Cement Technology Team, Central Research Laboratory 17 太平洋セメント研究報告(TAIHEIYO CEMENT KENKYU HOKOKU) 第168号(2015):安藝 他 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― ABSTRACT An energy-saving cement was developed for the purpose of reducing the production energy of ordinary portland cement (OPC). It is widely known that two approaches are generally effective for that purpose. One is to reduce the production energy of clinkers, and the other is to reduce the content of clinker in cement. In this study, we took both approaches and aimed to reduce the production energy while maintaining the quality level. Test clinkers were burnt in an electric furnace or a test kiln and then milled and mixed with either of the following admixtures: granulated ground blast furnace slag; fly ash; and limestone powder. Evaluation of cement quality and durability was carried out using these specimens. Both the electric furnace and test kiln tests revealed that increasing the C3A content in clinker would be one of the effective options to reduce the burning energy of clinkers. Reduction in production energy and satisfactory cement quality were successfully achieved simultaneously by increasing the C3A content in clinker by 4% and increasing the content of admixtures in cement to 10%. It was also found that minimum desired content of limestone powder was 5%. Keywords : Cement production, Energy-saving, Low temperature burning, Mineral composition, Seed crystal, Admixture, Limestone powder (LSP) 1.は じ め に 現在, 地球温暖化問題への対策として, 各分野で さまざまな取り組みがなされている. セメント産業 はエネルギー多消費型産業であり, 消費エネルギー の削減は重要な課題である. 我々はこの問題に対し, セメント製造エネルギーの削減を目標として省エネ ルギー型セメントの開発を行っている. 製造プロセ スにおけるエネルギー削減とともに, セメントの品 質については, 現行最も汎用的なセメントである普 通ポルトランドセメント(OPC)と同等であることを 目指している. セメント製造プロセスにおけるエネルギー削減手 法としては, クリンカー製造エネルギーの削減およ びクリンカー量の削減が挙げられる. 本検討では, 両者を併用することで品質保持およびエネルギー削 減を両立させることを目的とし, 電気炉およびテス トキルンによるセメント基材用クリンカーの試製と, さらにそのクリンカーに各種混合材を適用し, セメ ントの品質および耐久性の評価を実施した. 2.実 験 2.1 電気炉実験 電気炉実験により, 省エネルギー型汎用セメント の設計を検討した. (1) クリンカー焼成エネルギー評価 原料調合条件がクリンカーの焼成エネルギーに与 える影響を検討した. 原料調合には, 当社工場の OPC 調合原料および各種特級試薬を使用した. 化学 組成等を適宜調整後, 振動型ディスクミルにより混 合粉砕し,ペレット状に成形して,箱型電気炉により Given temperature Heating rate 10 ºC/min Duration time 30 min Air quenching Preheating 1000 ºC, 30 min Fig. 1 Burning condition of electric furnace (電気炉実験の焼成条件) 18 太平洋セメント研究報告(TAIHEIYO CEMENT KENKYU HOKOKU) 第168号(2015):安藝 他 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 焼成を実施した. 焼成条件を Fig.1に示す. フリー ライム(f−CaO)量は1.0 % を目標とし, 焼成温度は 1350~1500 º C (50 º C 刻み)で実施した. 焼成した 試料は粉砕後,セメント協会標準試験方法 JCAS I−01−1997「遊離酸化カルシウムの定量方法」によ り f−CaO量を測定した. クリンカー焼成エネルギー は, クリンカー中の f−CaO = 1.0%となる温度にて評 価した. 実験クリンカーの目標水準を Table 1 に示す. 各 実験水準は, 基準となる現行の OPCクリンカー相当 の水準1に対し, ①高液相組成物(低 SM化)として Bogue 式でアルミネート(C3A)18 % 以下, フェライト ( C 4 AF)13 % 以下の範囲のもの(水準 2,3,4,7,8,9), ②鉱化剤としてフッ素(F) = 0.2 %, 三酸化硫黄 (SO3) = 2.0 % を添加したもの(水準 5,8,9,10), ③エーライト(C3S)の生成促進を目的に種結晶(当社 工場製の早強ポルトランドセメントクリンカーを粉 砕しブレーン比表面積 3000cm2 /gにしたもの)を3% 添加したもの(水準 7,9), および ④原料種に高炉 スラグ微粉末(BFS)を5% 使用したもの(水準 6, 10) とし, 各要因の相互作用の検討も実施した. 液相量 を増加させる水準では, 液相の増加分をビーライト (C 2 S)の減少で調整した. また F によりクリンカー 中のC3A 相量が減少することが知られている ため 1) 2) 3), 焼成後の目標鉱物組成が水準1と同等 となるようBogue 式計算上で C3A を増加させたもの (水準 8,9)についても検討した. Table 1 (2) 電気炉試製セメントの品質評価 試料の鉱物組成は, X線回折(XRD)/Rietveld 法 (TOPAS BrukerAXS社製)にて測定した. 測定条件は, ターゲット CuKα, 管電圧 35 kV,管電流 350 mA,走査 範囲 10~60 o(2θ), ステップ幅 0.0234 o, スキャン スピード 0.13 o/sとし, 定量対象鉱物は, C3S, C2S−β, C3A, C4AF, f−CaO, f−MgO の6鉱物とした. なお, 以降のクリンカー評価も同じ手法にて行った. Table 1 中の鉱物組成は, 現行の OPC 同等水準 (水準1,5,6 および 10), 高 C3A 水準(水準 2, 3, 7, 8 および 9),高 C4AF 水準(水準4)の三つに分類できる. 既存の文献より, 高 C3A クリンカーと石灰石微粉末 (LSP)を組み合わせて使用することにより強度発現 性が向上することが知られているため 4) 5), 以降の 評価ではこの組み合わせを使用した. ただし, C3A が過剰になると水和発熱の過大および流動性の低下 が予想されたため, C3A が 13% を超える水準は実施 しなかった. さらに, 種結晶は作製にエネルギーを 要すため, 厳密な省エネ評価が困難であると判断し, 以降の評価は実施しなかった. すなわち, 現行の OPCクリンカー相当の水準(水準1)および C3Aが13% 以下の水準(水準2)の2水準についてセメント品質 評価試験を実施した. 各クリンカーは SO3 = 2.0 % となるよう排脱二水石 膏を添加し, 振動型ディスクミルによりブレーン比 表面積が 3400 ± 100cm2/g となるまで粉砕した. 試製 Target composition of electric furnace clinkers (電気炉クリンカーの目標組成) Target value (%) No. Feed materials Minor components Mineral composition (Bogue) Seed Crystal BFS F SO3 C3S C2S C 3A C 4AF 1 0.0 0.0 0.0 0.5 60.0 19.0 9.0 8.5 2 0.0 0.0 0.0 0.5 60.0 15.0 13.0 8.5 3 0.0 0.0 0.0 0.5 60.0 10.0 18.0 8.5 4 0.0 0.0 0.0 0.5 60.0 16.0 9.0 13.0 5 0.0 0.0 0.2 2.0 60.0 19.0 9.0 8.5 6 0.0 5.0 0.0 0.5 60.0 19.0 9.0 8.5 7 3.0 0.0 0.0 0.5 60.0 15.0 13.0 8.5 8 0.0 0.0 0.2 2.0 60.0 10.0 15.0 8.5 9 3.0 0.0 0.2 2.0 60.0 10.0 15.0 8.5 10 0.0 5.0 0.2 2.0 60.0 19.0 9.0 8.5 19 太平洋セメント研究報告(TAIHEIYO CEMENT KENKYU HOKOKU) 第168号(2015):安藝 他 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― セメントの配合一覧を Table 2 に示す. 水準1のク リンカーを使用して作製したセメントに, 現行の OPC同等水準となるよう LSP5% を添加したセメント を作製し, 電気炉 OPC とした. また, 各クリンカー を使用して作製したセメントに LSP5% を添加し, これにさらに LSP,BFS または フライアッシュ(FA)を 5%添加したセメント, および BFS, FAを単味で 10% 添加したセメントを作製した. 各種混合材のキャラ クターをTable 3 に示す. 次に, 各セメントについ て強さ試験を実施した. 試験方法は既往の文献 6)と 同様の方法を用いた. Table 2 Mix design of test cements (試製セメントの設計) Mixture ratio (%) Clinker No. cement LSP BFS 95 1 − − 10 − 5 − − 5 5 5 90 − 10 − 2 − 10 5 5 90 FA 5 − − − (1) クリンカー焼成エネルギー評価 クリンカー焼成エネルギーの評価は, クリンカー の f−CaO 量が一定時の焼点温度(クリンカー表面の 最高温度), および燃料供給量にて実施した. 焼点 温度の測定には放射温度計を使用した. また, 燃料 供給量からクリンカー焼成エネルギー原単位を算出 し, これを評価に用いた. 試製クリンカーの目標組成を Table 5 に示す. 試験水準は電気炉試験と同様の理由で, 現行の OPC クリンカー相当の水準(水準 A )および高 C3A クリン カー(水準 B)の計2水準とした. また, 各水準の原 料は当社工場の OPC 調合原料および工業試薬を使用 し, 各化学成分が所定の値となるよう混合した. Table 4 Specification of test rotary kiln (テストキルンの仕様) − 10 − − 5 − 10 2.2 テストキルン実験 2.1 の電気炉実験結果を受け, より実機に近いテ ストキルンによりスケールアップ試験を行うことで, 省エネルギー型汎用セメントの設計を検討した. Table 4に使用したテストキルンの仕様を示す. − − 5 Size : 370 mmφ x 3200 mmL Rotary kiln − 10 Angle of inclination : 2 º Fuel : Burner A (JIS Type I) Kiln burner : Fluid burner Cooler Table 3 Admixture Density Blaine 3 2 (g/cm ) (cm /g) LOI (%) LSP 2.75 4770 43.7 BFS 2.95 4190 +0.13 FA 2.31 4250 2.2 Table 5 No. Characteristics of admixtures (混合材のキャラクター) Chemical composition (wt%) insol (%) SiO2 Al2O3 Fe2O3 CaO MgO SO3 Na2O K2O TiO2 P2O5 MnO 0.1 C 3S C 2S 60.0 19.0 B 60.0 15.0 Cl − 0.05 35.1 13.9 0.0 55.4 0.2 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.3 43.9 5.0 2.1 0.2 0.4 0.5 0.0 0.3 0.0 53.5 27.1 5.6 4.7 1.4 0.3 0.7 1.0 1.4 0.6 0.1 0.0 − 0.1 Target composition of test kiln clinkers (テストキルンクリンカーの目標組成) Bogue (%) A Rotary cooler C3A Chemical composition (%) C 4AF MgO SO3 Na2O K2O P2O5 9.0 8.5 1.0 0.5 0.2 0.4 1.0 13.0 8.5 1.0 0.5 0.2 0.4 1.0 20 太平洋セメント研究報告(TAIHEIYO CEMENT KENKYU HOKOKU) 第168号(2015):安藝 他 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― (3) テストキルン試製セメントの耐久性評価 2.2(2)により得られた試製セメントの耐久性評価 を, Table 5 の水準 A および, 水準 Bに LSPを 10% 混 合した水準(以下, 省エネセメント)の2水準につい て実施した. 試験は, 乾燥収縮, 促進中性化, 硫酸 塩劣化, 断熱温度上昇量の4項目とした. 乾燥収縮試験は, 40×40×160 mm の供試体を作製 し, JIS A 1129「モルタル及びコンクリートの長さ 変化測定方法」に準拠して実施した. 促進中性化試 験は, 100×100×400 mm の供試体を作製し, JIS A 1153「コンクリートの促進中性化試験方法」に準拠 し て 実 施 し た . 硫 酸 塩 劣 化 試 験 は A S T M C 1012 “Standard Test Method for Length Change of Hydraulic-Cement Mortars Exposed to a Sulfate Solution”に準拠した. 断熱温度上昇試験は, JIS R 5201「セメントの物理試験方法」に準拠してモル タルを作製後, 断熱熱量計 ACM-120HA(東京理工社 製)により14日間断熱温度上昇量を測定した. での最高温度である 1500 o C で焼成した場合におい ても, f−CaO 量が 1.0 % を超過した水準については, 簡易的な相対評価のため, 1450 o Cと 1500 o Cの f−CaO 量を直線近似することにより f−CaO= 1.0 % となる焼 成温度を算出した. 実験結果より, 50~140 o C の焼成温度低減効果が 確認された. 今回検討を実施した範囲では, 水準 8(C3A=13%, F= 0.2 %, SO3 = 2.0 %)の温度低減効果が最 大であり, 水準1(現行の OPC クリンカー相当)に対 し焼成温度が 170 o C 低減された. 液相である C3A を 増加させたことにより融液相が増加し, C2S から C3S へ変化する固相反応が促進されて7) 1390 o Cでも十分 に C3S が生成したと推察された. さらに F および SO3 を鉱化剤として使用したことで温度低減効果が大き くなった 3) 8)と考えられた. また, 水準1はその他 の水準に比べ焼成温度が高くなる傾向が認められ, その他の水準のほうが低温焼成が可能であることを 確認した. 8.0 f-CaO (wt%) (2) テストキルン試製セメントの品質評価 各 水 準の クリ ン カー は, ブ レ ー ン比 表 面積 が 3400 ± 100 cm 2/g になるまでテスト用のバッチ式 チューブミルで粉砕した. 粉砕後, 各種混合材を 使用してセメントを試製し, 品質評価を実施した. 使用した混合材の各キャラクターは, Table 3 に示 すとおりである. 3.結果と考察 4.0 2.0 1400 1500 Burning temperature (ºC) Fig. 2 Relationship between burning temperature and free lime (焼成温度とフリーライム量の関係) Test conditions and burning temperatures (free lime≒1.0 %) in electric furnace (電気炉実験の試験水準および f-CaO ≒1.0 %のときの焼成温度) No. C3A Factor (%) 6.0 0.0 1300 3.1 電気炉実験 各水準の焼成温度と f−CaO 量の関係を Fig.2 に, 試験水準と f−CaO = 1.0 % となる焼成温度の結果を Table 6 に示す. なお, 本検討での実験範囲のなか Table 6 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 1 13.0 18.0 C4AF 13.0 F,SO3 0.2, 2.0 Seed 3.0 BFS 5.0 Burning temperature (ºC) (f-CaO≒1.0 %) 2 3 4 5 6 ○ 7 8 9 ○ ○ ○ ○ ○ 10 ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ 1560 1510 1450 1420 1460 1480 1450 1390 1420 1450 21 太平洋セメント研究報告(TAIHEIYO CEMENT KENKYU HOKOKU) 第168号(2015):安藝 他 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 電気炉焼成により得られた各水準の鉱物組成 ( Bogue)を確認したところ, 差異は最大で C3S=1.0 %, C2S =1.6%, C3A=0.3 %, C4AF=0.1%であり, ほぼ目標 どおりであった. 各水準の XRD/Rietveld 解析結果 を Table 7 に示す. f−CaOの目標値を 1.0%として電 気炉実験を実施し, 最も目標値に近くなった試料の 解析結果を示した. 結果より, 水準1は f−CaO 量 =2.1%となり, 1.0 %を超過したが, 本検討での検討 温度範囲のなかで最も目標値に近かった. さらに他 の水準に比べ C 3 S量がやや低くなったが, これは f−CaO 量が多かったことが原因であると考えられた. また, 前述のとおり, 鉱化剤を添加した水準(水準 5, 8, 9 および 10) の C3A 量は, 目標値と測定値との Table 7 No. 間に差異が確認された. 種結晶および原料の一部に BFS を単味で使用した水準の鉱物組成は, これらを 使用しなかった水準と比べて有意差は認められなか った. 各水準のセメントの強さ試験結果を Fig.3に 示す. 水準 1, 2 のいずれのクリンカーも, 混合材に LSP を 5% 以上使用した水準では, 電気炉 OPC(現行の OPC 相当となるよう水準1に LSP を5% 添加したもの, Fig.3 中に LSP5(Control)と表記)と同等以上の強さ が得られた. 特に, 水準2のクリンカーにLSP を 5% 以上使用した場合に強度増進が顕著であった. この一因として, C3Aと CaCO3 の反応が生じている可 能性が考えられた. 坂井らは, C 3A と CaCO 3 の材齢 Mineral compositions of electric furnace clinkers (電気炉クリンカーの鉱物組成) XRD/Rietveld (Condition is burning temperature of f-CaO≒1.0 %) C3S C2S C3A C4AF Periclase Lime 1 54.0 27.5 8.1 8.1 0.2 2.1 2 61.7 16.6 12.8 7.5 0.1 1.2 3 59.8 13.4 20.0 5.4 0.1 1.3 4 59.1 18.6 7.3 14.3 0.0 0.7 5 58.1 27.0 4.8 9.4 0.2 0.6 6 58.6 24.2 7.7 8.6 0.0 0.8 7 57.9 19.8 13.8 7.0 0.1 1.5 8 56.4 21.7 12.9 7.8 0.1 1.0 9 54.4 23.2 13.0 8.0 0.1 1.3 10 51.7 32.9 4.5 9.6 0.1 1.2 3day 7day 28day Compressive strength (N/mm 2) 70 60 50 40 30 20 10 0 Admixture LSP5 LSP10 LSP5, content (%) (Control) BFS5 Clinker No. Fig. 3 LSP5, BFS10 FA5 1 FA10 LSP10 LSP5, BFS5 LSP5, BFS10 FA5 FA10 2 Results of compressive strength test of electric furnace test cements (電気炉試製セメントの圧縮強さ試験結果) 22 太平洋セメント研究報告(TAIHEIYO CEMENT KENKYU HOKOKU) 第168号(2015):安藝 他 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 3.2 テストキルン実験 テストキルン焼成により得られた試料の分析結果 を Table 8に示す. f−CaO量および化学組成は各水準 ともほぼ目標値と同等であった. 鉱物組成 (XRD/Rietveld)もほぼ同等の C3S 量であり, Al2O3 増 加による C3A相の増加も確認された. 各クリンカーのサンプル採取時の焼成条件を Table 9 に示す. 本検討で使用したテストキルンは 実機よりも放散熱等が過大であり, エネルギー原単 位での適切な省エネ性評価は困難であると考えられ たため, 熱のインプットおよびアウトプットの測定 は実施しなかった. 結果より, 水準 A に比べ, 水準 B の焼成温度は 15 o C 程度低下して重油使用量は4% 低下し, 燃料原単位は 12% 低下した. なお, 今回の 試験では焼き出し量が安定しなかったため, 燃料原 単位よりも重油使用量を評価基準とした. 3.1にて 述べた電気炉実験と同様, 固相反応の促進により7) 焼成温度が低減できたと考えられた. 各水準に所定の混合材を添加した試製セメントの 強さ試験結果を Fig.4 に示す. 水準 B のクリンカー を使用したセメントの強さは, 混合材料が5~10% Table 8 No. 程度で極大値を持つ傾向が見られた. 特に3日およ び7日の初期材齢では, 水準 B に LSP を添加したセ メントの強度発現性が良好であった. 電気炉試験と 同様に, いずれのクリンカーを用いた場合も, 混合 材を 10 % 程度まで使用したセメントの強さは水準 A に LSP を5% 添加した試製 OPC(現行の OPC 相当)と 同等程度となった. 電気炉試験結果も含め, 最も強度発現性が良好で あった省エネセメント(水準 B に LSP を 10 % 混合)に ●:A-LSP ■:A-LSP+BFS5 % ▲:A-LSP+FA5 % ○:B-LSP □:B-LSP+BFS5 % △:B-LSP+FA5 % 60 Compressive strength (N/mm 2) 28日での反応率が 79%であるとし, 反応によりモノ カーボネートが生成するとしており 4), 星野らは, カーボネート水和物などのアルミネート水和物の生 成量増大により空隙率が低下し強度が発現するとし ている5). 28 d 50 7d 40 30 3d 20 10 0 5 10 15 Admixture quantity (wt%) Fig. 4 Results of compressive strength test of kiln test cements (キルン試製セメントの圧縮強さ試験結果) Mineral and chemical compositions of test kiln clinkers (テストキルンクリンカーの鉱物組成および化学組成) XRD/Rietveld (%) Chemical composition (%) C3S C2S C3A C 4AF Na 2O K2O P2O5 28.2 6.8 9.0 Lime 0.3 SO3 55.7 Periclase 0.1 MgO A 1.0 0.0 0.1 0.0 1.0 B 55.8 23.7 12.7 7.5 0.1 0.4 1.0 0.0 0.1 0.0 1.0 Table 9 Burning condition of test kiln at sampling (サンプル採取時の焼成条件) Burning energy No. f-CaO (%) Burning temperature (ºC) Kiln tail temperature (ºC) Fuel rate (L/h) Specific energy consumption (MJ/t) A 0.41 1447 930 12.5 56389 B 0.55 1432 923 12.0 49380 *All value in Table 9 are in average value for each sample 23 太平洋セメント研究報告(TAIHEIYO CEMENT KENKYU HOKOKU) 第168号(2015):安藝 他 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― ついては, JIS R 5210「ポルトランドセメント」で 規定されている各項目の評価を実施した. 結果を Table 10に示す. 結果より, JIS項目での物性値は, 規格値以上となった. その他の品質項目は同規格の 範囲内であった. また, 基材セメントを高 C3A とし たことで水和熱の上昇が懸念されるが, LSP を添加 することでクリンカー量が減量し, 水和熱低減効果 も期待できる. 今後, 実用化に向けた検討が必要で あると考えている. Fig.5 に乾燥収縮試験結果を示す. 省エネセメン トの乾燥収縮による長さ変化率は, 試製 OPC(図中 Control)とほぼ同等という結果となった. Fig.6 に促進中性化試験結果を示す. 省エネセメ ントの中性化抑制効果は, 試製 OPC( 図中 Control) よりも優れるという結果となった. Table 10 Results of physical test of energy-saving cement (省エネセメントの物性試験結果) Evaluation items Admixture content (wt%) Surface area (cm 2/g) Initial (min) Setting time Final (h) Stability (mm) Compressive strength 2 (N/mm ) 3d 7d 28d MgO (%) SO3 (%) LOI (%) Total alkali (%) Cl (%) Energy-saving cement Under 5 LSP 10 Over 2500 3400 Over 60 Under 10 95 2.3 Under 10 Over 12.5 0.0 27.5 Over 22.5 Over 42.5 Under 5.0 40.9 54.2 0.9 Under 3.5 Under 5.0 1.8 5.2 Under 0.75 Under 0.035 0.1 0.000 Control 5 Energy-saving cement -200 Depth (mm) Drying shrinkage (10 -6) JIS OPC 6 0 -400 -600 4 3 2 Control 1 Energy-saving cement 0 -800 0 Fig. 5 Fig.7に耐硫酸塩試験結果を示す. (a)には試料を 低温(5ºC)にて保管した場合, (b)には試料を常温 (23 ºC)にて保管した場合の結果を示した. ASTM C1012において, 硫酸塩溶液浸漬6ヶ月間における モルタルの長さ変化率が 0.1 % 以下であれば健全と されており, この基準値を図中に点線で示した. い ずれの水準, いずれの保管温度においても, この基 準を材齢 91 日程度までで超過する結果となった. ただし, 低温保管試料は省エネセメントのほうが 試製 OPC( 図中 Control)よりも早く基準を超過し, 材齢 56 日以降, 試料の破壊が見られ, 測定を中止 した. また, 試製 OPC は基準値を超過した後も試料 の破損は見られず, 材齢1年まで測定を継続した. 常温保管試料は材齢 56 日まで, いずれの水準も 同様の推移を示しており, 材齢 91 日以降で差が 50 100 150 Time (days) 200 Results of drying shrinkage test (乾燥収縮試験結果) 0 Fig. 6 50 100 150 Time (days) 200 Results of accelerated carbonation test (促進中性化試験結果) 24 太平洋セメント研究報告(TAIHEIYO CEMENT KENKYU HOKOKU) 第168号(2015):安藝 他 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 0.50 0.30 0.20 0.10 0.00 100 200 Time (days) 300 400 (a) Storage in low temperature (5ºC) (低温保管) Fig. 7 0.30 0.20 0.10 0.00 0 100 200 300 Time (days) 400 (b) Storage in normal temperature (23ºC) (常温保管) Results of sulfate resistance test (硫酸塩劣化試験結果) 顕著に認められた. また, 常温保管試料はいずれの 水準においても破損が見られた. 省エネセメントの ほうが試製 OPCよりも破損までの材齢が短かった. 以上より, 耐硫酸塩性は, 省エネセメントのほう が試製 OPC よりも劣る結果と判断した. これは, 省 エネセメント中に多く存在している C3A 量と硫酸塩 が反応しエトリンガイトが生成することで試料が膨 張する 7) 9)というメカニズムが原因であると考えら れる. 一般的に耐硫酸塩性能面から望ましいといわ れているセメント中の C3A 量は5%以下 7)であり, 省 エネセメントはこの値を大幅に上回っていることか ら, 長さ変化率が大きくなったと考えられた. 今後, 最適石膏量の探索等の検討が必要である. Fig.8 に断熱温度上昇試験結果を示す. 省エネセ メントのほうが試製 OPC( 図中Control)よりも断熱 温度上昇量が小さかった. 70 60 Temperature (ºC) 0 Control Energy-saving cement 0.40 Expansion (%) 0.40 Expansion (%) 0.50 Control Energy-saving cement 50 40 30 20 Control Energy-saving cement 10 0 0 Fig. 8 1 2 3 4 Time (days) 5 6 7 Adiabatic temperature rise curve (断熱温度上昇曲線) 4.ま と め 本研究により, 以下のことが明らかとなった. (1) 電気炉試験により, 原料調合を適宜調整するこ とで 50~170 o C の焼成温度低減効果が確認され た. 今回検討を実施した範囲では, C3A を増加 させ, かつ F と SO3 を添加した水準が最も温度 低減効果が大きかった. (2) テストキルン焼成試験により, 現行の OPC クリ ンカーに対し C 3 A を4% 程度増加させたクリン カー(高 C3A クリンカー)では, 焼成温度および 燃料供給量の低下が確認された. 高 C3A クリン カーの焼成温度は試製OPC ク リ ン カ ー と比較 して15 o C 程度低下し, 燃料供給量は4% 低 下 した. (3) 電気炉およびテストキルン焼成試験で得られた 試製セメントの圧縮強さを評価した結果, 高 C3A クリンカーを使用した場合では, 混合材総 量が 10% かつ LSP 量が5% 以上であれば, おお むね現行の OPC と同等の強さが得られることが 確認された. (4) テストキルン焼成試験で得られた高 C3A クリン カーに 10 % の LSP を添加して試製した省エネセ メントは, 強熱減量以外の普通ポルトランドセ メントの JIS規格項目を満足した. 25 太平洋セメント研究報告(TAIHEIYO CEMENT KENKYU HOKOKU) 第168号(2015):安藝 他 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― (5) テストキルン焼成試験で得られた高 C3A クリン カーに 10 % の LSP を添加して試製した省エネセ メントは, 耐久性試験の結果, おおむね現行の OPC と同等以上の性能を有することを確認した. ただし, C3A を増加させたことにより, 耐硫酸 塩性は劣る結果となった. 以上より, 現行の OPCクリンカーの C3A を4%増加 させ混合材を 10% 置換することにより, 現行の OPC とほぼ同等の品質および耐久性が得られることが確 認された. 一方で, 強熱減量や耐硫酸塩性などの品 質的課題も明確化された. これによる省エネ効果は, 焼成温度低減により4% 程度, 混合材使用量増加に より5% 程度であると考えられた. 現状, セメント 製造エネルギーの大部分は焼成および粉砕に使用さ れている. すなわち, 本クリンカーと現行の OPC ク リンカーの被粉砕性が同等であると仮定すれば, 省 エネセメントによるセメント製造エネルギー削減効 果は, 現行の OPC に対しおおむね9% 程度と試算さ れる. 本研究の一部は, NEDO 助成事業(平成 22 年度)経 済産業省補助事業(平成 23~26年度)「革新的セメン ト製造プロセス基盤技術開発」の一環として行われ たものである. 参 考 文 献 1) 赤岩重雄,須藤儀一,田中光男. クリンカー焼成 に お け る CaF2 の ミ ネ ラ ラ イ ザ ー 効 果 と CaO− SiO2−CaF2 系化合物について. セメント技術年報, 1966,20,p.26−31. 2) 田中光男,沢田正志,柴岡貞男. ミネラライザー による耐硫酸塩性の付与に関する2, 3の実験. セメント技術年報,1980,34,p.90−93. 3) M.Yamashita, H.Tanaka. Low-Temperature Burnt Portland Cement Clinker Using Mineralizer. Cement Science and Concrete Technology(セメ ント・コンクリート論文集),2011,65,p.82−87. 4) 坂井悦郎,中村明則,大場陽子,李琮揆,大門正機. カルシウムアルミネートの水和反応におよぼす 石灰石微粉末の影響. 無機マテリアル,1997,4, p.126−131. 5) 星野清一,山田一夫,平尾 宙,山下弘樹. 石灰石 微粉末を添加したセメントのX線回折/リートベ ルト法による水和反応解析と強度発現機構に関 する検討. セメント・コンクリート論文集, 2006,60,p.47−54. 6) 新島 瞬,大野麻衣子,黒川大亮,平尾 宙. 製造条 件が C2S 固溶体の水和活性に与える影響. セメ ント・コンクリート論文集,2014,68,p.96−102. 7) 荒井康夫. セメントの材料化学. 大日本図書, 1984,262p. 8) 吉川知久. 鉱化剤を用いたセメントクリンカの 低温焼成. Journal of the Society of Inorganic Materials, Japan,2011,18,p.20−24. 9) セメント協会. Cement & Concrete エンサイクロ ペディア. セメント協会,2004,p.204. 26 太平洋セメント研究報告(TAIHEIYO CEMENT KENKYU HOKOKU) 第168号(2015):安藝 他 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 白頁
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