Book Review [ 書 評 ] コーポレートファイナンス実践講座 評者 赤井 厚雄 早稲田大学総合研究機構 研究院客員教授 コーポレートファイナンスについての講座は、今では 国内の多くの大学に置かれるようになった。それは、 資金調達や投資行動、配当政策や資本政策など、企業 を経営したり、企業や事業に対する投融資をおこなっ たりする上で不可欠な基礎知識が「コーポレートファイ ナンス」と呼ばれる科目に集約されているからである。 これは、金融教育の分野での先進国米国においてさ らに顕著で、ほとんどの有力大学・ビジネススクールで コーポレートファイナンスはファイナンス・金融のコア必 修科目として置かれ 、応用分野である「不動産証券化」 や「ベンチャーキャピタル」、 「ストラクチャードファイナ ンス」などに進む登竜門と位置付けられている。とこ 著 者 出 版 社 発 行 日 定 価 堀内 勉(森ビル取締役 専務執行役員) 株式会社中央経済社 2014 年 10 月 1 日 4,800 円 + 税 ろが、実務家を対象にした大学院専門職課程で使える 「日本語で書かれた」コーポレートファイナンスの教科 書を探すことは至難の技である。 験から得られたインサイト、 「貸す側の気持ち、仲介す る側の気持ち、運用する側の気持ち、借りる側の気持 国内で手に入るこれまでの教科書が過度に理論重 ち」を等しく理解できる立場にある「金融人」としての 視であったり、欧米の金融システムを題材にした英語 複眼的な視点が本書の随所に現れている。また、 「日 の本の表面的な翻訳 ( 用語の誤訳もしばしば指摘され 本では日本なりのファイナンスのあり方や仕事の回し方 る) であったりすることがその理由である。 を体得しなければならない」 「企業側としても銀行員の 目利き能力を求めるだけではなく、企業が自社の事業 本書『コーポレートファイナンス実践講座 』は、著者 や技術について銀行員に理解してもらえるよう、・・・自 の堀内氏自らはしがきで執筆の動機を述べておられる 助努力が何より重要である」 「外部の関係当事者との ように、そのような隙間を埋めることが期待される、日 突っ込んだやり取りができるようにならなければ、どれ 本語で書き下ろされた初めての包括的解説書というこ だけファイナンス理論を理解していても意味がない」等 とができる。 の現実主義的視点も、ファイナンスの世界で良い仕事 をするためには重要なことだと、本書を読みながら改め しかし、本書の真の価値は単に「解説書」としての 役割にあるのではない。堀内氏の銀行マン、証券マン、 て思う。ファイナンスの初学者・金融のベテランともに学 びの多い良書である。 運用会社、事業会社の財務・経理担当役員としての経 January-February 2015 119
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