戦後エネルギー産業史 - HERMES-IR

Title
Author(s)
Citation
日本エネルギー経済研究所編 『戦後エネルギー産業史』
橘川, 武郎
社会経済史学, 53(2): 234-236
Issue Date
1987-06
Type
Article
Text Version publisher
URL
http://hdl.handle.net/10086/17739
Right
Hitotsubashi University Repository
日本 エネ ルギー経 済 研 究 所 編
橘
川 武 郎
﹃
戦後 エネ ルギ ー産 業 史 ﹄
二
本 書 は ' 日本 エネ ルギ ー経 済 研 究 所 創 立 二十 周年 記 念事 業 と
し て企 画 さ れ ' 中 村 隆 英 氏 を監 修 者 と し て刊 行 さ れ たも の であ
る。 本 書 の構 成 お よび執 筆 分 担 は' 次 のと おり であ る。
監 修者序 文 (
中村 隆英 )
総 論編
編 者序 文 (
生 田豊 朗 )
第 -部
戦 後 の エネ ルギ ー情 勢 と エネ ルギ ー世 界戦 略 (
湯
第 7章
第 6章
原 子力 産業 (
鈴木 利 治)
都 市 ガ ス産 業 (
谷 川清 )
戦 後 エネ ルギー基 本 統 計 (
松 井 賢 一)
石炭 産業 (
木 村徹 )
付 録Ⅰ
戦 後 エネ ルギ ー産 業 史 年 表 (
鈴 木 琴 二 ・西 川浩 子 )
第 8章
付 録Ⅱ
二
本 書 の特 徴 と し ては' 以 下 の 二点 を あげ る こと が でき る。
第 lは' 戦 後 日本 の エネ ルギI産業 史 にか か わ る基 本 的 な事
項 を 、 き わ め て コンパク ト に叙 述 し て いる こと であ る。 都 市 ガ
ス産 業 や原 子 力 産業 な ど従 来 あ ま り 取り 上 げ ら れ て こな か った
分 野 にも 光 が あ てら れ て いる し、 付 録 の統 計 諸 表 や年 表 ' 巻 末
の参 考 文 献 - ストも 有 用 であ る。 本 書 が 、戦 後 エネ ルギ ー産 業
史 の解 明 を めざ す 研 究 者 にと って' 一次 接 近 と し て必読 の書 に
な る こと は、 ま ず 間 違 いな い。
第 二は' 監 修 者 の中 村 氏 が 「最 近 のめざ まb い変 容 の段 階 に
焦 点 をあ てた ユ ニー ク な この産 業 史 」
第 1章
る よ う に' 石 油 危 機 以 降 の叙 述 が 厚 い こと であ る。 この点 は 総
m貢 ) と述 べら れ て い
日本 の エネ ルギ1需 給 (
藤 日和 哉 ・松 島 彰 )
(⋮
第 2章
戦 後 日本 の エネ ルギー政策 (
富館 孝 夫 )
浅俊 昭).
第 3章
〇 日) の三 二% にあ た る石 油 危 機 以降 の時
は 一九 八六 年 七 月 一
論 編 にお い てと く に顕 著 であ り 、 戦 後 四 一年 間 (
本 書 の発行 日
期 に つい て・ 総 論 編 では 五六% の拡 幅 が さ か れ て いる (
各蘇編
各 論編
電 力 産業 (
鈴 木 等 二)
石 油 産 業 (田中 紀 夫 ・小 川芳 樹 )
算Ⅱ部
第 5章
弟 4章
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戦後 エネルギ ー産業 史
いる こと は '本 書 のメ- ット にな って いる。
ネ ルギー情 勢 の中 間 的 安 定 期 ) 下 の状 況 を 比 較 的 詳 し - 論 じ て
一九八〇 年 代 の エネ ルギー新 情 勢 (原油 価 格 下 落 に示 さ れ る エ
では 四〇%)。 ま た 、内 容 的 にも ' 総 論 編 、 各 論 編 を 問 わ ず '
し た 日本 の内 的 シ ステ ムが存 在 し た こと も 、 忘 れ て は な る ま
が 、有 利 な外 的 条 件 を他 の欧 米 諸 国 に比 べてより 効 果 的 に活 用
の エネ ルギー事 情 が 有 利 に作 用 し た こと は も ち ろ ん事 実 であ る
だ と ' 評 者 は考 え る。 こ のうち ① の点 に関 し ては、 当 時 の世 界
シ ステ ムのど こが ど のよ う に変 化 し た か と いう 視 角 か ら 論 じ ら
際 の基 準 を 与 え る こと にも な る。 ② の論 点 は '① で解 明 さ れ た
い。 そ し て、 この シ ステ ムを 解 明 す る こと は、② の点 を 論 ず る
し か し 、本 書 を 研 究 書 と し て評 価 す る と 、 も の足 り な さ が 残
三
る ことも ' ま た事 実 であ る。 本 書 の問 題 点 と し ては ' 以 下 の三
て分 析 の焦 点 が ぼ やけ てし ま って いる、 と 言 う こと が で き よ
紙 幅 を さき な が ら 、① の究 明 が 不十 分 であ る た め に' 全 体 と し
れ る のが 、 適 切 だ か ら であ る。 本 書 では、 ② の検 討 にか なり の
第 一は 、 日本 の戦 後 エネ ルギ ー産 業 史 を 論 ず る にあ た って の
う0
点 を指 摘 す べき であ ろ う。
トー タ ルな 問 題意 識 が 稀 薄 であ り' 従 って' 分 析 の焦 点 が 不鮮
ー業 界 と エネ ルギー需 要 者 (民生 用 、 産 業 用 を 問 わ ず ) と の利
第 二は' 日本 政 府 の エネ ルギ I政 策 に ついてか なり詳 し く 論
明 な こと であ る。 こ の点 は 、本 書 全 体 に つい ても 各 章 に ついて
や や常 識 的 ではあ る が 、戦 後 日太 の エネ ルギ ー産 業 史 を 論 ず
害 調整 , エネ ルギー関 連 諸 産 業 間 の利 害 調 整 、特 定 の エネ ルギ
も 問 題提 起 や結 論 に相 当 す る記 述 が存 在し な い こと 、 各 章 の記
る にあ た っては '分 析 の焦 点 を 、① 高 度 経 済 成 長 の不 可 欠 な条
ー産 業 内 の企 業 間 の利 害 調整 な ど の面 で' いか な る役 割 を は た
じ な が ら , 政 策 決 定 過 程 や政 策 効 果 に関 す る分 析 が 不十 分 な こ
件 であ った エネ ルギ I の低 廉 で安 定 的 な供 給 は、 いか な る シ ス
し た か が、 検 討 さ れ る必 要 が あ ろ う。 ま た、 政 策 効 果 に関 し て
述 がば らば ら で相 互 連 関 が 不 明 確 な こと t な ど に端 的 に示 さ れ
テ ムのも と で可 能 と な った のか '② そ のよ う な シ ステ ム の有 効
は、 エネ ルギ ー政 策 が ど れだ け市 場 メ カ ニズ ムを変 容 さ せ た か
と であ る。 ま ず 、政 策 決 定 過程 に関 し ては、 政 府 が ' エネ ルギ
性 が後 退 し た 石 油 危 機 以 降 の時 期 に、 日本 政 府 や エネ ルギ ー業
が 、 問 わ れ なけ れば なら な い。 残 念 なが ら本 書 にお い ては ' こ
て いるQ
界 は ど のよ う な対 応 を 示 し た のか t と いう 二点 にあ わ せ る べき
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れら の分析 は,部分的・断片 的 なも のにとどまり'系 統的 なも
のにはな っ・
ていな い。 このよう な難点 が生 じた要因 の 一つは'
エネ ルギ ー政策 を、総 論編 では市場動向 と切 り離 し て論じ、各
論 編 では各産業 ご と に分断 し て検討す ると いう'本 書 の構 成上
の問題 に求 める ことが でき よう。
第 三は' エネ ルギ ー関連諸 産業 に携 わ る諸企業 の主体 的 な ど
へイヴ ィアを・ ほと んど取り上げ ていな いこと であ る。 国 際的
にみ て戦後 日本 の エネ ルギー産業 は、政府 の規 制下 におか れな
がらも'基本的 には民有 民営 の企業 形態 を採 用 し てきたと いう
であ る)
。従 って、 エネ ルギ ー 関連諸企業 の民間企業 とし て の
特 徴 をも つ (
主 要国 の中 で同様 の特 徴をも つのは、米国ぐ ら い
ど へイヴ ィアを検 討す る こと は'戦後 エネ ルギ ー産業史研 究 の
中 で、 一つの重要 な論点 と なる。 にも かかわ らず'本書 にお い
ては、 このよう な検 討 が ほと んど行 なわれ て い な い。 わ ず か
に、出光 興産 の石油連 盟脱 退 (一五七頁) や共同石 油 の 発 足
(一六 二∼ 一六 三貢) などが論 じられ ているが、 これらは、本
書全体 の中 では、あ- ま でも例外的 な事例 にすぎ な い。
四
以上 のような問題点 が残 るとは いえ'本 書が戦後 エネ ルギー
産業史研究 の マイ ルス-1 ンの 一つとなる ことは' ほぼ確 実 で
あ ろう。今 後 の研究 は'本 書 の成 果を ふま え て、分析 の焦点 を
明確 にしながら二 万 で エネ ルギ ー政策 の決定 過程 と効 果 の究
明 に力 を入 れ つ つ,他方 で エネ ルギ ー関 連諸企業 の主体 的 ビ へ
イヴ ィアに光 をあ てる方 向 で、進 められなければ なら な い。
(
東洋経済新報社, 一九 八六年 七月' ・・
a十 三九〇貢 、 五三〇〇
円)
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