スマートフォンを利用した路面管理 西 信衛*1,中村 康裕*1,酢谷 浩*2 1.はじめに 東日本高速道路株式会社 新潟支社 湯沢管理事務所(以下, 小千谷基地 湯沢管理事務所という)の管理路線である関越自動車道 小 川口基地 千谷IC~水上IC間は,豪雪地帯である魚沼・南魚沼市域を通 過しており,降雪量は他高速道路管理事務所管内と比べて随 小出基地 23.1mであり(湯沢管理事務所計測値),除雪作業は過酷を 極めるものとなっている.また,当該区間は,関東地方と北 陸地方を結ぶ物流の要であり,冬期間において,除雪作業や 六日町基地 凍結防止剤散布作業による交通の確保は重要な責務である. 塩沢基地 湯沢管理事務所では,前述のような状況の中で適切な路面 管理を行うために,高速道路本線を巡回走行し雪氷対策本部 湯沢基地 に気象状況や路面状況をリアルタイムに報告する,雪氷巡回 班を常駐させている.また,本線上には管理用監視カメラが 管理延長88.1km中43箇所設置されており,雪氷対策本部では, 土樽基地 関越自動車道 L = 88.1km 一である.平成23年度年間累計降雪量は,最も多い土樽PAで その管理用監視カメラの映像を常時モニタリング出来るよう になっている.従来の雪氷対策は,代表地点に設置されてい る管理用監視カメラに映らない地点の状況把握であるとか, 時々刻々と変化する気象・路面および作業状況に対応するた 谷川岳基地 め,本線の巡回作業を行い,その報告とモニタ映像の情報を 水上基地 合わせて雪氷対策作業の内容を判断していた.ここで,雪氷 巡回班が現地状況の動画を撮影し,リアルタイムで配信すれ ば,雪氷対策本部にて現地状況を視覚的に確認すること出来 図-1 湯沢管内雪氷基地位置図 るようになる.また,実際に現場にいる巡回班の報告と映像 行う連絡員が2名(以下,本部連絡員という),作業内容の 情報合わせれば,より効率的かつ効果的な雪氷作業を行うこ 決定を行う指示者が1名常駐し,雪氷対策作業を管理してい とができると考えた. る. そこで,本報告は,スマートフォンを利用した車両画像伝 送・位置把握システムであるパトロールビュー(以下,パト ビューという)を用いた路面管理について,平成25年度の運 用状況を述べるものである. 3.雪氷巡回班の業務とパトビュー導入の経緯 湯沢管理事務所管内には,管理用監視カメラ,気温・路温 計,風速・風向計,雨量計がIC間の複数の代表地点に設置さ れている.本部連絡員は,それらの計測値と雪氷巡回班の報 2.湯沢管理事務所の雪氷体制 告を総合的に判断して雪氷作業の指示を行っているが,現地 湯沢管理事務所は,小千谷IC~水上IC間に9箇所の雪氷基 を目視により確認している巡回班の報告は,重要な判断材料 地を設け,雪氷対策作業を行っている(図-1).雪氷巡回班 となっている.また,雪氷巡回の報告内容は,時々刻々と変 は,3パーティを編成しており,小千谷IC~六日町IC間,六 化する気象状況だけでなく,主たるものとして表-1に示すよ 日町IC~土樽PA間,谷川岳PA~水上IC間にそれぞれ1パーティ うな内容もあり,その果たすところは非常に大きい.しかし を配置している(以下,各区間を担当する雪氷巡回班をそれ ながら,電話や無線を使用した口頭による報告では,適切に ぞれ,小出班,湯沢班,水上班という).雪氷巡回班は,担 内容を伝えるのに時間を要したり,意味が歪曲して伝わって 当する各区間において降雪予報があった場合24時間配置され, しまうこともあった.降雪強度や路面状態については,マニ 雪氷巡回作業を行う. ュアルにより用語の統一を図っているものの,感覚的な言い 雪氷対策本部は,主として各雪氷基地との連絡,指示作業 回しによる伝達になってしまい,個人の習熟度によるところ *1 株式会社ネクスコ・メンテナンス新潟 湯沢事業所 *2 山田技研株式会社 が大きい状況である.また,表-1③については,区間全体で の判断が必要であるが,作業範囲の指定や路肩除雪のタイミ 表-1 雪氷巡回班の主たる業務 条件 報告項目 ングについては,巡回員の経験値に委ねられてしまう部分も ① 気象状況 多く,ベテラン巡回員であっても議論を呼ぶところである. そこで,本部にいながら現場状況を視覚的に確認でき,巡 一 般 回員とコミュニケーションを取りながら,適切な作業判断を 時々刻々と変化する路面状況を報告し,モニタに移り づらい現象を把握するために行う. ② 路面状況 行えるツールとしてパトビューの試験導入に至った. ③ 路肩部の堆雪状況 4.パトビューシステムについて パトビューは,スマートフォンを画像撮影端末として用い て,5秒間隔で撮影した静止画像を携帯電話回線にて所定PC 端末に伝送するシステムである.さらに,パトビュー搭載車 降 雪 が 強 い 場 合 両に設置したGPSアンテナユニットより車両の位置情報をワ ④ トンネル坑口の堆雪状況 ューシステムの概要図を図-2に,パトビューシステムの機材 設置イメージを図-3に示す.システム導入に際して,車両に 設置するものとしては,トンネル内に車両が進入した場合の 降 雪 が 弱 い 場 合 位置把握用ユニットであるP-BOXとGPSアンテナユニットだけ であり,容易に導入することができる. パトビューは,車両位置情報を高速道路管理用位置表示で あるKP(キロポスト)とリンクさせることで,普段使用して いる位置単位のまま巡回員とコミュニケーションを図ること 降 雪 が 無 い 場 合 ロータリー車による路肩拡幅作業の必要性を判断す るために行う.雪の溜まりやすい箇所などは,現地確 認による判断が必須である. 吹き込みによる堆雪や除雪車による持ち込み雪排 除作業の必要性判断のために行う.降雪強度が強 い場合,短時間で多くの堆雪があるため,現地の確 認が必須である. 標識等の雪庇落し作業の必要性判断のために行う. 降雪が強い場合,標識等への着雪による雪庇が急 ⑤ 標識,シェッドの着雪状況 激に成長するため,現地の確認が必須である.ま た,処理後の確認の行う. イヤレスでスマートフォンから所定PC端末に送信し,車両位 置をカーナビレベルの精度で把握することができる.パトビ 概略 時々刻々と変化する気象を報告し,モニタに移りづら い現象を把握するために行う. ⑥ 定点による 凍結防止剤濃度測定 ⑦ 部分的な降雪 路面の変化 凍結防止剤散布作業の必要性判断のために行う. 降雪が弱く,路面に圧雪が発生しない場合,凍結防 止剤の濃度は時間とともに低下していくため,現地の 確認が必須である. 降雪によるチェーン規制提案の必要性判断のために 行う.部分的に圧雪が残っている場合や,降雪が局 所的に強い場合などがあるため,現地巡回が必須で ある. 凍結防止剤散布作業の必要性判断のために行う. 降雪が無く,日中の気温が上昇した場合,滲みだし 中央分離帯,路肩の残雪 ⑧ が発生する.それらは夜間に凍結する恐れがあるた からの滲みだし状況 め,発生位置の把握が必須である. 雪堤処理作業の必要性判断のために行う.降雪が 無く,日中の気温が上昇した場合,特に終冬期であ 中央分離帯,路肩の雪堤 ⑨ ると発生していた雪堤が崩れる恐れがある.それら 生成状況 の監視とともに,張り出しの発生位置の把握は必須 である. が可能となっている.運用時の本部PC端末の画面および運用 時のスマートフォンの画面イメージを図-4に示す.現地で連 internet 続撮影された画像はリアルタイムに配信され,図-4のように 表示される.同時に車両位置が100m単位のキロポストで表示 GPSアンテナ され位置を把握できる.また,送られてきた画像の右には, 管内路線図が表示されており,撮影のポイントをグリーンの スマートフォン ドットで,現在の車両位置を矢印で表示しており,視覚情報 でも位置を把握できるようになっている.スマートフォンの P-BOX 画面にも本部PCに送られている画像が表示されており,また, 送信が確認された時間が表示されているので,不具合が発生 (TN内位置把握用) 図-2 パトビューシステムの概要図 した場合に直ちに認識できるようになっている. パトビューは,車載カメラとしての運用が基本であるが, 徒歩モードに切り替えることで降車時に携帯し,徒歩によっ GPSアンテナ ユニット て撮影を続けることが可能である.これによって,停車が可 能な場合に限るが,何らかの変状を車上で確認した場合,徒 歩によって接近し,本部に速やかに報告することが可能であ る. パトビューで撮影した画像は,専用アプリケーションをイ ンストールした所定のPC端末上に保存され,過去の記録とし て日時を指定して再生したり,直接画像ファイルが保存され ているフォルダにアクセスして参照することができる.記録 画像サイズは640×480のVGAサイズで保存され,20~50キロバ イトに容量を抑えているため,3時間程度連続撮影を行って P-BOX (TN内位置 把握用ユニット) スマートフォン 図-3 機材設置イメージ 撮影ポイントを グリーンのドットで表示 現在の車両位置 ↑ 画像がリアルタイムに伝送されている.同時 にKPも100m単位で表示され,位置を把握できる. → 管内路線図に現在の車両位置と,グリーン のドットにより撮影ポイントが表示されている. ↑ 車載スマートフォンの画面 (*画像はめ込みによるイメージ) 図-4 パトビュー運用時の PC 端末表示画面およびスマートフォン画面 も50メガバイトほどの容量である(ファイル数2091で54.5MB 実測). 5.平成25年度の運用実績 平成25年度雪氷期は,試験運用の位置付けで六日町IC~土 樽PA間を担当する雪氷巡回湯沢班の車両にパトビューを導入 した.当該区間は,湯沢管理事務所管内でも特に降雪量が多 (a) (b) (c) (d) い区間であるので,降雪量に付随して除雪作業の量も多い. ここでは,H25年度のパトビューの運用内容を,実際に送信 された写真とともに記述する. 5.1 路面状況変化の報告による作業終了判断 通常,降雪によって路面に薄いシャーベット状の積雪が始 まると湯沢管理事務所と関係警察機関の協議により,本線に チェーン規制が敷かれることとなる.その後,降雪が次第に 写真-1 降雪前後の除雪作業時の路面状況 降り止み,それまで継続的に行われていた除雪作業の量が, 降雪強度を上まると路面の積雪は完全に排除され,ノーマル このように,わずかな距離,時間の差で路面状況は時々刻々 タイヤ車のチェーン規制が解除される.この時,完全に積雪 と変化している.写真-1(c)は,チェーン規制の解除協議が が排除されていればよいが,仮に排除しきれない積雪が部分 行われる1時間ほど前の状況である.降雪は止んでいるもの 的にでも残っていた場合,利用者に危険が及ぶことは明白で の,トラック等の落し雪と思われるものや,除雪車で排除し ある.チェーン規制解除の判断は,開始時と同じく関係警察 きれなかったシャーべットが部分的に残っている状況との報 機関との協議になるわけだが,除雪作業の完了確認を別途巡 告であったため,凍結防止剤溶液の散布作業をおこなってい 回班にて行うことで,確実に安全を確認している.写真-1は, る.写真-1(d)は,溶液散布作業の後の状況である.シャーベ 降雪が降り止む前と,降雪が降り止み,除雪作業が行われた ット状の積雪等もなく,普通タイヤによる走行も可能な状況 後の状況をそれぞれ確認したものである.写真-1(a)の写真 となっていた.以上が,パトビューによる報告を利用しなが は降雪が続いている中,編成除雪作業が行われた直後の路面 ら,チェーン規制解除までの除雪作業内容を決定していった を走行したものだが,降雪が断続的に強くなるため,うっす 事例である. らとシャーベット状の積雪が始まっている.写真-1(b)は写 5.2 トンネル坑口の積雪と作業判断 真-1(a)の2km土樽PA側だが,降雪はやみ,積雪は見られない. トンネル坑口は,吹き込み雪や除雪車による持ち込み雪に よって路肩側に積雪が発生する.積雪が多くなってくるとト 上り線 下り線 (a) (b) (c) (d) (e) (f) ンネルに進入する際の圧迫感増加や,ハンドル操作ミスの原 因となる可能性がある.写真-2は,石打トンネル坑口の積雪 状況と作業後状況をそれぞれ確認したものである.写真2(a)(b)は,写真-2(c)(d)の前日に取られたもので,若干の積 雪があるものの作業の必要はないと判断できるものである. 写真-2(c)(d)が撮影された日は,日降雪量50cm程度であり除 雪作業が多く稼働したため,トンネル坑口の積雪量が急増し ている.この状況を雪氷本部で確認し,規制を伴った排雪作 業の手配を行っている.持ち込み雪作業は,降雪予報がなか った撮影日の4日後に行い,除去完了状況についてもパトビ ューで確認している(写真-2(e)(f)). 5.3 徒歩モードによる門型標識着雪状況の報告 標識等への着雪は,放置しておくと氷状になり高速道路本 線上に落下した場合,事故につながる可能性がある.通常は 本線の雪庇処理作業により完全に除去されるが,ときおり部 分的に再着雪が発生する場合があり,巡回員はそれらの監視 も行っている.写真-3は,巡回走行中に着雪らしきものを発 見し,停車可能な気象,路面状況であったため,徒歩モード に切り替えて本部に報告したものである.これを受けて雪氷 本部では,当日の部分的な着雪除去作業を手配することとな 写真-2 石打トンネルの持ち込み雪状況 った. 6.平成26年度雪氷対策作業への活用 平成25年度の試験的な導入では,「5.平成25年度の運用 実績」にて記述した通り,良好な運用成果を収めた.本部連 絡員としては,巡回班と,現地状況を視覚的に共有しながら コミュニケーションを取ることで円滑な判断,作業が行える ことが確認された.また,路面状況,気象状況を記録してお けることで,対外的に除雪作業の根拠を説明する際にも,非 常に有用であることが確認された.平成26年度雪氷対策では, これらの実績を受けて,新たに巡回小出班にもパトビューを 導入する方針である. 7.おわりに 平成25年度の雪氷対策作業では,スマートフォンを利用し た画像伝送・位置情報システムであるパトビューを試験導入 し,本部連絡員と巡回班の間で円滑なコミュニケーションを とることで,より精度の高い雪氷対策作業を行えるようにな った. 今後は,小出班にも追加導入されるものと合わせて,より 確実で精度の高い雪氷対策作業を目指し,湯沢管内の冬期交 通の確保に取り組むものである. 写真-3 標識支柱の着雪状況(徒歩モードによる撮影)
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