第 10 回 一造会大賞授賞式・発表会

第 10 回 一造会大賞授賞式・発表会
東京大学 中島ホール
( 生中継 仙台・札幌 )
平成 27 年 10 月 24 日
全国 1 級造園施工管理技士の会
1
第 10 回 「一造会大賞」 授賞式、受賞者発表会
次 第
13:00 開会あいさつ 13:05 授賞式
13:20 大賞(最優秀賞)発表 ① 推定樹齢 600 年「鶴の松」の移植と維持管理について
古積 昇 氏(古積造園土木㈱)
優秀賞 発表 ② 地域の自然や環境教育に配慮した豊島区新庁舎「としまエコミューゼタウン」
塩井景介 氏(西武造園㈱)
③ 住み続けたくなる賃貸マンションを目指して コミュニティ形成ツールとしての緑の活用
大竹彩奈、藤本加奈子 氏(箱根植木㈱)
特別賞 発表
④ 「緑のリサイクル事業」の継続がもたらした成果
清水誠大、塩田哲児、石井匡志、横村到、長嶺利樹氏(アゴラ造園㈱)
15:00 第 10 回 一造会大賞講評 選考委員長 藤井英二郎氏(千葉大学教授)
15:10 一造会会長賞の紹介及び表彰 / 「グランド一造会大賞」のご紹介
15:30 閉会
下村先生と東大キャンパス歩く
U 39 若手造園技術者の語る会
16:15 ~ 17:15
15:30-17:00
東大構内視察
東京大学 中島記念ホール
(東京大学弥生キャンパス フードサイエンス棟前集合)
解説:下村彰男 東京大学大学院教授)
解説:下村彰男 東京大学大学院教授) ◆造園 CPD カードリーダー受付
◆造園 CPD カードリーダー受付
15:30-15:50
16:00-16:20
17:30 意見交換会(参加費 5,000 円)
東京大学 中島記念ホール
2
1 審査員長総評
第 10 回一造会大賞の審査を終えて
藤井英二郎 千葉大学大学院教授、一造会顧問
一造会大賞が第 10 回を迎えたこと、おめでとうございます。一造会会員の日々の研鑽と造園施工技術の社会へ
の発信が着実に進んでいることの表れで、関係者のご努力に敬意を表します。今回の応募件数は 16 件でした。近
年は、施工に加えて、管理や運営に関わる応募が増えつつあり、造園施工界の仕事が多様化していることを改めて
実感致しました。
審査の結果、一造会大賞に選ばれたのは、「推定樹齢 600 年のゴヨウマツ “ 鶴の松 ” の移植と維持管理」で、失
敗が許されない大仕事を堅実に成功させた技術力が高く評価されました。とりわけ経験に基づく診断力と臨機応変
な対応力によって設計にはなかった様々な工夫によって移植を成功させ、その後の維持管理も樹木医の参加を求め
ながら丁寧に進め樹勢を回復させていることが高く評価されました。優秀賞の「地域の自然や環境教育に配慮した
豊島区新庁舎」は、地域の自然を、10 階から各階の屋上緑化部分を流れ下る雨水の流れに沿って再現した施工技
術が評価されました。もうひとつの優秀賞「賃貸マンションにおけるコミュニティー形成ツールとしての緑の活用」
は、ハーブガーデン、菜園などでの栽培・利用を居住者との様々なイベントとして企画・運営しながらマンション
の魅力を高めていることが評価されました。特別賞の「緑のリサイクル事業の継続がもたらした成果」は、自治体
と連携して約 30 年に亘って継続されてきたリサイクル事業が技術開発や担当者による関連施策の展開によって支
えられ、この事業の継続が環境教育や生物多様性回復に繋がっていることが高く評価されました。
一造会大賞も 10 回を数えて応募資料も改善されてきましたが、さらに改善を促したい点がいくつかあります。
人と自然の共生を図る造園では設計と施工は一体的ですので、施工者の創意工夫・提案を明記する必要があります。
また、全ての技術には前提条件や理由、根拠がありますので、それらを明記することで技術の独自性が明確になり
ます。
2 審査委員講評
(1)ハード・ソフト両面の技術が求められる時代
荻野 淳司 一造会 副会長(一造会大賞審査委員会 副委員長)
一造会大賞の各賞を受賞されたみなさんおめでとうございます。
今回は、当表彰制度が始まり 10 回目を数える節目に当たる年であり、16 件の応募に対して新たに予備審査の
制度をつくり、選考委員会(本審査)までに当表彰制度に相応しい作品であるかの判定や、応募資料の過不足を平
準化するために、技術部会のメンバーから構成する予備審査会を実施しました。その結果本年は、応募された全て
の作品が選考委員会へ送られ、厳正な審査の結果、大賞 1、優秀賞 2、特別賞 1 が選考されました。
大賞受賞作品である「鶴の松 ・・・」は、「失敗できない大仕事」を高い移植技術とその後の養生管理段階におけ
る診断と樹勢回復の処置など全ての工程に創意工夫があり、現場を見ずとも感動を覚えた作品であります。
優秀賞の 2 作品も都会の中にあって、自然や生態系の復元をテーマとした環境空間を創出し、市民へ提供する
という現代社会で重要な役割を果たす作品です。
従来の「竣工したら終わり」から、自分たちで「育成していく」という生き物と共にある造園の仕事の意義を考
えさせる受賞作品だったと思います。造園は、ハード技術と併せて、ソフト技術の開発や活用も必要であり、それ
が造園の楽しさであることを教えてくれました。
おわりに、一造会大賞 10 周年に合わせ、第 1 回~ 9 回目までの大賞の中から「グランド一造会大賞」を選考し、
3
一造会の自慢作品として発表しようというチャレンジをしていることをご報告させて頂きます。
(2)現場技術者の創意工夫と粘り強い取り組み結果の秀作揃う
町田 誠 (公社)日本造園学会 関東支部 副支部長、国土交通省 都市局 公園緑地・景観課緑地環境室長
平成 27 年度第 10 回「一造会大賞」で各賞を受賞された皆様、誠におめでとうございます。皆様方の不断のご
努力がこうした作品の応募に繋がり、その中での栄誉に心より敬意と祝意を表したいと思います。
このたびの応募作 16 作品を一言で言うと大変粒ぞろいであり、大きな優劣は容易につけられないといった印象
でした。しかも、造園の特性を良く表しており、施工に関する基礎技術から、環境対策や今日的・社会的課題へ対
応するための新しい発想から実践に至る技術、外部空間のプランニング・デザインに関する技術、魅力的なオープ
ンスペースの管理・運営に係る技術など、非常に幅広いテーマにわたって応募があったことから、そういった意味
でも、応募作を単純に並べて評価することが大変困難でありました。その中でも大賞に輝いた『「鶴の松」の移植
と維持管理』は、老齢の大木を移植・活着・樹勢回復させたもので、伝統的な確かな造園技術と様々な現場の工夫
が功を奏した作品として、圧倒的な迫力と説得力をもった作品でした。
その他の作品についても、個別に記述するスペースはありませんが、現場の技術者の創意工夫と粘り強い取組の
結果としての秀作であることは言うまでもなく、応募の資料からそれらが大変良く伝わって参りました。
(3)造園施工業の職能や役割を高め、暮らしに深くかかわっていこうとする取り組みを評価
韓 圭希 (公財)都市緑化機構 嘱託、釜山大学 兼任教授、URBANICS ㈱ 共同代表取締役
昨年につづき、一造会大賞の審査に携わらせていただきました。今回も多くの素晴らしいプロジェクトを知るこ
とができうれしく思っています。受賞されたみなさま、おめでとうございます。また、応募されたみなさま、会員
のみなさまのますますのご活躍を祈念しております。
私は、造園施工業の職能や役割を高めひとびとの暮らしにより深くかかわっていこうとする取り組みを行ってい
るプロジェクトを、今回も評価させていただいたつもりです。
応募いただいたプロジェクトはそれぞれ調査・計画・設計・施工・維持管理・運営のいずれかの段階にあって、
応募者のみなさんも受注者・監理者・技術者といった本来の立場はあるのですが、面白いプレゼンテーションには
それらをあまり意識させず、立場や役割を超えた視点にもとづいた取り組みがなされ、表現されているように思い
ます。
また、今回はとくに時間をかけたプロジェクトの印象が強かったです。大賞は貴重な記録だと思いますし、特別
賞の実績はこれからのスタンダードになりうる可能性を十分に持っていると思います。
私たちの仕事は日々の穏やかな暮らしを支え、単調な日常に彩をもたらすものです。みなさんが携わっている業
務も、もっと魅力的に人に語ることができるのではないでしょうか。次回も素敵なプロジェクトに出会えることを
期待しています。ありがとうございました。
(4)造園というものを一連の行為として捉える
萩野 一彦 (一社)ランドスケープコンサルタンツ協会 技術委員長、㈱オオバ まちづくり本部 担当部長
第 10 回一造会大賞の各賞を受賞された皆様、おめでとうございます。
第 5 回目から審査に加わり、私自身が今一番に考えることは、「造園というものを一連の行為として捉える」と
いうことです。発注者、設計者、施工者、管理者という役割分担はあるものの、それぞれがすべての役割を理解し、
造園という行為を通じて目標を共有することによって造園空間が生まれるのだと考えています。その上で、施工業
4
務、管理業務、技術開発業務の別に係わらず、次のように私なりの評価の視点をもって審査にあたっています。
大きくは 2 つの視点であり、1つ目は、造園技術者である応募者が、どう関わり提案し何をしたかが分かるこ
とです。2つ目は、現場ごとの機能目的である「用」の発揮を大前提とした上で、造園技術の特徴を十分に生かし
た仕事であるかどうかです。
そして、2 つ目の視点の中の「造園技術の特徴」は、6 項目に整理できると思います。それは、①植栽を扱う技術、
②自然に順応した設計・施工・管理の技術、③さまざまな要素・要因を総合的に調整し美しく仕立てる技術、④現
場における設計・施工・管理の連携技術、⑤エンドユーザー(市民)との関わりから意向把握し設計・施工・管理
に活かす技術、⑥施工性・安全性・工程管理等の現場管理技術です。
今年は、私なりのこれらの視点に適合し評価した件数が半数を超え、受賞作品に限らず、例年よりも総じて応募
作品が粒ぞろいであると感じました。来年も多くの力作の応募があり、楽しい選考会になることとともに、一造会
の活動を通じ、造園が多くの市民に理解されることを祈念いたします。
(5)自身を持つべきで賞 !!!
福成 敬三 一造会フェロー、㈱フォーサイト代表取締役
一造会大賞ほか受賞の皆様、本当におめでとうございました。今回の評価に当たっては、16 点の応募作品のほ
とんどがそれなりのすばらしい工夫をされたりしておられ、これまで以上になかなか点数の割り振りの判断が簡単
に付けられなかったことも事実です。受賞対象とならなかった皆さんも、めげるのではなく、受賞された方たちの
内容、記述を汲んで、是非とも再挑戦していただきたいと思います。大賞を受賞されたお仕事については、造園技
術ならではという点を特に評価いたしました。
そして第 10 回の一造会大賞をきっかけに、応募要項、採点の基準をよりわかりやすく、より成果を主張できる
ように改めていくことを私としてもぜひ実現したいと考えています。
今回選考委員会で問題になったのは、一所懸命書かれているのに、応募された仕事におけるご本人の役割が見え
てこないというものでした。確かに造園の提案は結果として当たり前というように捉えられてしまうことも多いの
ですが、優しい心持だけでなく、そこを敢然と訴えることが大切だと思います。ご自分が果たした造園技術者とし
ての役割をしっかりアピールすることが大切です。
造園の本来の価値は、お施主さんの心に秘めたことまで含めてご意向をくみ取るばかりでなく、そのご意向以上
のものを造園技術者として実現して見せることにあるかと思います。しかし図面通りにやればいい、余計なことを
するなと言われてきた状況がある中で、本来の造園の価値を見失っていないでしょうか ? 自分がこうあるべきだ
と思うことを実現していくことが大切です。そのためには、説得できるだけの造園の基礎的知識、お施主さんの意
向をくみ取る幅広い情報、造園家としての独自の強い思い入れが欠かせません。
一造会会員の皆様の、受け身ではないご活躍を強く祈念いたしております。
(6)現場を見てみたい、もっと詳細を聞いてみたい
坂元 博明 一造会常任相談役、㈱柳島寿々喜園 常務取締役
第 10 回という節目となる今回の「一造会大賞」の作品募集に際し、今までになく多くの方々からご応募を頂き
ありがとうございました。そのような中で今回めでたく入賞された皆様、誠におめでとうございます。
今回審査をしていて、現場を見に行きたくなったものや詳細をもっと聞いて見たいと思わせる作品が多くありま
した。また竣工直後の維持管理でしか経験できない苦労や工夫をされたもの、逆にもう少し植物や施設が馴染むま
で時間的な経過を得て応募された方が良かったのではと思わせるものもありました。応募作品がますます幅広い分
野に渡りそしてその内容が充実してきている印象を受け、造園領域の幅の広さと奥深さを改めて認識し、選考の難
5
しさを実感しました。
今回応募に至らなかった方々には、これから担当される現場や既に竣工している現場で一造会大賞を意識して頂
き、これぞという作品で挑戦してみてください。そして審査をもっと惑わすような多くの作品が集まることを期待
しています。
(8)応募作品から“造園技術者として妥協せず最善を尽くすことの大切さ”感じる
高橋 正敏 一造会幹事、関西造園土木 株式会社 工事グループ 統括
第 10 回 一造会大賞を受賞された皆様おめでとうございます。
今回応募作品 16 作品で、管理業務 7 件、造園工事 8 件、土木工事 1 件で、その中から評価基準に照らし合わせ、
作品選考を行うのは大変な作業で、迷いながら行いました。
今回の一造会大賞は「推定樹齢 600 年「鶴の松」の移植と維持管理について~町のシンボル、みんな想いが松
に宿る~」は品質管理・施工技術・安全衛生ともに、地元の要望に応えるべく細部まで入念に計画され、移植時の
松に対する負荷を考慮しつつシミュレーションを繰り返し、いろんな問題も想定外ではなく想定内で検討されてい
たと感じました。
優秀賞の「地域の自然や環境教育に配慮した豊島区新庁舎「としまエコミューゼタウン」は人工地盤の上に自然
の生態系を再現する、特に図面で表現できない部分も、全ての人が参加してイメージを共有された点がすばらしい
と感じました。優秀賞の「住み続けたくなる賃貸マンションを目指して「コミュニティー形成ツールとしての緑の
活用」は賃貸マンションの植物維持管理は一般的に多いが、運営まで含んだ事例は珍しく感じました。緑を活用し、
コミュニティー形成・資産価値向上の為に、エンドユーザーと真摯向き合われていると感じました。他のマンショ
ンとの差別化もあるが、運営管理が出来る企業としての差別化の効果が高いと感じました。
特別賞「みどりのリサイクル事業」の継続がもたらした成果」は、タイトル通り継続事業から見えてきた物を見
落とすことなく、循環型社会に貢献されていると感じました。
今回作品選考で全般的に感じたことは造園技術者として、妥協せず最善を尽くす事の大切さです。今回忙しい業
務の中、応募いただいた皆様ありがとうございました。
(9)どう提案し、どう改変されたか 具体的プロセス見えると、より臨場感伝わる
田中 秀穂 一造会幹事、株式会社 ガーデン二賀地 取締役会長
設計者との協議の上、技術者として現場事情に則った提案がなされたことによって改変が実施された と思われ
るその具体的なプロセスが見えて来ると、より一層臨場感が伝わったと思われる。
自然体での発想から、飛躍し植物にとって劣悪な環境上での苔の乗ることのない凝石(プラスチック)との接点
は日々の急激な温度変化のため、共生は難しいと考えられる。
全般に景観を重視するあまり、環境への負荷を軽減するため、植物に頼る事を念頭においた発想が少なかった。
具体的な提案として実施された例のうち、マンションでの子供達に食育、菜園利用などコミュニケーションの活用
の場とした事は、今後の規範になるとも思われる。
大径木の吊り込み運搬時のガードのため開発された樹搬具を活用した例は特筆に値する。
樹木の生命保全のため、あらゆる技法を活用した事は情熱なくしてあり得ない優れた例もあった。
6
大賞
最優秀賞
推定樹齢 600 年「鶴の松」の移植と維持管理について
~町のシンボル、みんなの想いが松に宿る~
古 積
昇(古積造園土木(株))
積込・運搬:国道(286 号線)を通行止めにするため 30 分
という制約された規制時間のもと運搬を開始した。警備員 6
名を各所に配置し、人が歩行する程度の運搬速度で電線や標
識などの支障物を避けながら慎重に進んだ。
植
付:植付時に、保水・保温力を高め細根の発生を促進
するため、以下の養生を行った。
・黒土・鹿沼土・腐葉土の混合による根鉢周りの土壌改良
・保水剤(アクアキープ AG20)の使用(水が行き渡りにくい箇所に使用)
・根鉢乾燥防止のための水苔・根藁を使用
1.「鶴の松」移植概要
推定樹齢 600 年といわれる五葉松が、宮城県川崎町の旧湯
田河温泉にあった。この松は鶴が羽を広げたように見えるこ
とから「鶴の松」と呼ばれ親しまれてきた。しかし、釜房ダ
ム建設により水没が決定したため、昭和 42 年に町に寄贈さ
れ、近くの高台に移植された。
その後、国営みちのく杜の湖畔公園(以下、みちのく公園)
に移管され、定期的な管理がなされていたが、平成 15 年に
みちのく公園内ふるさと村への移植が決定した際、主幹部が
大きく腐朽していることが判明、さらに本来根回しを行い、
養生期間をおいてからの施工が望ましかったが、移植先手前
に建築物が予定されており、根回しを行わない状況下での移
植工事となった。
■保水剤(アクアキープ)
■水苔と根藁による根鉢の乾燥防止
3.移植後の樹木管理
■移植前 ・樹高 6.5m ・3 本立、根元径 1.2m ・葉張 8.0m
2.移植方法
上記条件のもと、掘取り及び養生・運搬方法については検
討を重ね、次のような作業を実施した。
泥巻き作業:樹木の乾燥防止の為、通常掘取り後に行われる
「泥巻き作業」を掘取前に行った。作業時の樹幹保護の為、
更に幹巻きテープを施した。
掘取り根巻き:外周部を大きくバックホウで掘り、その後は
根に傷をつけないよう人力で少しずつ探りながら根鉢を作
り、根巻きを行った。台風の影響により掘取り日程が早まっ
たため、根鉢の乾燥対策として水分を含んだ水苔を巻付けた。
移植後、松に掛かる負担を最
小限とするため松の外周に足
場を組み夏期は寒冷紗、冬期
は防風ネットを設置した。通
常管理では根鉢の乾燥状態を
確認しながら適宜かん水を行
い、病害虫防除、葉面及び幹 ■寒冷紗により強い日射から松を守る
部には活力剤(HB101)を適宜散布し養生を行ってきた。
しかし、移植後のストレスからか、樹勢が徐々に劣り始め、
腐朽のあった枝葉部の葉が変色し、一部枯損が出始めた。
そのため、樹木医による診断に基づき平成 19 年以降、樹木
周辺の土壌改良および損傷・腐朽部の外科的処置の樹勢回復
治療について細かな指導を受けるとともに、根部については
改良後のマルチングの手法を取り入れ治療を行ってきた。
■空洞内の腐朽菌切除作
■荒縄巻き → 泥巻き作業
■根巻き → 水苔による養生
運搬準備:松は樹形が特殊であり枝絞りがほとんどできない
ため、幅 8m高さ 5mもの通路幅が必要となった。運搬器具
は吊り上げ時に根鉢と幹にかかる力を分散できる樹搬具(ジ
ュパング)を使用した。本番前にトレーラーの軌道確認と、
樹搬具の模型による吊り上げシミュレーションを繰り返し
行い、起こり得る危険ポイントを確認した。
■「樹搬具」
吊り上げシミュレーション
■改良後のマルチング断面
■吊り上げ確認
■樹勢低下による枯損状況
(平成 19 年 4 月撮影)
4.おわりに
7
■頂上枝葉も復活してきた「鶴の松」
(平成 27 年 10 月撮影)
移植から 11 年、樹木医の指導のもと樹木の維持管理を行っ
てきたことで、現在では樹木の生育・育成基盤も安定し、頂
上枝葉も復活させることができた。まだ回復途上ではあるが、
これまで色々と手を施してきた分だけ結果を出してくれる
ことが、移植からこれまで維持管理を行ってきたことで検証
できた。
今後も同様、定期的な巡回管理を行い、異常が見つかった
場合は速やかに処置を行うことで「鶴の松」の健全な状態を
維持していきたい。
優秀賞
地域の自然や環境教育に配慮した豊島区新庁舎
「としまエコミューゼタウン」
塩井
1.はじめに
景介(西武造園株式会社)
また、今回は建築条件によりかなりの荷重に耐えうる構造で
自然の材料を扱う造園工事のでも、ビオトープ等に代表され
あったため、10F 屋上に最大 2m 近くの土壌を入れることがで
る在来の自然や生態系を再現、復元する分野は都内の建築工事
き、約 600 ㎥の客土、高木は H8.0m の木を 20 本含む約 60 本
や再開発で導入されるケースは徐々にみられるようになって
を植栽した。
きているが、大規模な工事での例はまだまだ少ないと言える。
今回、東京都豊島区南池袋での再開発において高層ビル建築
に伴った比較的大きな規模で自然環境の再現をした事例を紹
介し、その中で建築工事に付随した造園工事ではなく在来の自
然を現場に再現し地域の方々に伝え、使って貰えるものを創っ
ていくために工夫した点や注意を払った点をまとめた。
3-3 水の流れ
2.工事概要
工事は南池袋二丁目 A 地区の再開発計画で、豊島区の新庁
本工事は 10F から流れ出た水が、各階の屋上庭園部分を流れ
舎と分譲マンション、店舗等が入る高層ビル建設にともなう造
下り地下ピットに戻り、再び 10F に揚水される設計であり、一
園工事である。計画の設計主旨で、建物と地域の生態系・環境
連の流れが河川とその周りの自然を再現することを目指した。
との調和が謳われており、また将来的に環境教育の場としての
コンクリートの躯体が土台でありながら、仕上げを自然に見
構想もあるプロジェクトであることを受け、これらのコンセプ
せるため石の積み方や土や植栽の取り合いは特に注意を払い
トの実現に向けて検討・工夫した。
施工した。
さらに、水辺にはメダカ、ドジョウ、フナ、タニシ等の水生
生物が生息できるよう pH、EC を等の水質を管理し、ろ過には
自然のバクテリアを活用できるよう砂ろ過の開放型のピット
を設けた。特にコンクリートで作られた水域は pH がなかなか
低下せず、酸洗いと上水による養生を何度も繰り返した。
4.まとめ
高層ビルの緑化工事と自然環境の再生をうまく結び付け、技
3.コンセプト実現に向けて
術的にも意匠的にも実現させることに難しさを痛感した。図面
3-1 材料調達
だけではなく設計者の意図やイメージをよく打ち合わせし施
樹木、水草や流木、石材、水生生物、荒木田など荒川水系、
工に携わる職人と意識を共有することが大切であり、今後施工
利根川水系を産地とするものを調達し、地域性の確保を目指し
者としてはこのような構想を実現するための技術力や提案力
た。そのほか H12.0m の既存ソメイヨシノ 2 本の移植や、豊島
が求められ、これらを磨いていく必要を感じた。
区内の公園から土壌の A0 層を調達し撒きだすことで早期の既
存植生を実現した。
3-2 基盤整備
本工事では造園部分のほぼすべてが人工地盤上であり、特に
植栽や流れの基盤については排水及び防水について検討した。
植栽基盤については底面の排水材(t=45mm)だけではなく擁壁
の立上りには擁壁用面状排水材(t=50mm)、水抜き穴周りには
黒曜石系パーライトを充填し、酸素管を地表まで設置した。
8
住み続けたくなる賃貸マンションを目指して
優秀賞 住み続けたくなる賃貸マンションを目指して
住み続けたくなる賃貸マンションを目指して
コミュニティ形成ツールとしての緑の活用
コミュニティ形成ツールとしての緑の活用
コミュニティ形成ツールとしての緑の活用
大竹彩奈
藤本加奈子(箱根植木株式会社)
大竹彩奈 藤本加奈子(箱根植木株式会社)
大竹彩奈
藤本加奈子(箱根植木株式会社)
士のコミュニティツールになっている。また、緑を積極的に
士のコミュニティツールになっている。また、緑を積極的に
士のコミュニティツールになっている。また、緑を積極的に
親しみ利用できるよう、居住者とモール棟の認可保育園児を
親しみ利用できるよう、居住者とモール棟の認可保育園児を
親しみ利用できるよう、居住者とモール棟の認可保育園児を
対象に貸し菜園を運営している。植栽全体の手入れも行うス
対象に貸し菜園を運営している。植栽全体の手入れも行うス
対象に貸し菜園を運営している。植栽全体の手入れも行うス
タッフが菜園の管理のサポート、アドバイスを行っている。
タッフが菜園の管理のサポート、アドバイスを行っている。
タッフが菜園の管理のサポート、アドバイスを行っている。
放課後は子供たちが水遣りや収穫に訪れ、数人が集まると賑
放課後は子供たちが水遣りや収穫に訪れ、数人が集まると賑
放課後は子供たちが水遣りや収穫に訪れ、数人が集まると賑
やかで作業がままならないこともあるが、子供たちが元気に
やかで作業がままならないこともあるが、子供たちが元気に
やかで作業がままならないこともあるが、子供たちが元気に
遊べ、収穫の喜びやたくさんの生物の営みを発見できる場所
遊べ、収穫の喜びやたくさんの生物の営みを発見できる場所
遊べ、収穫の喜びやたくさんの生物の営みを発見できる場所
がセキュリティ内にあることは保護者にとって喜ばしいこと
がセキュリティ内にあることは保護者にとって喜ばしいこと
がセキュリティ内にあることは保護者にとって喜ばしいこと
であり、安心であろう。収穫した野菜を使った料理教室も人
であり、安心であろう。収穫した野菜を使った料理教室も人
であり、安心であろう。収穫した野菜を使った料理教室も人
気の企画となっている。
気の企画となっている。
気の企画となっている。
1.周辺環境及び概要
1.周辺環境及び概要
1.周辺環境及び概要
横浜駅から徒歩数分のブローテ横浜高島台は多摩丘陵の南
横浜駅から徒歩数分のブローテ横浜高島台は多摩丘陵の南
横浜駅から徒歩数分のブローテ横浜高島台は多摩丘陵の南
端に位置し、豊かな緑が残されている地域にある。女性や子
端に位置し、豊かな緑が残されている地域にある。女性や子
端に位置し、豊かな緑が残されている地域にある。女性や子
供たちの暮らしやすさ、居住者ひとりひとりが豊かさや潤い
供たちの暮らしやすさ、居住者ひとりひとりが豊かさや潤い
供たちの暮らしやすさ、居住者ひとりひとりが豊かさや潤い
を感じ、居住者間の良好なコミュニティが育まれること、次
を感じ、居住者間の良好なコミュニティが育まれること、次
を感じ、居住者間の良好なコミュニティが育まれること、次
代の子どもたちの知的好奇心を啓発することを追求した賃貸
代の子どもたちの知的好奇心を啓発することを追求した賃貸
代の子どもたちの知的好奇心を啓発することを追求した賃貸
マンションとして 123 戸の住居棟と認可保育園などからなる
マンションとして 123 戸の住居棟と認可保育園などからなる
マンションとして 123 戸の住居棟と認可保育園などからなる
モール棟で構成されている。近隣との緑のつながりに配慮し
モール棟で構成されている。近隣との緑のつながりに配慮し
モール棟で構成されている。近隣との緑のつながりに配慮し
た植栽ゾーン、緑や環境について身近に感じ、利用ができる
た植栽ゾーン、緑や環境について身近に感じ、利用ができる
た植栽ゾーン、緑や環境について身近に感じ、利用ができる
ハーブガーデンや菜園ゾーンを備えており、植栽管理会社
ハーブガーデンや菜園ゾーンを備えており、植栽管理会社
ハーブガーデンや菜園ゾーンを備えており、植栽管理会社
が、2014 年 4 月から植栽維持管理以外に、定期的な環境イベ
が、2014 年 4 月から植栽維持管理以外に、定期的な環境イベ
が、2014 年 4 月から植栽維持管理以外に、定期的な環境イベ
ント、貸し菜園の運営管理を行っている。
ント、貸し菜園の運営管理を行っている。
ント、貸し菜園の運営管理を行っている。
雑木林ゾーン
雑木林ゾーン
雑木林ゾーン
ハーブガーデンゾーン
ハーブガーデンゾーン
ハーブガーデンゾーン
緑化価値を高める植栽維持管理
写真-1
写真-1
写真-1
熱中する子どもたち
熱中する子どもたち
熱中する子どもたち
写真-2 解説を聞く子どもたち
写真-2 解説を聞く子どもたち
写真-2 解説を聞く子どもたち
菜園ゾーン
菜園ゾーン
菜園ゾーン
2.
2. 緑化価値を高める植栽維持管理
緑化価値を高める植栽維持管理
2.周辺の緑と繋がりを持たせ、生物の多様性が維持されるよ
周辺の緑と繋がりを持たせ、生物の多様性が維持されるよ
周辺の緑と繋がりを持たせ、生物の多様性が維持されるよ
う、雑木林ゾーン、草地ゾーンの管理を行っている。具体的
う、雑木林ゾーン、草地ゾーンの管理を行っている。具体的
う、雑木林ゾーン、草地ゾーンの管理を行っている。具体的
には適度な密度や緑陰を保つ剪定や草刈により昆虫や野鳥を
には適度な密度や緑陰を保つ剪定や草刈により昆虫や野鳥を
には適度な密度や緑陰を保つ剪定や草刈により昆虫や野鳥を
呼び込み害虫の発生をコントロールする、化学農薬を使用せ
呼び込み害虫の発生をコントロールする、化学農薬を使用せ
呼び込み害虫の発生をコントロールする、化学農薬を使用せ
ず、害虫を見つけたら捕殺する、被害が人体に及ばない食害
ず、害虫を見つけたら捕殺する、被害が人体に及ばない食害
ず、害虫を見つけたら捕殺する、被害が人体に及ばない食害
については寛容にするなどである。
については寛容にするなどである。
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写真-3 植樹体験の様子
写真-3 植樹体験の様子
写真-4 マスの調理の様子
写真-4 マスの調理の様子
写真-3 植樹体験の様子
写真-4 マスの調理の様子
4.発注者の熱意
4.発注者の熱意
4.発注者の熱意
管理組合のない賃貸マンションでコミュニティを育むに
3.個からマンション全体の豊かさや潤いへ
3.個からマンション全体の豊かさや潤いへ
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環境イベント・貸し菜園の運営
環境イベント・貸し菜園の運営
環境イベント・貸し菜園の運営
ヨコハマbプラン*に賛同し生物多様性の変化を把握するた
ヨコハマbプラン*に賛同し生物多様性の変化を把握するた
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めのモニタリング調査を竣工当初に行うと共に生物多様性の
めのモニタリング調査を竣工当初に行うと共に生物多様性の
めのモニタリング調査を竣工当初に行うと共に生物多様性の
理解を深めるための環境教育(写真 1・2)を行っている。ま
理解を深めるための環境教育(写真 1・2)を行っている。ま
理解を深めるための環境教育(写真 1・2)を行っている。ま
た、施設内の緑に親しみが感じられるよう、樹木の故郷を訪
た、施設内の緑に親しみが感じられるよう、樹木の故郷を訪
た、施設内の緑に親しみが感じられるよう、樹木の故郷を訪
ねるエコツアーなど定期的に居住者を対象としたイベントや
ねるエコツアーなど定期的に居住者を対象としたイベントや
ねるエコツアーなど定期的に居住者を対象としたイベントや
ワークショップを開催している。エコツアーは、子供たちの
ワークショップを開催している。エコツアーは、子供たちの
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夏休みに合わせた企画で、樹木の生産圃場を見学、周辺の河
夏休みに合わせた企画で、樹木の生産圃場を見学、周辺の河
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川再生のための植樹体験やマスのつかみ取り、川遊び、火起
川再生のための植樹体験やマスのつかみ取り、川遊び、火起
川再生のための植樹体験やマスのつかみ取り、川遊び、火起
こしから始めるバーベキューといった都会の子供たちが経験
こしから始めるバーベキューといった都会の子供たちが経験
こしから始めるバーベキューといった都会の子供たちが経験
しにくい自然体験の場を提供している。
(写真 3・4)ファミリ
しにくい自然体験の場を提供している。
(写真 3・4)ファミリ
しにくい自然体験の場を提供している。
(写真 3・4)ファミリ
ー向けの企画であるが、ディンクスの参加もあり、初対面同
ー向けの企画であるが、ディンクスの参加もあり、初対面同
ー向けの企画であるが、ディンクスの参加もあり、初対面同
9
管理組合のない賃貸マンションでコミュニティを育むに
管理組合のない賃貸マンションでコミュニティを育むに
は、一管理会社の取り組みだけでは限度がある。しかし、オ
は、一管理会社の取り組みだけでは限度がある。しかし、オ
は、一管理会社の取り組みだけでは限度がある。しかし、オ
ーナーも一体となり菜園利用向上、イベントの企画などにつ
ーナーも一体となり菜園利用向上、イベントの企画などにつ
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いて意見交換して実現させていった 1 年間の取り組みは今年
いて意見交換して実現させていった 1 年間の取り組みは今年
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第 9 回キッズデザイン賞(子どもの産み育て支援デザイン
第 9 回キッズデザイン賞(子どもの産み育て支援デザイン
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地域社会部門)を獲得した。オーナーとしてイベントにも積
地域社会部門)を獲得した。オーナーとしてイベントにも積
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極的に参加することで、居住者にマンションの方向性や価値
極的に参加することで、居住者にマンションの方向性や価値
極的に参加することで、居住者にマンションの方向性や価値
が理解され、賛同され始めている。私たち管理者はこれから
が理解され、賛同され始めている。私たち管理者はこれから
が理解され、賛同され始めている。私たち管理者はこれから
も時間を惜しまず焦らず、じっくりと緑の向上、コミュニテ
も時間を惜しまず焦らず、じっくりと緑の向上、コミュニテ
も時間を惜しまず焦らず、じっくりと緑の向上、コミュニテ
ィの醸成、マンション価値の向上に向けて取り組んでいきた
ィの醸成、マンション価値の向上に向けて取り組んでいきた
ィの醸成、マンション価値の向上に向けて取り組んでいきた
い。
い。
い。
*ヨコハマbプラン
*ヨコハマbプラン
*ヨコハマbプラン
横浜市が自然環境や子供たちの豊かな個性つながりを次の
横浜市が自然環境や子供たちの豊かな個性つながりを次の
横浜市が自然環境や子供たちの豊かな個性つながりを次の
世代に引き継ぐために策定した生物多様性行動計画
世代に引き継ぐために策定した生物多様性行動計画
世代に引き継ぐために策定した生物多様性行動計画
特別賞
「緑のリサイクル事業」の継続がもたらした成果
~江東区とアゴラ造園(株)のあゆみ~
清水誠大
塩田哲児
1.はじめに
石井匡志
横村到
長嶺利樹(アゴラ造園株式会社)
教育現場への様々な展開により、自然の持つ循環の仕組みが
高度経済成長期におけるゴミ戦争の影響か、江東区はリサイ
身近な場所で理解できるようになったこと、生物相が豊かにな
クル意識が高い。ゴミの埋め立てによる陸地は、ガスの発生な
り観察・学習対象物の幅が広がったこと、発見しやすくなった
ど植物の生育に適していなかった。また、人為的なみどりは生
ことなどは具体的な効果である。
物多様性が貧弱であった。江東区のみどりのリサイクルは、ゴ
5.みどりのリサイクルの成果
ミの減量と生物多様性の創出のため平成元年頃から始められ
図 1 は、平成 6 年以降のチップの生産量と日経平均株価(年
ることとなった。本報ではこのリサイクル事業を当初から知る
平均)である。本事業のほとんどは、失われた 20 年と呼ばれ
営業担当、歴代の主任技術者、現場代理人、代理人補佐として
る不況経済下において継続されてきた。東電福島第一原発の事
この事業の 30 年を振り返り整理した。
故による放射能被害の影響は大きく、生産量に影響した。花形
2.都市型みどりのリサイクルの原点「潮見運動公園」
事業ではないが、景気の動向などの影響がなく縮小することな
江東区では、区の施設から発生する植物性発生材を資源とし
く一貫して事業が継続されてきたことの意義は大きい。江東区
て循環利用してきた。区内の全施設を対象としているのが特徴
が緑のリサイクル事業と並行して行ってきたのが、ポケットエ
的だ。江東区立潮見運動公園で製造するチップ量は年間 2000
コスペースの整備と管理である。ここにも、生き物の住み家と
立米(平成 6 年以降の平均)以上にもなり、持ち込まれる剪定
なる有機物を供給してきた。1999 年から 2003 年に行われた昆
枝葉は 6000 立米にもなる。次々に運び込まれる剪定枝葉を限
虫調査では、337 種の記録であったが、現在進行中の調査では、
られたヤード内で遅滞なく処理する分別などのノウハウは、後
既に 801 種を記録している。様々な形態の有機物の供給が生物
に「海の森資源化センター」に展開される。また、限られスペ
多様性を豊かにしていることは明らかであるという。
ースで堆肥化するための技術開発実験フィールドともなって
立米(チップ量)×10 円 (株価)
3500
きた。その意味で、都市型のみどりのリサイクルの原点である。
3000
3.細かい工種設定
2500
本事業では、基本のチップ化工、運搬工、敷均し工、堆肥化
2000
工に加え、区内の工事や教育現場へ利用するため、利用用途や
1500
場所に適した工種が存在しているため工種は 50 以上になる。
1000
チップ量
東日本大震災
IT バブル崩壊
リーマンショック
500
これらは、より効果的な工程を工種として整理し、協議してい
日経株価
(年平均)
0
く中で生まれたものである。
4.みどりのリサイクルの教育への展開
図-1 チップ量と日経平均株価の推移
6. 江東区とアゴラ造園(株)のあゆみ
事業を継続するための長期的かつ多様な戦略のひとつは教
育への展開であり、区政に幅広くかつ根深く展開する事業とし
政策としての「緑のリサイクル事業」は、30 年余年の歴史だ。
ての存在感を発揮している。具体的には、樹名板(写真 1)な
有機物分解のサイクルで考えれば短い時間に過ぎない。ようや
どの学校やボランティア団体などへの提供、ペープサート劇の
く成果の一部が見え始めたと考えている。江東区みどりのリサ
出前事業(写真 2)である。また、子ども向けパフレット「緑
イクル事業は、区担当者と当社現場代理人とが、頭と足を使い、
のリサイクルってなに?」の発行である。
打ち合わせながら進めてきた。この事業が長く続いてきた理由
のひとつは、江東区の担当者が造園職であったこと。基本的理
念と最低限の知識や情報が共有できていたため、常に現場レベ
ルの具体策で協議できたことは非常に大きい。行政と民間の立
ち位置を互いに確認しつつ、本事業の社会的使命について、そ
の共通認識をどのように持ち続けられるか、本事業のも本質の
写真-1 幼稚園への樹名板配布
写真-2 ペープサート劇(みみずのみみ太)
10
ひとつであろう。
「一造会会長賞」について
一造会会長賞は、一造会会長が 1 級造園施工管理技士として業務を行ってきた経験をはじめ、造園施
工の観点から、賞賛すべき企業、技術、製品などを表彰しているもので、今回の表彰が2回目です。
前回は、「株式会社サイニチ」様を「街路樹等の狭小地で非常に苦労しながら除根をしていた造園技
術者の発案に共感し、製品化することで解決を図ったその行動力、技術力に大変感服したことから、そ
の姿勢を讃え表彰」。「株式会社 インターファーム」様を「都会で使用されることの多い人工軽量土壌を
都会の経済活動から排出される廃棄物を用い商品化したことについて、その発想、技術力はまさに造園
そのものであり、非常に共感を覚えたことから、その理念を讃え表彰」させていただきました。
2015 一造会会長賞
「株式会社 グロースパートナーズ 」様
古紙という廃棄物をパウダー状にすることで資源化し、戻り生コンクリートの再資源化用材として製
品化されました。製品はセメント系固化材などで植栽に不向きな土地を多く作ってきた造園における軟
弱地盤工事において、植物の生育を妨げない改良材としての可能性と修景池などの浚渫土に混ぜ込むこ
とで植栽用土として再利用できる可能性など、造園の世界において大いに期待できる製品と考えます。
この様な我々造園技術者好みの地球にやさしい製品の開発に対し、感謝申し上げると共にここにそれ
を讃えて表彰させていただきました。
「株式会社 CSS技術開発」様
貴社は関数表を使う測量から抜け出すために、他の造園技術者が思いもつかなかった当時最先端のポ
ケットコンピューターを使う方法を考案し、造園技術者として測量会社を興し、今や全国規模で造園に
とどまることなく土木業界まで席巻するようになりました。
そのアイディアと情熱は我々造園技術者に大きな勇気を与えてくれるものです。
この功績を讃え表彰させていただきました。
11
「グランド一造会大賞」について
「グランド一造会大賞」は、これまでの第 1 回から 9 回までの「一造会大賞」最優秀賞である「大賞」
受賞作品 8 作品(第 2 回該当無)を対象に、一造会の「北海道・東北地区」、「関西地区」会員を代表す
る各地区の審査委員によって、もっとも優れた作品を選考したものです。
北海道・東北地区「グランド一造会大賞」
第5回一造会大賞
「青梅市立総合病院屋上庭園“癒しの小径”の定期改善と
コミュケーションメンテナンスについて」
清水真樹、江塚美穂、梶川昭則(東邦レオ株式会社) 最終的に第4回「浜離宮庭園における江戸石積の再生」と迷った末の結果です。この作品は、現場の
苦労が伺え、伝統技術の調査、再構築と文化的価値がある作品でした。しかし、これからの造園は、伝
統や本質を理解しながらも、造園の枠を広げていかなければなりません。
第5回一造会大賞作品「癒しの小径の定期改善とコミュケーションメンテナンスについて」は、癒し
の園芸療法に活用するため、20 年ぶりに屋上を緑地に再整備したものであり、施主、利用者と意見を
交わしながら改善していく仕組みづくりが高く評価されました。 関 西 地 区「グランド一造会大賞」
第 8 回一造会大賞
「現場発生材と高低差のある現況地形を有効利用した龍崖山公園」
諸井泰司、中島洋志、加藤晃司、渡辺和男(株式会社アティ)
どの作品も現場の苦労がひしひしとつたわってくるものであり、非常に選考は困難でした。
これは、制約の多い中での工事、創意工夫、現場に対する理想とその実現、また、内容の物足りなさなど、
評価の視点をどう置くかでかわってくるからであり、採点による評価と総合的な見地からの評価で、第
8回一造会大賞受賞作品「現場発生材と高低差のある現況地形を有効利用した龍崖山公園」をグランド
一造会大賞として選出しました。
なお、次点は、第 6 回一造会大賞受賞作品「深川ギャザリア(複合施設)における外構造園工事」と
なりました。
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