Title 女子労働力供給増加の要因の影響 Author(s) 上林 - HERMES-IR

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女子労働力供給増加の要因の影響
上林, 敬宗
一橋論叢, 94(1): 167-181
1985-07-01
Departmental Bulletin Paper
Text Version publisher
URL
http://hdl.handle.net/10086/12883
Right
Hitotsubashi University Repository
女子労働力供給増加の要因と影響
上 林 敬 宗
1ま じ め に
昭和50年代に入り,共稼ぎ世帯の増カロという現象が進んでいる.わ1が国では,世帯
主の収入のみで生計をたてている世帯をr伝統的世帯」というように、これまでは世帯
主のみが働き収入を得る一方,妻が家庭内で家事に専念することが当然と考えられてい
た一そして現行制度はすぺて伝統的世帯を想定←ており,共稼ぎというのはごく一部の
貧しい世帯がやむをえず打っているという前提でつくられているので,所得税制や保育
所サービス等で様々な不平等を生んでいるという指摘がなされている.そしてこの考え
は今次国会で審議されている年金改正にもあらわれている.
共稼ぎ世帯の増加一既婚女子め労働市場への参入は,失業者の持つ意味をも変えよ
うとしている・これまでの失業者は1与えられた労働供給から労働需要を引いた残りで
あり。経済的にも困窮している者であった.しかし,必ずしも経済的に困。ておらず,
そのときの状況に応じて労働市場へ参入退出する女子労働力の増加は,マクロ経済政策
の効果を異なるものとしている・以下では・女子労働カ供給の要因をまとめ,その失業
率の変動に及ぼす影響をみてみたい.
1最近の女子労働カ供給増加の背景
女子労働カ率の推移をみると(図表1一Φ,昭和40年代に傾向的な減少をみたあと,
50年代に入り逆に趨勢的な増加をみている.40年代の傾向的減少の主因は,農家世帯
の滅少による女子家族従業者の減少とみられるが,50年代の増加は共稼ぎ世帯の増加
といった女子雇用者の増大が主因と考えられる.因みに非農林業について女子の労働カ
率をみると。50年代に入りかなりのテンポで上昇しており,っれて非農林業労働力人
口に占める女子のウェイトも50年をボトムに急上昇している(図表1−12〕).
167
一橋論叢
(168)
第94巻
第1号
(図表1)女子労働供給の推移
(1)女子労働力率の推移
%
52
50
■
、
女子労働力率
45
女子労働力率(非農林業)
\
40
35
38年40
%
38
42 44 46 48 50 52 54 −5657
(2〕労働力人口に占める女子のウエイト(非農林業)
37
36
35
38年 40 42 44 46
48 50 52 54 5657
出所:総理府 労働力調査
昭和59年現在で,労働カ人口に占める女子のウ晶イトは40%に満たないが,女子労
働カ供給は増加傾向をたどっており,50年代の女子労働カ人口の増加(348万人)は男
子の増加(269万人)を犬きく上回った.このよう’な女子労働カ供給増加の要因として
は以下の点があげられよう.、
ω 家事労働の軽減
最近における女性の就業意鉦の高まりの要因をみると,まず,家事育児負担の軽滅が
あげられる.家事育児といoた家庭内での必要な時間の減少は,市場労働に割くことの
できる時間の増大を意味している.耐久消費財の普及が女子の余暇時間の増犬をもたら
168
(169)
研究ノ ー ト
(図表2)家事労働の軽滅
{1)出生率およぴ保育所定員数の推移 (2〕余暇時間の推移
出生数
35年
40
161万^
182
出坐率㈱命 保育所定員
17.2^
73凧
18.6
88
45
193
18.8
119
50
190
17.1
170
51
工83
16.3
:80
52
176
15.5
190
53
171
14.9
199
54
164
14,2
208
55
158
13.6
214
56
153
13.0
216
20オ代 30 40 50 60
出所1NHK放迷世論鯛壷所
「国民生活酵聞鯛査」
出所:厘生自曹
(3〕末子の年齢と主娚の有薬率’(雇用者世鞘 (4)末子の年齢別にみた母親の労働力率
%
ll□……
末子の隼齢
0オ
1
2
3
児 生 生 生 ぴ未
4
才 1 1 才学世
5
幼小中高お15
学 学 校 よ才
τ ? 竈一責在満
未1114以者箭
満 才 才 上な貝
) ) 〕 ) し
出所1総理府「就葉概造基本調査」
平均
世帯平均
9,7%
核家族世帯
6.7%
三世代世帯
16.7%
10.2
7.8
16.O
11.5
9.2
16.7
12.0
9,4
17.9
13.9
11.4
20.O
1ユ.7
10,7
19.2
13,O
10.6
1ε.9
出所 「娚人雇用労働力への供給棚造」(人口間題研究〕
出所1「娚人雇用労働力への供給棚造」(人口間題研究〕
注〕
したほか,出生率の低下は女性の平均的な育児期間を短縮させ,保育所の充実も育児の
負担軽減に寄与している.さらに平均余命が延ぴたことは,女性のライフサイクルを変
え,職場復帰ないし新たな職場進出の機会を増加させている(図表2).:
注)子どもの年齢別に主婦の有業率をみると,末子が6歳未満では2ア.8%である
のに12−14歳では53.1%.婦人に関する世論調査によれぱ,無職の主蝿のうち
仕事を持ちたいがすぐにはできない理由としてr子どもから手が離せないから」
をあげるものが56・8%と半数を超えており育児負担が女子の就業を抑制する大
きな要因となっている.
169
(170) 一橋論叢 第94巻 第1号
121短時間就労機会の増大
女性(主婦)は,家事育児負担が重いことから同一賃金のもとでの最適な労働時閻は
男子よりも短いと考えられる一因みに総理府「就業構造基本調査」(54年)により女子
の希望する仕事を形態別にみると(図表3一ω),「短時間勤務で雇われたい」とするも
のが45・1%とr普通勤務で雇われたい」とするもの(12・2%)など他を犬きく引離して
トップの座を占めており,とくに主婦に関してはr短時間勤務で雇われたい」とするも
のはr普通勤務で雇われたい」とするものの約6倍となっている.こうした事憎を反映
注)
して,女子の労働カ率とパート雇用者比率の間には高い相関(相関係数0,968〈45−57
年中〉)がみられる(図表3−121).
一方,労働需要側からみると,企業はオイルシ目ツク後の期待成長率の低下に伴い,
それまでの固定的な熟練労働者からパート(特に女子)へ,その雇用形態をシフトして
いった.女子バートタイム比率をみると50年をボトムにはっきりとした上方トレント.
がよみとれる(図表3−13:).高度成長の中で企業は急速な成長をとげたが,成長の過
程で熟練労働者の不足が生じた.学校教育が企葉の必要とする技能をもつ人材を十分に
供給できない状況の下では,労働者の熟練は企業内のOJTによってのみ可能であった.
長い好況期と短い不況期が交互に来る高度成長時代,不況期の一時的遊沐労働カを企業
内に抱えこむことは,熟練労働カ不足の状況に対応した企業の訓練投資という意味で合
理的であoた.期待成長率の屈折のもとで,企業が固定的な熟練労働カの採用を切り詰
め,可変的な女子バート労働へのシフトを行っていることは,大規模能カ増強投資の抑
制に一脈通じているといえよう.
このようにバート雇用の瑠大は,女子の労働市場への参カロを増犬させた.’
注)パート雇用者とは臨時雇(1か月以上1年以内の期間を定めて雇われている
者)およぴ目雇(目々または1か月未満の契約で雇われている者)の合計とし
たI
㈹ 世帯主の期待所得の低下
家庭の主婦が就労する醐機の一つとして,家計が不足する収入の一部を得るためとい
うことがよくいわれる・所得階級別に主婦の有業率をみると(図表4−111),世帯主の
所得の多い階層ほど主婦の有業率は低くなっており,一応ダグラス・有沢の第1法則は
成り立っている。これを時系列でみても,非農林業,非自営業の女子労働カ率をみると
世帯主収入増加率と負の相関が読みとれる.
170
研究ノー ト
(171)
(図表3) 短時閥裁労機会の増犬
:1)希望する仕事の形睦別構成比
、 ’ 一互二,01⊥苧 .〃出地’冊W帆 」
昭和43年
単位%)
自分で’ をした︸、
適鋤で雇わたい
時間 で雇石れたい
欝幣塞
その他
30.4
n,3
46
36,4
11,O
4.4
{、6
37.O
49
39.4
11.3
4,4
4.4
34.C
6.4
54
45.1
12.2
4.o
2.9
27.9
7.7
25−34歳
47.6
12.1
4.3
2.8
27.4
5.6
3.6
5.O
42.8
6,9
6.6
35−44
50.9
7,6
4.8
2.6
27.O
6.9
45−54
42,4
9.8
3,9
3.O
32.O
8.5
主 娚
47.6
8.4
4.0
3.O
30.1
6.7
主婦以外
33.2
29.7
3.8
2.6
17.9
12.O
出玩 総理府『就棄榊坦塞本調査」
出所 総理府『就棄榊坦塞本調査」
(2〕女子の労働カ率とパート雇用老比率との関係
労
働43
.57
力
率42
・56
55
%
54
41
40
39
38
53
4ち ξ2
刊6 4ξ
榊751
50 相関係数昌O・968
4.5 5.0 5.5 6・0パート雇用者比率%
%(3)女子パート雇用巻の推移
万人
260
240
パート雇用老比率、
220
200
パート雇用者数\
180
160
45年464748495051525354555657
パート屈用者:臨暗雇=1か月以上1年以内の期間を定めて曜われている割
およぴ日屈{日々又は1か月来満の契約で屈われている着〕
の合肘.
171
一橘論叢 第94巻 第1号
(172)
(図表4)世帯主期待所得の低下
(1)所得階級別にみた主婦の有薬率
世帯主の所得階級
54年
40年
I
49.3
40,9
II
.45,7
30,0
m
40,2
24,5
lv
37,7
20.5
V
30.8
1510
出所:総理府「就業構造基本調盗」
世帯主収入
築質増加率
%
10
(2)世帯主収入増加率と女子労働力率
45
42 ’・
・. 47 48
44 ・
43
41 46
■ . 54
50 旦3 ;7
52
51 ・
.’ 56
49 5♪.
25 26 27 28 29 30 31%女子労働カ率
出所:総理府r家計継」・労働カ調査。(非農林非白営〕
14〕求職コストの低下
就職惰報誌の普及による求職コストの低下も女子労働カ供給を増やした一因と考えら
られる・因みに職安経由で紹介される労働者は全体の就職者の中で20%程度に過ぎない・
15〕女子の生きがいの変化
女子の学歴水準の高まりや職業観の変化も最近の女子就業者増加の一要因といえる・
女子の学歴水準が高まることは女子の雇用対象職種の範囲が広まることを意味し,やり
がいのある仕事への就業機会をみつけやすくする一学歴別に女子の有業率をみると(図
172
研究ノ ー ト
(173)
(図表5)単歴水準の高まり
(1)教育水準別にみた女子の労働力率
い’肌[…刊’’川’’’一ハ■り’■冊”「「 1%)
大学・大学
中学卒
高校卒
短犬卒
15−24
25−29
30−34
35−39
40∼54
55−64
65以上
56.2
45.0
53.7
66,9
54.6
47,8
16.O
76.9
47,0
48.7
58.5
61.9
43.O
19.6
85.6
55.9
46.7
48.3
55.2
41.3
19.7
院卒
86.8
60.7
50.6
55.4
60.9
53.1
30.4
計
47.3
55.3
58.7
61.1
出所:総理府「就業構造基本調査」
%(2)学歴別にみた女性の職業意識
50
40
30
中高短大
大学
卒卒卒卒
20
三’
{
二
10
0
一
ヨ 1
出所耳哉業研究所
「婦人の蹴業と
ライ7サイクル」
女桂は講乗を 子供が小さい閨はやめて犬きく 子供ができても可能な隈リ{一たないカがよい赤〔f叱重苗職する方が上い 蝋廿方が上い
もたないカがよい なったら再就職する方がよい 號けた方がよい
(3)女性の職業に関する意識の変化
女荏は憤棄を 詰揺するまで1… 子供ができるまでIま 子鶴ができてもすっと
榊い方がよい 熊をもつ卿1・ 聯もっ方がよい 熊を鮒醐{よい
出所:「娚人に関する世論調査」
表5−t1〕)’中学卒(47・3%),高校卒(55・2%),短大卒(58・7%),大学大学院卒(61.1
%)の順に高まoている.職業意識調査でも学歴の高い方が職業を持ち続けた方が良い
と答えている(図表5−12〕).
また,婦人に関する意識調査によれぱ,r縞婚までは職業をもっ方がよい」,r子供が
できるまでは職業をもつ方がよい」という結婚出産に伴って非労働カ化すぺきという回
答は,4フ年の31%から54年には22%に減少しているのに対し,r子供ができてもず
○と職業を続ける方が良い」とする回答は12%から20%にまで増加している(図表5
173
(174)
一橋論叢 第94巻 第1号
一13〕).
2 わが国の失業の特質
わが国の失業の特質としては,①失業率の水準の低さ,②景気変動に対する失業率の
非感応性一景気後退期においても失業が増えない一があげられている.
このうち,水準の低さについては,①諸外国との失業の定義の差違,②自営業者や家
族従業者が依然として労働カの中で大きなウェイトを占めているここと,③企業内労
. 注)
働市場が大きな比重を占めていて摩擦的な失業を生じにくいこと,などがあげられてい
る.
注)企業内のある職に欠員に生じたときに外部の労働市場から補充することが一
般的な場合は,それぞれの職について空席を待つ失業者が待機する必要がある.
これに対して欠員を内部からの昇進によって埋める場合、労働著の技能の多くが
企業内の訓練により形成されるから企業の二一ズとのミスマッチは少なく摩擦的
失業は刈、さくなる.
わが国の失業率は単にその水準が低いぱかりではなく,それが景気循環の局面で殆ん
ど変化していないのが特徴である.この要因の1つとして,雇用調整の速度が遅いこと
(人員べ一スでみた限り)があげられている.これは企業が景気後退期に操業短縮を余
儀なくされた際も労働時間の短縮や新規採用の停止等で対処するにとどめ,一時的な遊
休労動カを企業内で抱え込むといった行動をとったためといわれている.
失業率の景気に対する非感応性の要因には女子労働カ供給の及ぼした影響があげられ
る・すなわち。わが国の男女労働者について就業者数,非労働カ人口,失薬者の増減を
みると(図表6一ω),女子の就業者のフレが大きく雇用調整の安全弁として用いられ
ていた傾向がみえる・しかも女子就業者数の伸ぴが小さいときには女子非労働カ人口の
伸ぴが犬きくなるかたち(逆は逆)で,女子の非労働カ人口が最気循環に感応的な就業
注)
者数の変動を和らげ,失業者の増減をマイルドにするクヅシ目ンの役割を果たしていた
といえる(図表6一ω)。因みに,失業率の変動を需要要因と供給要因に分けてみると
(図表6−12〕),こうした女子の労働供給の動きを映じて,両要因が相殺する方向に働き,
締果として失業率が安定するかたちとなっている.
注)女子労働カ供給の伸ぴが46年第2四半期以降男子と同じであったと仮定し下
失業率を試算してみると(図表6−13〕),そのふれは著しく犬きくなり(46年第
1μ
研究ノー ト
(175)
(図表6)
(1〕就業者数・非労働力人口・失糞者数の推移
㈱飾年比増減)
一就業者数
(男子労働者数〕
万人
70
50
は2倍〕
f’一。
!
’、
.’
、
’
’・1’・’へ㌔・ ’1
一’
戸、
..、.
’
△18
一1’一非労働力人1]口6失業者数(目盛
。ヘノ
20
万人
O
△20
3536
38
万 人年
100
40
42
“
46
48
1女子労働者数)
■、’ \ 、
52
54
5657
/
\
5
㌔
〔{ヂ〉 、、
50
50
’
㌔
、
、
ノ
㌧、
.’
寸
o
、
〉一’
△50 10
万人 o
△l0353638404244464850525い657
年出所:総理府r労働力調査」
伍 .
%(2〕
皿 』 ’ _■ [■■ ^■ ■ ’_I」
失業率の要因分解
1.7
1.5
一失業率の差分
口需要要因
囮供給要因
i.O
O.5
△O,5
△1.O
△1.5
4142
年
44 46 48 50 52 54 5657
素(3)失業率㌘推移
グ、 女子労働力供給
1W
/ゾ、/縦鱗翼
’峠率
〉ψ、
)、
\失業率
46474畠495051 525354555657
年
175
(176) 一橋論叢 第94巻 第1号
1四半期∼57年第4四半期中の標準偏差 実綬O・40,試算値0・92),女子労働カ
供給の変動が失業率を安定させていたことがわかる。なお,この仮定に基づいて
失業率を試算すると,50年の不況期には4・3%まで上昇する(実績1・9%)反面・
57年は2.1%まで低下する(実繍2.4%)計算。 、
3女子労働カ供給増加の及ぼす影響
ω 景気変動の女子労働力率に与える影響
女子労働カの特徴は景気に敏感に反応して労働化したり非労働力化することだが・景
1〕 2〕
気変動が女子労働カ率に及ぼす影響については,付カロ的労働カ効果と就業意欲喪失効果
の2つの仮説が指摘されている。
1)景気停滞局面ては世帯主の雇用不安や一時的所得の低下を補うため主婦が働き
に出る一
2)景気停滞局面では仕事を探し出せる確率が低くなり大きな求職コストがかかる
ので就業意欲を失い非労働カ化する。
現実にはこの2つの作用が働いて,そのどちらが強いかによって景気変動に対する労
働力供給の増減が規定されることになる・そしてこの犬きさについては過去に多くの研
注〕
究がなされており,一般的には就業意欲喪失効果の方が大きいとされている一
注) ただし,r大不況のような景気後退期には就業意欲喪失効果が強く働き労働カ
率は低下するが,経済変動の小さいときにはほど顕著な影響は受けない」(ロン
グ)とか,「性年齢階級別労働カ率変動パターンを景気変動モデルに基づいて分
析すると一般に当初は就業意欲喪失効果が支配的だが,就業機会の低迷が続くと
付加的労働力効果が強まる」(企画庁研究シリーズ「労働市場の機構の研究」)な
どの研究もみられる.
景気変動が女子労働力率に及ぼす影響として就業意欲喪失効果が上回る場合・そのよ
うな女子労働力供給のウェイトが増加すると,有効需要政策の失業へ与えるインバクト
はどうなるであろう加
12〕労働ブロヅクのディスアグリゲーシ冒ン
前項で述ぺた点を定量的に把握するため、計量モデルの労働ブロヅクを,男女別しか
も男子は年令別(世帯主と考えられる25∼54歳とそれ以外)に,女子は未婚既婚別に
ディスアグリゲートして推計した.推計に当たっては,同ブロックの同時性に鑑み・2
段階最小2乗法を用いた.各方程式の基本的考え方は次のとおり.
176
研究ノ ー ト
労働供給がすべ
就業意欲喪失効
て世帯主(景気
果の強い女子労
働供給のプェイ
変醐に非感応〕
であつた場含
(1η)
トが増加した場
合
有効需要↑
/\
有効需要↑
賃金↑ 労働需要↑
賃
需要↑
世帯主労働女
供給(一定〕供
\
失業準↓
失業率“
{犬きく低下)
(低下してもわずか)
*「不況期に遊休熟練労幽
を抱え込むことは行わず
女子況期にパートを増やし
不況期はそれを減らす」
という企業の減量経営要
因を考慮。
○既婚女子労働カ率
一既婚女子労働カ率については…年代の家族従業者減少の影醤を避けるため,
非農林業の労働カ率を採用した・既婚女子労働カ率の定式化にあた。ては,前に述
ぺた既婚女子労働カ供給増加の要因を考慮して,①世帯主所得,②女子賃金,③求
職コスト,④短時間就労機会によって決定されることとした.
注)
世帯主所得についてはバンサーの指摘に基づき恒常所得と変動所得に分けて両
者をモデルに導入した・また・求職コス1としては有効求人倍率を,短時間就労機
会としては,女子パート雇用者対女子雇用者比率を用いた.
注)ミンサーは・フ1一ドマンの値締得仮説を労働供給に適用し,労働供給量
1η
(178) 一橋論叢 第94巻 第1号
は恒常的所得により影響されるが、短期的な所得の変動にも影響を受け・労働カ
率を推定するにはこの2つの要因を識別しなけれぱならないと主張した(“LabOr
For㏄P肛ticipation oi M肛ried Woman”)・
○未婚女子労働供給
一非世帯主として縁辺労勧カ的性楮が強いため,賃金率およぴ求職コスト(有効求
人倍率)で説明した.
○成年男子労働供給
一成年男子は世帯主として恒常的に労働市場に留まっており・労働カ率は97%と
安定している.このため、外生扱いとした一
○その他男子労働力供給
_縁辺労働カ的衰因を考慮して,賃金毒,求職一ス1を用いたほか・進学率の上昇
による若年男子労働供給の傾向的低下をカロ味した.
○女子雇用者数
一女子雇用者は,バードタイム雇用者とフルタイム雇角者に分けて推計した.説明
変数としては,最終需要,男女相対賃金を用いたが・パー1タイム醐需要の最終
需要弾性値(1.1・)はフルタイム雇用需要の弾性値(…1)よりも大きい値が推計
された.
○男子雇用者数
一男子雇用者数は,最終需要,実質賃金・労働時間により説明した・’
具体的な推計結果は(図表・)のとおりで,このプロヅクを内生化した場合のファイ
ナルテスト結果をみると,労働力人口の誤差率1.6%,就業者は1.7%でありた.
13〕有効需要政策のあり方
このように労働ブロツクを男女にディスアグリゲートしたモデル(ケース1)と,労
働力供給が常に一定であると仮定したモデル(ケース2)に拙’て,有効需要を追加し
た場合のシミユレーシ目ンを行ってみると次のとおりであった・公共投資を一定額{1
兆円)追加すると,ケース・では、失業者数が初年度・・千人・2年目64千人減少した
のに対し,ケース1では,初年度11千人,2年目7千人の滅少に止まった。すなわち。
景気を浮揚させた場合,既婚女子労働力に対しては,世帯主所得の上昇により労働市揚
カ、ら撤退する力よりも,賃金対求職コス1比の改善や短時間就労機会の増大等により労
働市場に参入するカの方が強く働くため,失業率の低下がさほど大きくならない.この
178
研究ノー ト
(1フ9)
(図表7) 労働プロヅクの推計
既婚女子労働力率=2.09−2.39世帯主恒常所得一1.02世帯主変動所得十1.43
(0.80)(4.41) (4.19) (4.57)
女子賃金/cpi+1・74有効求人倍率十80・75バート雇用者数/女子雇用者数
(2−94) (3.78)
〇一948■o−651/1,23
1og(未婚女子労働カ人口)=1.35+0.71]og(未婚女子15歳以上人口)
(1−67)(6.50)
十〇一501og(女子賃金/cpi)十〇・0510g(有効求人倍率)
(8.50) (7.89)
O−820/0,013/1.60
・男子労働カ人1(1雛)榔十11二11)(男子賃金増加率)
十〇.43有効求人倍率一1−2ア進挙率.
(0.75) (12.45) ,
O−940/0,815/1.42
41og(男子雇用者数)=7.38+O−321og(最終需要)
(29.57)(30−OO)
一0.0981og(男子賃金/wpi)一0.4151og(労働時間)
(8.40) (9−79)
o.985■o.o046■L23
51og(女子パート雇用者数)筥一7.39+1.1710g(最終需要)
(15.88)(27.61)
十0,621og(男子賃金/女子賃金)
(2.50)
o.947■o.038■1,01
6I1og(女子フルタイム雇用者数)=2.48+0,411og(最終需要)
(17,72)(32.69)
十0,181og’(男子賃金/女子賃金)
(2−32)
o,962■o.o12■1,44
7賃金前年比(世帯主)=0,079+0.3アcpi前年比
(1.84)(3.22)
一0,032失業率十0.55名目生産性前年比
(1.85) (3.51)
o−884■0,022■2,16
8 賃金前年比(男子)=O.253+0.59cpi前年比
(5.00)(4,43)
一1,048失業率十〇.1ユ6名目生産性前年比
(5.16) (O.63)
o.880■o−026■2,03
9 賃金前年比(女子)=O.188+0−48opi前年比
(3.50)(3.45)
一〇.087失業率十〇、544名目生産性前年比
(4.15) (2.86)
o.905■o,026■L78
注) 計測期閲は4ηI山5ηIV
()内iまt値・式の終わO数字はR王∫SE’DW.
179
(180)
一橋論撞 第94巻 第1号
(図表8) 失業の持つ意味
{1〕共稼ぎ世帯と伝統的世帯の
家計の比較
恥^一””]桃 (千円〕
共稼ぎ
世帯
伝統的
世帯
390
290
実収,入
世帯主収入
妻の収入
・77
妻の靱入比率%〕
19.8
49
341
258
非消費支出
可処分所得
消費支出
平獅肖費倒旬{%〕
黒字率(%)
75.6
24.4
金融資産繊率1%
14.3
336
321
0
一
48
288
236
畠2.0
18,0
10.2
出所1総理府『家計鯛査」
{2) 2つの意疎の失葉者
退職
1■’一.■ 「
雇用
解雇
失業 腫圃
採用
1匿鰯
寓
非労働力
採、用
ようなところへ,失業率の低下を目標として,最気拡大政策をとり続けると,物価上昇
のみ引きおこすという結果になりかねない,
通常マクロ経済政策を考える場合、失業はr所与」の労働力人口から有効需要によっ
て規定される雇用者数を引いた残りとされていた.従づて,こうした社会的遊休資源で
ある失業者を活用し,それにより所得分配ρ改善を図るという意味で,完全雇用の達成
が重要な目標であったといえる・そしてこのためには,短期的に労働供給は一定である
という前提がおかれていた.しかし,最近にみられる共稼ぎ世帯の急遠な増加は,失業
の持っている意味を変えているように思われる.(図表8−11〕)結婚の夫めの退職者や、
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研究ノー1 (181)
簡単に良い職が見っかれぱ働いてもよいという求職者は,必ずしも経済的に困窮してい
る者とはいえない・また・追加的労働供給をもたらす共稼ぎ世帯は,必ずしも低所得者
層に属しているとは隈らない(平均的には共稼ぎ世帯の方が伝統的世帯よりも収入,黒
字率とも高い一図表8一ω)、このようなことを無視して,有効需要政策のみで失業
問題を解決しようとすると,場合によっては所得分配を歪めることにもなりカ、ねない.
現実の労働者は,必ずしも等質ではなく・年齢・性別等により様々な差をもりており,
その間の代替性は必ずしも犬きくない.失業の間題は,マクロ的な問題というより,需
要供給のミスマッチなくすというようなミクロ的な対応が必要と思われる.
(目本銀行電算情報局)
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