Title Author(s) Citation Issue Date Type 判決の反射的効果についての覚え書 竹下, 守夫 一橋論叢, 95(1): 30-47 1986-01-01 Departmental Bulletin Paper Text Version publisher URL http://hdl.handle.net/10086/12826 Right Hitotsubashi University Repository 一橘論叢 第95巻 第1号 (30) 竹 下 守 夫 与えると説き、この反射的影響を確定判決の反射的効果 ^← が、この第三者に反射的に有利または不利に法的影響を 上の地位を取得しまたは喪失したと同じ状態にあること 判決の反射的効果についての覚え書 本稿の目的 一 判決の反射的効果をめぐる学説の状況 およびいわゆる訴訟担当の場合における実質的利益帰属 目的物を所持する者︵以上は、民訴法二〇一条一項︶、 者、口頭弁論終結後の承継人、これらの者のため請求の カが及ぶ人的範囲は、民訴法二〇、一条により、訴訟当事 との地位を得たに等しいから、保証債務の付従性により、 も実体法上償権者に対し給付をなすべき義務を負わない 権者に弁済する必要がないことになれば、それはあたか を受けるわけではないが、主債務者が勝訴判決を得て債 えぱ、保証人は主債務者と債権者との間の判決の既判カ 1反射的効カ、反射効ともいうーと呼んで来た。例 者︵同二項︶に隈定されている。ところが、わが国の多 して、債権者の保証人に対する保証償務履行の請求の棄 保証人も債権者に対し、主債務者勝訴の確定判決を援用 ω多数説による反射的効果の承認 ω確定判決の既判 くの学説は、古くから、これら以外の第三者が訴訟当事 このような判決の反射的効果の理論的根拠、およぴそ 却を求めうる、と説かれている。 者の一方と実体法上特別の関係にある場合には、他人間 の確定判決の既判カを受けるわけではないが一当事者が 一定内容の確定判決に拘束され、あたかも一定の実体法 30 (31) 判決の反射的効果についての覚え書 間で自由に処分できる権利関係について確定判決があっ くところは必ずしも一様ではないが、一般に訴訟当事者 か︵反射的効果の要件︶については、論者によりその説 れ■と関連して、いかなる場含に反射的効果が認められる 射的効果を及ぽす︵商八O条・八一条参照︶。㈹賃借人・ またその存在を確定する判決はその不利に、それぞれ反 社債務の不存在を確定する判決は無限責任社員の有利に、 四四八条参照︶。㈹合名会杜・債権者間の訴訟における会 勝訴の判決は、保証人の有利に反射的効果を及ぼす︵民 ときは、他の連帯債務者の有利に反射的効果を生ずる たときは、その既判カの基準時に当事者間の契約でその には、判決によってそれと同じ状態が生じたときも、そ ︵民四三六条一項参照︶。㈹共有者の一人が第三者に対す 賃貸人間の訴訟における賛借権の存在を確定する判決は、 れを実体法上の処分行為の効果と同様に見て、それがそ る共有物の取戻し・妨害排除請求の訴訟で勝訴判決を得 権利関係につき判決内容どおりの処分をしためと同様の の第三者の有利・不利に法的影響を及ぼすと解すべきで たと岩は、他の共有者は、これを保存行為︵民二五二 関係になるから、第三者が実体法上当事者の処分の効果 ある、と説く見解が有力である。これによれぱ、判決の 条︶として、自己の有利に援用しうる。㈹一般債権者は、 人が債権者との訴訟で相殺の抗弁により勝訴判決を得た 反射的効果は、訴訟当事者の一方と第三者との間に、こ 債務者と第三者との間の訴訟で、特定の財産の償務者に 転借人の有利に反射的効果を有する。㈹連帯債務者の一 のような依存関係︵または従属関係︶が認められる場合 属しないことが確定されていれぱ、それを承認しなけれ を自己の有利・不利に受けるべき依存的地位にある場合 に、その隈りで生ずるということになる。 ぱならない。㈱破産債権者・管財人は、債権調査に際し、 ^2︶ ⑭論者によりその範囲に差があるにせよ、とにかく、 認める学説の全部または一部により、反射的効果を認め ︵破二四八条。なお会社更生一五二条︶、などである。 確定判決を得ていれぱ、それを承認しなけれぱならない 他の債権者が既に破産者との間でその債権の存在につき るべき場合として挙げられて来たのは、次のような場合 このうち、㈹の後段、㈹、㈹は、反射的効果が第三者 一定の場合に判決の反射的効果なるものが生ずることを である。ω圭償務者・債権者間の訴訟における主償務者 31 , 第1号 (32) 第95巻 一橘諭叢 援用︵主張︶をまって顧慮すれば足り、㈹前訴が馴合訴 から、既判カと異なり、ω職権調査に服さず、当事者の 反射的効果は実体法に基づく実体法的性質のものである 断を争いえないという点では既判カと異ならない。ただ、 この効果が及ぷときは、後訴当事者は前訴確定判決の判 ㈹反射的効果が及ぷとされる場合の、その法的効果は、 し、その意味で、多数説に批判的態度をとりつつも、む 的効果の点で既判カの拡張と区別さるべき根拠がないと ㈹他方、右と同じく、反射的効果なるものは、その法 すことになろう。 者と屈出償権者との間の確定判決の既判力が及ぷ、と解 異議を述べようとする破産債権者・管財人に対し、破産 場合には、破産法の明文の規定により︵破二四八条︶、 せれぱ足りるとされる。もっとも、㈲の破産償権調査の 訟であるときは反射的効果は生じないと解すべきである しろ、それ故、上例の、ことき、訴訟当事者の一方と第三 の不利に及ぷ場合であり、他は有利に及ぷ場合である。 から、当事者は前訴が馴合訴訟であることを主張・立証 者との間に実体法上の依存関係のある場含には、そのこ ︵1︶ とにかく何らかの関係で反射的効果を認めるのは、細 解も有カに唱えられており、注目される。 ^5︺ とを理由として既判カの拡張を認めるべきであるとの見 して、反射的効果の及ぷのを免れることができ、また㈹ 将来反射的効果を受けるべき者が他人間の訴訟に補助参 加しても、共同訴訟的補助参加にはならない、と説かれ ?︶ ている。 野長良・民訴法要義w二一七頁以下、兼子一■民訴法体系 果﹂民事法研究−三六九頁、同﹁共有関係の訴訟﹂同n一 三五二頁以下、同﹁連帯債務者の一人の受けた判決の効 ω批判的見解 ω右のようだ多数説に対し、一部の学 説は、反射的効果なるものは実質的には第三者に対する 田淳一﹁判決の効カ﹂訴と判決の法理一四三員、同.民訴 第三者に及ぼす影響㈹﹂法学新報六八巻三号一五九頁、中 員、新堂幸司・民訴法四四〇頁以下、木川統一郎﹁判決の 夫・民訴法概論四一八頁、小山昇・民訴法︹三訂︺四〇九 四九員、同・判批・法協七四巻五・六号八八頁、斎藤秀 既判カの拡張と変わりがないが、既判カの拡張は明文の 規定のない限り承認さるべきではないから、明文がない のに反射的効果なるものを認めるのは妥当でない、と説 ^4︶ く。この見解では、多数説の挙げる右ω㈲のζとき場合 も、一般の場合と同じく・紛争の相対的解決の原則に任 拐 (33) 判決の反射的効果についての覚え書 法判例研究︹36︺、白川和雄﹁判決の第三者に及ぼす影響﹂ 実務民訴講座ω一〇五頁、上田徹一郎﹁判決効の主観的範 囲拡犬における法的安定と手続権保陣との緊張関係と調和 点﹂判タニ八一号四七員、なお、ドイツの挙説の展開につ による既判カの拡張の場含として捉え直そうとするもの であるが、本稿の基本的立場は、反射的効果の問題を、 特殊な場合に対処するための特殊な効カの問題と捉える それ以外の場合と連続性のあるものと捉え、その上で、 のではなく、従来反射的効果が認められて来た場合を、 そのうちのどこまでの範囲に、口頭弁論終緒後の承継人、 いては、鈴木正裕﹁既判カの拡張と反射的効カ﹂神戸法挙 二員が詳紬である。 めうるかを検討することによって、既判カ拡張の一般的 既判カが及ぶとされる根拠を類推し、既判カの拡張を認 目的物の所持者、訴訟担当の場合の実質的利益帰属者に 九巻四号五〇八頁、同﹁判決の反射的効果﹂判タニ六一号 ︵2︶ 前注掲記の兼子博士の諸諭稿。なお、鈴木︵正︶・注 ︵1︶掲記論文・判タニ六一号二頁以下参照。 間趨ないし開かれた間題として解決しようとするところ ︵3︶ 鉛木︵正︶・注︵1︶掲記論文・判タニ六一号四員、 村﹁判決の反射的 効 カ ﹂ ジ ュ リ 三 〇 〇 号 二 六 四 頁 。 な広がりの大きい問題を取り上げるのに必要な、準備の にある。ただ、残念ながら、目下わたくしは、このよう 上田・注︵1︶掲記諭文・判タニ八一号四九員以下、吉 ︵4︶ 三ヶ月章・民訴法︵金築︶三五頁、後藤勇﹁確定判決 の反射的効力﹂判タ三四七号一一頁、上村明広﹁確定判決 ための時間的余裕を持ち合わせていないので、本稿は、 一一本稿の意図 を、これまで発表された諸先輩、同僚の諸論稿に負いな にとどめざるをえない。なお、本稿の内容は、その多く ︵5︶ 鈴木︵正︶・注︵1︶掲記諭文・判タニ六一号二員。 の反射効と既判カ﹂中村古稀三八一頁。 本稿は、右のような学説の状況をふまえ、わたくしな がら、本稿における文献の引用は、最小限にとどめざる 右の基本的立場からするわたくしの考えをデヅサンする りに間題を整理し、その解決の方向を探ろうとするもの をえなかった。 ︵第二節︶、反射的効果を認める見解に対する疑問を述べ 以下では、まず反射的効果に関する判例を瞥見した後 である。具体的には、右に述べた最後の見解と志向を同 じくし、結論としては、多数説によって第三者に反射的 効果が及ぷとされて来た場合を、民訴法二〇一条の類推 拐 ● 一橋論叢第95巻第1号(34) つつ、間題解決の方向を示し︵第三節︶、それから、従 来反射的効果が認められて来た場合を中心として、どの 範囲で既判カの類推的拡張が認められるかを具体的に検 て、甚だ未熟な本稿ではあるが、 御退官を記念して、先 生に棒げたいと恩う。 方法論、法挙研究の国際的協力の在り方などについても、 専門の身分法学に関する間題ぱかりでなく、民事法学の る。わたくしは、この研究会を通じ、島津先生から、御 法学部の将来などを論じあったことが懐しく想い出され 発足当初、四人で夜遅くまで法律論を闘わせ、また本単 くの若い同僚の参加を得て一層充実したものとなったが、 研究、教育に励んで来た。現在では、この研究会も、多 爾来十有余年、互いに協カして本学における民事法学の 好美清光教授と四人で一橋大学民事法研究会を組織し、 島津先生は、川井健教授と共に本学に着任された。早遠、 部に籍を置くようになった昭和四五年四月から一年後、 により本学を遺官された。恩えば、わたくしが本学法学 島津一郎先生は、昭和六〇年三月末日をもって、定年 * * * の間の土地明渡ないし建物収去土地明渡講求訴訟の判決 ωまず、土地所有者と借地人ないし地上建物所有者と 類型別に見ると、次の通りである。 二 戦後の判例で反射的効果に関するものを、事案の うまでもない。 とができることになり、この結論が不当であることはい 主・買主の通謀により、容易に買主の債権者を害するこ この判決に拘東されるとした。しかし、これでは、売 を得た償権者に対し﹁反射的作用﹂を及ぼし、償権者は のため、この不動産に対し仮差押の執行をし、その登記 権移転登記がなされた後、買主に対する債権の執行保全 請求訴訟における原告︵売主︶勝訴判決は、買主に所有 誤を理由とする売買契約無効確認、所有権移転登記抹消 九巻民訴六二頁が、不動産の売主から買主に対する、錯 く戦前、︹1︺名古星地判昭和一四年八月二八日評論二 一 確定判決の反射的効果に関する判例としては、古 一一判決の反射的効果に関する判例の概観 多くのお教えを受けられたことを、大変嬉しくまた有り 討することとする︵第四節︶。 難く思っている。その学恩に対する心からの感謝をこめ 拠 (35)判決の反射的効果についての覚え書 は、いずれも、土地所有者勝訴の判決は、土地の転借人 阪地判昭和三〇年八月二四日下民六巻八号ニハ九二頁 三日下民五巻一号六二頁︵後述︹4︺の原審︶、︹3︺大 有するかについては、︹2︺東京高判昭和二九年一月二 が、土地の転借人、建物の賃借人に対して反射的効果を た後、債権者一主償務者間で、主債務の当初からの不存 先に債権者・保証人間において保証人敗訴判決が確定し 最判昭和五一年一〇月二一日民集三〇巻九号九〇三頁が、 人にする効果については、これも周知のように、︹6︺ ②次に、債権者と主債務者との間の訴訟の判決の保証 在を理由とする主債務者勝訴の判決が確定した場合に、 の訴えを提起した事案につき、﹁一般に保証人が、債権者 または建物の賃借人に対し反射的効果を有するとしたが 転借権または建物賛借権に基づく土地使用の権隈を主張 からの保証債務履行講求訴訟において、主償務者勝訴の 保証人が、そのことを理由として償権者に対し講求異議 しえないとし、︹3︺は、建物賃借人枇判決の反射効に 確定判決を援用することにより保証人勝訴の判決を導き ︵︹2︺は、土地転借人、建物賃借人は反射的効果を受け、 より建物所有者の土地使用権を主張しえないとする︶、 うると解せられるにしても﹂、保証人がすでに敗訴の確 定判決を受けているときは、その後その基準時前の事由 ︹4︺最判昭和三一年七月二〇日民集一〇巻八号九六五 頁は、周知のように、原審たる︹2︺の判決を覆えし、 に基づき主債務者勝訴の判決が確定しても、講求異議事 ^← 由になり、えないとした。原審である、︹7︺高松高判昭 ﹁原判示の如き法律上の拘束を受けると解すべ老法理上 ^6︺ の根拠に乏し︹い︺﹂と判示した。 また、償権者・主債務者間の訴訟で債権者が勝訴した 和四九年七月二九日高民二伊巻三号三一九頁も、結論同 ついては、︹5︺神戸地判昭和四七年一一月三〇巳判時 場合については、︹8︺最判昭和三七年四月二一日裁判 これに対し、土地所有者・建物所有者間の建物収去土 七〇二号九一頁が、建物賃借人は、建物所有者勝訴の判 集民事六〇号一六七頁が、債権者勝訴の確定判決の効カ 旨である。 決を自己に有利に援用して、土地所有者の建物退去土地 は保証人に及ぱない、としている。 地明渡請求訴訟において、建物所有者が勝訴した場合に 明渡請求を排斥しうる、としている。 鋤 ■ 第1号 (36) 第95巻 一橋論叢 理由によりその農地の売渡処分の無効確認の訴えを提起 した事案につき、買収処分は無効ではない旨認定判示し ㈹また︵真正もしくは不真正︶連帯償務者の一人と債 しては、︹9︺最判昭和五三年三月二三日判時八八六号 権者との間の判決の、他の連帯償務者に対する効果に関 に本件当事者間にも及ぷものと云うべきであるから原告 は今更に右買収処分の無効を云々することはできない。﹂ た前訴判決が確定した以上﹁その判決の既判カは反射的 と判示している。 三五頁・金商五四八号ニハ頁が、不真正連帯償務者の一 を一部棄却した判決の効カが、不真正連帯債務者の他の ︵7︶ 判旨賛成 小山昇﹁債櫓者・主償務者間の判決と保 子・判批・法協七四巻五・六号八八頁。 よっても、反射的効果の認められない事案であった。兼 ︵6︶ しかし、これは、一般に反射的効果を承認する挙説に 人の提出した相殺の抗弁を理由有りとし、債権者の請求 一人と償権者との訴訟に及ぷかが争われた事案につき、 これを肯定した原判決を破棄し、その効カが及ぱない、 ^8︶ としている。 証人﹂民商七六巻三号三三九頁以下、上田・判批・民商七 七巻二号二四三頁。判旨反対ないし疑間−吉村・判批・ ωさらに、︹10︺東京地判昭和三八年一〇月一九日判 時三四八号二八頁は、責任保険の契約者たる自動車保有 判評二二一号二二六頁、高橋宏志・判批・ジュリ六四二号 前述のように、反射的効果を認める見解は、 学説上多 一 反射的効果説の難点 三 反射的効果説の難点と間題解決の方向 判旨凝問−小山・判批・判評二三七号一六三頁。 員、鈴木︵正︶﹁連帯償務と判決効﹂判タ三九一号四員。 ︵8︶ 判旨賛成−鈴木重勝・批判・ジュリ六九三号一四三 一四二貢。 者と交通事故の被害者との間において、自動車保有者に は自賠法三条の損害賠償義務がない旨の判決が確定した ときは、保険会社もまた被害者に対して自賠法一六条一 項所定の保険金支払義務を負わないと解するのを相当と する、としている。 また、︹11︺神戸地判昭和三七年三月二三日訟務月報 八巻六号一〇一五員は、買収された農地の元所有者が、 買収処分の無効を理由として国に対し所有権確認の訴え を提起し敗訴した後、今度は、知事を相手として、同じ 36 (37)判決の反射的効果についての覚え書 る実体法上の効果を有するものではないとしていること。 上の効カであって、当事者間の実体的権利関係を変更す 第一に、この見解は、現在の通説が、既判カは訴訟法 数説であるが、この見解には、次のような難点がある。 あり︵訴訟担当の場合の実質的利益帰属者など︶寸既判 者を保謹する必要のあることは、既判力の場合も同様で して、その訴訟の判決の効カを自己の不利に受ける第三 は、疑わしい。前訴当事者の馴合いによる訴訟追行に対 務も消滅することにならないから、それにも拘らず、債 上主たる債務が消減するわけではないとすれば、保証償 を認める必要はない。職権調査や補助参加との関係でも、 あえて既判カと異なる内容的拘束カとしての反射的効果 しうるから、馴合訴訟による無効の主張を認めるため、 ︵商二六八条ノ三、行訴三四条の類推︶が許されると解 七一条前段による独立当事者参加、事後的には詐害再審 権者が保証人に対し主債務の存在を主張し保証債務の履 既判力と異なる反射的効果を認めるべき実質的必要があ カを受ける第三者の保謹手段として、予防的には民訴法 行を請求することができないという拘束的効果を実体法 るとは思われない。 ︵いわゆる既判カの本質に関する訴訟法説︶と、理論上 的に理由付けることは困難である。むしろ、そのような また、有カ説が、反射的効果を認めるべき理論的根拠 整合し難い。主たる償務者が勝訴判決を得ても、実体法 拘東的効果を認めるのが相当であるなら、それは、確定 者の有利に及ぷとされる場合については、果して適切で として挙げる実体法上の依存関係も、反射的効果が第三 また、第二に、第一節で述べたとおり、反射的効果の あるか、疑問と思われる。 カの効果として認めるべきである。 本体的作用は既判カと異なるところがないにも拘らず、 ︵9︶ 鈴木︵正︶・注︵1︶掲記論文・判タニ六一号二頁。 判決の判断内容に対する訴訟法上の拘束カ、つまり既判 職権調査事項とならず、また馴合訴訟の場合には生じな いとし、補助参加の点でも既判カと異なるとされるが、 ^9︶ すでに鈴木正裕教授により詳紬に論証されているとおり、 定の第三者以外にも、特別の場合に、確定判決の内容的 川このように考えて来ると、結局、民訴法二〇一条所 = 問題解決の方向 これらの点で既判カと差異を設ける実質的理由があるか 甜 第1号(38) 第95巻 一橘論叢 検討して行くのが、正しい問題解決の在り方であると思 の第三者に既判カを拡張することが是認されるか否かを 張を認めていることが正当とされる根拠に照らして、そ 目的およぴ民訴法二〇一条が一定の第三者に既判カの拡 いと考えられる第三者があるのであれぱ、既判カ制度の 存在は職権調査事項とされ、また当事者の合意による処 機のあることを否定しえない。それ故にこそ、既判カの 止による訴訟制度の費用の節減ーの要求という公的契 は、社会秩序の維持、およぴ同一紛争のむし返えしの禁 その場合でも、既判カ制度には、法的安定−具体的に にのみ求めれぱ足りるとの見解もありえようが、やはり とする訴訟では、既判カ制度の目的を、第一の私的契機 われる。反射的効果の間趨に関する西ドイツの学説も、 分が認められないのである︵なお、民訴四二〇条一項一 拘束カをその有利または不利に拡張することがのぞまし この方向に進展して来たといってよいであろう。 との当事者の期待ないし信頼を保護することを目的とす えされることなく、それを基準として紛争が解決される に、それは、確定判決の内容である権利存否の判断が覆 の利益保護︶との二重の目的をもつと考えられる。第一 設営者ないしより具体的にはその背後にいる一般納税者 とはいえない。さらに、既判力を不利に対抗される当事 だけでは、実際に既判カを認めるに十分な条件が整った める必要があるということを意味するにとどまり、それ ぴ一般社会の利益保護のために、確定判決に既判カを認 それは、いわぱ一方の当事者︵通常は勝訴当事者︶およ の保護およぴ法的安定の確保を目的としているとしても、 〇号参照︶。 る。第二に、しかし、このような当事者の利益保護と並 者との関係でも、既判カを認めることが正当とされる根 ωそこで、既判カ制度の目的であるが、元来、既判カ んで、裁判所および両当事者の紛争解決の努カが終局判 拠が存在しなけれぱならない。この意味での既判カの正 ㈹このように、既判カ制度が権利存否の判断への信頼 決の確定にまで至ったときは、最早その判断内容を争い 当性の根拠とは、結局、当事者に既判カの対抗を受忍す 制度は、当事者の利益保護と一般の利益保護︵訴訟制度 えぬこととして、杜会の法的安定を確保することをも目 るよう求めても、法的正義の理念−あるいは法治国家 ^10︶ 的とする。当事者の処分の白由が認められる権利を対象 鎚 (39)判決の反射的効果についての覚え書 九条︶等ーに照らし不当とはいえないという、既判カ 理念、より具体的には憲法における財産権の保障︵憲二 て、既判力により紛争の対象たる利益を保持または取得 己の前主が、手続権を保障されて行った訴訟の結果とし の存否につき弁論し、訴訟を追行する権能と機会とを保 事者については、訴訟主体として手続上訴訟物たる権利 この既判力の正当性の根拠は、判決の名宛人たる訴訟当 には、㈹いったん確定判決によって承認され取得された 果を承認すべき関係︵実体法上の依存関係︶にあるとき 承継人が、実体法上、その承継前に前主のした処分の縞 にその利益を承継したと同様の地位にあり、それ故、㈹ 恩に基づいて紛争の対象たる利益を処分してしまった後 しえないものと確定され、その意味で、あたかもその意 障されたこど︵手続権ないし当事者権の保障︶に求める 受忍の規範的要求可能性︵旨目暮げ胃ぎ5の根拠を指す。 ことができる。これに対し、既判カを立法的または解釈 ることはないとの、勝訴当事者の期待を考慮すれぱ、承 利益を、自己の関知しない相手方の事情によって奪われ 継人に既判カの効果を受忍させるのが、公平の理念に合 的に第三者の不利に拡張するときには、同様に、その第 致する、という点にある。つまり、前主がすでに既判カ 三者につき、既判力の拡張を正当化する根拠がなけれぱ ならないが、それは一体何かが問題となる。また、第三 ωまず、口頭弁論終結後の承継人については、承継人 拠は、ω勝訴当事者は、紛争の対象たる利益を、既判力 する関係でも既判カを受けるとされることの正当性の根 これに対して、敗訴当事者が勝訴当事者の承継人に対 承継人に対する既判カ拡張の正当性の根拠である。 ^11︺ た利益保持の期待を保護する必要性、の三つの要素が、 の間の実体法上の依存関係、および勝訴当事者の取得し により主張しえなくなった利益の承継、前主と承継人と 者の有利に既判カを拡張する場合には、当事者の一方 ︵通常は、敗訴当事者︶にその第三者との関係でも既判 力を受忍させることの正当性の根拠が間題となる。 ω当面の民訴法二〇一条により既判カの拡張を受ける 第三者については、既判カ拡張の正当性の根拠は、それ とりわけ敗訴当事者の承継人に不利に既判カを及ぼすこ によって確保された状態において他に移転することによ ぞれ次の点にあると考えられる。 との正当性の根拠は、ω口頭弁論終結後の承継人は、自 39 第1号 (卑O) 第95巻 一橋論叢 たる利益を取得ないし保持しえないことが、相手方当事 敗訴当事者は、すでに手続権の保障の下に、紛争の対象 ないとされても、それは原告にとって予期せぬ不利益で 判断された以上、所持者との関係でもこの判断を争いえ でに手続権の保障の下に目的物の引渡を請求しえないと いての勝訴被告の期待を保護する必要と、敗訴原告はす 者との関係で確定されたのであるから、その承継人との はなく、やむをえないと考えられる点にある。 り享受することをも認められるべきであるのに対し、㈹ 関係でも覆えしえないとされても、不当にその利益を損 利に既判カが拡張されることが正当とされる根拠は、こ ㈹さらに、訴訟担当の場合に、実質的利益帰属者の不 ⑭次に、請求の目的物の所持者は自ら手続に関与する れらの者は、その利益が訴訟上訴訟担当者によって代表 うとはいえない、という点にある。 機会も与えられず、また承継人のように訴訟当事者との に対し既判カを不利に拡張することを正当と認めうるの 訴訟物につき二度の訴訟を強いられるいわれがないから、 って担当者に当事者適格が認められた結果として、同一 されているし、また相手方は自己の関知しない理由によ ^旭︶ は、民訴法二〇一条一項にいう所持者とは、もっぱら訴 公平の理念に照らし、利益帰属者は担当者の受けた判決 間に実体法上の依存関係があるわけでもないのに、これ 訟当事者または承継人のために目的物を所持する者を指 逆に訴訟担当者勝訴の場合に、相手方が利益帰属者と の既判カを受けてもやむをえないという点にある。 ないという点に、その根拠がある。つまり所持者には、 の関係でも既判カを受けるのは、当該訴訟物をめぐる紛 し、所持者が目的物の所持につき自己固有の利益を有し 訴訟当事者とは独立に手続権を保陣する必要がないと考 とは一体関係にあり、相手方もそのことを十分認識して 争については、訴訟担当者とその背後にいる利益帰属者 拠である。 いる筈であるから、手続権の保障の下に自ら訴訟を追行 えられることが、これに対する既判カ拡張の正当性の根 これに対して、敗訴原告が所持者との関係でも既判カ した相手方は、利益帰属者との関係でも、その結果を廿 受すべきだからである。 を受けるとされる根拠は、所持者を通じて目的物を占有 しうるという、判決によって確定された利益の確保につ 〃 (41)判決の反射的効果についての覚え書 以上の考察を前提として、次に、従来多数説あるいは 判例により反射的効果が及ぶとされて来た第三者、ある いはそれと類似の地位にあると思われる第三者につき、 既判カの拡張を認めうるか否かを具体的に検討すること とする。 ︵10︶ 西ドイツにおいて、このように既判力の目的を当專者 の利益と一般の利益との双方に求めるのは、ω至目H−g竃 ■ωoげ自旨凹自自㌔■9勺oδ一N市O−o.>一﹄声㎝ωNNHHH一土OH目目− 餉岸メΩ﹃目目昌印o司o■︷窃く昌武す;目胃8げ砕9N一>昌自一ωω一卓ooω 1企OO中 ︵u︶ このような理解は、むしろ伝統的なものであるが、こ れに対し、近時、承継人に対する既判カ拡張をも、手続権の 保障の視点から正当化しようとする試みが有カである︵谷 口安平﹁手続保障の基礎理論のために﹂民訴雑誌27号一四 連﹂同一六〇頁以下、井上治典﹁手続保障の第三の波②﹂ 四頁、吉村﹁訴訟機能と手続保障−判決効拡張との関 法教二九号二五頁など。しかし、これは、訴訟係属時にす でに訴訟の対象たる利益になんらかの利害関係をもって存 在しており、それ故、口頭弁論終結前に手続権を保障する ことが少なくとも理論上は可能であった第三者に対する既 判カ拡張の正当化根拠と、およそ論理的にそのような可能 性のない、口頭弁論終結後の承継人に対するそれを、一律 な代表﹂や﹁間接的参加﹂の考え方により、前主に対する に把握しようとするもので、相当とは恩われない。﹁適切 手続権の保障があれぱ、承継人に対する手続権が保障され くとも、前主たる訴訟当事者が手続権を保障された結果、 たことになると説くのは、擬制といわざるをえない。少な 自己責任として既判カの狗束を受けるのと同じ意味で自己 にはない筈である。 貴任を間われる根拠となるような手続権の保障は、承継人 なお、ここでは詳論している余裕がないが、わたくしは、 民訴訟法二〇一条にいう口頭弁論終結後の承継人とは、口 頭弁論終結後に、紛争の対象であった法的利益を訴訟当事 くo 者から承継した者を指すと考えていることを、付言してお ︵12︶ アメリカ法においても、信託財産の受託者、遺言執行 者などが当事者として追行した訴訟の判決の効カが受益者、 られていること、その際、代表の観念が次第に拡張され、 相続人などに及ぷとされることの根拠が代表の観念に求め 必ずしも明確でなくなっていることについては、吉村﹁判 六員以下参照。 決効の拡張とデ^1・プロセスO﹂法政研究四四巻一号一 四具体的検討 実体法上訴訟当事者の地位を先決関係とする地位 41 第ユ号(42) 第95巻 一橋論叢 及ぶと認めて来たのと同様に、その確定判決の既判カは、 たときは、従来、多数説が第三者の有利に反射的効果が 上の地位を先決関係とする場合に、その当事者が勝訴し 法的地位が、訴訟当事者の一方の、訴訟物たる法律関係 ω第三者に有利な既判カの拡張ω実体法上第三者の 者に対する訴訟で敗訴した相手方当事者が実質的利益帰 所持者に対する関係でも既判カの拘束を受け、訴訟担当. し物の引渡しを訴求し敗訴した原告が、請求の目的物の 益を受けるとはいえない。これは、あたかも、被告に対 会社債務の存在を主張しえないとされても、不測の不利 佳社員に対する関係でも既判カの拘束を受け、主債務、 行し、敗訴判決を受けたのであるから、保証人、無隈責 敗訴当事者と第三者との関係において、第三者に有利に 属者に対する関係でも既判カの拘東を受けるのに類似す にある第三者 拡張されると解しうると考える。第一節に挙げた例でい これらの場合には、敗訴当事者、例えぱ債権者は、保 判カは、被害者から保険会社に対する直接請求との関係 ^”︶ で、保険会社の有利に拡張されると解してよいであろう。 保険者に対する事故の被害者の請求を棄却する判決の既 れぞれ及ぶのが、それである。そのほか、責任保険の被 との関係で無限責任社員の有利に︵㈹︶、賃借人勝訴判決 念︶ の既判カが賃貸人との関係で転借人の有利に︵㈹︶、そ、 証人の有利に︵ω︶、合名会社勝訴判決の既判カが償権者 と保険会社との関係など︶、勝訴当事者の地位と第三者. 場合でも︵例えぱ、賃借人と転借人との関係、被保険者 者側の事情に類似する。また求償関係が問題とならない それがある。このような事惜は、勝訴当事者の承絡人と 自己の勝訴判決によって得た利益を確保しえなくなるお れらの者が債権者に敗訴したときには求償請求を受け、 無隈責任社員に対して既判カが拡張されないと、後にこ 他方、勝訴当事者たる主償務者、会社は、もし保証人、 る。 証債務が主債務の存在を前提とし、無限責任社員の債務 の地位との間に実体法上先決・後決関係があることから、 えぱ、主償務者勝訴判決の既判カが債権者との関係で保 が会杜の債務の存在を前提とすることを承知しながら、 欺訴当事者と第三者との後訴において、第三者敗訴の判一 敗訴当事者との間の既判カの拡張を正当化する勝訴当事 手続権の保障の下に、主償務者や会杜に対して訴訟を追 期 (43) 判決の反射的効果についての党え書 先決的関係に立つ訴訟当事者の責任から派生する責任を し、ここで問題としている第三者は、もともと実体法上、 欠け、公平を害するように思われるかも知れない。しか 決の既判カは第三者にも及ぶという意味で、判決の効カ ^”︶ に対称性ないし相互性︵アメリカ法でいう冒津量睾<︶が 訴判決の既判カは第三者に及ぱないのに︵後述︶、敗訴判 ずして利益ポ得るのに対して、敗訴当事者は、自己の勝 当である。確かに、このように解すると、第三者は労せ との間に、第三者の有利に既判カの拡張を認めるのが相 勝訴当事者の地位を先決関係とする第三者と敗訴当事者 間で前者の有利に既判力が拡張される根拠を類推して、 者側については、勝訴当事者の承継人と敗訴当事者との 前者の有利に既判カが拡張される根拠を、また勝訴当事 の所持者または実質的利益帰属者と敗訴当事者との間で したがって、敗訴当事者側については、請求の目的物 を取消されるなど︶。 任を間われ、あるいは将来の保険料につき、無事故割引 の利益が害される危険がある︵転借人から債務不履行責 法的地位の安定がおぴやかされ、実際上直接・間接にそ 決がなされれぱ、前訴判決で得られた筈の勝訴当事者の とおり、既判カの拡張は生じないと解すべきであろう。 にある者が勝訴しても、前掲︹6︺の最高裁判決のいう れが確定していれぱ、その後、主債務者等、先決的地位 る第三者が、先に自ら当事者として敗訴判決を受け、そ 保証人等、勝訴当事者の地位を先決関係とする地位にあ ㈹しかし、以上は一般の場合についてのことであり、 いては相互性の例外︵まユ畠まき5一︺⋮専o賞Φ黒−昌︶ ︵拓︶ が承認されて来たといわれている。 い。アメリカ法上も早くから、派生的責任を負う者につ いる筈であるから、相互性を欠いても不公平とはいえな その訴訟には二倍の利益がかかっていることを認識して しても自己の権利を主張しえぬ関係にあり、その意味で、 訴当事者の地位を先決関係とする地位にある第三者に対 方当事者は、前述のように、その訴訟で敗訴すれぱ、勝 かりえても、不当な利益を得たとはいえず、他方、相手 位にある訴訟当事者の得た勝訴判決の利益の均霜にあず うる地位にある︵転借人など︶のであるから、先決的地 訟当事者の有する権利を自己の権利の基礎として利用し 責任社員、保険会社など︶、あるいは先決的関係にある訴 負う地位︵o邑重弐くΦ5げ畠身︶にあるか︵保証人、無限 娼 橘論叢第95巻第1号(44) の判断が、後訴当事者間で信義則上拘束カを有すると解 事由に基づき、しかも、その事由についての判決理由中 ただ、先決的地位にある者の勝訴が、前訴の基準時後の 訴判決の効カよりも、優先させるべきであるからである。 ている以上、その効カを、先決的地位にある者の得た勝 し執行を受けることをも、代表社員による訴訟追行の結 財産に執行を受けることのみならず、自己固有財産に対 抗弁が成り立たない限り、無限責任社員は、結局、会社 執行カの拡張は認めないとしても1商法九三条所定の る。無限責任社員に対する既判カの拡張を認めれぱ1 無限責任社員は、そのことを主張しえてしかるべきであ されるときは、前訴の敗訴当事者も、その理由中の判断 ったからといって、当然にこのような不利益を受けるこ 果に委ねることとなるが、合名会社の無隈責任社員にな 自ら手続権の保障の下に訴訟を追行し、敗訴判決を受け を自己の利益に援用しうると考える︵なお、この点につ とまで承認していると見ることはできないであろう。上 述ωの場合には、既判カの拡張によって不利益を受ける いては、後述参照︶。 ②第三者に不利な既判カの拡張 以上に対して、先決 者は前訴の敗訴当事者であり、自ら当事者として同一法 かかっていることを自覚している筈であるーから、こ 的地位にある者が受けた敗訴判決は、その地位を前提と の場合をそれと同日に談ずることはできない。また敗訴 する地位火ある第三者に対し、その不利に既判カを拡張 とは合名会社敗訴の場合の無隈責任社員、債務者敗訴の 当事者の承継人は、前訴に関与する機会が与えられてい しかも、通常は前述のように、その訴訟に二倍の利益が 場合の他の一般償権者についても、同様である。合名会 ないのに、実体法上敗訴当事者との間に依存関係がある 偉関係の存否を主張する機会を与えられた者である− 社敗訴の判決は、無隈責任杜員の不利に反射的効果を及 ^g ぽすとする見解が有カであるが、既判カは訴訟法上の拘 ということを理由として、自己の不利に既判カの拡張を することは、原則としてないと解すべきである。このこ 東カに留まり、会社償務の存在を認める判決は、その基 受けるが︵前節二ω㈹参照︶、その場合は、勝訴当事者 が予め承継人をも共同訴訟人としておくことは不可能で 準時において新たに会社の債務を生じさせるわけではな いから、もし実体法上会社債務が存在しないのであれば、 μ (45)判決の反射的効果についての覚え書 あり、しかも自己のあずかり知らぬ事由によって承継が 行われるので、勝訴当事者のために、その確定判決によ って得た利益を保障しようとすれば、他に方法がないと の事情が付加されて、既判カの拡張が正当とされるので ある。したがって、当面の場合をこれと同一視すること はできない。 ただ、被産償権確定訴訟、更生債権・更生担保権確定 訴訟においては、破産法二四八条、会社更生法一五二条 の解釈上、異議者は、届出債権者が債務者に対して得た 確定判決の既判カに拘束されると解すべきである。しか し、これは、屈出債権等につき正確な調査をなす手段と 責任とを有する管財人が、総債権者の利益のために、確 定判決ある債権等についても否認権を行使し︵破七五条、 会社更生八一条︶また再審の訴えを提起するなどして、 不当な届出償権者の手続参加を阻止しうることを前提と するものである。それ故、これと事情を異にする民事執 行法上の配当異議訴訟では、異議債権者は相手方債権者 が債務者に対して得た確定判決には拘東されないと解す べきである。 ^珊︶ ︵13︶ この意味で、判例︹5︺の緒論は支持しうる。 ︵14︶ この意味で、判例︹10︺の結論は支持しうる。ただし、 笑体法上、被害者が被保険者に対して勝訴判決を得ること が、直接請求権発生の要件とされているのであれぱ、既判 カを間題とするまでもなく、被害者の保険会社に対する講 ︵∬︶ アメリカ法上の既判カの相互性をめぐる判例の展開に 求は、実体法上の理由で棄却となる。 ついては、小林秀之﹁判決効の拡張化現象とリステイトメ ント︵下︶﹂判タ五三三号一四員︵小林・アメリカ民事訴 訟法二七一員以下、ことに二九五頁以下︶が、最も新しい の相対性について﹂判タ三〇七号三一頁、吉村・注︵12︶ 状況まで詳細に伝えている。そのほか、霜島甲一﹁既判カ 掲記論文・法政研究四四巻一号一頁も、この間題に関する ︵16︶宛o蜆呂σ實oq−峯色冨室自貞o﹃P自o目竃誌o−Ωく与8− 貴重な業綬である。 ︵〃︶ 兼子・実体法と訴訟法一六五貢注︵五六︶、新堂・民 ooO目HgO芭蜆o蜆害]O峯凹“oユ巴y勺一H−杜α. 訴法四四一頁−四四二頁。 ︵㎎︶同旨、中野貞一郎﹁配当手続の性格﹂強制執行・破産 の研究一八六頁、宮脇幸彦・強制執行法︵各論︶四八四員 強制執行要論㈲二一八八貢以下など。 など。反対、兼子・増補強制執行法二二六頁、松岡義正・ 二 実体法上訴訟当事者と法的共同関係にある第三者 ω第三者に有利な既判カの拡張 訴訟当事者の一方と 幼 一橋論簸第95巻 第1号(46) 第三者との間に、先決・後決関係ではないが、連帯ある 係にある第三者に既判カが拡張されないと、勝訴によっ の一人の受けた判決の既判カが、他の者の有利に拡張さ 場合は少ない。しかし、これらの法的共同関係にある者 に既判カが及ぷといっても、そのこと自体が意味をもつ Ωooq昌邑一︶にもならないから、これらの第三者の有利 また先決的法律関係、矛盾関係︵ぎま量昌ζo募g霧 この相手方と他の者との間の権利関係と同一ではなく、 と相手方との間の訴訟の訴訟物たる権利関係は、通常、 もっとも、これら法的共同関係にある数人の者の一人 づかない限り1最早所有権を主張しえないことになる。 た者は、他の共有者に対しても−基準時後の事由に基 して所有権確認の訴えを提起し、請求棄却の判決を受け 張されると考える。したがって、共有者の一人を被告と 相手方とこれらの第三者との関係で、第三者の有利に拡 理由により、その当事者勝訴の判決の既判力は、敗訴の などの法的共同関係がある場合にも、前述一⋮と同様の も、連帯債務者の一人が相殺により勝訴した場合には、 拘東カを自己の有利に援用しうることになる。これまで されるときは、他の連帯償務者も、この理由中の判断の 関係で、この抗弁を理由有りとする理由中の判断に拘東 抗弁が認められて請求棄却判決を受け、勝訴当事者との に対する訴訟で、弁済その他絶対的効カを生ずる事由の 大きな意味をもつ。例えぱ、償権者が連帯償務者の一人 に拡張されると解すべきであろう。このことは、実際上 拘束カもまた、同じ理由により、これらの第三者の有利 中の判断に拘束されるべきときは、この理由中の判断の る関係で、信義則上︵あるいは争点効により︶判決理由 由によるのであるとすれば、相手方が勝訴当事者に対す 張を認めても不測の不利益を受けるわけではないとの理 係にあることを認識していた筈であるから、既判カの拡 残りの者に対しても白己の権利を主張しえない論理的関 実体法上、共同関係にある者の一人に対し敗訴すれぱ、 て得た利益を確保しえない危険があり、しかも相手方は、 . ^19︶ れるのが、前述のように︵一ω︶、相手方は前訴におい その判決理由中の判断が他の連帯債務者の有利に反射的 いは不真正連帯債務関係、合同債務関係、共同所有関係 て、十分自己の利益を主張する機会を保障されて訴訟を 効果を生ずるとの見解があったが、信義則を根拠として ^20︺ 追行した上敗訴したのに対し、勝訴当事者は法的共同関 46 (47)判決の反射的効果についての覚え曹 ︵あるいは争点効を承認して︶理由申の判断の拘東カを ^刎︺ 広く認めれぱ、相殺の場合に限る理由はないことになる。 不真正連帯債務、含同償務についても、同様である。 ②第三者に不利な既判カの拡張 前述一ωと同様の理 由により、否定的に解すぺきである。判決理由申の判断 の拘束カについても、同様である。 ︵19︶ 具体的には、共同関係にある第三者が敗訴すると、求 償あるいは遡求を受け、また前訴の相手方と共同所有関係 ︵20︶ 判決理歯中の判断に信義則上拘束カを認めるぺき場合 に立つことになる危険がある。 のあることについては・竹下守夫﹁判決理由中の判断と信 義則﹂山木戸遺麿︵下︶七二頁参照。 ︵21︶ 一般に判決理由中の判断の拘東カの主観的範囲は、民 訴法二〇一条に準じて考えることができるが、承継人、目 的物の所持者、実質的利益帰属者以外の第三者への拡張を、 本文の場合のほかいかなる場合に認められるかは問魑であ るo ⋮本文一で述ぺた先決・後決関係の存する場合で、後決 的地位にある者︵例えぱ保証人︶が先に訴えられ、先決的 権利関係︵主償務︶の不存在を理由に勝訴したときに、先 決的地位にある者︵主債務者︶が、その理由中の判断を有 利に援用しうるか。この場合は、拘東カの拡張を認めなく とも、勝訴当事者が勝訴によって得た利益を危くされるこ とはない。しかし、敗訴当事者の方は、拘東カの拡張を認 て、いずれにも解しうるが、拡張を肯定する方が妥当であ められても不測の不利益を受けるとはいえない。したがっ ろうか︵新堂・民訴法四四四頁は、争点効の拡張を認める︶。 者が損害賠償を講求しうぺき関係にある場合のように、法 ㈹これに対して、例えぱ、同一事故に基づき多数の被害 的共同関係にあるわけではないが、数人の請求が同一の事 が、共通の原因の存在が認められ勝訴したとき、その共通 実上およぴ法律上の原因に基づいている場合に、その一人 の原因の存在を認める判決理由中の判断の拘東カが他の者 の有利に拡張されるかは凝わしい。しかし、アメリカ法上 の拡張が認められているようであるo勾鶉冨ぎ旨g戸N目o■ は、かかる場合にも、原則的にコヲテヲル・エストッペル ︵昭和六〇年一〇月一六日︶ 言品昌o葦吻s一 ︵一橋大挙教授︶ 47
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