第Ⅰ期(2002~2006年度)と第Ⅱ期(2007~2011年度)の イノシシの「特定鳥獣保護管理計画」のモニタリング 耕作放棄地に出没したイノシシ 島根半島に設置されたイノシシの低コスト簡易型箱わな はじめに 島根県におけるイノシシによる農作物への被害は水稲を中心にして,鳥獣被害金額の過半を占 めており,中山間地域での農業経営や集落維持にとって大きな障害となっている。そのため,本県 では農林作物の一層の軽減と健全な個体群の維持を目的として,2002年度から「特定鳥獣保護 管理計画」(第Ⅰ期:2002~2006年度,第Ⅱ期:2007~2011年度)を施行してきた。 ここでは,計画によって実施した各種の対策についての効果を,出猟記録の分析,生息・被害実 態調査,被害対策とその効果調査によって検討した結果を報告する。 出猟記録の分析 -捕獲数- 2004,2010年度を除いて,ほぼ10,000頭前後で推移した。個体数調整による捕獲数は第Ⅰ期 (2002~2006年度)に比べて,第Ⅱ期(2007~2011年度)では合計9,300頭増加した(図1)。 20,000 個体数調整捕獲(有害捕獲) 狩猟捕獲 捕 15,000 獲 数 ( 10,000 頭 ) 5,000 0 1994 1996 1998 2000 2002 2004 2006 2010 年度 2008 図1 島根県におけるイノシシの捕獲数の推移 -捕獲方法別の捕獲数の割合- 第Ⅱ期は,第Ⅰ期に比べて箱わな猟の占める割合が2007年度を除いたいずれの年度でも増加 した(図2)。 2003 37 7 41 12 4 2004 37 12 28 15 7 2005 41 2006 '03~'06 の合計 26 36 16 7 30 53 11 37 9 5 2007 48 8 29 11 4 犬有り銃猟 2008 26 11 33 24 6 犬無し銃猟 2009 24 9 39 22 5 くくりわな猟 2010 25 15 10 4 2011 27 12 38 12 5 '07~'11 29 12 31 の合計 図2 捕獲方法別の捕獲数の割合 ※ 数値は%で示す 21 33 6 箱わな猟 18 4 23 5 囲いわな猟 -捕獲場所の分布- 狩猟では,隠岐諸島と島根半島部を除いて,ほぼ全域で捕獲されていることを確認した(図3)。 2004,2010年度は中国山地側の高標高域にまで分布が拡大した。 図3 1㎢毎の狩猟による捕獲場所 -猟期延長の効果- 本県では計画によって,通常の狩猟期間(11月1日~2月15日)を11月前半と2月後半に合計1ヵ 月間の延長をしている。狩猟期間の延長によって捕獲数が1.2~1.3倍に増加した(図4)。 捕 獲 数 ( 頭 ) 4,500 4,000 3,500 3,000 2,500 2,000 1,500 1,000 500 0 捕 獲 数 ( 頭 ) 4,500 4,000 3,500 3,000 2,500 2,000 1,500 1,000 500 0 第Ⅰ期(2003~2006年度の合計) 第Ⅱ期(2007~2011年度の合計) 図4 半月毎の捕獲数 -CPUE(単位捕獲努力量当たりの捕獲数)- 出猟記録によるCPUEはほぼ横ばいで推移し,イノシシの生息数も同様の傾向で推移したといえ る(図5)。 銃+犬 くくりわな 銃のみ 0.30 0.25 0.20 CPUE CPUE 0.15 0.10 0.05 0.00 銃猟のCPUE(捕獲数 / 日・人) 箱わな 囲いわな 0.35 0.30 0.25 0.20 0.15 0.10 0.05 0.00 わな猟のCPUE(捕獲数 / 日・10台) 図5 狩猟のCPUE(単位捕獲努力量当たりの捕獲数)の推移 -狩猟者登録数- イノシシ猟への出猟者数はほぼ横ばいであり,イノシシ猟の担い手は確保されていた(図6)。 狩猟者登録数(銃猟) 狩猟者登録数(わな猟) イノシシ猟の出猟者数(銃猟) イノシシ猟の出猟者数(わな猟) 1800 1600 1400 人 1200 数 1000 800 600 400 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 年度 図6 半月毎の捕獲数 生息・被害実態 -県内の被害状況- 「特定計画」を施行して以降は,被害金額は抑えられているものの,イノシシの被害は依然として 中山間地域での営農や集落維持にとって,大きな障害となっているといえる(図7)。 200 被 害 150 金 額 100 ( 百 万 50 円 ) 0 水稲 野菜 果樹 豆類 芋類 穀類 飼料作物 わさび 造林木 筍 椎茸 その他 年度 図7 被害金額の推移 -島根半島における生息・被害実態調査- 生息分布は島根半島のほぼ全域に拡がっていた(図8)。被害に対する認識がこれまでなかった 地域での被害が多かった。 図8 島根半島での捕獲と被害発生の場所 被害対策とその効果 -被害対策とその効果の聞き取り調査- ほとんどの市町で捕獲と侵入防止柵の設置を主体に行っていた。しかし,島根半島部では,早急 に対策を求められる地域も存在していた(写真1,2)。 写真1 ネット柵の乗り越えによる倒壊とイネへの被害発生(松江市鹿島町) まとめ ① 狩猟よりも個体数調整による捕獲圧が高まっていることが明らかとなった。 ② 狩猟による捕獲場所は,隠岐諸島を除く島根県全域に拡がっていた。 ③ 1ヵ月間の猟期の延長によって,捕獲数を1.2~1.3倍に増加させたことから,猟期の延長の効 果は大きかったといえる。ただし,CPUEの変動から,本県のイノシシの生息数はほぼ横ばい傾 向で推移していた。 ④ 出猟記録の分布や聞き取り調査による情報から,島根半島部のイノシシは中国山地に比べて 生息密度は低いと考えられるが,効果的な被害対策や計画的な捕獲の実施体制の整備など が急がれる。 本県では「特定計画」に基づき,被害対策は捕獲と侵入防止柵の設置を主体的に行ってきたが, その被害軽減効果を認めている市町の担当者は多かった。しかし,各市町の捕獲班員の高齢化 が進んでおり,今後の捕獲体制の維持が困難になりつつある。そのため,狩猟免許,とくに第1種, 第2種銃猟の免許取得を促進するための支援が必要である。また,侵入防止柵は労力や経費の 面から集落単位で設置していくことが効率的である。設置後の維持管理を集落ぐるみで継続的に 行っていくための啓発活動も行っていく必要がある。
© Copyright 2024 ExpyDoc