加子母むらづくり協議会(岐阜県中津川市) 活動のテーマ:加子母木匠塾

加子母むらづくり協議会(岐阜県中津川市)
活動のテーマ:加子母木匠塾と地域との協働による明治座改修
団体設立経緯
加子母地区は、岐阜県中津川市の最北端に位置しており、平成17年に市町村合併により
中津川市に編入合併し、人口は3,060人、991世帯の集落です。昔から林業・木材産業
が盛んで、伊勢神宮式年遷宮に用いられる用材(御神木)が伐り出される御杣山のある場所
としても知られています。
市町村合併後は、合併特例法による地域審議会を経て地域づくりの検討を進めてきました
が、平成23年7月に全世帯が参加し、地域のみんなが自ら考え、協力して、地域の自立を
めざしていくために「加子母むらづくり協議会」を組織し、地域住民が主体となった活動を
行っており、今年度中にNPOとしての法人化に向け準備を進めています。
活動地域の概要
≪岐阜県伝統民俗文化財
明治座≫
加子母地域の山村文化の象徴として、農村舞台
「明治座」があります。この地域は、江戸時代よ
り地芝居(地歌舞伎)が盛んで、明治座は、明治
27年に地元の有志によって建設されました。
明治座の構造は、間口19.6m、奥行7.8
5m、2階建ての本格的な舞台で、回り舞台、花
道、すっぽん、奈落を備えており、当時は盛んに歌舞伎や芝居が演じられていました。第二
次大戦中は公演が途絶え、軍事物資の保管庫になった歴史もありましたが、昭和47年に、
岐阜県重要有形民俗文化財に指定されたことをきっかけに、加子母歌舞伎が復活し以後毎年
秋には公演会が開催され、平成に入ってからは、クラシックコンサートをはじめ、第18代
中村勘三郎さんの襲名披露公演も開催されるなど、毎年様々な催しが行われています。
平成14年には、一般の観光客が見学できるように実験的に通年開館を開始し、併せて「明
治座維持修復基金」を設立し、地域の大切な財産として維持保存を図っていく活動が始まり
ました。寄付は1口300円で、協力者にはヒノキの木札に名前を書いてもらい、明治座の
壁に掛けてもらっており、現在までに約2,000万円もの寄付金が寄せられました。また、
他にも毎年行われる加子母歌舞伎公演会になると武蔵野美術大学空間演出デザイン学科の学
生・OBが、地元の人たちといっしょになって大道具や小道具、照明など舞台演出を行うな
ど、加子母という山村を舞台に、地域と学生たちの交流を通じて伝統的な文化の継承が行わ
れています。
≪木造建築を学ぶ
加子母木匠塾≫
加子母地域は、昔から品質の優れたヒノキの産地として林業・製材業が盛んで、「東濃桧」
のブランドで知られる良材と、飛騨の匠の流れをくむ職人の技術を活かして、全国に向けて
「産直住宅」という良質な家づくりを展開しています。しかし、時代の流れにより家づくり
は、大手の住宅メーカー等の参入により外材の利用が増え、日本の林業や木材流通の仕組み
は大きく変わり、山や木と向かい合いながら営まれてきた林業や家づくりは大きく衰退しま
した。
そのような時代の中で、平成7年に建築を学ぶ大学生に森林や林業と深い関わりのある地
域で木造建築を学ばせようと「加子母木匠塾」がスタートし、加子母の自然や地域社会の中
に溶け込みながら、大学生が地元の工務店や林業
関係者など地域の協力を得て、木造建築、森林の
環境、さらには山村の伝統文化との関わりなどを
学ぶ活動を展開しています。その加子母木匠塾も
今年で20周年を迎え、地域にとっても大学生の
受け入れを繰り返すことによって、地域が持つ魅
力・資源の再発見につながり、地域づくりの大切
な取り組みとなっています。
活動の進捗状況
≪ 明治座の改修に向けた地域と大学との連携≫
昨年度、地域と大学等の連携による地域力の創造に資する人材の育成と自立的な地域づく
りを推進するための仕組みを構築し、地域活性化を通じた日本経済の底上げを図ることを目
的とした総務省の「域学連携地域活力創出モデル実証事業」に、当協議会の取り組みが採択
され様々な大学と地域とのコラボレーションが行われましたが、そのひとつの成果として築
120年を迎える明治座の改修に向けての調査・研究が具体的に開始されました。
加子母木匠塾の活動にも縁のある大学を中心に、
伝統構法や耐震構造、文化財保護に関する専門的
な教授陣による検討委員会が設立され、文化財的、
意匠的価値を損なわない具体的な構造改修・補強
や耐震補強に向けての調査検討が行われ、先ほど
改修計画がまとまり、いよいよこの秋より本格的
な改修が始まる予定です。また、この明治座改修
事業の映像記録を残そうと、かしも通信社や映画
製作会社、名古屋工業大学の協働により撮影の活動がスタートし、今後の情報発信につなげ
ていく予定になっています。
≪明治座の改修・維持の担い手づくり≫
今年20年目を迎えた加子母木匠塾は、今年は計7大学180名が参加し、主に8月の夏
休み期間中に約2週間の合宿生活を送りながら伝統的な建築技術を学びました。東洋大学・
名城大学の合同チームは地域の集会施設の改修、京都大学・京都工芸繊維大学・金沢工業大
学の合同チームは古民家の改修、京都造形芸術大学は公共の研修施設での木製デッキの製作、
立命館大学は、野球場の観客席の製作に取り組みました。
今年からは、明治座改修についても木匠塾としてどう関わっていけるかがテーマとなって
おり、春の幹事会から、原木や製材所の見学に
始まり、伝統的な技法の講習会や明治座の現場
見学会などを行いながら、今後の取り組みにつ
いて検討を行ってきました。今年のチームは、
この夏の製作実習を終え一区切りとなるため、
今月の新体制での幹事会を皮切りに、来年の秋
まで明治座改修事業と同時進行しながら具体
的な取り組みが始まる予定です。
≪失われつつある伝統技術の継承≫
今回の明治座改修の大きな特徴は、明治27年創建当時の板葺石置き屋根の再現です。も
ともとこの地方は板葺屋根が多く、昔は多くの板へぎ職人がいましたが、建築様式の変遷に
より今では、現役でその技術を継承している者はいないというのが現状で、現在地元の木工
職人の板へぎ技術の習得・再現に向けた挑戦が始まっています。今回の屋根改修には、栗板
の屋根材がおおよそ10万枚以上も必要となり、そして今後数年ごとに交換していく屋根板
の製作、屋根を伏せる技術の継承、そして地域で維持保存をしていくための資金の調達が課
題となっています。
今後の予定
≪伝統構法と持続可能な森づくり≫
いよいよ今年の11月から来年の秋の完成をめざし、明治座の保存改修工事が始まります
が、創建当時の板葺屋根に復元するという意義は、単に文化財としての建物の価値を保つた
めだけではありません。明治座には、樅、栂、松、栗、杉、欅、桧など、多種多様な木材が
適材適所に使われています。現在の日本の森林の多くは、戦後の拡大造林により植えられた
ヒノキやスギの一斉林が多く、国土保全のためにも多種多様な樹木が茂る多様性のある山づ
くりへの転換が求められています。
明治座の改修は、これからの森づくりの始まりでもあるのです。多様性のある持続可能な
山づくりのシンボルとして、多くの方々に森と人々の暮らしとの密接な関係を再認識しても
らいながら、地場産業の振興、そして地域づくりの核になることを目指し活動を展開してい
く予定です。
≪今後の主な予定≫
11月
・明治座保存改修工事着工(完成
予定
2015 年 10 月)
・加子母木匠塾の新体制スタート
・板葺屋根材の製作開始
12月
2月
・明治座維持保存に向けた検討会
・加子母木匠塾
明治座改修ワー
クショップ
その他
来年の秋には、岐阜県揖斐川町で全国育樹祭が開催されます。全国植樹祭は木を植えるこ
と、全国育樹祭のテーマは、木を育てることがテーマです。木を植えて、木を育てて、森を
つくっていくには、木を使う必要があります。岐阜県で開催される全国育樹祭は、
「木を使う
ことで山を守る」というテーマのもとで、年々成長を続け、大径化する人工林があることに
着目し、材料の供給面でも、日本の森林が伝統構法の復活に貢献できるものと考えています。
そうした意味で、明治座は全国育樹祭のサテライト会場として位置づけられてもいます。
明治座は、これまで地域のみなさんによって守られてきました。と同時にこの建物が人づ
くりの場でもありました。今回も地域住民や全
国の大学生らが改修事業に関わることになり
ますが、こうした取り組みを通して人づくりが
行われ、伝統構法による木造建築の耐震改修と
いう先駆的な意味での家づくり、そして多様性
のある持続可能な山づくり、「人づくり・家づ
くり・山づくり」が今回の事業のテーマです。