室内汚染物質の除去に関する実験的研究 その 1 実験概要

日本建築学会中国支部研究報告集 第33巻
419
平成22年3月
室内汚染物質の除去に関する実験的研究
その 1 実験概要とチャコペイントの効果について
正会員 ○清田忠志*1
正会員
清田誠良*2
河尻義孝*3
室内環境 ホルムアルデヒド 実験
2,730
実験室
測定位置
床面積 10 ㎡
3,640
652
12
36
平面図
910
CH=2,400
測定地点
Fixガラス
838
Fixガラス
前室
実験室
将来計画 SUSガラリ
〔2ヶ所〕
1,000
土台・大引束;プラ木レン(PM0A型)
a詳細
12
60
2. 実験概要
2.1 実験方法
ホルムアルデヒドが充満させた実験室(25℃一定)に木炭
塗料注 1)を塗布したアクリル板(以下、木炭ボード)を設置し
てホルムアルデヒドの除去性能を検討した。実験パターンは
換気量を 0 とした場合での検討と換気(換気回数 0.5~2.4 回
/h)した場合である。
2.2 実験室
図 1 は実験室の平面図である。床面積 10 ㎡、室容積 25 ㎥、
壁面積 25 ㎡である。室内での空気汚染物質の発生および吸着
を抑制するために、室内表面は全てステンレス張りとし、気
密性を保持するため、室内の隅角部はステンレスの折り返し
版で 2 重張りとし、更に接合面はテープにより密着させた。
また、大幅な外気の流入をさけるため前室を設けている。
2.2 木炭ボード
アクリル板に木炭塗料を塗布した(塗布量 250g/㎡)
。木炭
ボード面積と占有率の関係を表 1 に示す。また、木炭ボード
の設置状況を図 2 に示す。
前室
2,500
1. はじめに
現在における住宅においては、省エネルギー性を確保する
ために高気密・高断熱が進められている。その結果、換気不
足による空気質の悪化が進んでいるのが現状であり、シック
ハウス症候群等の悪影響を引き起こしている。これを受けて、
シックハウス症候群防止対策として、主な原因の一つとされ
るホルムアルデヒドの室内濃度を、厚生労働省濃度指針値
0.1mg/㎥以下に維持することを目的とした改正建築基準法が
平成 15 年 7 月に試行された 1)。
この基準を満たすためには、汚染源対策のほか、換気によ
る排出や吸着等による汚染低減手段が考えられる。特に建材
自身に室内濃度低減効果を持たせる建材(パッシブ吸着建材)
は、特別な設備の運転も必要としないため換気量を抑える有
効な手段と考えられる 2)。地球温暖化防止、二酸化炭素排出抑
制との兼ね合いで、室内の換気量を最小化させることは重要
である。
最近では木炭等のパッシブ吸着建材が多く開発されホルム
アルデヒド濃度低減性能の試験がされている 3)。しかしなが
ら、試験はチャンバーを用いた方法が多く、実大模型を用い
て試験されたものは見当たらない。
そこで、本研究では 6 畳間を想定した実験室によるホルム
アルデヒド除去性能について検討した。また、あわせて換気
量の削減の検討を行った。
立面図
図1
表1
木炭ボード
面積
実験室
木炭ボード面積と占有率
占有率
床面積(10 ㎡) 壁面積(25 ㎡)に
に対して
対して
2.5 ㎡
25%
10%
5㎡
50%
20%
7.5 ㎡
75%
30%
10 ㎡
100%
40%
20 ㎡
200%
80%
A study on the removal of the indoor pollutant
Part 1 The experiment overview and the effect of the Chaco Paint
KIYOTA Tadashi,, KIYOTA Nobuyoshi, KAWAJIRI Yashitaka
1
木炭ボード 2.5 ㎡
木炭ボード 5 ㎡
木炭ボード 7.5 ㎡
図2
木炭ボード 10 ㎡
木炭ボードの設置状況
2.3 ホルムアルデヒド
ホルマリン(濃度 38%)をシャーレに移し、実験室にシャ
ーレを置いてホルムアルデヒドを気化発生させ、室内を同
濃度に保つように扇風機により拡散させた。
2.4 測定機器
ホルムアルデヒドの測定には図 3 に示す光音響マルチガ
スモニタ[1412 型、(株)INNOVA]を使用した。測定間隔は
10 分とし、測定時間は 24 時間とした。
2.5 測定地点
測定地点は図 1 に示すように、実験室の中央とし、高さ
1m とした。
図3
測定機器
木炭ボードなし
2.5㎡
5㎡
7.5㎡
HCHO 無次元濃度
1
3 実験結果
3.1 換気量を 0 とした場合
①ホルムアルデヒド濃度時間変化
換気量を 0 とした場合の室内におけるホルムアルデヒド
濃度を図 4 に示す。同図には比較のため、木炭ボードを設
置していない場合の結果と設置した場合の結果をプロット
している。また、初期濃度の差異をなくすためホルムアル
デヒド濃度は(1)式で示す初期濃度を除去した無次元濃度
で示す。なお、初期濃度は 5mg/㎥程度を目安としてある。
木炭ボード面積
0.8
0.6
0.4
0.2
0
0
K(t) = k(t) / k(0)
K(t):無次元濃度 k(t):測定値
木炭ボード 20 ㎡
(1)
k(0):初期濃度
図4
6
9
12
15
18
21
24
経過時間(時間)
ホルムアルデヒドの無次元濃度の経時変化
0.7
これによると、経時変化によりホルムアルデヒドの無次
元濃度の低減が確認できる。木炭ボード面積が広くなるほ
ど無次元濃度は減少する傾向にある。木炭ボード面積が
7.5 ㎡の 24 時間後では無次元濃度は 0.3 程度を示し、木炭
ボードなしと比較すると 0.5 程度の差を示す。
②木炭ボード面積とホルムアルデヒド濃度との関係
図 5 は経過時間 24 時間での木炭ボード面積とホルムアル
デヒド濃度との関係を示している。これによると、木炭ボ
ード面積が広くなるほどホルムアルデヒド濃度は減少して
いる。指数近似で表わすと決定係数は 0.98 となり、高い相
関を示す。近似式より木炭ボード面積 20 ㎡で計算すると、
ホルムアルデヒド濃度は 0.1 となる。
HCHO 無次元濃度
0.6
0.5
0.4
y = 0.593e
0.3
-0.1x
2
R = 0.981
0.2
0.1
0
0
5
10
15
20
25
CPボード面積(㎡)
図5
2
3
木炭ボード面積とホルムアルデヒド濃度との関係
単位面積当たりのHCHO除去量 mg/㎡・h
③ホルムアルデヒド除去量の検討
図 6 はホルムアルデヒド濃度と単位木炭ボード面積あた
りのホルムアルデヒド除去量との関係を示す。これによる
と、木炭ボード面積の違いに関係なく HCHO 濃度が高くなる
ほど HCHO 除去量は高くなることが確認できる。これは指数
近似で表すと決定係数が 0.7 程度を示し、相関関係が認め
られる。
2.2 換気の検討
①ホルムアルデヒド濃度の経時変化
図 7 図 8 は換気回数別のホルムアルデヒド濃度の経時変
化を示す。図中の黒丸は換気回数 0.5 回/h に木炭ボードを
5 ㎡設置した場合である。なお、初期濃度は 5mg/㎥程度で
ある。図 7 は経過時間 24 時間の結果で、図 8 は経過時間 1
時間の結果である。
図 7 によると、換気回数が増えるほど、ホルムアルデヒ
ド濃度の減少率は大きくなる傾向にある。換気回数 0.5 回
/h に木炭ボード 20 ㎡を設置した場合、木炭を設置してい
ない場合に比べ、ホルムアルデヒド濃度が減衰しているこ
とがわかる。
図 8 によると、換気回数が増えるほど、ホルムアルデヒ
ド濃度の減少率は大きくなる傾向にある。換気回数 0.5 回
/h に木炭ボード 20 ㎡を設置した場合、換気回数が 1.2~2.4
回/h の間で推移している。
②換気回数とホルムアルヒド濃度除去時間の関係
図 9 は換気回数とホルムアルデヒド除去時間との関係を
示す。ホルムアルデヒド除去時間はホルムアルデヒド濃度
が 80%除去するために必要な時間を示している。なお、初
期濃度は 5mg/㎥を目安としている。
これによると、木炭ボードなしでは換気回数が増えるに
従い、ホルムアルヒド濃度削減時間は短くなっている。こ
れは、指数近似で表すと決定係数が 0.97 と高い相関関係を
示す。換気回数 0.5 回/h の木炭ボードなしでは 4 時間程度
を必要とすることがわかる。一方、換気回数 0.5 回/h の木
炭ボードありに着目すると、設置面積 5 ㎡では 2.5 時間程
度を示し、設置面積 20 ㎡では 1 時間程度を示している。
③換気量削減効果
更に図 9 に示す木炭ボードありをみると、木炭ボード面
積 5 ㎡においては、換気回数が 0.5 回/h でホルムアルヒド
濃度削減時間は約 2.5 時間を示し、木炭ボードなしに対応
させると、換気回数 0.9 回/h 程度に相当する。これは 2 倍
程度の能力に当たる。次に木炭ボード面積 20 ㎡において
は、換気回数が 0.5 回/h でホルムアルヒド濃度削減時間は
約 1.2 時間を示し、木炭ボードなしに対応させると、換気
回数 1.7 回/h 程度に相当する。これは 3 倍程度の能力に当
たる。
以上の結果より、1 時間でホルムアルデヒド濃度を 80%
除去する(例えば、ホルムアルデヒド濃度 0.5mg を厚生労
働省濃度指針値 0.1mg/㎥とする)ためには、換気回数 1.5
回/h 以上の換気が必要となるが、木炭ボードを 20 ㎡設置
することにより、3 分の 1 に当たる 0.5 回/h 程度の換気で
よい。
12
2.5㎡
10
8
5㎡
7.5㎡
木炭ボード面積
6
4
1.1656x
y = 0.0275e
2
R = 0.7047
2
0
0
2
4
6
HCHO濃度 mg/㎥
図6
ホルムアルデヒドの濃度と除去量の関係
HCHO 無次元濃度
1
0.9
2.4回/h
0.8
0.7
0.6
0.5
0.4
0.3
1.2回/h
0.5回/h
0.4回/h
0.5回/h(木炭20㎡)
0.2
0.1
0
0
3
6
9
12
15
18
21
24
経過時間(時間)
図7
換気回数別のホルムアルデヒド濃度
の経時変化(24h)
HCHO 無次元濃度
2.4回/h
1.2回/h
0.5回/h
0.5回/h(木炭20㎡)
1
0.9
0.8
0.7
0.6
0.5
0.4
0.3
0.2
0.1
0
0
10
20
30
40
50
経過時間(時間)
図8
3
換気回数別のホルムアルデヒド濃度
の経時変化(1h)
60
HCHO濃度(mg/㎥) K(t)
5
4
3
-0.9808x
y = 6.1281e
2
R = 0.9701
2
初期濃度 5mg/㎥
4
初期濃度 1mg/㎥
3
初期濃度 0.5mg/㎥
2
1
0
0
3
6
9
12
15
18
21
24
経過時間
1
初期濃度の違い別の経時変化
0
0
0.5
1
1.5
2
2.5
1
3
無次元濃度 [K(t)/K(0)]
ホルムアルデヒド濃度を80%除去する時間(h)
5
木炭ボードなし
木炭ボードあり(5㎡)
木炭ボードあり(20㎡)
換気回数(回/h)
図9
換気回数別と残響時間の関係
2.3 ホルムアルデヒド初期濃度の違い別の経時変化
図 10 はホルムアルデヒド初期濃度の違い別の経時変化
を示しており、上図はホルムアルデヒド濃度を下図はホル
ムアルデヒドの無次元濃度を示している。また、換気回数
は 0.5 回/h、木炭ボード面積は 20 ㎡である。
図 8 上図をみると、ホルムアルデヒドの初期濃度が高く
なるほど、ホルムアルデヒドの濃度の減衰率が高くなって
いる。これに対して、無次元化した下 8 右図をみると、初
期濃度の違うホルムアルデヒド濃度の減衰傾向はほぼ同様
となっている。
初期濃度 5mg/㎥
0.8
初期濃度 1mg/㎥
0.6
初期濃度 0.5mg/㎥
0.4
0.2
0
0
3
6
9
12
15
18
21
24
経過時間
無次元化した場合の経時変化
図 10
まとめ
本研究での結果をまとめると以下のようである。
① 木炭ボード面積が広くなるほどホルムアルデヒド濃
度は減少し、木炭ボード面積 7.5 ㎡の 24 時間後では
無次元濃度は 0.3 程度を示し、木炭ボードなしと比較
すると 0.5 程度の差を示した。
② 木炭ボード面積の違いに関係なく HCHO 濃度が高くな
るほど HCHO 除去量は高くなった。
③ 換気回数が増えるほど、ホルムアルデヒド濃度の減少
率は大きくなる傾向にある。
④ 1 時間でホルムアルデヒド濃度を 80%除去するために
は、換気回数 1.5 回/h 以上の換気が必要となるが、木
炭ボードを 20 ㎡設置することにより、3 分の 1 に当た
る 0.5 回/h 程度の換気でよい。
⑤ 初期ホルムアルデヒド濃度の差異があっても減衰傾
向は同様となる。
ホルムアルデヒド初期濃度の違い別の経時変化(換
気回数 0.5 回/h、木炭ボード面積 20 ㎡)
3.
*1
*2
*3
日の丸産業株式会社
広島工業大学工学部
日の丸産業株式会社
注
1)メーカー(日の丸産業株式会社)により取り寄せた木炭を主原料
とした塗料(チャコペイント)であり、赤松木炭と高炭素セラミック
を配合している。
【参考文献】
1)
鳥海吉弘、倉渕隆、熊谷一清、柳沢幸雄:多室間移流を考慮した
ホルムアルデヒド汚染のメカニズムに関する研究、日本建築学会
環境系論文集、第 602 号、pp.47-52、2006.04
2)
安宅勇二、加藤信介、伊藤一秀、朱清宇、村上周三:化学反応型
パッシブ吸着建材の濃度低減効果に関する研究、日本建築学会環
境系論文集、第 581 号、pp.59-66、2004.07
3)
安宅勇二、加藤信介、徐長厚、朱清宇、長谷川あゆみ:各種建築
材料および吸着材の水蒸気およびホルムアルデヒド吸着等温線
の測定、日本建築学会環境系論文集、第 595 号、pp.49-55、2005.09
博士(工学)
教授 工博
*1
*2
*3
4
Hinomarusangyou Corp., Dr.Eng
Prof., Hiroshima Institute of Technology, Dr.Eng
Hinomarusangyou Corp.