2014年6月27日 指導員 Y K アタリは英語で何という? 私は英語は得意ではない。むしろ苦手である。 10年以上前のことだが、アメリカ人女性と打ったことがある。日本語は全くだめなので、 仕方なく黙然と打ち始めた。しかし、対局には何ら支障はなかった。粘り強い相手だった。 逆転されて、わずかに足りなかった。相手の女性は胸に手を当てて、喜びを表現した。彼女 は2、3ヶ所を指摘した。言葉は通じなくとも、何を言っているか理解できた。囲碁は手談 といわれるわけだ。 先日、テレビの囲碁将棋チャンネルでレドモンド九段が対局解説の中で囲碁用語の英語表 現に触れていた。司会相手の女性棋士が「アタリは英語で何というのですか」と質問した。 そのことがあって、囲碁用語が英語ではどのように表現されているのだろうか面白半分に 調べてみた。用語は必ずしも統一されていないようだが、調べてみると案外におもしろい。 なお、以下は私の英語力の不足から誤解、曲解しているものもあるかもしれないが、その 点はご容赦願いたい。 (1) 英語に翻訳せず、日本語音韻をそのまま踏襲して英語にしたもの。 柔道では「一本」を”ippon”という。囲碁用語でもそのような例が目につく。日 本の伝統文化が英語圏に浸透していることに胸を張りたい気持ちになるが、囲碁用 語は数が多く、欧米人にとっては覚えるのに負担があろう。 「劫」⇒ko 、ジゴ⇒jigo、コミ⇒komi、手筋⇒tesuji、ポン抜き⇒ponnuk 等々。 ある程度は仕方がないが、模様⇒moyo、三連星⇒sanrensei、にぎり⇒nigiri など は英語にできるように思うのだが…。先手⇒sennte、後手⇒gote 、これなどはチ ェス用語にはないのだろうか。 よく現われる手、形についは日本語、英語が混在している。 ハネ⇒hane、コスミ⇒kosumi、中手⇒nakade という言い方をする一方、ノビ⇒extend、 一間トビ⇒one-point jump または one-space jump ケイマ⇒knight's move ツケ ⇒attachment と英語表現も見られる。英語にしやすいものをそうしているという ことか。 (2) 一方、用語の意味をくみ取り、英訳したものも多い。中には感心するものもある。 ダメ⇒neutral point 囲碁用語の「ダメ」を、入門者がきちんと理解するには少 し時間がかかる。英語の方が分かりやすいように思われる。 タネ石⇒cutting stones 「切っている石だから大切だ」とよく言うが、端的に表 1/3 現している。 着手禁止点⇒suicide rule 着手禁止点を「自殺の禁止」と説明する人がいるが、 英語表現を逆輸入したのだろうか。 陣笠⇒ double empty triangle empty triangle は空き三角 のこと。今の子どもたちには陣笠は分からない。英語はダブ ルの愚形とうまく表している。 セキ⇒stalemate 手詰まり、引き分けの意味。日本語の「セ キ」について、なぜ「セキ」というのか子どもに質問されても答えられない。 割り込み⇒wedge 日本語も分かりやすい表現だが、wadgeもゴルフのウエッジ(ボ ールと地面の間にくさびを打ち込むイメージ)のように分かりやすい言い方といえ そう。 詰め碁⇒life and death problem 面白くもなんともない表現だが、日本語よりも 分かりやすいかも。 凝り形⇒ overconcentrated shape 日本語もなかなか良いが、英語もよく分かる。 逆にしっくりこない英語もある。 布石⇒opening、これでは導入部ぐらいの意味しかない。日本語の「布石」には序 盤の意味を表そうという意図を感じる。 ヨミ⇒reading 英語力がないので分からないが、ヨミと read とは違うように感じ るが…。 俗筋⇒crude style 「加工していない自然の」という意味らしい。否定的な意味合 いが盛り込めるのだろうか? 様子見⇒probe 調査の意味。無人観測宇宙船の意味もあるらしい。様子見の手と いえども立派な一手であり、単なる調査とは違うように思われる。 石塔シボリ⇒ two stone edge squeeze 英語は常に即物的だ。日本語の方が趣や 味わいがあるように感じるが、日本人の僻目か? フリカワリ⇒tradeとなっている。しかしtradeでは表現しきれていないと考える向 きもあるらしく、furikawariとしている例もある。見合い⇒miai、利かし⇒kikashi も同様に英語にはしにくいようだ。これらの用語を理解するということは囲碁その ものを理解することと同義なのかもしれない。 (3) 日本語を直訳したもの 空き三角⇒empty triangle サルスベリ⇒monkey jump タケフ⇒bamboo あの形は欧米人にも、竹の節に見えるのだろう。 鉄柱⇒iron pillar 鶴の巣ごもり⇒the crane's nest 2/3 あの形は欧米人にも鶴の巣にみえるのだろうか。 (4) 納得する表現 万年劫⇒a thousand year ko 3ケタ単位の英語表現ならやはりこういう言い方に なるだろう。もっとも、「万年コウ」という日本語が、そもそも的確な表現といえ るだろうかという根本的な問題は残っている。 観音開き⇒butterfly formation 欧米人には観音様は 馴染みが薄かろう。そこで、蝶々を用いてうまく表現し ている。しかし、鶴翼⇒kakuyoku となっており、これ は代替表現を見出せなかったようだ。 (5) 対応する英語用語がないもの 大中小中、イタチの腹づけなど A がイタチの腹ヅケ 大中小中を簡潔に英語で表現するのは至難だろう。イタチの腹 ヅケという表現は、日本人にもなぜイタチなのか、腹ヅケなの かよく分からない(「二立ちの腹ヅケ」が訛ったものという説 もある)。分からない日本語を英語に置き換えても意味がなか ろう。 さらに、中国語やハングル語も調べてみると、何か発見があるかもしれない。 それでは囲碁で最初に学ぶ用語「アタリ」は英語で何というか?レドモンド九段の答えは 「atari」。別に check ともいうらしい。しかし、われわれはやはり、世界中どこで打って も、嬉々として「アタリ!」“atari!”と言いたい。 以 上 3/3
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