第6章
構造躯体が許容しうる湿潤状態の検討
6.1 はじめに
本研究では、有害な結露に関する判断根拠を得る観点から室内腐朽試験を行い、雰囲気湿度を指標と
して菌糸定着時間を整理してきた。しかし、木材の湿気容量を考慮すると乾湿繰返しの状況下では、材
表面の相対湿度(含水率)は雰囲気と平衡に達しないことが予想される。そこで、境界条件を実験で求
めたうえで数値計算によって材表面の水分性状を確認し、これまでの知見に対する信頼性の向上を図る。
6.2 乾湿繰返し実験における試料表面含水率の検討
材料面までの湿気貫流率を測定したうえで、試料表面の含水率をシミュレーション計算で求め、菌糸
定着時間と材表面相対湿度(含水率)の出現頻度との関係を整理する。
6.2.1 室内腐朽試験時の雰囲気と試料表面間の湿気貫流率の測定
(1)試験方法
試験は JIS A 1324(建築材料の透湿性測定方法)のカップ法 1)に準拠した方法を用いる。これまでの
試験で用いた、メンブレンフィルターを取り付けた樹脂シャーレに蒸留水もしくは無水塩化カルシウム
を入れ、23℃50%の恒温恒湿室に静置する(図 1、図 2)。湿気貫流率は(1)式により算出する。透湿
面積は 1.26×10-3m2(40φmm)とした。試験条件を表 1 に示す。
WP 
G
AP1  P2 
(1)
条件記号 A:ドライカップ法
条件記号 B:ウェットカップ法
図 1 試験体の概要
- 141 -
図 2 シャーレの設置状況
表1
試験条件
条件記号
A
B
試験方法
ドライカップ法
ウェットカップ法
雰囲気温度
23℃
23℃
雰囲気相対湿度
50%
50%
透湿カップ内相対湿度
0%
100%
(2)測定結果
メンブレンフィルタの湿気貫流率測定結果を表 2 及び表 3 に、透湿量と時間の関係を図 3 及び図 4
に示す。メンブレンフィルターを介したデシケータからシャーレ内部までの湿気貫流率はおおよそ
1.5 ×103ng/m2sPa であり、静穏時の湿気伝達率に近い値となった。この結果は、シャーレ内部の水
蒸気圧がデシケータと同等であることを示唆している。
表2
透 湿 性 試 験 結 果(条件 A)
試験体番号
No.1
No.2
No.3
平均
透 湿 量
G
(×103 ng/s)
29.3
29.8
29.6
29.6
湿気貫流抵抗
ZP
[×10-6 (m2・s・Pa)/ng]
60.3
59.3
59.7
59.8
湿気貫流率
WP
[×103 ng/(m2・s・Pa)]
16.6
16.9
16.8
16.8
- 142 -
表3
透 湿 性 試 験 結 果(条件 B)
試験体番号
No.1
No.2
No.3
平均
透 湿 量
G
(×103 ng/s)
25.4
24.1
24.8
24.8
湿気貫流抵抗
ZP
[×10-6 (m2・s・Pa)/ng]
69.4
73.2
71.1
71.2
湿気貫流率
WP
[×103 ng/(m2・s・Pa)]
14.4
13.7
14.1
14.1
2.0
No.1
No.2
No.3
透湿量 (g)
1.5
1.0
0.5
0.0
0
5
10
15
時間 (h)
図3
透湿量と時間の関係(条件 A)
2.0
No.1
No.2
No.3
透湿量 (g)
1.5
1.0
0.5
0.0
0
5
10
時間 (h)
図4
透湿量と時間の関係(条件 B)
- 143 -
15
6.2.2 乾湿繰返し実験時の試料表面相対湿度の試算
前述の検討から得られた透湿係数を用い、一昨年度実施した表 4 に示す Case3~Case11 の 9 条件にお
ける雰囲気(デシケータ内)の温湿度測定結果を基に、熱湿気同時移動方程式により試料表面の水分性
状(含水率及び相対湿度)の計算を行った。計算対象と試料含水率の出力位置を図 5 に示す。
(1)計算概要
基本式は(2)
、(3)式に示す、多孔質材内の熱水分同時移動方程式による。雰囲気と試料表面との境
界条件は(4)
、
(5)式を用いた。計算に用いた試料の平衡含水率を表 5 に示す。
T
 T  r g  
   rTg
t
(2)
 
     ng   T T 
 t
(3)
mc
w

T 
 T 

'
 
 r 'g
 Tg
  Tr  Ts 

n
n  s
 n  s

(4)
 ' 
' T 
12
   n  T n   10 W P  X r  X s 

s
(5)
ここに、
W P: 湿気貫流率(ng/m2sPa)、A: 透湿面積 (m2)、P: 水蒸気圧(Pa)、G: 透湿量(ng/s)
m:材料密度 (kg/m3)、c:比熱 (J/kgK) 、t: 時間(s)、T:絶対温度 (K)、:熱伝導率 (W/mK)、r:潜熱 (J/kg)、
'Tg: 温 度 勾 配 に よ る 気 相 水 分 伝 導 率 (kg/msK) 、 'g: 水 分 化 学 ホ ゚ テ ン シ ャ ル 勾 配 に よ る 気 相 水 分 伝 導 率
(kg/ms[J/kg])、: 水分化学ポテンシャル (J/kg)、w:水の密度(kg/m3)、:容積基準含水率 (m3/m3)、': 水分化学
ポテンシャル勾配による水分伝導率(kg/ms[J/kg])、'T: 温度勾配による水分伝導率(kg/msK)
- 144 -
表4
腐朽実験における雰囲気温湿度条件
相対湿度
条件番号
周期
温度
乾燥過程
Case3
湿潤過程
90%
Case4
Case5
(乾燥/湿潤)
12h/12h
75%
Case6
Case7
90%
23℃
Case8
90%
Case9
75%
Case10
90%
Case11
75%
100%
72h/72h
18h/6h
6h/18h
*一昨年度報告書から引用。
メンブレンフィルタ
雰囲気(デシケータ内)
プラスチックシャーレ内
赤松(辺材)
断熱断湿
厚さ6mm
1
2
3
4
5
6
7
プラスチックシャーレ内
雰囲気(デシケータ内)
図5
計算対象及び試料含水率の出力位置
- 145 -
断熱断湿
表5
計算に用いた材料物性値
平衡含水率*2
湿気伝導率
種類
[×103 ng/(m2・s・Pa)]
C1
C2
C3
C4
赤松(辺材)
0.03
1.58
1.3664
-2.1708
90.988
メンブレンフィルタ
14.1*1
0*3
0
0
0
*1)実測値(表 3 による)。
*2)平衡含水率は,表中の C1 ~C4 係数を用い[1]式より算出した。
*3)メンブレンフィルタの平衡含水率は無視した。
 
  C1 hC 2 exp C3 1  hC 4
 ・・・・・ [1]
ここに,  :平衡含水率 (kg/kg), h :相対湿度 (-)
- 146 -
(2)試料表面の相対湿度及び試料各層の含水率変動
試料表面相対湿度及び各層の含水率の計算結果を図 6~図 14 の上段及び中段に示す。凡例は図 5 に示
した位置に該当し、「1」が試料表面、「4」が厚さ方向の中央となる。相対湿度については設定したデ
シケータ内の雰囲気に対し、試料表面の振幅が小さくなっている。含水率については試料表面と内部(中
央)を併記したが、表面の振幅は大きく雰囲気の変動に追従したことが読み取れる。Case10 については
試験開始から 2 ヵ月以上に亘り、雰囲気相対湿度の制御が乱れ飽和状態が続いており、この影響により
含水率が 40%に達している。
(3)試料表面における相対湿度及び試料含水率の累積頻度
計算結果より整理した期間全体の試料表面相対湿度と含水率の累積頻度を図 6~図 14 の下段に示す。
乾湿時間の比率が 1:1 で乾燥湿度 90%の設定である Case4、6、7 は、相対湿度 95%の出現頻度が 50%程
度であり高湿状態が維持されている。
表 6 に平成 25 年度報告書より引用した暴露 8 ヶ月の試料含水率と
質量減少率の測定結果を示すが、質量減少率が 7%前後に達しており菌糸定着が確認されている。乾燥湿
度 75%の Case5(図 8)、Case9(図 12)については相対湿度 95%の出現頻度が 10~30%程度であり、質量
減少率も約 3%以下であった。乾燥湿度 90%で質量減少率が 3%台の Case3(図 6)、乾湿時間の比率が異
なる Case8(図 11)については、試料表面の含水率(凡例[1])が 28%を越える頻度がほとんど無く、Case4、
6、7 との質量減少率の差は、材料表面が繊維飽和点を越える時間数によるものと推察できる。
一方、Case11(図 14)は相対湿度 95%の出現頻度が 50%、試料表面含水率も 28%を越えているにもかか
わらず、質量減少率は 3.5%と比べ低く、上述した内容とは矛盾する結果となった。Case11 は乾燥湿度が
75%であり、表面の湿潤頻度が高くても、乾燥湿度が低い場合は腐朽菌の定着に遅れが生じる可能性を示
唆している。
表6
暴露 8 ヶ月の質量減少率測定結果(平成 25 年度報告書より抜粋)
質量含水率(%)
条件
質量減少率(%)
平均
標準偏差
平均
標準偏差
Case3
22.7
0.2
2.9
0.5
Case4
28.6
3.0
7.1
2.6
Case5
20.0
0.4
2.5
0.3
Case6
28.3
2.0
7.1
3.5
Case7
27.4
1.3
6.9
0.5
Case8
25.7
0.8
3.1
0.2
Case9
18.6
0.3
2.8
1.9
27.7
1.6
20.0
3.0
26.4
0.5
3.5
0.5
Case10
*1
Case11
*1)曝露開始 1~2 ヶ月後の約 1 ヶ月間に亘り相対湿度が約 100%に保持されてしまった条件
- 147 -
100
90
80
相対湿度 (%)
70
60
50
40
30
20
10
0
0
50
100
150
200
250
経過日数 (日)
100
90
1
2
3
4
80
含水率 (mass%)
70
60
50
40
30
20
10
0
0
50
100
150
200
250
100
100
90
90
80
80
70
70
累積頻度 (%)
累積頻度 (%)
経過日数 (日)
60
50
40
30
20
Case3
60
50
40
30
20
10
10
0
50 55 60 65 70 75 80 85 90 95 100
相対湿度 (%)
図6
Case3
1
2
3
4
0
0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 100
含水率 (mass%)
Case3 室内腐朽試験時の計算結果(上段:雰囲気湿度、中段:試料含水率、下段左:試料表面相
対湿度の累積頻度、下段右:試料含水率の累積頻度)
- 148 -
100
90
相対湿度 (%)
80
70
60
50
40
30
20
10
0
0
50
100
150
200
250
150
200
250
経過日数 (日)
100
90
1
2
3
4
含水率 (mass%)
80
70
60
50
40
30
20
10
0
0
50
100
100
100
90
90
80
80
70
70
累積頻度 (%)
累積頻度 (%)
経過日数 (日)
60
50
40
30
20
Case4
60
50
40
30
20
10
10
0
50 55 60 65 70 75 80 85 90 95 100
相対湿度 (%)
図7
Case4
1
2
3
4
0
0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 100
含水率 (mass%)
Case4 室内腐朽試験時の計算結果(上段:雰囲気湿度、中段:試料含水率、下段左:試料表面相
対湿度の累積頻度、下段右:試料含水率の累積頻度)
- 149 -
100
90
相対湿度 (%)
80
70
60
50
40
30
20
10
0
0
50
100
150
200
250
150
200
250
経過日数 (日)
100
90
1
2
3
4
含水率 (mass%)
80
70
60
50
40
30
20
10
0
0
50
100
100
100
90
90
80
80
70
70
累積頻度 (%)
累積頻度 (%)
経過日数 (日)
60
50
40
30
20
Case5
60
50
40
30
20
10
10
0
50 55 60 65 70 75 80 85 90 95 100
相対湿度 (%)
図8
Case5
1
2
3
4
0
0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 100
含水率 (mass%)
Case5 室内腐朽試験時の計算結果(上段:雰囲気湿度、中段:試料含水率、下段左:試料表面相
対湿度の累積頻度、下段右:試料含水率の累積頻度)
- 150 -
100
90
80
相対湿度 (%)
70
60
50
40
30
20
10
0
0
50
100
150
200
250
150
200
250
経過日数 (日)
100
90
1
2
3
4
80
含水率 (mass%)
70
60
50
40
30
20
10
0
0
50
100
100
100
90
90
80
80
70
70
累積頻度 (%)
累積頻度 (%)
経過日数 (日)
60
50
40
30
20
Case6
60
50
40
30
20
10
10
0
50 55 60 65 70 75 80 85 90 95 100
相対湿度 (%)
図9
Case6
1
2
3
4
0
0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 100
含水率 (mass%)
Case6 室内腐朽試験時の計算結果(上段:雰囲気湿度、中段:試料含水率、下段左:試料表面相
対湿度の累積頻度、下段右:試料含水率の累積頻度)
- 151 -
100
90
80
相対湿度 (%)
70
60
50
40
30
20
10
0
0
50
100
150
200
250
150
200
250
経過日数 (日)
100
90
1
2
3
4
80
含水率 (mass%)
70
60
50
40
30
20
10
0
0
50
100
100
100
90
90
80
80
70
70
累積頻度 (%)
累積頻度 (%)
経過日数 (日)
60
50
40
30
20
Case7
60
50
40
30
20
10
10
0
50 55 60 65 70 75 80 85 90 95 100
相対湿度 (%)
図 10
Case7
1
2
3
4
0
0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 100
含水率 (mass%)
Case7 室内腐朽試験時の計算結果(上段:雰囲気湿度、中段:試料含水率、下段左:試料表面
相対湿度の累積頻度、下段右:試料含水率の累積頻度)
- 152 -
100
90
相対湿度 (%)
80
70
60
50
40
30
20
10
0
0
50
100
150
200
250
150
200
250
経過日数 (日)
100
90
1
2
3
4
含水率 (mass%)
80
70
60
50
40
30
20
10
0
0
50
100
100
100
90
90
80
80
70
70
累積頻度 (%)
累積頻度 (%)
経過日数 (日)
60
50
40
30
20
Case8
60
50
40
30
20
10
10
0
50 55 60 65 70 75 80 85 90 95 100
相対湿度 (%)
図 11
Case8
1
2
3
4
0
0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 100
含水率 (mass%)
Case8 室内腐朽試験時の計算結果(上段:雰囲気湿度、中段:試料含水率、下段左:試料表面
相対湿度の累積頻度、下段右:試料含水率の累積頻度)
- 153 -
100
90
相対湿度 (%)
80
70
60
50
40
30
20
10
0
0
50
100
150
200
250
150
200
250
経過日数 (日)
100
90
1
2
3
4
含水率 (mass%)
80
70
60
50
40
30
20
10
0
0
50
100
100
100
90
90
80
80
70
70
累積頻度 (%)
累積頻度 (%)
経過日数 (日)
60
50
40
30
20
Case9
60
50
40
30
20
10
10
0
50 55 60 65 70 75 80 85 90 95 100
相対湿度 (%)
図 12
Case9
1
2
3
4
0
0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 100
含水率 (mass%)
Case9 室内腐朽試験時の計算結果(上段:雰囲気湿度、中段:試料含水率、下段左:試料表面
相対湿度の累積頻度、下段右:試料含水率の累積頻度)
- 154 -
100
90
80
相対湿度 (%)
70
60
50
40
30
20
10
0
0
50
100
150
200
250
経過日数 (日)
100
90
1
2
3
4
80
含水率 (mass%)
70
60
50
40
30
20
10
0
0
50
100
150
200
250
100
100
90
90
80
80
70
70
累積頻度 (%)
累積頻度 (%)
経過日数 (日)
60
50
40
30
20
Case10
60
50
40
30
20
10
10
0
50 55 60 65 70 75 80 85 90 95 100
相対湿度 (%)
図 13
Case10
1
2
3
4
0
0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 100
含水率 (mass%)
Case10 室内腐朽試験時の計算結果(上段:雰囲気湿度、中段:試料含水率、下段左:試料表面
相対湿度の累積頻度、下段右:試料含水率の累積頻度)
- 155 -
100
90
80
相対湿度 (%)
70
60
50
40
30
20
10
0
0
50
100
150
200
250
150
200
250
経過日数 (日)
100
90
1
2
3
4
80
含水率 (mass%)
70
60
50
40
30
20
10
0
0
50
100
100
100
90
90
80
80
70
70
累積頻度 (%)
累積頻度 (%)
経過日数 (日)
60
50
40
30
20
Case11
60
50
40
30
20
10
10
0
50 55 60 65 70 75 80 85 90 95 100
相対湿度 (%)
図 14
Case11
1
2
3
4
0
0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 100
含水率 (mass%)
Case11 室内腐朽試験時の計算結果(上段:雰囲気湿度、中段:試料含水率、下段左:試料表面
相対湿度の累積頻度、下段右:試料含水率の累積頻度)
- 156 -
6.3 これまでの成果の要点と木造長期優良住宅認定基準等との関係
6.3.1 これまで得られた知見の要約
本研究では、有害な結露に関する判断根拠を得る観点から室内腐朽試験を行い、菌糸接種から
質量減少が確認しうる期間について検討を行ってきた。室内腐朽試験では試料中央にφ8mm のオ
オウズラタケの菌糸を寒天培地と共に接種し、カルチャーボトル等を用いる一般の腐朽試験と比
べ、構造躯体が曝される状況に近い環境下を模擬した。これまでの実験結果(図 15)によると、
菌糸接種後、質量減少 3%程度が確認されるまで湿潤状態では約 2 カ月程度(Case1、2)、湿潤と
乾燥を繰り返す条件下では乾燥湿度 90%で 4 ヵ月以上(Case6、7)の期間を要する知見が得られ
ている。また、乾燥湿度 75%では質量減少率が微増に留まり、8 ヵ月の暴露によっても木材内部へ
の菌糸の侵入は確認できなかった(図 16)。
現時点の知見から、材表面の湿潤による木材腐朽菌定着までの期間を整理すると以下となる。
① 連続した湿潤
相対湿度 98% 以上 →
1 カ月程度
② 乾燥湿潤(周期的に繊維飽和点を越える場合)
平均相対湿度 95%以上
→ 2~3 カ月程度
平均相対湿度 85%以下
→ 6~7 か月程度
上記の数値は内部結露を想定しており、雨水に直接暴露される環境や屋外の土木構造物につい
ては更なる検討が必要である。また、初期含水率の高い木材や地盤近傍では、木材腐朽菌が材内
部や地盤内の水分を利用し腐朽に至る可能性があり、適用条件について慎重に整理する必要があ
る。一方、上記の結果は温度 23℃の実験によって得られた値であるため、腐朽現象の温度依存性
を考慮すると、冬期については若干長めの期間が許容できるであろう。
なお、本検討で求める成果は、生物学的な木材腐朽菌の定着の有無を意味するものではなく、
建築工学の観点から構造上有害な劣化を防止するための目安である。試料厚さ 6mm の結果から得
られたものであるため、適用しうる材料厚さなどを含め、今後更なる検証が不可欠である。
- 157 -
30
Case1
Case2
Case3
Case4
Case5
Case6
Case7
Case8
Case9
Case10
Case11
質量減少率 (%)
25
20
15
10
5
0
0
50
100%一定
100%-90%
の繰り返し
100%- 75%
の繰り返し
100
150
200
250
300
経過日数 (日)
図 15 質量減少率の測定結果(平成 23 年度報告書からの引用)
図 16 電子顕微鏡による試料断面(Case9[乾燥 75%、8 ヵ月]、平成 24 年度報告書からの引用)
6.3.2 木造長期優良住宅認定基準等との関係と対応措置について
本検討における成果は、木造長期優良住宅認定基準に直接反映するものではないが、劣化や防
露に関する特別認定制度の判断根拠に応用できると思われる。例えば、特殊な仕様に対して熱水
分移動解析を行い計算結果によって評価する際に、本検討結果を判断の目安として利用できると
思われる(ただし、現在普及している数値解析プログラムでは空気移動も含めた 3 次元的な熱水
分移動や、施工状況の完全な再現は困難であるため、仕様によっては実験による検証を併用すべ
き)。
一方、近年は外皮の断熱気密化やルーフバルコニー等の採用によって、躯体内への雨水浸入の
影響が排除しきれないことが実態調査から示唆されており、強風雨時等の事故的な水分滞留に対
する許容度の検討が必要になると予想される。現在の木造長期優良住宅認定基準の雨掛かりの評
価は、軒及び庇の出寸法によって規定されている。しかし、今後、これらの躯体内の水分滞留に
対する評価法開発を求められた場合、今回行った許容できる湿潤状態の知見や解析手法と絡めた
検討ロジック 2)が大いに役立つものと思われる。
- 158 -
6.4 残された課題
本検討では木材腐朽に対し許容しうる湿潤状態について、定量的な判断根拠を検討した。しか
し、工学的観点から周囲環境と腐朽菌による劣化の関係を定量的に検討した事例は少なく、今後
も更なるデータの収集が必要と思われる。以下に残された課題を示す。

本検討結果は腐朽力の比較的高いオオウズラタケとアカマツの組合せによる実験から得ら
れた知見である。住宅に使用される樹種は多種にわたり、特に加害菌に対しては不明な点
も多く実態調査が行われている状況である
3)
。今後はこれらの研究動向を配慮し、本検討
の条件設定が妥当であるか確認することが望ましい。

今回は内部結露を判定する観点から 8 ヵ月間の結果によって知見をまとめた。これは、活
力の高い培養した菌叢を滅菌した試料に接種するといった、実現象に比べ腐朽しやすい試
験であるため、べた基礎を採用した住宅に限れば工学的な観点から安全側の知見と考えら
れる(菌叢を接種しない既往研究 4)の結果では、湿潤状態でも 6 か月以上が必要とされて
いる)。しかし、冬期間のみの内部結露や台風時の一時的な湿潤等、1~2 カ月程度の乾湿
繰返しが複数年に亘る際のデータは無いため、長期的な検証実験が必要と思われる。

実験では飽和水蒸気による加湿であったため、雨水侵入など液水が直接木部に接する状況
を想定した検討が不可欠である。特に液水の場合、木口面などでは毛細管現象によって材
内部まで水分が浸入するため、水分の与え方について本報告と異なる方法で検証実験を行
う必要がある。
<参考文献>
1) JIS A 1324 建築材料の透湿性測定方法、日本規格協会
2) 齋藤宏昭、福田清春、澤地孝男、大島明:水分収支を考慮した木造外皮の耐久性評価のため
の木材腐朽予測モデル 建築外皮の湿害に対する評価手法の開発 その1、日本建築学会環境
系論文集、第 630 号、pp.971~978、2008.8
3) Ikuo Momohara, Yuko Ota , Kozue Sotome, Takeshi Nishimura: Assessment of decay risk of airborne
wood-decay fungi II: relation between isolated fungi and decay risk, J Wood Sci 58:174–179, 2012
4) Paul I Morris, Jerrold E Winandy: Limiting Conditions for Decay in Wood System, The International
Research Group on Wood Preservation, Document No.IRG/WP 02-10421, 2002.
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