講義資料

3.4.7 固有値・固有ベクトル
P56~
n次正方行列Aとある数λ に対して,n次列ベク
トルx についての方程式,Ax = λx,すなわち
(A - λI)x = 0
(27)
を満たすようなベクトルxと数λ が存在するとき
λを行列Aの固有値,x を固有値λ に属する固有ベ
クトルと呼ぶ.
式(27)が自明解以外の解を持つための必要十分
条件は
|A - λI| = 0
備考:ベクトルに行列をかけると,新しいベクトルを生じる.
例題の行列Aについて示すと
⎛ x′ ⎞ ⎛ 1 1/ 2 ⎞⎛ x ⎞ ⎛ x + y / 2 ⎞
⎜ ⎟=⎜
⎟⎜ ⎟ = ⎜
⎟
⎝ y ′ ⎠ ⎝1/ 2 1 ⎠⎝ y ⎠ ⎝ x / 2 + y ⎠
となる.多くの点でその写った先の点を矢印で結んだ線を描くと図
のようになる.この図を見るとy=xとy=-xの方向に引っ張りと圧縮が
みられることがわかる.
y=x
y=-x
(28)
である.式(28)は,n次多項式であり,これを
固有多項式(または特性方程式)と呼ぶ.
この図を見るとy=xとy=-xの方向に引っ張りと圧縮がみられるこ
とがわかる.そして,この2つの直線上では
⎛ x ⎞ ⎛ 1 1/ 2 ⎞⎛ x ⎞ 3 ⎛ x ⎞ ⎛ x ⎞ 1 ⎛ x ⎞
A⎜ ⎟ = ⎜
⎟⎜ ⎟ = ⎜ ⎟ , A ⎜ ⎟ = ⎜ ⎟
⎝ x ⎠ ⎝1/ 2 1 ⎠⎝ x ⎠ 2 ⎝ x ⎠ ⎝ − x ⎠ 2 ⎝ − x ⎠
となる.このように,
2次元空間の図形的な
イメージから,行列A
の作用として各点の方
向(固有ベクトル)と伸
縮率(固有値)がわかる.
例題5 次の行列の固有値と固有ベクトルを求めよ.
(1)
⎛1 2⎞
⎜
⎟
⎝ 4 3⎠
(1) 特性方程式は,
1− λ
2
=0
4
3−λ
(1-λ) (3-λ)-2×4=0
3-4λ+λ2-8=0
λ2-4λ-5=0
(λ-5)( λ+1)=0
ゆえに,固有値はλ1 = 5, λ2 =-1である.
λ1 = 5を式(27)に代入してできる次の
連立方程式は以下のように不定である.
⎧−4 x1 + 2 x2 = 0
⎨
⎩4 x1 − 2 x2 = 0
λ1 = 3/2, λ2 = 1/2
⎛ 1⎞
u1 = c1 ⎜ ⎟ c1 ≠ 0
⎝ 1⎠
⎛ 1⎞
u2 = c2 ⎜ ⎟ c2 ≠ 0
⎝ −1 ⎠
x1=c1とおくと,x2=2c1となるので,λ1 に属する固有ベクトルは,
例題5 次の行列の固有値と固有ベクトルを求めよ.
(3)
⎛1 ⎞
u1 = c1 ⎜ ⎟
⎝ 2⎠
,ただし, c1≠0である.
また,λ2 =-1を式(27)に代入してできる
次の連立方程式も以下のように不定である.
特性方程式は,
⎧2 x1 + 2 x2 = 0
⎨
⎩4 x1 + 4 x2 = 0
x1=c2とおくと,x2=-c2となるので,λ2 に属する固有ベクトルは,
⎛1⎞
u 2 = c2 ⎜ ⎟
⎝ −1⎠
⎛0 1 1⎞
⎜
⎟
⎜ −4 4 2 ⎟
⎜
⎟
⎝ 4 −3 −1⎠
,ただし,c2≠0である.
0−λ
−4
1
4−λ
1
2
4
−3
−1 − λ
=0
(0-λ) (4-λ) (-1-λ)+1×2×4+1×(-4)×(-3)-1×(4-λ)×4
-(0-λ) ×2×(-3)-1×(-4)×(-1-λ)=0
1
3.4.8 固有値・固有ベクトルの数値計算法
λ (4-λ) (1+λ)+8+12-4 (4-λ)-6λ-4(1+λ)=0
λ (4-λ) (1+λ)-6λ=0
λ {(4-λ) (1+λ)-6}=0
λ {(4-λ+4λ-λ2-6}=0
λ {(3λ-λ2-2}=0
λ {(λ2-3λ+2}=0
λ (λ-1) (λ-2)=0
ゆえに,固有値はλ1 =0, λ2 = 1, λ3 = 2であり,
式(27)に代入してできる次の連立方程式(不定)
x2
⎧
⎪
⎨−4 x1 +4 x2
⎪ 4x
⎩ 1 −3 x2
+ x3
= 0
+2 x3
− x3
= 0
= 0
⎧ − x1 + x2
⎪
⎨−4 x1 +3 x2
⎪ 4 x −3 x
2
⎩ 1
+ x3
= 0
+2 x3
−2 x3
= 0
= 0
⎧−2 x1
⎪
⎨−4 x1
⎪ 4x
⎩ 1
+ x2
+ x3
= 0
+2 x2
−3 x2
+2 x3
−3 x3
= 0
= 0
を解いて,λ1, λ2 およびλ3 に属する固有ベクトルは,それぞれ
⎛1⎞
⎜ ⎟
u1 = c1 ⎜ 2 ⎟ , c1 ≠ 0,
⎜ −2 ⎟
⎝ ⎠
⎛1⎞
⎜ ⎟
u 2 = c2 ⎜ 2 ⎟ , c2 ≠ 0,
⎜ −1⎟
⎝ ⎠
⎛0⎞
⎜ ⎟
u3 = c3 ⎜ 1 ⎟ , c3 ≠ 0
⎜ −1⎟
⎝ ⎠
• 固有値や固有ベクトルの計算に対する数
値計算法にはヤコビ法,QR法,べき乗法
等が知られている.
• ここでは『べき乗法』について簡単に解説
する.
• べき乗法は,絶対値最大の固有値とこれ
に対する固有ベクトルを同時に求める方法
である.
となる.
n × n行列A=(aij)が与えられたとしよう.
絶対値最大の固有値をλ*,これに対する
固有ベクトルをu *とすると,固有値と固有
ベクトルの性質から
A u *=λ* u *
となる.
EXCEL演習12
べき乗法により以下の行列(例題5の行列(1))の最大固有値
と固有ベクトルを求めてみよ.
⎛1 2⎞
⎜
⎟
⎝ 4 3⎠
[ヒント]
べき乗法により最大固有値と固有ベクトル
を求める例を右のEXCELのワークシートに示す.
このように,λ*=5,固有ベクトルu *=(1,2)T に収束していく
様子がわかる.
任意のベクトルu0=(u01,u02,…,u0n)Tより出発し,
次の反復計算を繰り返す.
初期値:b0=u01,y0i=u0i/b0,u1i=∑aik y0k
(ただし,i,k=1,2,…n)
1回目:b1=u11,y1i=u1i/b1,u2i=∑aik y1k
(ただし,i,k=1,2,…n)
:
m回目:bm=um1,ymi=u1i/bm,um+1,i=∑aik ymk
(ただし,i,k=1,2,…n)
反復計算の過程で,um1≒um+1,1と収束すれば
λ*≒bm +1=um+1, 1
u *=(ym +1,1,ym +1,2,… ym +1,n) T
である.
初期値:b0=u01 =0.1 ,
y01=u01/b0 =0.1/0.1=1 ,
y02=u02/b0 =0.1/0.1 =1 ,
u11=a11 y01 +a12 y02 =1×1+2×1=3
u12=a21 y01 +a22 y02 =4×1+3×1=7
1回目:b1=u11 =3 ,
y11=u11/b1 =3/3=1 ,
y12=u12/b1 =7/3=2.333 ,
u21=a11 y11 +a12 y12 =1×1+2×2.333=5.666
u22=a21 y11 +a22 y12 =4×1+3×2.333=11
:
λ*=5,
固有ベクトルu *=(1,2)T
に収束していく様子がわかる.
2