2014 年 11 月 13 日 No.8 数学を学ぶ (微分積分2)・授業用アブストラクト §8. 2 変数関数の Taylor 展開 ある条件を満たす2変数関数は x と y に関する多項式によって近似することができる。そ の多項式の係数は、高階の偏微分係数によって与えられる。ここでは、これらの結果—2変数 関数の Taylor 展開、Maclaurin 展開—を導く。 ● 8 - 1 : 高階偏導関数 領域 D 上で定義された偏微分可能な関数 f (x, y) の偏導関数 ∂f ∂f , がさらに偏微分可能 ∂x ∂y であるとき、その偏導関数として次の4つが考えられる。 ∂2f ∂ ( ∂f ) ∂2f ∂ ( ∂f ) = , , = ∂x2 ∂x ∂x ∂y∂x ∂y ∂x (8 - 1 a) ∂2f ∂ ( ∂f ) ∂2f ∂ ( ∂f ) = , = ∂x∂y ∂x ∂y ∂y 2 ∂y ∂y これらを f (x, y) の第 2 次偏導関数または 2 階偏導関数と呼ぶ。 より一般に、f (x, y) を n 回続けて偏微分することができるとき、f (x, y) は n 回偏微分可能 であるという。その偏導関数は一般に次の形をしている: ∂nf ∂ ( ∂ ( ∂ ( ∂f ) )) (8 - 1 b) = ··· ··· ∂x1 ∂x2 · · · ∂xn ∂x1 ∂x2 ∂xn−1 ∂xn 但し、i = 1, · · · , n に対して xi = x または xi = y である。 (8 - 1 b) を f (x, y) の第 n 次偏導関数または n 階偏導関数と呼ぶ。 ● 8 - 2 : 偏微分の順序交換 一般に、領域 D 上で定義された 2 回偏微分可能な関数 f (x, y) に対して、偏導関数 ∂2f ∂2f , ∂x∂y ∂y∂x は等しいとは限らない (教科書 p.96 問4参照)。しかし、 (8 - 2 a) ∂2f ∂2f ∂2f ∂2f と がともに連続であれば = となる ∂x∂y ∂y∂x ∂x∂y ∂y∂x ことが知られている。この事実を繰り返し使うことにより次がわかる。 定理 8 - 2 - 1 n ≥ 0 を整数とし、f (x, y) を領域 D 上で定義された n 回偏微分可能な関数であって、n 階 までのすべての偏導関数が連続であるとする。このとき、n 階までの偏導関数は偏微分の順 序によらない。したがって、p + q ≤ n なる整数 p, q ≥ 0 に対して、f を x について p 回、 y について q 回偏微分して得られる偏導関数は、次のように書くことができる: (8 - 2 b) ∂ p+q f . ∂xp ∂y q – 43 – 例 8 - 2 - 2 R2 上で定義された関数 f (x, y) = log(x2 + y 2 + 1) は何回でも微分可能、すなわ ち、任意の整数 n ≥ 1 に対して n 階の偏導関数はすべて微分可能である。したがって、n 階の 偏導関数はすべて連続になり、それは偏微分の順序によらない。例えば、 ∂3f ∂3f ∂3f = = ∂x∂x∂y ∂x∂y∂x ∂y∂x∂x が成り立つ。この関数は、 ∂f 2y ∂2f −4xy = 2 , = 2 より、次のような関数 2 ∂y x + y + 1 ∂x∂y (x + y 2 + 1)2 である。 ∂3f −4y(−3x2 + y 2 + 1) . = ∂x2 ∂y (x2 + y 2 + 1)3 ● 8 - 3 : Taylor 展開 f (x, y) を領域 D 上で定義された偏微分可能な関数とする。h, k ∈ R に対して、 ( ∂ ∂ ) ∂f ∂f (8 - 3 a) h +k f =h +k . ∂x ∂y ∂x ∂y と定める。さらに、f (x, y) が 2 回偏微分可能なときには、 ( ∂ ( ∂ ∂ )2 ∂ )( ∂f ∂f ) h +k +k +k f := h h ∂x ∂y ∂x ∂y ∂x ∂y (8 - 3 b) ∂2f ∂2f ∂2f ∂2f + kh + k2 2 = h2 2 + hk ∂x ∂x∂y ∂y∂x ∂y と定める。一般に、f (x, y) が n 回偏微分可能なときには、 ( ∂ ( ∂ ∂ ) ( ∂ ∂ )2 ∂ )n +k +k +k f, h f, · · · , h f h ∂x ∂y ∂x ∂y ∂x ∂y ∂2f ∂2f , が連続なときには、両者は等しいから ∂y∂x ∂x∂y ( ∂ ∂ )2 ∂2f ∂2f ∂2f (8 - 3 c) h +k f = h2 2 + 2hk + k2 2 ∂x ∂y ∂x ∂x∂y ∂y となり、3 階までの偏導関数がすべて連続なときには ( ∂ 3 ∂ )3 ∂3f ∂3f ∂3f 3∂ f +k (8 - 3 d) h f = h3 3 + 3h2 k 2 + 3hk 2 + k ∂x ∂y ∂x ∂x ∂y ∂x∂y 2 ∂y 3 となる。 が定義される。 定理 8 - 3 - 1 n ≥ 0 を整数とし、f (x, y) を領域 D 上で定義された n 回偏微分可能な関数であって、n 階までのすべての偏導関数が連続であるとする。(a, b) ∈ D とする。実数 h, k が (a, b) と (a + h, b + k) を結ぶ線分が D の中に含まれるくらいに十分小さいならば、次の等式を満た す実数 θ (0 < θ < 1) が存在する: [( ∂ ∂ ) ] 1 [( ∂ ∂ )2 ] +k f (a, b) + h +k f (a, b) h ∂x ∂y 2! ∂x ∂y [( ∂ 1 ∂ )n−1 ] + ··· + h +k f (a, b) + Rn , (n − 1)! ∂x ∂y ∂ )n ] 1 [( ∂ h +k f (a + θh, b + θk) Rn = n! ∂x ∂y f (a + h, b + k) = f (a, b) + (8 - 3 e) – 44 – (証明) D は開集合であり、(a, b) と (a + h, b + k) を結ぶ線分は D の中に含まれているので、ε > 0 を十分小さくとると、 −ε < t < 1 + ε =⇒ (a + ht, b + kt) ∈ D が成り立つ。したがって、開区間 I = (−ε, 1 + ε) 上で定義された関数 (8 - 3 f) F (t) = f (a + ht, b + kt) (t ∈ I) を考えることができる。F (t) は n 回微分可能であり、その第 n 次 Maclaurin 展開は F (t) = F (0) + F 0 (0)t + F (2) (0) 2 F (n−1) (0) n−1 F (n) (θt) n t + ··· + t + t 2 (n − 1)! n! (0 < θ < 1) となる。特に、t = 1 を代入して (8 - 3 g) F (1) = F (0) + F 0 (0) + F (2) (0) F (n−1) (0) F (n) (θ) + ··· + + 2 (n − 1)! n! (0 < θ < 1) を得る。ここで、F (1) = f (a + h, b + k), F (0) = f (a, b) であるから、i = 1, · · · , n に対して ( ∂ ∂ )i +k (8 - 3 h) F (i) (t) = h f (a + ht, b + kt) ∂x ∂y が示されれば、(8 - 3 g) は示したい式そのものであることがわかる。 まず、連鎖定理 [定理 7 - 2 - 2] より、 ( ∂ ∂ ) F 0 (t) = h +k f (a + ht, b + kt) (8 - 3 i) ∂x ∂y と書ける。よって、i = 1 のとき (8 - 3 h) は成立する。 次に、i = 2 のときを考える。 ( ∂ ∂ ) g(x, y) = h +k f (x, y) ∂x ∂y とおくと、(8 - 3 i) は F 0 (t) = g(a + ht, b + kt) と表わすことができる。したがって、(8 - 3 f) から (8 - 3 i) を導いた方法と同様にして、 ( ∂ ( ∂ ∂ ) ∂ )2 +k g(a + ht, b + kt) = h +k f (a + ht, b + kt) F 00 (t) = h ∂x ∂y ∂x ∂y がわかる。よって、i = 2 のときも (8 - 3 h) は成立する。以下同様にして、一般の i に対して (8 - 3 h) は成立することがわかる。 定理の式 (8 - 3 e) において、x = a + h, y = b + k とおくことにより、f (x, y) は (a, b) の十 分近くでは、 (x − a, y − b に関する n − 1 次多項式) + “ ( 余り ”の項) の形をしていることがわかる。この表示を f (x, y) の (a, b) のまわりでの第 n 次 Taylor 展開 といい、(a, b) = (0, 0) の場合を特別に第 n 次 Maclaurin 展開と呼ぶ。また、Rn をラグラン ジュの剰余項と呼ぶ。 – 45 – 例 8 -3 -2 (1) n = 2 のとき、(8 - 3 e) より、f (x, y) の (a, b) のまわりでの第 2 次 Taylor 展開は ∂f ∂f f (x, y) = f (a, b) + (x − a) (a, b) + (y − b) (a, b) + R2 ∂x ∂y で与えられる。但し、R2 はラグランジュの剰余項である。 (2) n = 3 のとき、(8 - 3 e) より、f (x, y) の (a, b) のまわりでの第 3 次 Taylor 展開は ∂f ∂f f (x, y) = f (a, b) + (x − a) (a, b) + (y − b) (a, b) ∂x ∂y ( ) 2 ∂ f ∂2f ∂2f 1 (x − a)2 2 (a, b) + 2(x − a)(y − b) (a, b) + (y − b)2 2 (a, b) + R3 + 2 ∂x ∂x∂y ∂y で与えられる。但し、R3 はラグランジュの剰余項である。 例 8 - 3 - 3 関数 f (x, y) = log(2x + y) (2x + y > 0) について、(1, 0) のまわりでの第 2 次 Taylor 展開を求めよ。 解; ∂f 2 = , ∂x 2x + y ∂2f −4 = , 2 ∂x (2x + y)2 ∂f 1 = , ∂y 2x + y ∂2f −2 = ∂x∂y (2x + y)2 ∂2f −1 = 2 ∂y (2x + y)2 であるから、関数 f (x, y) の (1, 0) のまわりでの第 2 次 Taylor 展開は ∂f ∂f (1, 0) + y (1, 0) + R2 ∂x ∂y 1 = log 2 + (x − 1) + y + R2 2 f (x, y) = f (1, 0) + (x − 1) である。但し、 R2 = ( 1 1 2) 2 y −2(x − 1) − 2(x − 1)y − (2 + 2θ(x − 1) + θy)2 2 (0 < θ < 1) である。 – 46 – 2014 年 11 月 13 日 No.8 数学を学ぶ (微分積分2) 演習問題 8 8-1. 次の各関数の 2 階偏導関数を求めよ。 (1) f (x, y) = x2 y 3 + 7xy 2 − 5xy ((x, y) ∈ R2 ) (2) g(x, y) = ex sin(xy) ((x, y) ∈ R2 ) 8-2. 関数 f (x, y) = log(ex + y + 1) (y > −1) について、第 3 次 Maclaurin 展開を求めよ。但 し、剰余項は計算しなくてよい。 – 47 – 数学を学ぶ (微分積分2) 通信 [No.8] 2014 年 11 月 13 日発行 第6回の学習内容チェックシート Q2 について 全微分可能の定義に従って示すという解答が多かったです。一般に、そのやり方で調べよう (多項式) とすると大変です。 (多項式) の形で与えられる関数 f (x, y) が全微分可能であることを示すとき には、全微分可能の定義に戻るのではなく、それが全微分可能な関数の「組合せ」で書き表わ されることを利用して示すようにしましょう。基本となるのは次の3つの事実です。 • p(x, y) = x, q(x, y) = y ((x, y) ∈ R2 ) によって定義される関数 p と q は全微分可能である [例 6 - 1 - 3]. • 実数 c への定数関数 c(x, y) = c ((x, y) ∈ R2 ) は全微分可能である。 • 全微分可能な関数の和・差・積・商は全微分可能である [補題 6 - 2 - 1]. まともに扱うと歯が立たない複雑な関数も、それをより簡単な関数の和差積商や合成として 捉えることにより、性質を調べたり計算を行うことが易しくなる場合があります。この問いは そういった種類の問題を解決するための1つの有用な方法を尋ねているのです。答えられなかっ た人は、演習 6-1(1) の解答例や授業中に与えた [例 6 - 2 - 2] の解答例を参考に、修正してくださ い。同様の考え方は、関数が連続であることを示すときにも有効です (第 4 回の学習内容チェッ クシート Q3, 数学を学ぶ通信 No.6, 演習 4-1(2) 等を参照)。 2 変数関数に対する 0 に使用について 演習 7-1 の解答で (xy)0 , (x2 − y 2 )0 のような表現が目立ちました。2 変数関数 f (x, y) に対し ( )0 て f (x, y) という記号を偏微分の意味で用いると、x に関する微分なのか、y に関する微分 ∂ ∂ なのかはっきりしません。 , を使うようにしましょう。 ∂x ∂y ( )0 )0 ( (2) では、 Tan−1 (x2 − y 2 ) という記号を Tan−1 (x2 − y 2 ) (= Tan−1 を微分してから、 x2 − y 2 を代入したもの) の意味で使っている答案がかなりありました。0 をつける位置に気を つけてください。 演習 5-2 の解答例の訂正 配布した演習 5-2 の解答例に誤りがあります。次のように訂正します。 (イ) より (イ) より • −→ (x, y) = ( π3 , π3 ) (x, y) = ( π3 , 23 π) • (最後の行) (x, y) = ( π3 , 23 π), ( 23 π, 23 π) である。 −→ (x, y) = ( π3 , π3 ), ( 23 π, 23 π) である。 次回予告 第 5 回の授業で、2変数関数の極値の候補は ∂f ∂x (x, y) = ∂f ∂y (x, y) = 0 を解くことにより求め られることを説明しました。次回は、それらの候補の中から実際に極値になっているものを決 定する有効な判定法—ヘッシアン (Hessian) 判定法—を説明します。 – 48 – 2014 年 11 月 13 日 数学を学ぶ(微分積分2)第 8 回・学習内容チェックシート 学籍番号 Q1. 次の 氏 名 に適当な言葉や数式・記号を入れてください。 • 領域 D 上で定義された関数 f (x, y) が2回偏微分可能であるとすると、f (x, y) の が f (x, y) の偏導関数をさらに偏微分することによって定義される。 より正確には、それらは次式で定義される: ∂2f = ∂x2 ∂2f = ∂x∂y 2 ∂ f この4つのうち、 ∂y∂x と ∂2f ∂x∂y , ∂2f = ∂y∂x , ∂2f = ∂y 2 2 ∂ f であれば、 ∂y∂x = については、それらが ∂2f ∂x∂y となる。 • (0, 0) を含む領域 D 上で定義された関数 f (x, y) の第 2 次 Maclaurin 展開は、R2 をラ グランジュの剰余項として、 f (x, y) = + x+ y + R2 である。 • (0, 0) を含む領域 D 上で定義された関数 f (x, y) の第 3 次 Maclaurin 展開は、第 2 次 偏導関数が連続なとき、R3 をラグランジュの剰余項として、 f (x, y) = + x+ x2 + + y xy + y 2 + R3 である。 • 領域 D 上で定義された関数 f (x, y) を (a, b) ∈ D のまわりで第 2 次 Taylor 展開する と、R2 をラグランジュの剰余項として、 f (x, y) = + (x − a) + (y − b) + R2 となる。 • 領域 D 上で定義された関数 f (x, y) は 4 回偏微分可能であって、4 階までの偏導 ( ∂ ) ∂ 4 関数がすべて連続であるとする。このとき、実数 h, k に対して、 h ∂x + k ∂y f は 4 4 4 4 ∂4f , ∂ f , ∂ f , ∂ f ,∂ f ∂x4 ∂x3 ∂y ∂x2 ∂y 2 ∂x∂y 3 ∂y 4 を用いて次のように表わされる: ( ∂ ∂ )4 +k f= h ∂x ∂y Q2. 第8回の授業で学んだ事柄について、わかりにくかったことや考えたことなどがありまし たら、書いてください。
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