第4章 乗数モデル

第 4 章 乗数モデル
1
消費関数
4.2
第4章
乗数モデル
4.2.1
家計の消費需要
表 1:ある個人の所得と消費と貯蓄
4.1
有効需要と乗数メカニズム
所得
0
200 万
400 万
600 万
800 万
消費
200 万
300 万
400 万
500 万
600 万
貯蓄
-200 万
-100 万
0
100 万
200 万
有効需要
4.1.1
特徴
有効需要
所得の裏づけのもとで実際に財市場で実現される総需要
• 収入が増えると消費も増える.
の水準のことを有効需要 (effective demand) という.
• 有効需要 とは ”総需要” と同じ意味.
• 所得が 0 であっても何らかの消費が行われている.
• 例え,所得がなくても,生きていくうえで最低限の
有効需要の原理
食費などが必要だから,借入れをするなどして,最
低限の消費を確保するのは最もである.
そして,”均衡国民所得は有効需要(総需要)に等しく
決定される”と考えるのがケインズの 有効需要の原理 で
ある.
これは,”総供給はそれ自身の総需要をつくる”と主張
した古典派の セイの法則 (Say’s law) と対立するもので
ある.
4.2.2
消費関数
一般的な消費関数
所得と消費の間に成立すると考えられる関係を表した
数量調整
もの.
C = C(Y )
ケインズ経済学では価格の調整スピードが遅く,需要と
供給の調整は,短期的に主として数量によると考えるので
ある.こうした数量による調整メカニズムを,有効需要に
基づく数量調整と呼ぶ.
(4.1)
という関数形で表すことができる.
例 200= C(0),300= C(200),400= C(400),
500= C(600),600= C(800)
4.1.2
乗数メカニズム
景気拡大過程
• 需要 ↑ → 生産 ↑ → 所得 ↑ → 需要 ↑
じこぞうしょく
という 自己増殖 的メカニズムが働く.
∆C
• 通常,所得が増えると消費も増える. ∆Y
>0
• 消費関数は通常右上がりとする.
• 消費が所得の増加とともに拡大すると考えられるか
らである.
景気縮小過程
• 需要 ↓ → 生産 ↓ → 所得 ↓ → 需要 ↓
乗数プロセス
ケインズ・モデルでの標準的な消費関数
C = c0 + c1 Y
(c0 > 0,
0 < c1 < 1)
(4.2)
この自己拡大(縮小)的メカニズムを乗数プロセスと
呼ぶ.
• 需要不足の経済 → ケインジアン的世界
c0 は独立消費,基礎消費,c1 は限界消費性向と呼ばれる.
(4.2) 式は,消費が所得にプラスに依存する定式である.ケ
インズ・モデルでの標準的な消費関数である.
第 4 章 乗数モデル
4.2.3
2
特徴
独立消費
• 所得のうち消費の占める割合.
特徴
•
• 独立消費の”独立”とは”所得水準に依存しない”とい
う意味である.
=
c0 +c1 Y
Y
c0
Y
=
+ c1 ,c0 , c1 は定数.
• 消費関数のグラフ上の各点と原点を結ぶ直線の傾き.
• これが正であることは所得が 0 の場合でも,独立消
費だけは消費されることを意味する.
• C が Y の 1 次関数(直線)で表される場合,平均消
費性向は Y の増加とともに逓減することが分かる.
• 独立消費を最低の生活水準を維持するための支出と
考えると分かりやすいかもしれない.借入れをする
などして,最低限の消費 c0 を確保するのは最もで
ある.
C
Y
• Y ↑→
c0
Y↑
→
c0
Y
↓→
C
Y
↓
例
• 縦軸の交点を示す.
この人(表 1)の平均消費性向は,所得が 200 万のとき,
(C)
2
,所得が 400 万のとき, (D)
のとき, (E)
例
4
3
,所得が 600 万
,所得が 800 万のとき, (F)
5
である.
この人(表 1)の独立消費(基礎消費)は (A) である.
4.3
4.2.4
限界消費性向
財市場の均衡
ここでは最も単純なモデルを考える.企業の投資需要は
ある水準で一定であり,モデルの外で決定されていると考
MPC: marginal propensity to consume
える.また,政府の需要は政策的に決定されるものである
から,これも財市場の外の状況で決まる外生的な変数6 で
特徴
ある.
• 所得が 1 単位だけ増えたとき,そのうちどれだけが
消費に回るかを示す.
4.3.1
• 0<
総需要(有効需要)
∆C
∆Y
= c1 < 1,c1 は定数.
• 0 < c1 < 1 はグラフの傾き 1 の 45 度線よりも緩い,
正の傾きを持つ.
国民所得の決定
市場における総需要 A は消費 C ,投資 I および政府支
出 G の合計で与えられる.簡単化のために,ここでは海
• 一般的には 0 < c1 < 1 であるとされる.これは,
人々は所得の追加分をすべて消費してしまうわけで
外部門は省略する.
A=C +I +G
はなく,一部は貯蓄に振り向けると考えられるから
(4.3)
である.
供給
例
財市場では,この総需要 A に等しいだけの生産 Y が行
1
この人(表 1)の限界消費性向は (B) である .
われる.
• 総需要が総供給を決める.← 有効需要原理
4.2.5
平均消費性向
APC: average propensity to consume
1 [Hint] ∆C = 100 = 0.5
∆Y
200
2 [Hint] 300 = 3 = 1.5
200
2
3 [Hint] 400 = 1
400
4 [Hint] 500 = 5 = 0.833 · · ·
600
6
5 [Hint] 600 = 3 = 0.75
800
4
6 [外生変数]:モデルの外で与えられる変数,
のように変化するかを説明する.
Y =A
(4.4)
[内生変数]:モデルの中で説明される変数, [モデル]:ある外生変数が変化したとき,内生変数がど
第 4 章 乗数モデル
3
需要 = 供給
数値例
均衡では,需要と供給が一致する.(4.3) 式と (4.4) 式か
ら国民所得水準 Y が求められる.
における Y は Y = (A) である.ここで,G=11 になり,
政府支出が 1 単位だけ増加したとすると,Y = (B) に増
Y = |{z}
A
|{z}
総供給
c0 =10,c1 =0.8,I=10,G=10 とすれば,財市場の均衡
加する.Y 増分は (C) であるから,乗数は (D) になる.
総需要
=C +I +G
| {z }
• [Hint]
(4.5)
A:(4.3) 式
Y = c0 + c1 Y + I + G
|{z}
|
{z
}
= c0 + c1 Y +I + G
| {z }
総供給
C:(4.2) 式
総需要
Y = 10 + 0.8Y + 10 + 10
Y = 0.8Y + 30
財市場の均衡
0.2Y = 30
30
Y =
= 150
0.2
財市場の均衡条件を Y について解くと,つまり,(4.5)
式を解くと,
Y =
となる.
c0 + I + G
1 − c1
(4.6)
4.3.3
確認
45 度線
45 度線は A = Y で与えられる (4.4) 式の財市場の均衡
条件を示している.傾き 1,切片 0 の直線(つまり,45 度
Y = c0 + c1 Y + I + G ← (4.5) 式
線)となる.
Y − c1 Y = c0 + I + G
Y =
図 1:45 度線
(4.7)
Y (1 − c1 ) = c0 + I + G
(4.11)
c0 + I + G
← (4.6) 式
1 − c1
4.3.4
乗数の経済学的意味
図 2:需要の波及と乗数プロセス
4.3.2
乗数
乗数プロセス
外生的な需要の増加によって,国民所得はどれだけ増加
需要増大が生産増大と所得増大を生み出し,これが次々
するだろうか.
に派生需要を生み出し,その結果,経済全体の需要,生産,
所得が雪だるま式に増大していくプロセスを乗数プロセ
乗数の計算
スと呼ぶ.
(4.6) 式は (4.8) 式のように書ける.
Y =
c0
1
1
+
I+
G
1 − c1
1 − c1
1 − c1
(4.8)
当初の需要に対して,派生需要も含めたすべての最終的
(4.8) 式から,増加分についての関数を求めると,次式
を得る.
1
1
∆I +
∆G
(4.9)
∆Y =
1 − c1
1 − c1
あるいは,整理すると次式を得る.
∆Y
1
=
,
∆I
1 − c1
∆Y
1
=
∆G
1 − c1
乗数
(4.10)
な需要が何倍に拡大するかを示す.
4.4
4.4.1
完全雇用国民所得
完全雇用国民所得
生産物(すなわち実質国民所得)は,いわゆる資本,労
働,土地の生産の 3 要素を用いて生産される.これらの生
乗数
産要素がすべて利用されて生産された生産物産出水準を完
•
1
1
1−c1 ( 1−c1
•
1
1−c1
> 1) は乗数と呼ばれる.
は限界貯蓄性向の逆数に等しい.
全雇用国民所得 Yf と呼ぶ.
労働力が完全に雇用された場合の生産物の産出水準だか
らである.
第 4 章 乗数モデル
4
均衡国民所得 Y > 完全雇用国民所得水準 Yf
租税関数
財市場が均衡するように国民所得の水準が定まる.しか
線形の比例的な租税関数
し,均衡国民所得が完全雇用国民所得水準以上である場合
は,財市場の均衡は達成不可能である.
T = tY
(0 < t < 1)
(4.14)
を想定しよう.ここで,T は税収,t は税率である.
4.4.2
インフレ・ギャップとデフレ・ギャップ
インフレ・ギャップ
消費関数
均衡国民所得 Y が完全雇用国民所得水準 Yf 以上である
場合 (Y > Yf ) → 完全雇用国民所得 Yf において総需要が
総供給を上回る.
このときの総需要と総供給との差額をインフレ・ギャッ
消費関数 (4.2) 式は次のように修正される.
C = c0 + c1 (Y − T ) = c0 + c1 (Y − tY )
= c0 + c1 (1 − t)Y
プと呼ぶ.つまり,完全雇用国民所得を実現させるための
総需要の超過分をインフレ・ギャップと呼び,経済が不均
衡な状態が成立している.
(4.15)
Y − T は可処分所得(家計が実際に処分可能な所得)で
ある.
図 3:インフレ・ギャップ
Y D (Yf ) − Yf
(4.12)
乗数の計算
(4.15) 式を (4.3) 式に代入し Y について解くと,
注意: Y − Yf ではない.
総需要がインフレ・ギャップ分だけ減少すれば,均衡国
Y =C +I +G
民所得は変化して完全雇用国民所得に一致し,物価上昇の
Y = c0 + c1 (1 − t)Y +I + G
|
{z
}
調整は生じなくなる.このため,インフレ・ギャップは,物
(4.15)
価上昇圧力の指標といえる.
Y =
デフレ・ギャップ
(4.16)
c0 + I + G
1 − c1 (1 − t)
となる.そして,(4.16) 式から,その変化分に関する式を
均衡国民所得 Y が完全雇用国民所得水準 Yf に達してい
ない場合 (Y < Yf ) → 完全雇用国民所得 Yf において総
需要が総供給を下回る.このときの総供給と総需要の差額
をデフレ・ギャップと呼ぶ.つまり,完全雇用国民所得を
実現させるための総需要の不足分をデフレ・ギャップと呼
び,経済が不均衡な状態が成立している.
Yf − Y (Yf )
c0
1
1
+
I+
G
1 − c1 (1 − t) 1 − c1 (1 − t)
1 − c1 (1 − t)
1
1
∆Y =
∆I +
∆G
1 − c1 (1 − t)
1 − c1 (1 − t)
(4.17)
Y =
を得る.
図 4:デフレ・ギャップ
D
求めると,
∆Y
1
∆Y
=
=
∆I
∆G
1 − c1 (1 − t)
(4.13)
注意: Yf − Y ではない.
(4.18)
• 税金 t が入った分だけ,乗数の値が小さくなる.
総需要がデフレ・ギャップ分だけ増加すれば,均衡国民
所得は変化して完全雇用国民所得に一致するため,非自発
的失業は解消する.
4.5
4.5.1
自動安定化装置
租税の導入
租税を導入すると,乗数の値はどうなるであろうか.
数値例
c0 =10,c1 =0.8,t=0.25,I=10,G=10 とすると,財市場
の均衡における Y は Y = (A) となる.ここで,G=11 にな
って,政府支出が 1 単位だけ増加したとすると,Y = (B)
となり,Y は (C) だけ増加する.すなわち,乗数 ( ∆Y
∆G )
は (D) になる.
第 4 章 乗数モデル
4.5.2
5
減税乗数
均衡予算乗数
4.6
乗数の計算
政府の予算制約
4.6.1
財市場の均衡条件は,
税収 T と政府支出 G を同額だけ増加させるという均衡
Y = c0 + c1 (Y − T ) + I + G
である.
(4.19)
予算の制約のもとでの乗数の大きさはどうなるであろうか.
乗数の計算
変化分との関係
(4.19) 式から Y の変化分,T の変化分,I の変化分,
G の変化分との関係を求めると,
∆Y = c1 (∆Y − ∆T ) + ∆I + ∆G
財市場の均衡条件は,
Y = c0 + c1 (Y − T ) + I + G
(4.20)
(4.24)
である.この (4.24) 式から,Y の変化分と T の変化分と
G
の変化分との関係を求めると,(∆I = 0)
となる.
この (4.20) 式から,Y の変化分と T の変化分との関係を
∆Y = c1 (∆Y − ∆T ) + ∆G
求めると,
(つまり,I と G の変化はないとする.∆I = 0,
∆Y = c1 ∆Y − c1 ∆T + ∆G
∆G = 0)
∆Y = c1 (∆Y − ∆T )
(4.21)
(4.25)
となる.
より,次式を得る.
∆Y =
c1
(−∆T )
1 − c1
あるいは,整理して次式を得る.
∆Y
c1
=−
∆T
1 − c1
すなわち,減税の乗数は
c1
1−c1
(4.22)
均衡予算
ここで,均衡予算 ∆T = ∆G の制約を考慮すると,整
(4.23)
理して,最終的に
となる.
∆Y
=1
∆G
(4.26)
となる.
数値例
限界消費性向 c1 =0.8 とすると,減税乗数の値は (A)
確認
と な る .1 兆 円 の 減 税 に よって ,国 民 所 得 は (B) 円
(C)(1) 増大,(2) 減少 する.
4.5.3
∆Y = c1 ∆Y − c1 ∆T + ∆G
∆Y = c1 ∆Y − c1 ∆G + ∆G
租税の自動安定化装置
∆Y (1 − c1 ) = ∆G(1 − c1 ) 乗数の比較
(4.27)
∆Y = ∆G
所得税が導入されると,そうでない場合よりも,乗数が
小さくなる.
1
•
1−c
| {z 1}
所得税がない場合
1
>
1 − c1 (1 − t)
|
{z
}
所得税導入の場合
4.6.2
均衡予算乗数
• 均衡予算乗数は限界消費性向とは独立に,常に 1 に
なる.
自動安定化機能
これは乗数値を小さくさせて,外生的なショックに対す
る GDP の変動を小さくさせるという意味で,より体系を
安定的にさせる.税制があるという制度自体で,マクロ経
1
1 − c1
| {z }
政府支出乗数,(4.10) 式
+
−c1
1 − c1
| {z }
=1
(4.28)
増税乗数,(4.23) 式
済活動はより安定的になる.その意味で,これは,税制の
均衡予算を維持しながら政府支出を増加させる場合の乗数
自動安定化機能(ビルト・イン・スタビライザー : built-in
は,常に 1 となる.
stabilizer)と呼ばれている.
この結果は,均衡予算乗数の定理と呼ばれている.
第 4 章 乗数モデル
6
数値例
c0 =10,c1 =0.8,I=10,T = G=10 とすると,財市場の
均衡における Y は Y = (A) となる.ここで,T = G=11
c1 は 0 と 1 の間の定数であるから,貯蓄関数の傾き s1 も
0 と 1 の間の定数となる.また,s1 は 1 単位の所得の変化
が貯蓄へ及ぼす影響を表し,限界貯蓄性向と呼ばれる.
図 5:投資・貯蓄均等図
になって,税収も政府支出も 1 単位だけ増加したとすると,
Y = (B) となり,Y は (C) しか増加しない.すなわち,

I = I¯
S = s + s Y
0
1
乗数は (D) である.
まとめ
4.7
応用
4.9
表 2:乗数の大きさ
政府支出乗数:政府支出を拡大
1
1−c1
4.9.1
したときの GDP に与える効果
政府支出乗数(税率がある場合)
:
1
1−c1 (1−t)
(4.35)
貿易と乗数
輸出
比例的な所得税率 t を一定として,
¯
EX = EX
政府支出を拡大したときの GDP に
与える効果
(4.36)
輸出 EX は外生変数である.
減税乗数:税負担を 1 円減税する
c1
1−c1
ときに GDP に与える効果
均衡予算乗数:政府支出と税収を
輸入
1
同額だけ増加させるときに GDP に
IM = m0 + m1 Y
与える効果
(0 < m1 < 1)
(4.37)
輸入 IM は所得 Y の増加関数である.m0 は独立輸入,m1
貯蓄と投資による GDP 決定
は限界輸入性向を表す.
家計は,所得 Y を消費 C と貯蓄 S という形で使う.
開放経済下の GDP 決定
4.8
Y =C +S
(4.29)
Y = c0 + c1 Y + I + G + EX − IM
この関係を,財・サービス市場の均衡条件
= c0 + c1 Y + I + G + EX − (m0 + m1 Y )
Y =C +I
(4.30)
に代入すると,次式が導かれる.
C +S =C +I
(4.38)
EX は輸出である7 .ここでは,単純化のために,租税は
省かれている.そして,(4.38) 式を Y に対して解けば,
Y =
(4.31)
c0 + I + G + EX − m0
1 − c1 + m1
(4.39)
導出される.
S=I
(4.32)
貿易乗数
貯蓄は (4.29) 式より
S = Y − C = Y − (c0 + c1 Y )
= −c0 + (1 − c1 )Y
輸出の増加分を ∆EX ,そして所得の増加分 ∆Y で表せ
(4.33)
ば,(4.38) 式より
∆Y =
となり,所得の増加関数である.ここで,s0 = −c0 ,s1 =
1 − c1 と定義すれば,貯蓄関数
1
∆EX
1 − c1 + m1
または
(4.40)
の符号をつけたものであるから負であり,傾き s1 は 1 か
1
∆Y
=
(4.41)
∆EX
1 − c1 + m1
が導かれる.(4.40) 式より,輸出の増加はその増加分に
1
1−c1 +m1 を掛けただけの産出の増加をもたらすことが分か
る. 1−c11+m1 は,外国との貿易を考慮した場合に乗数であ
ら限界消費性向 c1 を差し引いた値である.限界消費性向
るから,貿易乗数と呼ばれる.
S = s0 + s1 Y
(4.34)
が得られる.貯蓄関数の縦軸の切片 s0 は基礎消費 c0 に負
7 輸出
EX と輸入 IM との差額 (EX − IM ) は経常収支と呼ばれる.
第 4 章 乗数モデル
7
乗数の比較
乗数の比較
開放経済下での乗数は閉鎖経済下での乗数より小さく
1
1−c
| {z 1}
•
なる.
1
1 − c1
| {z }
•
>
4.9.2
独立投資の場合
1
1 − c1 + m1
{z
}
|
閉鎖経済の場合
<
開放経済の場合

I = I¯
S = s + s Y
0
1
誘発投資
I = I¯
(4.42)
ここで,I¯ は定数である.
∆I
∆Y
誘発投資の場合
節約のパラドックス
独立投資
•
1
1 − c1 − i1
|
{z
}
• 独立投資の場合,すべての家計が貯蓄を増やそうと
して限界貯蓄性向を高めても,結果的には貯蓄総額
は変化しない.
=0

I = i + i Y
0
1
S = s + s Y
誘発投資
0
I = i0 + i1 Y
(4.48)
(i1 > 0)
(4.43)
(4.49)
1
• 誘発投資が存在する場合には,限界貯蓄性向が上昇
すると,貯蓄は低下する.
ここで,i0 は独立投資,i1 は限界投資性向である.
•
∆I
∆Y
図 6:節約のパラドックス
= i1 > 0
ごびゅう
合成の 誤謬
均衡国民所得
節約のバラドックスは,一部の家計が貯蓄を増やすのは
誘発投資が存在する場合,総需要と総供給は
Y =C +I +G
可能であっても,すべての家計が同時に貯蓄を増やすのは
(4.44)
Y = c0 + c1 Y + i0 + i1 Y + G
不可能な例を提供する.このようにミクロ的な現象からの
類推が,マクロ全体では誤りをもたらしてしまうとき,合
成の誤謬と呼ぶ.
となる.
誘発投資が存在する場合の均衡国民所得は
Y =
c0 + i0 + G
1 − c1 − i1
(4.45)
合成の誤謬は,マクロ経済学独自の視点の重要性を示す
1 つの例といえよう.
となる.
4.10
誘発投資乗数
恒等式と方程式を区別することは,経済問題を理解する
うえで重要なことである.
(4.45) 式より,
1
∆Y =
∆G
1 − c1 − i1
または,
が導かれる.
補足:恒等式と方程式
1
∆Y
=
∆G
1 − c1 − i1
数学的な例でいえば,x(x + 1) = x2 + x は恒等式である.
(4.46)
どのような x についてもこの式は成り立つからである.
これに対して,x(x + 1) = 0 という式は方程式である.x
(4.47)
が −1 か 0 でないかぎりこの式は成り立たないからである.
別のいい方をすれば,方程式を解けば x = −1,0 とい
う解が求まるが,恒等式を解いても解は求まらない.
第 4 章 乗数モデル
8