日心第70回大会(2006) 説明変数のある多母集団連続反応モデル 服部 環 (筑波大学人間総合科学研究科) key words : 連続反応モデル,MCMC,WinBUGS Wang & Zeng(2000)は連続反応モデル(以下,CRM; Samejima,1973)の母数を推定する周辺最尤法を提案し,荘島・ として 3 回のシミュレーションを行い,Gibbs サンプルの事後 豊田(2004)は CRM と他のモデルを混在させて母数を推定 平均をモデル母数の推定値とした(表 1)。期待通りに 3 回の した。荘島(2003)は因子分析法を用いる推定方法を論じ,齋 実験とも,βl = 0(l = 1, 2, · · · , 5) と言える。 藤(2005)は周辺最尤推定法と因子分析法を用いた方法を概観 している。一方,服部(2006)は WinBUGS(Spiegelhalter, Thomas & Best,2000)を用いて CRM を多母集団へ適用した プログラムを書き,項目と受験者の未知母数を推定した。本稿 では,説明変数のある多母集団 CRM の未知母数を WinBUGS によって推定した。 モデルと事前分布 モデル CRM は特性値 θi の受検者が項目 j で得点 x を取る 確率 P (Xj = x|θi ) を次式によって定義する。 P (Xj = x|θi ) = P (Xj ≥ x|θi ) − P (Xj ≥ x + 1|θi ) (1) ここで,P (Xj ≥ x|θi ) は x 点以上を取る確率であり,本稿は 次式を用いた。ただし,D = 1.702 である。 P (Xj ≥ x|θi ) = [1 + exp(−Dbzi )]−1 µ ¶ 1 x ここで, bzi = aj θi − bj − log αj Kj − x (2) bj は困難度,aj は識別力,αj は log x/(Kj − x) の尺度を θi の尺度へ変換するための係数,Kj は項目 j の満点である。 さらに,θi を説明変数 wil (l = 1, 2, · · · , p) を用いて θi = β0 + p X βl (wil − w ¯ l ) + ei バーンインのサンプル数を 1000,Gibbs サンプル数を 10000 表 1 母数の推定値(Gibbs サンプルの平均と標準偏差) 1 回目 2 回目 3 回目 母数 真値 平均 SD 平均 SD 平均 SD a1 1 1.16 0.23 1.16 0.23 1.16 0.23 a2 1 1.30 0.25 1.30 0.25 1.31 0.25 a3 1 1.05 0.20 1.04 0.19 1.04 0.19 a4 1 1.20 0.24 1.19 0.23 1.19 0.23 a5 1 0.80 0.14 0.80 0.14 0.80 0.14 b1 −2 −1.89 0.30 −1.89 0.31 −1.89 0.31 b2 −1 −1.06 0.21 −1.06 0.22 −1.06 0.22 b3 0 −0.25 0.18 −0.25 0.18 −0.26 0.18 b4 1 1.05 0.20 1.06 0.21 1.05 0.20 b5 2 2.15 0.33 2.18 0.34 2.15 0.32 α1 1 1.19 0.17 1.18 0.17 1.19 0.17 α2 1 1.06 0.14 1.05 0.14 1.06 0.14 α3 1 1.04 0.14 1.03 0.14 1.04 0.14 α4 1 1.04 0.14 1.03 0.14 1.03 0.14 α5 1 0.94 0.15 0.93 0.14 0.94 0.15 β1 0 0.09 0.12 0.09 0.13 0.08 0.12 β2 0 0.06 0.10 0.05 0.10 0.06 0.10 β3 0 0.19 0.12 0.19 0.12 0.20 0.12 β4 0 −0.09 0.11 −0.08 0.11 −0.08 0.11 β5 0 0.12 0.10 0.12 0.10 0.12 0.10 μ2 0.5 0.42 0.21 0.43 0.21 0.41 0.21 τ2 1.0 1.24 0.38 1.21 0.37 1.23 0.37 実データを用いた計算例 全学共通教育 57 科目に対して実施 された授業評価に対する回答(服部・上殿・宇都宮・清水・徳 (3) 田・本橋 [2005])を用いた。ここでは「授業内容(5 項目),授業 のように重回帰予測する。β0 は定数であるが,母数を識別する 計点を 0 点から 10 点の 11 カテゴリへ変換し,3 尺度の得点と l=1 方法(4 項目),授業姿勢(3 項目)」の 3 領域に対する回答の合 ために 0 へ固定する。また,ei は予測誤差である。 した。説明変数は受講生の興味度(5 段階評定)である。回答 事前分布 集団 g の受検者 i の egi の事前分布と超母数の事前 者は 875 名であった。バーンインのサンプル数を 5000,Gibbs 分布,また,項目母数,回帰係数の事前分布を以下の通りとし サンプル数を 10000 として 2 回のシミュレーションを行い, た。WinBUGS の表記法に倣い,τg と ψ は分散の逆数である。 Gibbs サンプルの事後平均を母数の推定値とした(表 2)。 P θi の平均と pl=1 βl (wil − w ¯l ) の平均の相関は 0.384(R2 = 0.15)であり,興味の説明力が大きいとは言えない。しかし, また,母数を識別するために,μ1 = 0,τ1 = 1 とする。 egi ∼ N ormal(μg , τg ) μg ∼ N ormal(0, ψ) 帰無仮説:β1 6= 0 を棄却でき(p < 0.01),興味度の高い受講 τg ∼ Gamma(3, 2) 表 2 実データの推定値(Gibbs サンプルの平均と標準偏差) 1 回目 2 回目 ψ ∼ Gamma(0.5, 0.5) aj , αj ∼ Log − normal(0, 4) bj , βl ∼ N ormal(0, 0.1) 計算例 人工データを用いた計算例 母集団数を 2,各群の受検者数 を 50,項目数を 5 として CRM に従う人工データを発生し た。母集団 1 の特性値の平均は 0,分散は 1,母集団 2 の平均 は 0.5,分散は 1.0,項目母数の真値は aj = 1,bj = j − 3, αj = 1(j = 1, 2, · · · , 5) である。また,説明変数の数を 5 つと し,標準正規乱数によって与えた。項目得点は 1 点刻みで 0 点 から 10 点までの 11 カテゴリとしたが,Gibbs サンプリングを 行う際には,0 点を 0.01 点,10 点を 9.99 点とした。 生ほど授業を肯定的に評価する傾向にあったと言える。 母数 平均 標準偏差 平均 標準偏差 a1 a2 a3 b1 b2 b3 α1 α2 α3 β1 ψ −1 1.95 2.13 1.78 −0.92 −0.51 −0.72 1.40 1.24 1.49 0.40 0.14 1.32 0.158 0.199 0.141 0.081 0.069 0.075 0.083 0.072 0.091 0.045 0.045 0.158 1.95 2.14 1.78 −0.91 −0.50 −0.71 1.41 1.24 1.49 0.40 0.14 1.31 0.165 0.188 0.145 0.083 0.071 0.077 0.086 0.071 0.093 0.044 0.043 0.160 τg−1 の平均 (HATTORI Tamaki)
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