熊本大学学術リポジトリ Kumamoto University Repository System

熊本大学学術リポジトリ
Kumamoto University Repository System
Title
Lewis塩基触媒によるエナミンおよびトリクロロシランを
用いた連続反応の開発
Author(s)
柏木, 健
Citation
Issue date
2014-03-25
Type
Thesis or Dissertation
URL
http://hdl.handle.net/2298/30523
Right
Lewis 塩基触媒によるエナミンおよびトリクロロシランを用いた連続反応の開発
分子機能薬学専攻 創薬化学講座
分子薬化学分野
柏木
健
複数の反応をひとつの反応容器で行う連続反応は、中間体の単離・精製の操作を省き、試薬や溶
媒の量を減らすことのできる効率的な有機合成法のひとつである。これまでに当研究室では、Lewis
塩基触媒を用いた連続反応の開発を行ってきた 1。私は、Lewis 塩基触媒存在下、アルデヒドもしく
はイミンとエナミンおよびトリクロロシランから炭素炭素結合形成とそれに続く分子内還元反応
による-アミノアルコール 2 および 1,3-ジアミンの新規合成法を見出した(Scheme 1)。
Scheme 1
O
R
H
CC Formation
N
or
Cl (LB) n
X
Lewis Base (LB)
HSiCl 3
NSO 2R'
R
Cl
Si
Reduction
H N
XH
R 1
R
2
N
 -aminoalcohols
3
or
1,3-diamines
Cl
H
X = O, NSO 2R'
まず、ベンズアルデヒドもしくは N-トシルイミンとエナミンとの反応はいずれも無触媒において
進行し、中程度の収率ながら 1,2-anti-2,3-anti 配置の目的物を選択的に与えた(Table 1)。次に Lewis
塩基触媒の検討を行ったところ、アルデヒドの反応においては、DMPU、NMP を用いた際には選
択性を維持したまま収率が向上したのに対し、HMPA を用いた際には収率の向上に伴い選択性が低
下した。一方、イミンの反応においては、HMPA を用いた際にも選択性を維持したまま収率を向上
させることができた。次に、不斉触媒である(S)-BINAPO を用いて検討したところ、アルデヒドの
反応においては中程度ながらエナンチオ選択性が発現した(52% ee)のに対し、イミンの反応にお
いてはエナンチオ選択性が発現しなかった。
Table 1
X
Ph
+
N
Lewis Base
(10 or 20 mol %)
HSiCl 3 (1.5 equiv)
CH 2Cl 2, 1 h
H
(X = O, NTs)
(1.2 equiv)
Yield (%)
Ph 1
2
3
N
With Imine (X = NTs, 0 o C)
Dr a
Yield (%)
Dr a
None
35
96 / 4
68
99 / 1
DMPU
68
94 / 6
70
97 / 3
NMP
64
96 / 4
74
99 / 1
HMPA
80
82 / 18
83
99 / 1
(S)-BINAPO b
45
98 c / 2
80
97 d / 3
a) 1,2-anti-2,3-anti /  other isomers. b) with aldehyde; 78 o C, 1 h.
with imine;  60 o C, 24 h. c) 52% ee. d) 1% ee.
N
O
1,2-anti-2,3-anti
With PhCHO (X = O,  40 o C)
Lewis Base
O
XH N
N
DMPU
NMP
O
Me2 N P NMe 2
NMe 2
HMPA
O
Ph
P
Ph
Ph
P
Ph
O
(S)-BINAPO
アルデヒドとイミンにおいてジアステレオ選択性に差が出たのは、初めの炭素炭素結合形成反
応が、アルデヒドでは不可逆であるのに対し、イミンでは可逆であるためと考えられる(Figure 1)。
これは、窒素ケイ素結
合が酸素ケイ素結合に
Figure 1
比べ弱いためである。
HMPA のように Lewis 塩
基性の高い触媒を用い
Ph
H
X
Ph
H
(X = O, NTs)
ると、アルデヒドの反応
+
では立体的に不利な
1,2-syn 体のイミニウム
N
イオンからも還元が進
Aldehyde
(X = O)
→irreversible
vs
Imine
(X = NTs)
→reversible
Cl
X
1
(LB) n
Si
2
H
Cl
XH N
2
Ph 1
N
Cl
1,2-anti
1,2-anti-2,3- anti
Cl
(LB) n
H 1 X
Si
Ph
2
Cl
H
XH N
2
Ph 1
行してしまうため、収率
3
3
N
は向上するものの選択
Cl
1,2-syn
性は低下してしまう。一
1,2-syn-2,3- anti
方、イミンの反応では、立体的に不利な 1,2-syn 体は原料へと戻り 1,2-anti 体から優先して還元され
るため、選択性を損なうことなく収率を向上させることができたと考えられる。
また、エナンチオ選択性の発現に差が
Figure 2
出たのは、ケイ素Lewis 塩基触媒錯体
O
の配位形式の違いによるものだと考え
Si
のに対し(A)
、N-トシルイミンでは窒

P
P
R
A
O
O
P
O
O
Si
O
た(Figure 2)。つまり、アルデヒドでは
R 基との立体障害を避け配位ができる

P
H
R
N
B
Si
Ts

P
O
P
N
H
H
C
素上の置換基のため配位が困難である(B)
。そこで、C のように環状イミンを用いればこの問題を
解決できると考え、環状イミン 1 を用いることとした(Eq. 1)
。その結果、予想通り選択性は向上
し、Lewis 塩基触媒として(S)-SEGPHOSO を用いた際に 90% ee を超えるエナンチオ選択性で
1,2-syn-2,3-anti 配置の 1,3-ジアミンを合成することに成功した。また、電子供与基、電子求引基を
有する環状イミンを用いても高いエナンチオ選択性で 1,3-ジアミンを得ることができた。
O
O
O
O
S
N
(S)-SEGPHOSO (10 mol%)
N
R
(R = H, OMe, Br)
N
2
1
CH 2 Cl2
40 or  60 o C, 24 h
O
NH
HSiCl 3 (1.5 equiv)
H
1
O
O
S
3
(1)
R
(1.2 equiv)
O
Ph
P
O
Ph
Ph
O
P
Ph
O
O
(S)-SEGPHOSO
1,2-syn-2,3- aniti
up to 80%
up to Dra = 84 / 16
91 96% ee b
a) Dr = 1,2- syn-2,3- anti / 1,2- anti-2,3- anti. b) Ee of 1,2-syn-2,3-anti product.
以上私は、連続反応による-アミノアルコールおよび 1,3-ジアミンの新規合成法を見出した。ア
ルデヒドまたは鎖状イミンを用いることで高ジアステレオ選択的な合成が、環状イミンを用いるこ
とで高エナンチオ選択的な合成が可能となった。今後、本反応が医薬品等の生物活性物質や機能性
分子等の合成へ展開されることを期待している。
1) a) M. Sugiura, M. Kumahara, M. Nakajima, Chem. Commun. 2009, 3585-3587. b) M. Sugiura, N. Sato,
Y. Sonoda, S. Kotani, M. Nakajima, Chem. Asian J. 2010, 5, 478-481.
2) T. Kashiwagi, S. Kotani, M. Sugiura, M. Nakajima, Tetrahedron 2011, 67, 531-539.