中性子を用いて水と氷の強誘電性を解明 —身近な水・宇宙の氷— 日本原子力研究開発機構 深澤 裕 8,000 気圧下の氷の中性子回折により、氷 XI 蛇口から流れる水に、帯電したストローを近づ けると、図 1 に示すように水は引き寄せられます。 は別の種類の強誘電体であることが分かりまし これは、水がプラスとマイナスに分かれて強誘電 た。さらに、細孔の中に存在する水の水素が揃っ 性(Ferroelectricity)を有することにより生じま ていることも散乱実験からわかりました。水を狭 す。水とストローの間のクーロン力がとても強い い空間に押し込めると、室温であっても、水素の 揃った氷になることは理論的にも示されていま ので、水は重力に逆らって曲がります。 図 2 に水における電荷の向きを示しますが,水 す。 中性子実験をすればするほど、水素は揃いやす に強誘電性が現れる理由は、プラスの電荷をもつ 水素が同じ方向に揃うためです。中性子を使えば いものなのだと感じてきました。強誘電性は身近 水素が揃っているのかどうか詳しく分析できま な水から宇宙の氷まであちらこちらで作用して す。原子力機構では、JRR-3 の粉末回折装置と三 います。その作用を深く理解するとともに、これ 軸分光器を用いて様々な条件下の氷と水を調べ を利用する研究も進めています。イオンを吸着さ せて脱塩したり、水素を動かして電気を得たりす てきました。 最近、−113℃以下で強誘電性の氷 XI が存在す るなど、面白い利用法があります。 ることがわかりました。従来考えられているより も高い温度で氷 XI が発生したので、土星から冥 王星、さらに遠方の小天体といった広い領域にと ても沢山の氷 XI が存在すると考えています。参 考までに,図 3 に冥王星の構造を示します. + − 図 1 強誘電性の水 図 2 水における電荷の向き 図 3 冥王星の構造
© Copyright 2024 ExpyDoc