中性子三軸分光器 TAS-1 日本原子力研究開発機構 武田全康

中性子三軸分光器 TAS-1
日本原子力研究開発機構
中性子三軸分光器の TAS-1 は物質を構成する
原子や、原子が有する磁石の性質であるスピン
の構造、および、運動(時間で揺らぐ様子)を
観測するための装置です。また、中性子が有す
る磁石の性質を利用した偏極中性子散乱を行う
ことにより、物質が有する複雑な磁気構造(ス
ピン配列)を解明することが可能です。
TAS-1 は JRR-3 の炉室に設置されているため、
中性子強度が高く、散乱強度の弱い磁気揺らぎ
や格子振動の観測に優れています。また、特定
のエネルギーの中性子を取り出すためのモノク
ロメータと、物質で散乱された中性子のエネル
ギーを解析するアナライザーに、集光型の Cu ホ
イスラー合金を用いることにより、高品質な偏
極中性子ビームを利用することができます。そ
のため、らせん構造やジグザグ構造といった複
雑な磁気構造を有する新規な磁性材料の研究に
適しています。図 1 に TAS-1 の外観写真を示し
ます。
中性子三軸分光器としては TAS-1 の他に、極
低温、超高圧、高磁場といった特殊な試料環境
下での測定が可能な TAS-2 分光器と、冷中性子
を利用することで高いエネルギー分解能での測
定を実現する LTAS 分光器があります。
図 1 TAS-1 の外観写真
Fe16N2 を主成分とする Fe-N 磁性微粒子に対
する偏極中性子回折実験の結果を図 2 に示しま
す。この微粒子は球状であるにも拘らず,磁気
武田全康
異方性が大きいこと,Fe-N を基板上に作成した
薄膜試料では,巨大磁気モーメントの存在を示
唆する報告があり,球状粒子でも巨大磁気モー
メントの存在に興味が持たれています。しかし、
Fe-N 微粒子の表面を非磁性ラミネート層で覆う
必要があり、この厚みを正確に決定する方法が
ないため、他の磁化測定法では正味の Fe-N 微粒
子の磁気モーメントの大きさを定量的に評価す
ることが困難でした。試料はラミネート層を含
む直径約 20nm の球状粒子で、10kOe の外部磁
場を加えて測定しました。
図 2 の横軸は 2θ で、縦軸は 120 秒あたりの中
性子カウント数です。図には結晶構造、磁気構
造を反映する Bragg 散乱ピークが観測されます。
これらの回折ピークでは、中性子スピンが磁化
と平行 I+か反平行 I-によって強度比(反転比)
が異なりますが、試料が強磁性成分を持つと、I+
と I- に差が見られるのが偏極中性子回折法の一
つの特徴です。これらの強度比を解析すること
により、この試料では Fe16N2 の持つ磁気モー
メントは純鉄の持つ磁気モーメント(2.2 ボーア
磁子)とほぼ同じ大きさを有し、巨大磁気モーメ
ントが存在しないことや、粒径が小さくなった
ことによる磁気モーメントの減少もないことを
一意的に決定することができました。
図2 Fe16N2 磁性微粒子の偏極中性子回折
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