1 弘前市監査委員告示第9号 平成26年8月22日付けで地方自治法第

弘前市監査委員告示第9号
平成26年8月22日付けで地方自治法第242条第1項の規定に基づき提出された
弘前市長措置請求書について監査した結果を、同条第4項の規定により、次のとおり公表
する。
平成26年10月17日
弘前市監査委員 常 田
猛
弘前市監査委員 石 塚
徹
弘前市監査委員 藤 田
昭
記
第1 請求の受付
1 請求人の住所・氏名
弘前市大字(住所省略)
(氏名省略)ほか91名
2 請求書の提出日
平成26年8月22日
3 請求の要件審査
本件請求は、地方自治法第242条所要の法定要件を満たしているものと認め、監
査を行うものとした。
第2 請求の要旨
請求人が提出した「弘前市長措置請求書」による請求は、次のとおりである。
(原文
のまま記載)
1 弘前市長に対し、
「弘前ウォーターフロント開発株式会社特別清算補助金」の支出を
差し止め、同補助金を廃止する修正予算を市議会に提案する等の勧告をすることを請
求する。
2 措置請求の理由
(1)弘前ウォーターフロント開発株式会社と岩木川市民ゴルフ場事業の破綻
1
1)1991(平成3)年、弘前ウォーターフロント開発株式会社(以下「WF
社」と略す)が設立された。
弘前市は、岩木川河川敷を大規模に開発する「弘前市が21世紀へ向けた河
川開発のプロムナード構想」等を推進するため、WF社の設立にあたって全株
式の25パーセントに当たる出資をし、市の公金から2250万円を支出して
筆頭株主となった。岩木川市民ゴルフ場事業(以下「ゴルフ場事業」と略す)
は、前記「プロムナード」構想の端緒として位置付けられた。
2)しかし、ゴルフ場事業は、当初の計画で年間利用者数を1万5000人~
2万1000人と過大に見積もられた上で進められたこと、他方で、造成した
ゴルフ場を無償で弘前市に寄付したことなどから、発足当初から債務超過の赤
字経営が続いた。
3)既に2009(平成21)年1月には、弘前市が第三者機関として設置した
弘前市第三セクター点検評価委員会が、WF 社について、
「事業再生及び存続の
可能性は極めて厳しい」
「事業を清算することを求める」との報告書を提出して
いた。
2011(平成23)年度からは、ゴルフ場の指定管理者であるWF社に対
して弘前市から指定管理料の支払がなされ、2013(平成25)年度までに
計1300万円の公費が投入されたものの、経営状態の改善はなされず(20
12(平成24)年3月期でも指定管理料収入によってかろうじて経常利益3
万5000円を上げたに過ぎない)
、単なる破綻処理の先延ばし・延命措置に過
ぎなかった。
4)しかし、ゴルフ愛好会会員に対する預託金2億2200万円の償還開始時期
が2019(平成31)年に迫る中、同預託金の償還が到底不可能であること
もふまえ、WF社は、2013(平成25)年5月15日、同社を特別清算手
続により清算することやゴルフ場自体については市の管理下において存続させ
ることが望ましいとの意見書を弘前市に提出した。
弘前市は、2013(平成25)年6月から7月にかけてWF社との「経営
検討協議会」を行い、WF社の解散とゴルフ場の存続という方向が確認された。
5)このように、WF社については、近いうちに、会社を解散して特別清算手続
が開始される見込みとなっている。
(2)破綻処理に対する公金支出の動き
1)この間、弘前市は、株式の25パーセントを有する筆頭株主であり役員の過
半数を市の職員で占めていながら、一貫して市はWF社の経営については責任
を負わないとしてきた。WF社が市民ゴルフ場の指定管理者となった際にも、
ゴルフ場の「管理業務及びこれに関連する経費」について市は「いかなる補填
も行わない」
「利用者の減少等による収入の減少に対して」
「経費の補填等を行
わない」と協定していた。
2)ところが、弘前市は、2011(平成23)年7月にWF社との協定を変更
2
して「指定管理料」名目でWF社に公費を投入することを可能とし、前述のよ
うに、2013(平成25)年度までに計1300万円の公金が注ぎこまれた。
3)そして、WF社の解散・特別清算という方針が具体化しつつある現在、弘前
市は、さらなる公費の投入を行おうとしている。
一つは、WF社が保有するゴルフ場管理棟(付属設備含む)
、駐車場敷地及び
散水設備について、弘前市が「不動産鑑定評価額」をもって取得するという点
である。もう一つは、WF社が特別清算を進めるために必要な「ゴルフ愛好会
会員」に対する配当金を確保するために、新たに補助金(
「弘前ウォーターフロ
ント開発株式会社特別清算補助金」
)を創設してこれをWF社に交付するという
点である。
弘前市長は、前者のWF社資産の買い取りのための費用として4429万
9000円(税込)
、後者の補助金として862万3000円の合計5292万
2000円を2014(平成26)年度一般会計補正予算案として提案し、弘前
市議会は、2014(平成26)年6月27日、前記予算案を賛成21・反対
12で可決した。
4)このため、今後、前記予算に基づく公費の支出がなされる蓋然性が極めて高
い。
(3)本件補助金支出の違法性
1)前述のように、WF社の破綻は、当初からの過大な需要見込みやずさんな計
画などによるものであり、その破綻処理は同社の自己責任によりなされるべき
筋合いのものである。従前、弘前市は、一貫して、WF社の経営に対して責任
を負わないとしており、平成20年3月14日施行の「弘前市第三セクターの
運営に関する基本指針」においても、その第3条で「なお、指導等に当たって
は、第三セクターは独立した法人格を有する団体であることから、その業務や
財政の責任は第三セクター自身が負わなければならないものであり、市の指導
等により第三セクターの業務や財政の責任を市も分担するとの誤解を与えない
ように留意するものとする」と明記されているところである。
このように、WF社の破綻処理に当たって弘前市がこれ以上公費を投入する
根拠はない。
しかし、前記の予算に基づく公費支出は、まさにWF社の破綻処理のために
弘前市民の税金を用いるものである。
2)とりわけ、前記予算の中でも、WF社の特別清算手続を確実にするため「ゴ
ルフ愛好会会員」に対する配当金を確保することを目的とする「弘前ウォータ
ーフロント開発株式会社特別清算補助金」
(以下「本件補助金」と略す)の支出
は、違法性の高いものというべきである。
弘前市によれば、清算にあたって見込まれる配当原資は現時点で散水設備の
売却代金705万6000円(税抜)のみであり、愛好会会員への配当率は
1.8パーセント(一口30万円あたり約5400円)に過ぎないので、特別
3
清算を円滑に進めるために、愛好会会員への配当率5パーセント(一口30万
円あたり1万5000円)を確保できる金額を本件補助金としたという。
しかし、そもそも、地方自治法第232条の2では、「普通地方公共団体は、
その公益上必要がある場合においては、寄附又は補助をすることができる」と
明確に定められている。地方公共団体による補助金は、
「公益上必要がある場合」
にしか支出することができないのである。
言うまでもなく、WF社は、弘前市が出資しているとはいえ、一私企業であ
り、弘前市自身がこれまで「経営責任は負わない」と主張し続けてきた民間会
社である。同社の破綻は、前述のように、当初からの過大な需要見込みやずさ
んな計画などによるものであり、破綻処理は同社の自己責任により行われるべ
き問題である。本件補助金により5パーセントの配当率を確保されるという債
権者は、
「ゴルフ愛好会会員」であり、いずれも単にゴルフ愛好者である一般私
人に過ぎない。
そうであるならば、WF社が特別清算手続を行うにあたっても、その成否は
WF社と「ゴルフ愛好会会員」を含む各債権者との協議折衝等に委ねられるべ
きであって、同手続の成就を確実にさせるために弘前市が財政的負担を負う筋
合いは何ら存在しない。
一私企業の清算手続きに際して、特定の債権者らに対する配当率を上げるた
めに地方公共団体が税金に由来する公費を補助金として支出するということは、
いかなる観点からみても公益性を有するものとはいえない。
3)以上のとおり、予算化された862万3000円の本件補助金を支出するこ
とは、明らかに公益上の必要性を欠くものであって、地方自治法第232条の
2に反する違法な財務会計行為に他ならない。
(4)結論
よって、弘前市監査委員におかれては、厳正な監査をなし、弘前市長に対して、
「弘前ウォーターフロント開発株式会社特別清算補助金」の支出を差し止め、同補
助金を廃止する修正予算を市議会に提案する等の勧告をすることを請求する。
(事実証明)
1 新聞社説(東奥日報2013年8月11日付)
2 新聞社説(陸奥新報2013年7月31日付)
3 新聞記事(東奥日報2013年7月30日付)
4 新聞記事(陸奥新報・東奥日報各2013年8月8日付)
5 弘前市第三セクター点検評価報告書
6 弘前ウォーターフロント開発の将来について
7 弘前WF開発(株)経営検討協議会における確認事項
8
弘前市起案用紙
弘前ウォーターフロント開発株式会社特別清算補助金の創設
について(方針)
9
弘前市起案用紙
弘前ウォーターフロント開発株式会社特別清算補助金の額の
4
積算について(伺い)
10 弘前ウォーターフロント開発株式会社の清算に向けた取り組みについて
11 新聞記事(東奥日報2014年6月28日付)
12 弘前市第三セクターの運営に関する基本指針
第3 監査対象部署
市民文化スポーツ部文化スポーツ振興課
第4 請求人への証拠提出及び陳述の機会の付与
1 地方自治法第242条第6項の規定に基づき、平成26年9月29日請求人に対し
て新たな証拠の提出及び陳述の機会を与えたところ、補足の陳述がなされるとともに、
新たな証拠として「事実証明13~24」が提出された。
2 補足の陳述の概略は、次のとおりであった。
弘前市長措置請求書及び新たな証拠に沿って陳述を行った。
(1) 新たな証拠として提出された事実証明書
13 岩木川ゴルフ愛好会会員規約
14 「決定書」
(指令第56号)と題する書面で始まる綴り
14-2 「Iwaki River Side Golf Course」と
題する書面
15 「復命書」と題する綴り
16 第23期「計算書類」と題する綴り
17 「不動産鑑定評価書」と題する綴り
18 「経営改善計画の策定について(提出)」と題する綴り
19 「公開質問書の提出について(回答)
」と題する綴り
20 市のホームページからダウンロードした「平成24年2月21日臨時記者会
見」と題する綴り
21 市のホームページからダウンロードした「平成24年3月21日定例記者会
見」と題する綴り
22 市のホームページからダウンロードした「平成25年8月7日定例記者会見」
と題する綴り
23 総務省自治財政局長による「第三セクターに関する指針の改定について」と
題する綴り
24 総務省ホームページからダウンロードした「第三セクター等の抜本的改革等
に関する指針」と題する綴り
(2) 陳述の機会における要旨(概要)
本件補助金創設の目的に地方自治法第232条の2が予定した「公益上必要があ
る」と言えるか否かが本件措置請求の主要な争点になる。加えて、地方財政法第4
5
条第1項の趣旨に即した市乃至は市長において補助金の交付に係る裁量権の逸脱又
は濫用がないかについても検討されるべきである。
① ここでいう「会員」とは何か、ということについて。
市民文化スポーツ部文化スポーツ振興課から弘前市議会議員へ送付された文
書に「会員」という記載があるが、何の会員かは記載されず、任意団体である
「岩木川ゴルフ愛好会会員」と推測され、本件補助金はその会員への配当金確
保ということになる。
②
弘前市は、岩木川市民ゴルフ場を社会体育施設と認識し、位置づけていたのか
について。
「平成23年度社会教育調査報告書」では、公設の社会体育施設のゴルフ場
は「津軽カントリークラブ岳コース」の1か所であり、スコアカードの注意書
きや情報公開請求の結果などにおいても、当該ゴルフ場が市民に開かれた、本
来的な社会体育施設とは言えない。
③ 本件補助金の積算内容について。
「配当率5%の場合の試算」では、会員以外の個人への配当が含まれ、会社
の代表取締役を指していると思われるが、会社を破たんさせた責任のある取締
役にも配当することは理解できない。
管理棟や駐車場のある土地が「市街化調整区域」であること、開発許可につ
いて「岩木川市民ゴルフ場管理棟」として受けており、用途の制約があること
などから、これら不動産、設備は市以外に取得することが極めて難しい。
また、会社の資産を不動産鑑定価格で取得するとしているが、一般的に経営
破たんした会社の不動産の売買価格に比較すれば極めて優遇された価格である。
さらに、会員多数の同意を得るため、配当率5%にするための補助金が必要
だという「会社のエゴ」であり、補助金を交付する理由はない。
④ 経営破たんに至った経緯と責任の所在について。
経営破たんの原因について、もっぱら外的な要因による結果で、当初から無
理な事業計画であったため、経営担当の取締役には責任はないとの姿勢をもつ
会社に対し、市民の血税を補助金として出すいわれはない。
⑤ 本件法人の経営と債務処理に関する市長の基本姿勢について。
公開質問状や記者会見において、市長は当該ゴルフ場の維持管理と会社の経
営は別であること、会社の赤字補てんはしないこと、預り金に係る新たな財政
出動をしないことを市民に約束してきた。
⑥ 第三セクターに対する市の責任についての考え方の整理について。
「弘前市第三セクターの運営に関する基本指針」及び国からの「第三セクタ
ーに関する指針について」等の通知において、
「第三セクター等は独立した事業
体であり、その経営は当該法人の自助努力によって行われるべきである」など
とされており、補助金交付の理由はない。
6
⑦ まとめ。
これまでの経過と内容、市民への約束、議会対応及び各種指針においても、
地方自治法第232条の2が予定した公益性の存在はなく、地方財政法第4条
第1項の趣旨にも反し、裁量権の逸脱、濫用である。
会員への5%の配当が必要であれば、歴代の取締役が自らの責任で負うべき
であって、市民の税金の充当は不条理である。よって、厳正な監査を実施する
とともに、監査結果が広く世間に公表されても耐えうるものになることを希望
する。
3 請求人が陳述を行った際、地方自治法第242条第7項の規定に基づき、関係職員
を立ち会わせた。
第5 監査の実施
弘前市長措置請求書及び新たな証拠並びに関係書類等を調査し、平成26年9月
29日に関係職員の事情聴取を行うとともに、同月29日及び30日の両日、慎重に
監査した。
第6 関係職員(市民文化スポーツ部文化スポーツ振興課)の事情聴取
事情聴取の項目は、次のとおりであった。
1.補助金支出に関する概要及び経過について。
2.弘前ウォーターフロント開発株式会社経営検討協議会について。
3.一定程度の配当を5%とした経緯について。
4.
「第三セクターの運営に関する基本指針」の認識について。
5.社会体育施設としての位置づけについて。
6.会社が破産し財産が競売になった場合の処理について。
7.9月25日の臨時株主総会の状況と今後について。
8.第三セクターと弘前市との関わりの経緯等について。
9.整備したゴルフ場の寄附と会社の経営圧迫について。
第7 監査の結果及び判断
監査の結果、本件請求は合議により次のとおり決定した。
弘前市長に対しての本件措置請求については、以下のとおり、請求人の主張には理
由がないものと認め、これを棄却する。
1 弘前ウォーターフロント開発株式会社特別清算補助金(以下「本件補助金」という。
)
の公益性の判断基準について
補助金支出の公益性の判断基準について、地方自治法第232条の2は「普通地方公
共団体は、その公益上必要がある場合においては、寄附又は補助をすることができる。
」
7
と規定し、公益上必要がある場合に限定されている。
この公益性の第一次的判断権については、地方公共団体に留保されており、地方公共
団体の長及び議会は地方公共団体を取り巻く社会的経済的状況と補助を行った場合の効
果など諸般の事情を総合的に考慮し、個々の事案に即して判断すべきである。
補助金の支出は税金を財源とするものであるから、長及び議会がする公益性の認定は、
全くの自由裁量行為ではありえず、考慮されるべき諸事情に照らし、客観的に合理性が
存在することが必要であり、以下の基準によるものと解せられる。
①
合目的性:補助事業が行政目的に合致すること
②
有効性・必要性:補助事業を実施することにより住民の福祉が向上し若しくは維
持する効果が生じ、実施しなければその効果は生じないという関係にあること
③
手続の適法性:補助事業の実施にあたり、手続的な違法がないこと
④
財政運営上の相当性:当該地方公共団体の財政運営上支障がないこと
2 本件補助金支出の合目的性について
(1)岩木川市民ゴルフ場(以下「市民ゴルフ場」という。
)に係る市と弘前ウォータ
ーフロント開発株式会社(以下「会社」という。
)の関わり
①
平成3年4月、会社は、市街地に隣接する立地条件で、低料金、気軽にプレー
できるゴルフ場を設置し、地域の人々の要請に応えた身近なスポーツ施設を提供
することを主な目的として、市及び民間企業等の出資による第三セクター方式に
より設立された。
しかし、会社が整備したゴルフ場施設を、国の指導により市に無償譲渡したた
め、会社は開業当時から大幅な債務超過に陥り、また、利用者数が見込みを下回
ったことが、会社経営において赤字体質から抜け出せない大きな要因であると考
えられる。
②
市民ゴルフ場を含む「岩木川緑地」は、岩木川河川空間の都市的有効利用と自
然環境の保全及び都市景観の向上を図るため、平成4年6月、都市計画法の規定
に基づき弘前広域都市計画事業として決定したものである。
この決定を踏まえて、岩木川における自然環境の保全、市民が親しめる水辺空
間の創造を目的に、市が策定した「岩木川緑地基本計画」の一環として市民ゴル
フ場が建設され、平成6年4月、市が開場した。
これら一連の手続が、法令に定めるところにより滞りなく進められてきたのは、
究極的には都市計画法及び都市公園法の目的規定に定めている「公共の福祉の増
進」に合致して事業が進捗してきたものと判断される。
なお、市民ゴルフ場の設置及び管理運営等にあたっては、社会体育施設として、
都市公園条例の改正や指定管理者の指定のほか、必要な関係予算議案について、
その都度市議会で審議され、いずれも可決されてきたものである。
さらに、施設を所管する教育委員会が発行した平成6年度以降の教育年報にお
いても、市民ゴルフ場を社会体育の中で体育施設の一つとして位置づけている。
8
(2)会社及び市民ゴルフ場のあり方についての検討
①
平成21年1月、外部有識者で構成され、第三セクター事業の経営状況や運営
実態について再検討を行った「弘前市第三セクター点検評価委員会」は、市に対
し、
「会社の事業の継続は困難であり、当該事業をできるだけ速やかに廃止するこ
と。
」
「今後事業の廃止と清算に向けて市と会社との協議を行い、段階を踏んで事
業を清算することを求めるものである。
」と提言した。
②
平成23年12月、市民ゴルフ場について、5回にわたり開催された「弘前市
社会体育施設等のあり方検討市民懇談会」は、市に対し、
「社会体育施設の一つと
して、今後も存続することが望ましい。緑地運動公園的要素を含みつつ、他のス
ポーツの利用や多世代の市民の憩いの場として、快適な空間を念頭に置いた有効
な利活用を考えるべきである。
」とする提言書を提出した。
③
平成25年5月、会社は市に対し、
「会社の事業は停止し、特別清算の手続によ
り清算する。市民ゴルフ場は市の管理下で存続させたい。」とする意見書を提出し
た。
④
平成25年6月、市は、③の意見書等を踏まえ、市及び会社関係者で構成する
「弘前ウォーターフロント開発株式会社経営検討協議会」を設置し、平成26年
7月までの9回にわたり、将来における市民ゴルフ場のあり方を検討した。
⑤
平成25年9月、市民ゴルフ場の利活用に係る、より具体的な手法について、
3回にわたり開催された「市民ゴルフ場利活用検討委員会」は、市に対し、
「ゴル
フ以外のニュースポーツでの利用を推進する。ジュニア育成をする。利用しやす
い利用料金を設定する。
」などの検討結果を報告した。
⑥
平成26年2月、市は、②及び⑤の提言等を踏まえ、
「岩木川市民ゴルフ場利活
用計画」を策定し、社会体育施設としての機能を十分に発揮させるために、市民
の健康づくりの場、ゴルフ競技の振興の場、市民の憩いの場とする基本方針やそ
れらの具体的方策を示した。
以上のように、市は、今後における会社のあり方及びゴルフ場施設のあり方に
ついて、外部有識者等からの意見を踏まえるなど、一定の手続を経て判断してい
たことがうかがわれる。
(3)市民ゴルフ場の公益性
市民ゴルフ場は、弘前市都市公園条例に規定される公の施設である。
公の施設は地方自治法第244条に規定され、地方公共団体が、住民の福祉を増
進する目的をもってその利用に供するための施設である。
市民ゴルフ場は、平成6年4月のオープン以来、多くの市民等の利用に供されて
おり、住民の福祉を増進している市民ゴルフ場そのものに公益性が認められる。
(4)本件補助金の目的
本件補助金は、第一次的には、会社の特別清算を確実に進めるため、会員に対し
9
配当率5%(一口30万円につき、配当金約1万5千円)を目安に算出した額の原
資に充てようとするものであるが、市が最終的に達成しようとする目的は、市民ゴ
ルフ場を安定的に存続させ、これまで以上に活用して市におけるスポーツ活動の振
興、市民の健康づくりに努め、もって住民の福祉を増進しようとするものであり、
このことは市の行政目的に合致していると認められる。
なお、市が上記スポーツ活動の振興、市民の健康づくりの行政施策に取り組むと
していることは、次の計画等からうかがわれる。
① 岩木川市民ゴルフ場利活用計画
平成26年2月に策定され、社会体育施設としての機能を十分に発揮させるた
めに、市民の健康づくりの場、ゴルフ競技の振興の場、市民の憩いの場とする基
本方針やそれらの具体的方策も示した。
② 弘前市アクションプラン 2013
平成25年3月に決定され、エボリューション3(3つの日本一を目指した長
期的取り組み)の一つとして、
「健康日本一を目指します」を掲げ、働きざかりの
健康増進、子どもから始める健康教育、運動の習慣化について長期的展望をもっ
て戦略的に取り組むとした。
③ 弘前市経営計画
「弘前市アクションプラン 2013」を引継ぎ、新たな地域づくりの指針として平
成26年5月に策定され、働きざかりの健康増進、子どもから始める健康教育を、
「いきいき・健やかなまち「ひろさき」」として重点的に取り組むとともに、
「ス
ポーツ・レクリエーション活動の推進」、
「文化・スポーツ関連施設の整備・運営」
に取り組むとした。
④ 新たな指定管理者の導入
平成26年8月から、市内の特定非営利活動法人が指定管理者として、市の方
針に基づき、利用者の熱中症対策や新たなサービスを提供し好評を得ている。
また、今後は、女子プロゴルファーによるゴルフ教室、ニュースポーツの教室
や交流大会などに加え、ゴルフコンペや管理棟を活用した新たな事業を計画する
など、積極的に自主事業に取り組む姿勢である。
(5)弘前市第三セクターの運営に関する基本指針について
請求人は、
「弘前市第三セクターの運営に関する基本指針において、その第3条で、
指導等に当たっては、第三セクターは独立した法人格を有する団体であることから、
その業務や財政の責任は第三セクター自身が負わなければならないものであり、市
の指導等により第三セクターの業務や財政の責任を市も分担するとの誤解を与えな
いように留意するものと明記されているところであり、会社の破綻処理に当たって
弘前市がこれ以上公費を投入する根拠はない。
」としている。
しかし、平成23年度からの指定管理料の支出については、会社の赤字補てんを
目的とした公的支援ではなく、市は社会体育施設である市民ゴルフ場の設置者とし
10
て、良好な利用環境の維持向上のために必要な措置をとることを目的として支出し
たものとしている。
また、会社資産の取得と本件補助金の創設は、あくまでも市の社会体育施設とし
て市民ゴルフ場の存続に必要不可欠な施設を確実に取得するため、会員となってい
る市民の協力を求めるための環境を整える経費であり、特別清算が円滑に進むよう、
市としても協力していくこととしていることに正当性があると判断した。
3 本件補助金支出の有効性・必要性について
社会体育施設である市民ゴルフ場は、多くの市民に健康維持や健康づくりの場とし
て利用され、さらにニュースポーツやレクリエーションとしての利用も市民に広がり
つつあり、また、設置者としては、良好な利用環境の維持向上に努めるとともに、今
後も市民が安心して長く利用できる環境を整え、存続させる必要があるとしているこ
とに妥当性があると判断した。
(1)会社は、特別清算により解散する方針を示しているが、仮に破産による清算手続
となった場合、会社の財産は、破産管財人が管理処分することとなるため、市が確実
に駐車場及び管理棟などを取得できる保証はないと判断する。
一方、特別清算の場合は、会社の株主総会で選任された清算人が財産の管理処分を
行うため、会社と合意した内容で市が駐車場及び管理棟などを取得でき、また清算手
続の間も、引き続き駐車場及び管理棟などを賃借し利用できるなど、市が、今後も安
定して市民ゴルフ場を運営していくうえで、最善の方策と考えられることから、市が
特別清算を選択したことは妥当であると判断した。
そこで、特別清算の手続をより確実なものとするためには、会員となっている市民
の協力は不可欠であり、協力を求めるための環境を整え、市が一定の負担をするこ
ともやむを得ないとし、本件補助金を創設したことに有効性・必要性があると判断
した。
(2)補助金額がいかなる額が妥当であるかについては、市長が総合的に勘案して決
定したものであり、市長の裁量の範囲内に属するものと考えられるところであるが、
参考事例の一つとした他市における配当率を確保することは、財政への影響も懸念
されるとして採用せず、当市の財政に対し配慮している姿勢がうかがわれる。
なお、財産取得については、市長に広範な裁量権が認められているが、当該土地・
建物等の取得にあたり不動産鑑定評価額を採用したことに合理性及び透明性がある
と判断した。
(3)市民ゴルフ場は、平成6年の開設以来、平成25年度末までの20年間におい
て、年平均7,261人、合計14万5,233人が利用していた施設である。し
かも、平成26年度では、新料金の設定などにより、4月9日から9月30日まで
の期間において、既に9,198人が利用し、スポーツ活動振興の場、健康づくり
11
の場として市民に利用されてきたものである。
会社倒産に伴う清算手続が、特別清算ではなく破産によることになれば、市民ゴ
ルフ場として存続できなくなる可能性は極めて大きいものと判断される。
その場合、本年4月以降実施してきた低額な料金による利用、65歳以上の高齢
者・市内小中学生等の無料利用やニュースポーツの取り組みなどがこの施設におい
ては実施できなくなり、今後の市民の利用機会を奪うことにもなり、その影響は大
きいと判断される。
4 手続の適法性について
本件補助金に係る補正予算案は、平成26年6月24日、市議会予算特別委員会で
審査され、同月27日の本会議において可決された。したがって、議会において実質
的な審議が行われたものであり、正当性があると認められる。
なお、関係職員の事情聴取及び報道情報によれば、会社は平成26年9月25日に
臨時株主総会を開催し、全会一致で会社の解散を決議したことを受け、同月29日、
青森地方裁判所弘前支部に対し、特別清算開始の申し立てを行い、10月3日付けで
特別清算の開始が決定されたところである。
5 財政運営上の相当性について
市の予算執行に重大な障害又は制約が及ぶとすれば違法性を帯びてくるが、市の財
政規模及び財政調整基金現在高の規模からして、本件補助金862万3千円が支出さ
れたとしても市の財政に具体的支障が生じるものとは認められない。
6 結 論
以上のことから、市長が公益上の必要があるとして、本件補助金を支出しようとす
ることについて、裁量権を逸脱又は濫用している事実は認められない。よって、本件
補助金を支出するにあたって違法性は認められず、請求人の主張には理由がないもの
と判断した。
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