リステリア感染により誘導されるオートファジーにおける菌体認識機構および その回避機構の解析 東京大学医科学研究所 細菌感染分野 助教 小川道永 本研究ではリステリア症の原因菌であるリステリア菌(Listeria monocytogenes)に よるオートファジーに焦点を絞り、リステリアに対する宿主のオートファジー認識機構 を解明し、さらにはリステリアによるオートファジー認識阻害機構を明らかにすること を目的とした。 リステリア菌の外膜タンパク質 ActA は Arp2/3 複合体、VASP、アクチンと結合し、菌 の一極での F-アクチン重合を促進する。リステリア野生株(WT)と actA mutant (Δ actA2)を MDCK/pGFP-LC3 細胞に感染させ、オートファジーの誘導性を比較した結果、 GFP-LC3 陽性を示す菌体の割合がΔactA2 では WT と比べて有意に上昇し、ΔactA2 の細 胞内増殖性は WT と比べて有意に抑制された。ΔactA2 を感染させた MDCK 細胞の透過型 電子顕微鏡による解析を行った結果、オートファゴソームに特徴的な多層の膜構造体に 菌体が取り囲まれていた。MDCK 細胞に WT またはΔactA2 を感染させ、ユビキチン(Ub) および GFP-LC3 陽性菌の割合を経時的に測定した結果、菌体のユビキチン化は LC3 の集 積に先立って起こり、Ub 陽性菌の割合はΔactA2 が WT よりも有意に高かった。さらに、 部分欠失変異 ActA 発現株を用いて調べた結果、リステリアの菌体表面に発現している ActA が Arp2/3 複合体、VASP のどちらか片方とさえ結合できれば、菌体のユビキチン 化が阻害されることが明らかになった。 p62 はユビキチン鎖および LC3 の両者と結合し、 ユビキチン化された基質を選択的にオートファジーにより分解するためのカーゴレセ プターである。そこで、ΔactA2 変異株に対するオートファジーにおける p62 の関与を 検討した。MDCK/p62-Myc 細胞に WT またはΔactA2 を感染させた結果、ΔactA2 の p62 陽性菌の割合は WT と比較して顕著に高かった。さらに GFP-LC3 を恒常的に発現する p62-/-MEF 細胞に WT またはΔactA2 を感染させた結果、ΔactA2 のユビキチン化は p62 に依存しないことが明らかになった。一方で、GFP-LC3 陽性菌の割合は p62-/-細胞では p62-/-/p62(相補細胞)細胞の半分であった。このことは、LC3 の菌体周囲への局在は菌 体のユビキチン化、それに続く p62 の集積に依存することが明らかになった。以上の結 果から、リステリア菌は ActA が宿主タンパク質である Arp2/3 複合体および VASP を集 積して菌体表面全周を覆うことでオートファジーかを回避し、ActA 変異株では菌体が 直接ユビキチン化され、ポリユビキチン鎖が p62 を介して LC3 と結合し、菌体はオート ファジーにより認識されることが明らかになった。 病原細菌のオートファジー回避機構および認識機構の解明は、病原細菌の新たな感染 戦略、およびそれに対する宿主細胞の防御機構の新たな局面の発見に寄与すると考えら れる。
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