[PRESS RELEASE] 平成 28 年 12 月 7 日 オートファジーレセプターSQSTM1/p62 の活性化調節機構の発見 ~HSF1 ストレス応答パスウェイを介した 異常タンパク質の封入体形成およびオートファジークリアランス~ 京都府立医科大学大学院医学研究科 基礎老化学部門)講師 渡邊 基礎老化学 義久、生体構造科学 (附属脳・血管系老化研究センター 教授 田中 雅樹らの研究グループ は、細胞内に蓄積した異常タンパク質の封入体形成およびオートファジーによるクリアラ ンスに HSF1 が関与することを発見し、本件に関する論文が『Autophagy』誌のオンライ ン版に平成 28 年 12 月 7 日(水)に掲載されましたのでお知らせします。 オートファジーレセプターSQSTM1/p62 はオートファジーによるタンパク質の選択的 分解を担う重要な分子であります。これまでに私たちの研究グループは、パーキンソン病 (PD)、レビー小体型認知症(DLB)や多系統萎縮症(MSA)の原因となる α-シヌクレイ ン凝集体が p62 依存的なオートファジークリアランスを受けることを明らかにしてきまし た。本研究では、p62 の活性化機構の解明を目標として解析を行い、ストレス応答のマスタ ー制御因子である HSF1 が p62 の活性化調節に関与していることを発見しました。この分 子メカニズムが明らかになることで、PD や MSA を含む神経変性疾患の発症機序の解明や 新たな治療法の開発につながることが期待されます。 【責任著者】 京都府立医科大学大学院医学研究科 附属脳・血管系老化研究センター 基礎老化学 京都府立医科大学大学院医学研究科 基礎老化学部門 生体構造科学 講師 渡邊 義久 教授 田中 雅樹 【論文名】 HSF1 stress response pathway regulates autophagy receptor SQSTM1/p62-associated proteostasis. (日本語:HSF1 ストレス応答パスウェイはオートファジーレセプターSQSTM1/p62 が関与 するプロテオスタシスを制御する) 【掲出雑誌】 科学雑 雑誌 Autoph hagy [平成 成 28 年 12 月 7 日(水) )オンライン ン速報版掲載 載] 参考 URL: htttp://www.tan ndfonline.coom/doi/full/10.1080/155 548627.20166.1248018 文著者】 【論文 Yosh hihisa Watan nabe, Atsusshi Tsujimurra, Katsuto oshi Taguchi, Masaki T Tanaka 【研究 究概要】 オ オートファジ ジー(注 1)はタ タンパク質や や細胞内小器 器官などの分 分解を行う主 主要なシステムで、 癌や神 神経変性疾患 患発症の病態 態にも深く 関わっています。オートファジー レセプター(注 2) 注 3) SQST TM1/p62(注 は分解基 基質(異常タ ンパク質凝集 集体(注 4)や Keap1 など ど)と選択的 的に結 合し、 、オートファ ァジーによる るクリアラン ンスのために に分解基質を運搬します。 。p62 の分解 解基質 との結 結合には p6 62 内の Ser-349 と Ser--403 のリン酸 酸化が必要で であることが が報告されて ていま す。しかし、これ れらのリン酸 酸化がどのよ ようなメカニ ニズムで制御 御されている るかは未だ解 解明さ いません。 れてい 最 最初に、異常 常タンパク質の種類による る p62 のリン酸化を解析 析しました。 ユビキチン ン化タ ンパク ク質が細胞内 内に蓄積した た時 p62 の S Ser-349 と Ser-403 S がリン酸化修飾 飾を受けました(図 1A)。しかし、パーキンソン病 病(PD)、レ レビー小体型 型認知症(DL LB)や多系統 統委縮症(M MSA) デルにおいて て α-シヌクレイン(注 5) 凝集体に局在 在する p62 は Ser-349 の のリン酸化は は陽性 のモデ でした たが、Ser-4003 はリン酸化を受けてい いませんでした(図 1B)。 図1 ユビキ キチン化凝集体 体およびα--シヌクレイン凝集体による p62 リ ン酸化の解析 析 A)プロテア アソーム阻害 害剤処理によ りユビキチン化凝集体を を形成させた た(グリーン ン)。 (A その時の p62 またはリン酸 酸化 p62 を観 観察した(レッド)。 B)培養細胞 胞において α-シヌクレイ α イン凝集体(グリーン)を形成した た時の p62 の動 の (B 態を観察した(レッド) 。 次 次に、p62 の Ser-349 のリン酸化酵素 素の同定を行いました。様 様々なリン酸 酸化酵素阻害 害剤を 用いウエスタンブ ブロットでリ リン酸化を検 検証したとこ ころ、Ser-349 はカゼイン キナーゼ (CK1) ( 1 TORC1 によ より直接リン酸化される ことが分かりました。 と mT さ さらに、これ れらリン酸化酵素の上流で で p62 の機能 能を制御する る因子を探索 索しました。その 結果、 、ストレス応 応答のマスター制御因子 である HSF F1 が関与して ていることを を発見しまし した。 p62 のリ ン酸化阻害 に より易凝集 集性タンパ ク の分解は抑 抑制される 図 2 ユビキチン化タンパク質の封入体形成やオートファジークリアランスの調節 に HSF1 は関与する. (A)HeLa 細胞をプロテアソーム阻害剤 MG132 で処理するとユビキチン化タンパ ク質が蓄積する。それに伴い SQSTM1/p62 の Ser-349 と Ser-403 はリン酸化修飾 を受け、ユビキチン化タンパク質と結合する。KRIBB11 で HSF1 を阻害すると、 p62 のリン酸化は抑制された。 (B)HSF1 ノックアウト(KO)細胞でも p62 のリン酸化は抑制された。 (C)プロテアソーム阻害剤処理の細胞ではユビキチン化タンパク質の封入体が形 成され、p62 もそこに局在する。KRIBB11 で HSF1 を阻害したとき、ユビキチン 化タンパク質の封入体は形成されなかった。 (D)易凝集性タンパク質(STAT5A- E18Δ)を利用して異常タンパク質の代謝を 測定した。テトラサイクリンを添加することで STAT5A- E18Δ 発現(0 時間)した 後、テトラサイクリンを含まないフレッシュな培地で細胞を培養し 24 時間後の STAT5A- E18Δ の蓄積を測定した。キナーゼ阻害剤や HSF1 阻害剤処理で p62 のリ ン酸化を抑制した場合、STAT5A- E18Δ のクリアランスが抑制された。 HSF1 の阻害剤 KRIBB11 やこの遺伝子のノックアウトによって p62 の Ser-349 および Ser-403 のリン酸化が抑制されました(図 2A, B)。さらに、これらの細胞ではユビキチン 化タンパク質が蓄積しているにも関わらず封入体が形成されませんでした(図 2C)。そし て、異常タンパク質のオートファジーによる選択的分解を解析したところ、HSF1 を阻害し た細胞ではオートファジーに障害が起き、易凝集性の異常タンパク質(STAT5A- E18Δ)の 分解が遅くなっていることが分かりました(図 2D)。 以上の結果から、細胞内に異常タンパク質が蓄積すると HSF1 ストレス応答パスウェイ が活性化されます。それにより CK1 や mTORC1 などのリン酸化酵素が活性化され (注 6) p62 のリン酸化が起き、異常タンパク質との結合が亢進されます。その後、異常タンパク質 は封入体を形成しオートファジーによりクリアランスされることが明らかになりました (図 3)。 HSF1 活性は加齢に伴い減弱することから、このパスウェイの障害が PD などの神経変 性疾患の発症と深く関わっていることが示唆されます。今後さらに本研究を発展すること で神経変性疾患の発症機序の解明や治療法の開発につながる可能性があります。 図3 HSF1 ストレス応答 ス 答パスウェイ イを介した封 封入体形成とオートファ ジーの制御.. 細 細胞内の異常 常タンパク質の蓄積によ り HSF1 が活 活性化される る。CK1 や mTORC1 など な が が活性化され れ p62 の Ser-349 と Ser--403 がリン酸化される。 。リン酸化さ された p62 は異 は 常 常タンパク質 質と結合し封入 入体形成やオ オートファジ ジーによるク クリアランス スを亢進する る。 究資金】 【研究 日本 学術振興会 会 科学研究 究費助成事業 業 基盤研究 究 ( YW: 15K09320, 24591272,, MT: 90014) 2529 【用語 語解説】 注1オ オートファジ ジー:タンパ パク質分解シ システム1つ つで、オート トファゴソー ームと呼ばれ れる 2 重膜で で分解基質を を取り囲み、 、リソソーム ムと融合する ることで分解 解を行います す。タンパク ク質以 外にもミトコンドリアなどの の細胞内小器 器官の分解も も行っていま ます。 オートファジ ジーレセプタ ター:オー トファジーに により選択的 的に基質を分 分解するため めに必 注2オ 要な分 分子。オートファジー関 関連因子 LC C3 との結合能 能と基質結合 合能を有し、 オートファ ァゴソ ーム内に基質を運搬します。 注3SQSTM1/p62:複数のタンパク質と相互作用を介して、様々なシグナル伝達やオート ファジーを調節するタンパク質である。本遺伝子は骨ページェット病や筋萎縮性側索硬化 症(ALS)の発症と関連しているだけでなく、多くの神経変性疾患で観察されるタンパク 質封入体の構成成分の1つでもある。 注4異常タンパク質凝集体:パーキンソン病やアルツハイマー病などの多くの神経変性疾 患では脳内に異常なタンパク質凝集体が蓄積しています。パーキンソン病では α-シヌクレ インを主成分としたレビー小体、アルツハイマー病ではアミロイド β やタウ蛋白質を主成 分とする老人斑や神経原線維変化の沈着が認められます。このような物質の蓄積が原因で これら疾患を発症します。 注5α-シヌクレイン:パーキンソン病、レビー小体型認知症や多系統委縮症の発症原因とな るタンパク質。これら疾患の神経細胞内では、α-シヌクレインを主要な構成成分とするタン パク質封入体(レビー小体)が蓄積します。詳細なメカニズムはまだ不明ですが、α-シヌク レインが神経細胞内に蓄積することにより神経脱落が起き疾患を発症すると考えられてい ます。 注6HSF1 ストレス応答パスウェイ: HSF1 は多くの分子シャペロン(HSP70 や HSP60 など)の発現を調節しています。これら分子シャペロンは熱などの物理的ストレスにより 構造変化したタンパク質の巻き戻しを行います。本研究では、HSF1 が p62 の活性化を介 したオートファジー制御にも関与していることを明らかにしました。このように HSF1 は 細胞内タンパク質の品質管理のマスター制御因子として機能し、ストレスから細胞を守っ ています。 【お問い合わせ】 京都府立医科大学大学院医学研究科 附属脳・血管系老化研究センター 講師 渡邊義久(ワタナベ TEL:075-251-5848 基礎老化学 基礎老化学部門 ヨシヒサ) E-mail:[email protected] *電話がつながらない場合:広報センター(TEL:075-251-5275)
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