平成 25 年度日本鉱物科学会研究奨励賞第 15 回受賞者 横山 正 会員(大阪大学 大学院理学研究科 宇宙地球科学専攻) 対象業績: 「鉱物-水相互作用の包括的理解:野外調査, 室内実験および理論解析」 横山 正会員は野外調査,室内実験お よび数値計算を手法に地球表層での鉱 物–水相互作用,とくに岩石の風化の定 量的理解に関する研究において大きな 成果を挙げてきた。岩石の風化における 野外観察から理論解析までの系統的な 一連の研究は国際的に評価が高い。 横山会員は伊豆神津島の風化年数の 異なる複数の流紋岩の調査・分析を行い, 天然における風化(溶解)速度を見積も った。また,流紋岩を用いて室内溶解実 験を行い,溶解速度を測定した。その結果,天然の溶解速度は室 内実験値より 12–1000 倍小さいことを見いだした。また理論解析 として,従来の反応・輸送モデリングでは溶解速度は定数として 扱われていたが,一方,天然では長期的には溶解速度が時間と共 に減少することが観察されている。横山会員はこのことに着目し, 20 ℃での長期間の室内実験で得られた溶解速度の時間変化をモ デリングに組み込んで解析を行った。その結果,溶解速度が時間 のべき乗で減少し(初めの 1 年で 1/46) ,この効果に岩石内部で溶 存元素濃度が飽和に達して溶解速度が下がる効果が加わることで, 天然の溶解が遅くなることを明らかにし,溶解速度の時間変化が モデリング結果に大きく影響することを示した。このように,反 応・輸送への溶解速度の時間変化の影響を常温での実験に基づい て初めて示し,30 年にわたる天然と実験室の溶解速度の差の原因 の論争に大きな解決策を提示した意義は大きい。さらに火山ガラ スの水和,鉄鉱物の生成・相変化と岩石の色変化,物理風化と化 学風化の寄与の比較など,別の観点から風化の研究を行い,風化 速度論の基礎パラメータとした。 鉱物–水相互作用を定量的に扱う上で,岩石内部の物質輸送の理 解は重要である。とくに間隙中の溶存 Si の輸送特性は重要である。 溶存 Si は,pH や Si 濃度により電荷や重合度が変化する(Si(OH)4, SiO(OH)3−,Si4O8(OH)44−等) 。横山会員は砂岩や流紋岩を用いて様々 な条件(pH 5–7, 11; Si 濃度<570 ppm)で Si の拡散試験を行い,Si の化学状態が有効拡散係数 De にどう影響するか,また De の報告が 多い K+や Cl–と比べて Si の De がどう異なるかを調べた。 その結果, 実験条件下では電荷や重合度の変化に伴う Si の De の変化がほとん ど見られないことを指摘した。また,Si の De が K+や Cl–の De から 予測される値よりも小さいのは,間隙中での Si の沈殿によること を示した。この実験は表層環境に存在する溶存 Si の化学状態の大 半をカバーしており,Si の輸送を伴う鉱物–水相互作用を考える上 で基礎となる重要な結果と評価される。さらに,様々な岩石の間 隙構造を調べ,岩石中の流体の通りやすさ(浸透率)は間隙率と の相関は弱いが最も太い間隙の開口径と強い相関を持つことを明 らかにした。 以上のように横山会員は鉱物-水相互作用と物質輸送の分野にお いて,Geochimica et Cosmochimica Acta 等の一流雑誌への投稿から もわかるように,活発な研究活動を行っており,今後の更なる活 躍が期待される。よって,横山会員を日本鉱物科学会研究奨励賞 受賞者として適格と認め,ここに推薦する。 横山 正 会員の主要論文 1. Yokoyama, T. (2013) Characterization of the reaction and transport properties of porous rhyolite and its application to the quantitative understanding of the chemical weathering rate. Geochimica et Cosmochimica Acta, 118, 295-311. 2. Yokoyama, T. (2013) Diffusivity of dissolved silica in rock pore water at 25°C as characterized by through-diffusion experiments. Water Resources Research, 49, 1-11. 3. Yokoyama, T. and Banfield, J.F. (2002) Direct determinations of the rates of rhyolite dissolution and clay formation over 52,000 years and comparison with laboratory measurements. Geochimica et Cosmochimica Acta, 66, 2665-2681. 横山 正 会員の略歴 1999年 3月 東京大学理学部地学科卒業 2001年 3月 東京大学大学院理学系研究科博士前期課程修了 2003年 4月 日本学術振興会特別研究員(DC2)採用 2004年 3月 東京大学大学院理学系研究科博士後期課程修了 (博士:理学) 2004年 4月 日本学術振興会特別研究員(PD) 2005年 4月 大阪大学大学院理学研究科宇宙地球科学専攻 助手 2007年 4月 大阪大学大学院理学研究科宇宙地球科学専攻 助教 2014年 9月 現在に至る
© Copyright 2024 ExpyDoc