SPIE Optics+Photonics に参加して

特集
学生の研究活動報告−国内学会大会・国際会議参加記 17
SPIE Optics+Photonics に参加して
西 村 嘉 洋
Yoshihiro NISHIMURA
電子情報学専攻修士課程
1年
次に,これらの PEG を様々な重量比で混合し,
1.はじめに
双安定が生じる温度範囲の拡大を試みた.PEG 300
8 月 12∼16 日に,アメリカカリフォルニア州サ
に PEG 2000 を 5 wt%混合した試料では,透過率が
ンディエゴの Convention Center において,SPIE Op-
双安定となる温度範囲が 3∼38℃ に,30 wt%混合
tics+Photonics が開催された.私は,15 日のポスタ
した試料では 22∼42℃ に広がった.他の PEG を
ーセッションで「Bistable optical transmission proper-
混合した試料でも,同様に双安定領域が広がること
ties of polyethylene-glycol」という題目で発表を行っ
が分かった.温度の上昇・下降を繰り返した実験で
た.
は再現性の良いデータが得られ,この現象が可逆的
であることが確認でできた.
2.研究概要
この PEG の温度特性を利用して,双安定性を持
本研究では,分子量の異なる 4 種類の PEG につ
つ光スイッチを試作した.図 1 に示すように,コア
いて光透過率の温度変化を測定するとともに,それ
径 1 mm のアクリル(PMMA)製光ファイバを 2 本
らの混合によってヒステリシスがどのように変化す
用意し,アルミニウム板の表面に掘った溝に埋め込
るか調べた.また,2 本の光ファイバ間に挿入した
んだ.2 本のファイバの間には 1.4 mm の間隙を設
PEG をペルチェ素子で温度制御することにより,
け,PEG 300 と PEG 2000(30 wt%)の混合物を充
双安定光透過デバイスを作製した.
填した.アルミニウム板の裏側には,放熱フィンと
ファンを取り付けたペルチェ素子を密着させ,正電
3.透過率の温度変化
圧の印加で加熱,負電圧の印加で冷却できるように
分子量 300, 600, 1000, 2000 の 4 種類の PEG(以
した.信号として He-Ne レーザ(波長 633 nm)を
下 PEG 300 などと記す)を 10 mm 角のポリスチレ
1 kHz でチョッピングした光を用い,ファイバから
ン製サンプルセルに入れ,キセノンランプと分光器
出た光を Si 検出器とロックインアンプで同期検出
を用いて透過スペクトルを測定した.セルは 2 枚の
した.図 2(a)は,+4 V と−12 V の電圧を 15 分
ペルチェ素子で挟み,正負の電圧を印加して毎分 15
毎に交互に 5 分間ずつ印加したときのレーザ光の透
∼30℃ で加熱または冷却した.低温の固体状態で
過率変化を示す.+4 V の電圧を印加すると PEG
は,どの PEG でも透過率は 0% であったが,融解
すると可視光域全体にわたって 60∼80% に上昇し
た.加熱時と冷却時とでは透過率変化が起こる温度
が異なっており,双安定となる温度範囲は,PEG 300
では−13∼−6℃,PEG 600 では 15∼21℃,PEG 1000
では 36∼39℃,PEG 2000 では 40∼52℃ であった.
図1
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ファイバ型双安定光デバイスの評価光学系.
な透過率を得ることが可能である.混合比 5 wt%の
試料の方が 30 wt%の試料よりも融点と凝固点の差
が大きく,双安定性の点では優れていると言える.
しかし,透明状態から不透明状態に変化させる際に
0℃ 以下まで冷却する必要があり,図 2(a)と同様
の実験を 5 wt%の試料で行うと,スイッチングの応
答時間が 30 分ほどになってしまうという問題があ
った.前節で述べたように,30 wt%の試料でも冷
却時には 2 分程度の応答時間を要したが,これは主
にアルミニウム板(50×50×2.5 mm3 )を冷却する
の に 時 間 が か か っ た た め で あ る . PEG 自 体 ( 1
図2
PEG 300 に PEG 2000 を 30 wt%混合した
サンプルの動作.(a)温度の上下を繰り
返し,再現性を確かめた.(b)液体状態
を安定に維持できるか確かめた.
mm3)の熱容量はわずかなので,デバイスを小型化
すれば数秒程度の応答速度が得られると予想され
る.また,PEG に光吸収性色素をドープするなど
してレーザ加熱を可能にすれば,高速応答の全光型
が溶け,透過率は約 1 分で 65% に上昇した.5 分
スイッチも実現できるのではないかと考えられる.
間電圧印加を続けると温度は約 70℃ に達し,電圧
液体状態の PEG の透過率は可視光域ではほぼ一
印加をやめると 5 分ほどで常温(25∼30℃)に戻っ
定で,吸収帯は見られなかった.固体化して不透明
たが,透過率は高いまま変化しなかった.その後−12
になっても波長依存性はほとんど無く,Mie 散乱の
V の電圧を印加すると,PEG が固化して透過率は
状態になっているものと推定される.図 2(a)の
約 2 分で 0% まで低下した.5 分間電圧印加を続け
実験では透過率が 65% 程度であったが,これはフ
ると温度は約 0℃ まで低下し,電圧印加をやめると
ァイバ間の 1.4 mm の間隙で光ビームの発散による
2 分ほどで常温に戻ったが,光は全く通らないまま
結合損失が生じるためであり,PEG の部分に導波
であった.このサイクルを繰り返すと,透過率は再
構造を形成するなどして損失を低減することが可能
現性よく変化した.また,図 2(b)のように固体
と思われる.
状態の PEG を加熱して液体状態にして,加熱を止
め,常温で 30 分間放置する実験を行った.その結
果,透過率の高い状態も低い状態も安定に保たれる
5.おわりに
この国際会議を通じて,さまざまな先生方や学
生,そして企業の方々との関係を構築することがで
ことを確認した.
きたので,今後の研究活動の発展に役立てていきた
4.考察
い.国際会議に参加する機会を与えてくださり,終
分子量の異なる PEG を適当な割合で混合するこ
とにより,0∼50℃ の間の任意の温度範囲で双安定
始御理解ある御指導をしていただいた斉藤光徳教授
に深く感謝します.
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