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紅麹の耐塩性酵母に対する発酵抑制
河野勇人・姫野国夫●
IsatoKONOalldKullioHrMENO-
紅二麹/モナコリン/耐塩性酵母
キ}ワード
KEYWORDS
Beni-kqji/Monacolhl/みgosaccharomycesroLLril
f、はじめに
4520株の米麹、グンゼ(株))を用いた。耐塩性酵
紅麹薗(モナスカス属の糸状菌)を澱粉質原料
母は、実用株みgo∫〟CC/∽rO∼岬Ce∫rO血∼Hを用い
に生育させた系工麹は、アジア諸国を中心に、伝統
た。酵母菌の培養には、YPD培地(yeaslext.
的に食品素材として用いられている。この紅麹に
1%,pep1011e2%,がucose2%)を用いた。紅麹浸演
ついては、血圧降下作用、コレステロール低下作
培地は、グルコ叶ス10%、NaC110%を含むYPD
用、食品保存作用などを有することが明らかにさ
培地を基本培地とし、これに紅麹を10%、20%添
れており、これを用いた食品は、血圧降下作用、
加し、室温で8時間浸潰後ろ過した培地を用いた。
得できる。それら
コレステロ}ル低下作用等
紅麹抽出物は、紅麹(50g)を60%エタノール(500
の機能に関与する物質
】l11)に25℃2日間浸漬し、そのろ液(¢0.2〃.m)
、γ-アミノ酪酸
(GABA)やモナコリン、色素等が知られている。
をエバボレーターで濃縮後凍結乾燥し、乾燥物
これまで、紅[麹菌が産生する抗菌物質を分離し、
(5g)を得た。
抗細菌活性を有する物質として色素、抗酵母活性
2.2
を有する物質としてモナコリンKをそれぞれ推
菌数測定及び発酵能の測定
菌数測定は、平板培養法により測定した。発酵
定した1)。そのうち抗酵母活性については抗菌ス
能は、グルコース10%を含むY‡,D培地を用い、
ペクトルが狭く、勧∂∬CC厄′0〝ぴCg.-川棚班をはじ
30℃で静置培養した時の発生CO2量より求めた。
めとする多くの酵母菌に対しては、寂著な抗菌性
2.3
は見られなかった。Z.〃几α吏は味噌や醤油等の発
モナコリンKの分析
紅麹からのモナコリンKの抽出は、エタノール
酵食品の主発酵に関わる耐塩性酵母である。殺菌
抽出液をエバボレータ←でエタノールを除去し
処理をしない味噌等は、袋詰めにして製品化され
pHを3に調整後、酢酸エチルで3回抽出した。さ
た後、耐塩性酵母の再発酵による湧きの現象がし
らに5%炭酸水素ナトリウム液で2回洗浄後、メ
ばしば問題となる。しかし紅麹添加の味噌は、経
タノールに溶解した。モナコリンKの定量は、高
験的に再発酵しにくいことが知られている。
速液体クロマトグラフ(silimODSカラム;展開
ここでは、紅麹の食塩存在下における耐塩性酵
液、アセトニトリル/0.1%リン酸(55/45);検出、
母に対する抗菌性について検討した。
2
237Illll)により行った。
方法
3
2.1使用菌株及び使用培地
結果及び考察
3.1紅麹抽出物のZ,用血fH殊に対する抗菌性
紅麹は、1GWしK5(肋/J〟∫C比ざク血-は-rFO
食塩存在下における紅麹抽出物のZ.川血流H株
に対する抗菌性を検討した。その結果、初発の1
*
ひめの醸造食品研究所
×104ceIIs/ll11から1×106α11sハ11】に菌数が増加す
】
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る生育時間をみると、Y柑培地が24時間、食塩
10%添加したYPD培地で30時間であるのに対し、
紅麹抽出物2%添加したYPD培地で40時間、紅
麹抽出物2%と食塩10%を添加したYPD培地で
は60時間と生育が抑制された。なお紅麹抽出物
2%中の酸型モナコリンK含量は1.1/Jg/lnlであ
った。
紅麹浸演培地中の菌数変化及び発酵能
3.2
紅麹浸漬培地中でのZ.川棚寂Hの菌数変化を図
1に、発酵能を図2に示した。菌数変化では、ア
基本培地(○)、紅塵=0%(○)、紅麹20%(口)、アルコール2%(出)
ルコ}ルを2%添加した場合には及ばないものの、
紅麹を10%、20%添加した培地では、基本培地に
比べ、Z.ro血iHの生育が抑制された。また発酵
能についても、10%浸漬のものが基本培地に比べ
約言嘗盲ぷ月日
250時間、20%添加のものが300時間の発酵の抑
制が見られた。なお紅麹を10%浸漬した時の酸型
モナコリンK含量は0.5〃g血1であった。
3.3
モナコリンKのZ.作用∬〃二H株に対する生育
抑制
食塩を10%添加したpH5のYPD培地に、モナ
コリンKを添加した時のZ.′0血f`Hの菌数変化を
Time(h)
検討した結果、酸型モナコリンKを0.6〃・釘Inl
図2
添加しても基本培地に比べ生育は抑制されなか
Z.′0血`Hの発酵能
基本培地(○)、紅麹10%(○)、紅麹20%(□)、アルコー∬2%(由)
ったが、6.0〃釘l山添加すると生育が抑制された。
なおYPD培地に酸型モナコリンを6.0/上がni添
まとめ
4
加した場合は、生育がわずかに抑制された。これ
より、食塩存在下でモナコリンの生育抑制作用が
モナコリンKの耐塩性酵母に対する生育抑制
高まるものと思われる。また酸型モナコリンKO.6
について検討した結果、食塩が存在することによ
〃釘Imlで生育抑制がみられなかったことから、
り抑制作用が高まることを見いだした。紅麹の
紅麹中にはモナコリンK以外の生育抑制物質が
10%抽出液により、食塩10%、pH5の条件で、Z・
存在することが考えられる。
仲山需の生育及び炭酸ガス発生が抑制された。ま
た紅麹抽出液には、モナコリンK以外の生育抑制
モナコリンEはHMG-CoAレダクタ}ゼを阻害
しメバロン離合成を抑制する2)。その結果、エル
物質が存在することが考えられた。これより、紅
ゴステロール等のステロ}ル合成を阻害する。コ
麹を用いた含塩発酵食品での防湧効果が期待さ
レステロールとリン脂質から成るリポソームか
れる。
らコレステロール含量を低下させると、グリセロ
参考文献
ールの透過性が上昇する3)。よって、モナコリン
Kによりステロール含量が低下して細胞膜の流
1)l.KoI10alldK.HimeI10:Biosci・Biotech・Biocllem・,
動性が高まり、細胞内のグリセロール等のポリオ
63,1494(1999)
ールの蓄積量が低下するため、耐塩性が低下して
2)A.EIldo:J.ん1tibiol・,33,334(1980)
生育が阻害されるものと推測される。
3)J.DeGier,J.G.Mall血rsIoot餌IdL・L・M・Va】l
Dee]lell:Bjochim.Biophis.Acは,150,666(1968)
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