イカいしるに含まれるACE阻害活性ペプチドの単離と その血圧降下作用 笹 木哲 也 * 油 谷美 幸 * * * 河 道真 理 * * 道畠俊英* 徳田耕二*** 小栁喬*** * 中村靜夫* * 榎 本俊 樹 * * * * 緒言 石 川 県 奥 能 登 地 方 で は ,「 い し る , い し り , よ し る , よ し り 」 (以 下 , い し る )と 呼 ば れ て い る 魚 醤 油 が 古 く か ら造られている。富山湾に面した能登内浦地区ではイカ,日本海に面した能登外浦地区ではイワシを主に原料 として生産されている。地元ではいしり鍋や一夜干しなどの料理 に使われてきたが,近年ではエスニック料理 の調味料,大手食品メーカの隠し味など用途が多様化している。我々は,いしるの成分や機能性について詳細 な解析を行ってきた。その結果,いしるには種々のアミノ酸,ペプチド,タウリンなどの栄養成分が多く含ま れ , 優 れ た 機 能 性 (抗 酸 化 性 , 血 圧 降 下 作 用 )を 示 す こ と を 明 ら か に し て き た 。 血圧降下作用は乳飲料,カツオブシなどの様々な発酵食品 で確認されている。そのメカニズムは,発酵食品 に 含 ま れ る ペ プ チ ド が ,血 圧 上 昇 の 原 因 と な る ア ン ジ オ テ ン シ ン Ⅰ 変 換 酵 素 (ACE)の 働 き を 阻 害 す る た め で あ る こ と が 明 ら か に な っ て い る 。 発 酵 食 品 か ら 単 離 し た ACE阻 害 活 性 ペ プ チ ド は , サ プ リ メ ン ト な ど の 機 能 性 食 品 として活用されている。これら機能性食品と同様に ,いしるは血圧降下作用 を持つ機能性素材として活用可能 である。 そ こ で , 本 研 究 で は , イ カ い し る に 含 ま れ る 新 規 の ACE阻 害 活 性 ペ プ チ ド を 単 離 , 同 定 し , 動 物 実 験 に よ る 血圧降下作用の 効果を検証した。 ACE阻 害活 性 ペ プ チ ドの 単 離 イカいしるをアセトニトリルで溶媒抽出し,エバポレー ターで溶媒を留去した。残留物を超純水で溶解後,限外ろ 過 で 2000 Da以 下 の 成 分 を 回 収 し ,さ ら に 電 気 透 析 処 理 に よ り 100-1000 Daの 成 分 を 回 収 し た 。 得 ら れ た 処 理 液 を 凍 結 乾 燥し,ゲルろ過クロマトグラフィーにより精製した。分離 カ ラ ム は Sephadex LH-20カ ラ ム (18 × 700 mm)を 用 い , 流 速 10-20ml/hで 4mlご と に フ ラ ク シ ョ ン を 採 取 し ,各 フ ラ ク シ ョ ン の 吸 光 度 (216, 280 nm)お よ び ACE阻 害 率 を 分 析 し た 。得 ら れ た ク ロ マ ト グ ラ フ ィ ー を 図 1に 示 す 。フ ラ ク シ ョ ン 48が 最 も 高 い ACE阻 害 率 を 示 し た 。 こ の フ ラ ク シ ョ ン は 216 nmの 波 長 を 吸 収 し , 280 nmの 波 長 を 吸 収 し な い こ と か ら , 芳 香 族化合物を持たないペプチドであることが推察された。 ゲ ル ろ 過 ク ロ マ ト グ ラ フ ィ ー の フ ラ ク シ ョ ン 48 を 凍 結 乾 燥後,液体クロマトグラフィーによる精製を行った。分離 カ ラ ム は ODSカ ラ ム (20 × 250 mm)を 用 い ,溶 離 液 は 超 純 水 - 図1 ゲルろ過クロマトグラフィー アセトニトリル混合液を用い,アセトニトリルの混合割合 を 0%か ら 60分 間 で 50%へ 変 化 さ せ た 。 流 速 5 ml/minに て 1分 ご と に フ ラ ク シ ョ ン を 採 取 し , 各 フ ラ ク シ ョ ン の 吸 光 度 (216 nm)お よ び ACE阻 害 率 を 分 析 し た 。 *化 学 食 品 部 ** 企 画 指 導 部 *** ㈱ 車 多 酒 造 *** * 石 川 県 立 大 学 得 ら れ た ク ロ マ ト グ ラ フ ィ ー を 図 2に 示 す 。溶 出 時 間 38分 の フ ラ ク シ ョ ン が ACE阻 害 活 性 を 示 し た 。 そ こ で , 38分 の フラクションを分取し,エバボレーターでアセトニトリル を留去後,溶液の凍結乾燥を行った。 ペ プチ ド の 構 造決 定 と ACE阻 害 活性 精製試料の構造をペプチドシークエンサーにより分析し た 結 果 , そ の 構 造 は ロ イ シ ン -ア ラ ニ ン -ア ル ギ ニ ン (LAR)で あ る こ と が 明 ら か と な っ た 。 こ の ト リ ペ プ チ ド は , ACE 阻 害 活 性 を 示 す 新 規 の ペ プ チ ド で あ る 。 LARの ア ミ ノ 酸 配 列 を 論 文 検 索 サ イ ト で 検 索 し た 結 果 , イ カ の 眼 球 組 織 に LAR の配列が存在することが判明した。イカいしるは眼球を含 む イ カ の 内 臓 を 原 料 に 使 用 し て お り , 今 回 単 離 し た LARも イカの眼球に由来するものと予想できる。 LARの ACE阻 害 活 性 を 評 価 し た 結 果 ,IC 50 は 2.5 Mで あ っ た。これまでの報告で,魚醤油から単離されたペプチドの 図2 ACE阻 害 活 性 は 1.8 - 147 Mで あ り , LARは 従 来 の ペ プ チ ド 液体クロマトグラフィー の中ででも高い 活性を示すことが明らかとなった 。 動 物実 験 に よ る血 圧 降 下 作 用 単 離 さ れ た ト リ ペ プ チ ド LARの 血 圧 降 下 作 用 を 検 証 す る た め , 高 血 圧 自 然 発 症 性 ラ ッ ト (SHR)に よ る 動 物 実 験 を 行 っ た 。 LAR合 成 品 , 生 理 食 塩 水 , お よ び ジ ペ プ チ ド の バ リ ン -チ ロ シ ン (VY)を , 各 グ ル ー プ 6匹 か ら な る SHRに そ れ ぞ れ 経 口 投 与 し た 。VYは ,イ ワ シ よ り 単離された既に血圧効果作用が確認されているペプチ ドであり,本 実験でポジティ ブコントロールとして用 い た 。 ま た , ペ プ チ ド の 投 与 量 は 10 mg/kgと し た 。 ペ プ チ ド 投 与 後 の SHRの 血 圧 変 化 を 図 3に 示 す 。LAR投 与 グ ル ー プ に お い て , 投 与 後 4-12時 間 の SHRの 血 圧 は 優 位 に 降 下 し た 。 LARは 低 分 子 で あ る た め , 腸 で 容 易 に 吸収され,強い血圧効果作用を示したものと考えられ る 。 一 方 , VY投 与 グ ル ー プ に お い て , SHRの 血 圧 は 4 図3 ペ プ チ ド 投 与 後 の SHRの 血 圧 変 化 ※ 印 を 有 す る 場 合 は 、 コ ン ト ロ ー ル グ ル ー プ と 優 位 差 あ り (P < 0. 05)。 時 間 の み 降 下 し た 。 LARの 血 圧 効 果 作 用 は , VYよ り も 強 い 作 用 を 示 す こ と が 明 ら か と な っ た 。 こ の 結 果 は , イ カ い し る よ り 単 離 し た LARが , 血 圧 降 下 の 機 能 性 食 品 と し て 活 用 で き る 可 能 性 が あ る こ と を 示 唆 し て い る 。 結言 (1) イ カ 魚 醤 油 (い し る )よ り 新 規 の ア ン ジ オ テ ン シ ン Ⅰ 変 換 酵 素 (ACE)阻 害 ペ プ チ ド Leu-Ala-Arg (LAR)を 単 離 し た。 (2) LARの ACE阻 害 活 性 IC 50 は 2.5 Mで あ り , こ れ ま で に 報 告 さ れ て い る 魚 醤 油 中 の ACE阻 害 活 性 ペ プ チ ド の 中 で も 高 い 阻 害 活 性 を 示 し た 。 LARを 高 血 圧 自 然 発 症 ラ ッ ト に 経 口 摂 取 し た 結 果 , 血 圧 降 下 作 用 を 示 し た 。 論 文投 稿 Japanese Journal of Complementary and Alternatibe Medici ne 2013, vol. 10, no. 1, p.45-49.
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